第99話 心苦し虫!
「コレクダサ――」
「ムークさんじゃないか! いいよいいよ、金なんかいいよ! 妖精ちゃんにもな! 持ってけ持ってけ!!」
「アリガトゴザイマス……」
おおん。
「ムークさん! ムークさん! これ! ウチの畑で獲れた果物! 持ってって! 持ってって!」
「アリガトゴザイマス……」
あおん。
「ムークさん! ウチの孫を抱っこしてやってくれよ! 健康になるように!」
「ハイ……オーヨチヨチ、ヨチヨチ」
あらかわいい赤ちゃんねえ……キャッキャしてるねえ……
「かーわい、かわい~!」
アカも大喜びだねえ……
・・☆・・
「オ外デレナイ……」
ボクはお部屋の片隅で膝を抱えている。
「景気が悪いのナ? 大英雄サマなのにナ~?」
「元ガ小市民ナノデ……」
なんでキミはそんなに楽しそうにボクの肩をポンポコ叩いているのですか?
……ボクが大地竜をコロコロしてから、2日後。
昨日1日は宿にこもっていて、安静にしてた。
お風呂にずうっと入ってたり、ご飯をモリモリして、すっかり元気虫となった。
というわけで、今朝。
ちょっと外出しようと、アカを肩に乗せて街に出たんだけど……うん。
ちょっと歩けば囲まれて握手を求められ、露店を覗けば無料でモノを貰い、赤ちゃんを抱かされ、子供に群がられた。
ボクは子供たちをかわるがわる抱っこ祭並びに高い高い祭りを粛々と行い……可及的速やかに宿に戻って……隅っこで体育座りをする虫と化した。
「もど、もどりやんした~……」
ウワーッ!? ろ、ロロンが野菜の山になって帰ってきたぁ!?
「おお、それはどうしたのナ?」
「せ、洗濯ばしておったら、近所の奥様たちにこれをば、いただきやんした~……」
よたよたしながらテーブルに野菜をぶちまけるロロン……ひええ、なんという量だ。
新鮮なお野菜がいっぱい……! あのトマト、じゃなかったポモッド美味しそう!
「大人気なのナ、ムーク。かく言う私も……ホレ」
アルデアが母性の谷間から……酒瓶を取り出した。
「酒が好きだと衛兵に言ったらこんなに貰ったのナ! これも、これも、これも~」
谷間から次々出てくる酒瓶! だからなんでそこにマジックバッグを入れてるのさ!
コメントできないけど! けど~!
「にゃぁ~……ムーク、たすけて~……」
「ウワーッ!?」
今度は肉の塊!? たぶんマーヤ!!
「ドシタン!?」
今にも倒れそうな肉の塊にダッシュ! 支える虫!
「みゃぁ……ここの干し肉が美味しいって聞いてたから、買いに行ったら……こうなった」
マーヤが抱えてたのは、干した塊のお肉だった。
「街を救ってくれた人たちからお金なんか取れないって……もっと小さいのでいいって言ったんだけど……ふう、重かった」
なんじゃこれ……ボクが一抱えするくらいの干し肉だ!
いい匂いがする! 美味しそう!!
「ふう、重かった……食べる?」
「食ベル!」
「ふふ、おっきな声」
色々あったけど、いや色々あったからこそお腹が空きました!!
「アカも! アカも~!」
「んだば、ワダスはお茶を淹れやんす~!」
ロロンが走っていく。
「この騒ぎでは今日は外に出ん方がいいのナ。まあ、酒もツマミもあるし明るいうちから飲むのも乙なものナ~♪」
アルデアはご機嫌ですなあ。
あれ、そういえばイセコさんは? それにヴァルは……
「うむむ……干し肉の匂いがする……」
あ、ヴァルはまだお布団の中でしたか。
目をこすりながらモソモソ出てきた……かわいいね!
「ウン、ミンナデ干シ肉食ベヨ――」
『――ただいま! 重たいわ、重たいわ~!』
ヒャーッ!? お菓子の入った袋が浮いてる!?
あ、ピーちゃんか……翼だけかろうじて見える!
『子供に羽をあげてたら、親御さんがいっぱい走ってきてこーんなにもらったわ! 重いわ! いい匂いだわ! みんなで食べましょ! 食べましょ~!』
「わはーい!」
アカも喜んでるけど……とにかく、ピーちゃんから袋を外してあげなきゃ!
