第100話 温泉しっぽり虫、困り果てる。
「フィイイ~……」
「ふぃい……あはは、あははぁ!」
リラックスした気持ちで息を吐くと、肩に乗ったアカが真似してキャッキャしている。
乳白色のお湯が素晴らしい肌触りだ……
「むぅ、オンセン……素晴らしい! ふぁあ……」
反対側の肩に乗ったヴァルが、褐色の足をちゃぱちゃぱさせながらうっとりしている。
『秘湯よ……秘湯だわ~……』
そして、仰向けに漂流しているピーちゃん。
全身でお湯を堪能している……堪能しすぎている……
「はわぁあ……極楽でやんす……」
「お肌すべすべ、毛艶もよくなって素敵」
「湯に入って酒を飲むのも乙なのナ~……」
「アルデアさん、飲み過ぎですよ?」
背後から女性陣の声。
みんな、思い思いに楽しんでるみたい! いいこと!
ここは、クトウの街から西へ行った所にある山。
そこの中腹にある、自然のお風呂……温泉だ!
温泉最高! もう温泉で暮らしたい!!
クトウの街で大歓迎を受けて……受けすぎているボクら。
日を置けば落ち着くかなって思ったけど、全然そんなことはなかった。
女将さんがストップしてくれているのか、宿の中は静かなんだけど……一歩宿から出たら、すぐに声を掛けられる。
『街を救った英雄』扱いなんだよねえ、どこに行っても。
トモさんは『実際その通りです。よっ! プチゲニーチロさん!』って褒めてくれた。
……褒めてくれてる?
んまあ、善意100%の方々だからボクが心苦しいくらいなんだけどね……
で、みんなでどうしよっか……って相談していたら、今朝女将さんが部屋に来た。
そこで言われたんだよね……『街から離れた所に温泉がある』って。
女将さんはボクらがちょっと困っている現状を心配していて、リフレッシュにどうか? ってね。
『街の者たちが申し訳ないです……』って言われたけど、ちょこっと困ってるだけで超嫌! ってことではない。
でもリフレッシュはしたいので、朝早くにみんなでコソコソっと出発した。
……まあ、衛兵さんたちにはめっちゃ見送られたけど。
といわけで、街道を逸れて山道を行くこと半日くらい。
ボクらは、目的の山にたどり着いた。
魔物は途中懐かしのムシクイドリ(鳥類)の群れに遭遇したんだけど……アカミサイルで何匹か粉々になったら逃げて行っちゃった。頼もしき子分よ。
んでんで、ちょっとした山道を歩いて……温泉に到着。
そこは、岩の隙間から温水が沁み出ているような環境だった。
大きな浴槽みたいなくぼみがいくつもあって、誰かが作ったような簡単なテーブルと椅子があった。
岩のお風呂はイイ感じに周囲から見えないようになっていたので……男女に分かれて入浴することになったってわーけ。
なんか、ボクが1人なのがかわいそう! って妖精は全員こっちに来たけど。
そして、全身で満喫なう。
大地竜との戦いで負った疲れが溶けていくみたい……
『混浴ルートは~?』
ないですよ、シャフさん。
する気もないけどさ、皆が受け入れるわけないじゃん!
『五分五分じゃないかなって思うわけ、あーし』
ないない、超ない。
『しゃーない、今度ウチのドスケベ神官に神託して風呂に引きずり込むわ』
本当にやめてください! だいたいボク未だに性別不詳なのに!
一体何が目的なんよ!
『キョドるむっくんを見ながら慈愛女神連合で酒飲む』
さ、最低の娯楽だ……!
連合の女神様たちは全員暇なんですか!?
どんな方々なんですかね……
『恋愛結婚ウォッチング大好きで全員乳尻太腿がデカい有能ぞろいよ。あーしを筆頭にねえ?』
迫力が凄そう……まあ、シャフさんが有能なのは否定しないけどさ。
無茶苦茶美人だったし、女神像も。
『ほーん? あーしを口説いてもシャフさんポインヨしか出ないぜ~?』
それで十分なんじゃないかって思うな。
……あの、今更だけどトモさんは?
『おー、なんか龍神陣営んとこに出前行ってる。全長1キロのナガシソーメンすんだって』
何そのイベント!?
ちょっと参加したい! 素麺も食べたいなあ……
ついにトモさんの料理が龍の神様にも認められるなんて……誇らしいよ! ボクも!
『ノロけんじゃ~ん? ま、ちゅーわけであーしはお留守番ってわーけ。作り置きもむっちゃしてくれてっし、控えめに言って天国~。ズズゾゾゾ……あ~、テンソバうっま~!』
満喫しておられる……
『女神トモ、何か食べるものをいただきたいのですが……まあ、ムロシャフト』
ママも来た!
『あー、トモちんは龍んとこ出前ッスよ。大ナガシソーメン大会ですって~』
『なんですって! まだ私も食べたことがないものを……おのれヴァシュヌヴァーヌ!』
ママが凄い勢いで走り去った!
……神界は今日も平和ですなあ、よきよき。
「ノド乾イタナ~ット」
岩の上に置いたバッグゴソゴソ……出でよイイ感じに冷やした炭酸水!
