第84話 またね! お元気で!!
「皆さん、本当にお世話になりました!」
「これから頑張るのナ!」
宿の前で、トーラスサンとデルフィネさんが頭を下げている。
その後ろにはダルトンさんが立っている。
そう、今日はトーラスさんたちがいよいよガリルへ旅立つ日だ。
彼らはこれからガリルを北に向かって横断して……そして、目的地の【ヴァロラ】へ向かうんだ。
ガリル横断って大変そうだな……って思ったけど、ガリルは街道が無茶苦茶整備されてる上に南北の長さはトルゴーンの半分くらいなんだって。
だけど、ヴァロラは木材で有名なだけあって森深い土地なんだってさ。
頑張っていただきたい。
「お二人のことはお任せなっせ。ガリルに入ってすぐの街には古い知り合い達ばいるのす、そごでもう1人か2人雇い入れで盤石にしまっす」
「ソレハ頼モシイ」
滅茶苦茶強いダルトンさんのお知り合いなんだから絶対に安心だ。
人格面も……この人が太鼓判を押すならとっても大丈夫そう。
「おにーちゃ、おねーちゃ、おじちゃ! これあげゆ、あげゆ~!」
『自慢の羽をプレゼントよ! 幸せになってね、なってね~!』
アカが飛んで行って、布袋を渡していく。
ピーちゃんは3人の周りを高速で旋回している……バターになりそう!
あの中身はアカが作った幸運のタリスマン(ピーちゃんの羽入り)だ。
御利益の結晶みたいなもんですよ。
「ワレの祝福も込めておいたぞ。まあ、簡単な魔除け程度にはなろうな」
ヴァルはボクの肩に座ってドヤ顔をしている。
「じゃじゃじゃ、オラにまで……ほんにええ子らだなっす!」
「えへーへ、えへへ」
ダルトンさんが破顔して、そのでっかい手でナデナデ。
「アカちゃん! ピーちゃん! ヴァルさん! ありがとう……ずうっと大事にするのナ!」
「まるでおとぎ話だ……妖精と旅をして、タリスマンを貰うなんて……ありがとう、妖精さん達!」
デルフィネさんもトーラスさんもとっても嬉しそう!
「さて……これも持っていくのナ」
アルデアが進み出て、トーラスさんに小さい革袋を渡す。
なんか、ジャラジャラ音がしているね……なんじゃろ。
「これは……アルデアさん!? 駄目ですよ、こんなにいただけません!」
「勘違いするんじゃないのナ? それはデルフィネへの祝儀なのナ」
お金か宝石でも入ってたみたいで慌てるトーラスさんに、アルデアはそう言った。
ほほう……本当に友達想いですな、アルデアは。
「アルデア!? こ、こんなに!?」
「私はちょっとすごい狩人だからナ。狩った魔物で稼げばそれくらいチョロいのナ」
ボク達と出会う前は1人で旅してたんだもんね。
こんな世界で1人旅ができるだけでそりゃあ強者寄りですわ。
「心配せんでもムークにたかるから私は大丈夫なのナ。何かの足しにすればいいのナ~?」
「……アルデア! あり、ありがとうなのナ~!!」
感極まった様子のデルフィネさんは、アルデアをギュッと抱きしめた。
ゴーグルでよく見えないけど、目がウルウルしているように見えるねえ。
……ナチュラルにたかる発言したけど、もうパーティメンバーみたいなもんだから問題ないです、ハイ。
「暑苦しいのナ~? こういうのはトーラスに存分にやってやるのナ」
アルデア、ちょっと照れてるねえ。
なんか新鮮! そしてやっぱり友達想いのいいそらんちゅ!
イセコさんもすすっと寄っていって、トーラスさんに何かを差し出している。
あれは……羊皮紙と……封筒に入った、手紙?