・・☆・・
「けぷり」
「食った食った……」
『ペンギンになっちゃうわ……なっちゃうわ……』
妖精たちは揃ってお腹をポンポンにして、暖かい窓際で寝転んでいる。
なんでヴァルまでお腹膨らんでるの? ヴァーティガの神秘ってやーつかな……
「みゃあ、このお酒美味しい……」
「んむ、これはガリル産の一級酒だナ……ナナナナ~♪ ナナナナ~♪」
マーヤとアルデアはお酒を楽しんでいる。
空瓶むっちゃある……お酒強いなあ。
「むにゃあ……すやぁ……」
間違えて果実酒を飲んでしまったロロンは、ベッドの上で丸まっている……かわいいね!
「困りました。土産はもういらないと言っているのに……」
さっき戻ってきたイセコさんは困った顔をしながら、部屋の隅を見る。
そこには、梱包された木箱が沢山並んでいた。
彼女も衛兵隊からむっちゃもらってきたんだよね……
「コンナニ感謝サレルトハ……」
「あはは、ムークって時々おかしなこと言うね」
「時々? いつもの間違いじゃないのナ~?」
失敬! アルデアが失敬!!
「普通の大地竜でも、衛兵総出で戦うんだよ? 巡回騎士団でもいたら別だけど……この前の状況なら大惨事になってもおかしくなかった。だから、感謝されるのは当然」
うむむ……そう言われると。
「あと、ムークは色々と目立つから。妖精3人も連れてるし、虫人の基準だと物凄くいい男みたいだし……しょうがない?」
まあ、うん、そう……カモ?
「獣人で強い人はいっぱい見て来たけど、ムークはあんまり自分から自慢しないよね。だから新鮮」
「そうナ。戦士といったら自分から武名を誇るものだからナ~? だけど、まあ……今更急にそれをされてもナ~?」
「いいのです、ムーク様はそれでいいのです!」
これは……褒められているのかどうなのか……?
『ま、甘んじて受けといたらいいし? トモちんトモちん、カエダマ一丁! バリカタで~!』
『あいよー、です』
うむむむむ……ま、いいか。
「ああ、ムーク様。こちらを忘れておりました」
イセコさんがテーブルに革袋を置いた。
……今、どじゃりって音聞こえたんだけど。
無茶苦茶でっかいんだけど、この革袋。
「エット……?」
「ギルドから言付かった此度の依頼金です。しめて50万ガルでございます」
ご じ ゅ う ま ん が る ?
「ん、あの大地竜は買い取れないんだよね。それでも結構多いね?」
「そうナ。通常の大地竜は素材の宝庫だからナ~? それがなくてその値段というのは……まあ、感謝の印だろうナ? 受け取らんと失礼なのナ?」
そ、そうなん……?
「ギルド長はもっと加算するつもりだったようですが、流石に買い取れない魔物にそれだけ支出するのは難しく……また、恐らくそれを知ったムーク様が気に病むと思いまして……申し訳ございません、勝手に判断し、この金額に決めさせていただきました」
ボクはイセコさんにダッシュ!
両手をギューッ!!
「アリガトウゴザイマス! 最高ノ対応デゴザイマス!! アリガトウゴザイマス!!」
「ひゃわっ……!? こ、ここここちらこそありがとうございます!!」
なんで? まあいいか!
「欲がないね、ムーク」
「なさすぎるのナ、やはりコイツの中身は木か石なのナ~?」
アルデアめえ……ニヤニヤしてからに!
「ムン……マア、トリアエズ……コレモ共有財産ネ。何かカ使イタイナラ言ッテネ~?」
「最高の木か石かもしれんナ、お前は」
結局木か石なのはなぁぜ?
「ムークは太っ腹、素敵」
「アヒャヒャ!?」
マーヤ! 尻尾でくすぐるのはやめろください!!
変な声出ちゃったでしょ!?
『トモちんカエダマおかわり~』
『あいよー、8玉目です』
シャフさん食べ過ぎでは!?!?
「ま、しばらくすればこの騒動も落ち着くのナ。飲みに行くのは我慢なのナ~」
「食事どころじゃないもんね、この状況。私お風呂入ってくる」
あ、ボクもお風呂入ろっと。
ここのお風呂って本当にいい匂いがするんだよね~!
『ぶばあぁ!? 女湯に!?』
『あああ、お隣様が細麺まみれに……』
違うから! 違うから~!!