皆の分も用意しよ、水分補給は大事だからね。
女性陣にも宿を出る時に渡してるし、大いに楽しんでいただきたいものですな~。
「む、気が利く男よな」
ヴァルが泳ぎながらやってきた。
「ハイドウゾ~」
「うむ、苦しゅうない……んく、んく」
「アカもほし~い、ほし~」
「当タリ前デショ~? ハイドウゾ~」
ふわふわ流れてきたアカにも!
『ピーちゃん、炭酸水入れたよ~』
『素敵なサービスだわ~……』
水底から浮上してきたピーちゃんにもあげる!
見た目がホラーチックだけど、カワイイセキセイインコだからむしろ面白い絵面!
女湯の皆も楽しんでるかな~?
・・☆・・
「……」
「ん? どうしたのロロン。すごく真剣な顔して」
「じゃじゃじゃ……」
「あの、何か心配事でもおありですか?」
「はわわ……」
「はぁ……ロロン、お前はまだ成長途中なのナ? 心配しなくてもすぐに背が伸びて乳も尻もデカくなるのナ~?」
「そ、そげなことは……」
「なんだ、そんなこと心配してたの? 帝国でアルマードの人をよく見たけど、大人はみんなとっても大きかった。むしろ色々大きすぎる。なにあれ、羨ましい」
「確かに、あねちゃ達は皆大きいのす……」
「種族差、というやつですね。虫人でも色々ありますよ、ロロンさん。例えばアラクネの方々などは……男性にもとても人気で」
「ああ、里の近くにもいたのナ。男どもが揃って鼻の下を伸ばしていたのナ~? 手足が多いもの同士、案外ムークはああいうのが好みやもしれんナ~? ひっく」
「「「!?!?!?」」」
「む、地震ナ? 酔っているから揺れているのナ? ナナナナ~♪ ナナナナ~♪」
・・☆・・
「ホワァアア……」
「はわぁあ……」
「チュピピ……」
温泉の横にある、手ごろな岩に寝転んで日干し虫、なう。
熱くなった体が風に晒されて気持ちがいい……ととのう……ととのう……
「ぬくい……涼しい……うむむ、甘露……」
胸に乗ったヴァルがくたーっとしている。
ふふふ、この良さがわかったようだ。
「体ガ冷エタラモウ一回入ロ……」
「ほう、そういうやり方もあるのか……素晴らしいな、ふふふ」
温泉は最高でござるな……まだ明るいし、この先も思う存分楽しもう……
「ふふ、ムークが寝てる」
ああ、マーヤさんか……ふぁ!?
「チョット! 服! 服!」
「ん? 着てるから大丈夫だよ?」
紐じゃん! 紐しかないじゃん!!
セ、セセセセクシー!!
「温泉だから平気だよ、平気。うーん、ここ涼しいね……」
何そのレギュレーションは!
ああ、動きたいけど妖精たちがグッスリしてるから動けない!!
『抱けーッ! 抱け~ッ!!』
シャフさんが超大声! ないはずの鼓膜が破けちゃう!!
こんな所でそんなことできるわけないでしょ!! 別の所でもやらないけど!!
「う~い~……すじゅしい~の~ナ~?」
「ヒャーッ!? ソランチュサンノエッチ!?!?」
アルデアが! アルデアが布一枚で! 布一枚で!!
ウワーッ! はみ出てる! はみ出てる!!
「なんら~? うっく……おお、いい所で寝ているのニャ~? わらしも寝るの~ナ~?」
「アバーッ!? 嫁入リ前ノ娘サンガ駄目! 駄目~!!」
アルデアはフラフラ歩いてきて、ボクの横に寝転がった!?
「うるしゃいのナ~……んぎゅう~……」
「抱キ着カナイデ! チョット! ネエ! オアーッ! 酒クシャイ!!」
たすけてマーヤさん! ウワー! そう言えば紐だった! 見えちゃった!!
「あはは、ガタガタして面白いね、ムーク」
ケラケラ笑わないで! ボクのどこら辺に面白要素があるんですか!!
『何してんだこのヘタレ! せめて舌でも入れルゥオ!! 揉め! 抱きしめ返せ――あっ』
『 ム ロ シ ャ フ ト 』
『お隣ちゃんたすけ――いない!? オアーッ!?!?!?』
脳内でも轟音!?
これもうどうしたらいいの――ロロンとイセコさんが岩陰で顔真っ赤にして見てる! 服はちゃんと着てる! かしこい!
「タシュケテ! タシュケテイセコサン! ロロン~!」
「うるしゃい男なのナ……」
ヒイーッ!? もっと抱き着かれた!!
結局、イセコさんとロロンが一生懸命引き剥がしてくれたのでボクは死なずに済んだ。
ちなみにマーヤはその間中ニコニコしながら尻尾でボクをくすぐってました……こしょばい!
『出前から戻ったら部屋がないのですが!? 邪神の襲撃ですか!? お隣様、いったいどういう……なんですかその死んだ目は!? 一体どんな敵が!?』
トモさん……