「トーラス様、これは【ガリル】と【ヴァロラ】にいらっしゃる【大角】閣下の知人たちのお名前です。何かお困りの時は、この手紙を見せていただければ助けになってくれると思いますよ」
「え、えええ!? そ、そんな恐れ多い……あ、ありがとうございます!」
すげー! 絶対VIP的な人たちのリストじゃん!?
とんでもないアイテムを貰ったね……トーラスさんの振動がすごいや。
「しぇば、名残惜しいども……そろそろ行ぎやんしょ。今日中にガリルの街さたどり着きてぇのす」
「はい……皆様どうかお元気で! ヴァロラに落ち着いたらデルフィネに頼んで手紙を出します!」
「本当に、本当にありがとうございますのナ~!」
軽く頭を下げたダルトンさんを先頭に、トーラスさんとデルフィネさんは歩き出す。
少し寂しい思いを抱えながら見送っていると……アルデアが少し大きな声を出した。
「トーラス!」
アルデアは凄く真面目な顔をしている。
「私が幼い頃、『男よりも凄い狩人になりたい』と夢を語って里の皆に笑われたことがあるのナ!」
その声に振り向いたトーラスさんに、さらに続ける。
「その中で! デルフィネだけは笑わずに今まで応援してくれたのナ! ――【螺旋大樹】で一番心の優しい女なのナ! お前が嫁にするのは!!」
そのことを思い出したのか、デルフィネさんのゴーグルが光った。
へえ、そんなことがあったの……いい話!
「心しておけ! もしもデルフィネを泣かせるようなことがあれば――」
あ! これってドラマとかでよくあるやーつじゃん!?
泣かせたらぶん殴るぞ~! 的な! うわ、感動的!
「――生きたまま腹を切り開いて、はらわたを獣の餌にしてやるのナ……!!」
猟奇的すぎる!
いいお話かと思ったらホラー映画だった。
「――はい! 必ず幸せにします! してみせます!!」
だけど、それに対するトーラスさんの返答は100点満点中の500億点くらいだった。
「……ならば何も言うことはないのナ! デルフィネ! 達者で暮らすのナ! また会おう!!」
アルデアはそう言って笑って――少し、目の端を光らせながら槍を大きく突き上げたのだった。
デルフィネさんは何か答えようとしたけど言葉に詰まって何も言えずに……大きく、元気よく両手を振った。
「さいなら! さいなら~!」『お幸せに~! ダルトンさんも、気を付けるのよ! 頑張って~!』
「魔物に気を付けるのだぞ~!」
「道中! お気をつけなっせ~!」
「お気をつけて!」
「オ元気デ! マタ会イマショウ!!」
そうして、長いようで短い駆け落ち護衛任務は終わりを告げた。
ボクらは3人が見えなくなるまで、ずうっと手を振り続けるのだった。
どうかお幸せに!
よろしくお願いします、ダルトンさん!
・・☆・・
「今日ハ一日オ休ミニシヨッカ」
「んだなっす、次の旅に向けて体ば休めるのす!」
見送りが終わり、宿の部屋に戻った。
アルデアは何か思う所があるのか、椅子に座って黙っている。
……落ち込んでるなあ、大事な友達だったんだもんね。
お別れって辛いもんね。
この宿は今日も取ってあるから、明日出発する英気を養おう。
さて……ボクはどうしよっかな。
このまま1日お部屋で過ごすのはアレだから……そうだ!
「アルデア~、オ酒飲ミニイコウヨ!」
朝だけど、たまにはいいか!
「ウナッ!?」
アルデアは椅子の上でビクーン! ってなった。
どしたん!?
「ムークお前……ひょっとして偽物ナ?」
「ナンデサ」
アルデアは目をパチパチして……立ち上がった!
「まあいい! 行くのナ! 朝から飲むのナ~!」
「ムギーッ!?!?」
そして、さっきまでの態度は嘘のようにボクのマントをひっつかんで歩き出した!
ウヒー! 落ち込んでるみたいだから元気づけようとしたら、効果は抜群だった!!
「アカも! アカもいく~!」『私も! 私も~!』「当然、ワレもだ!」
妖精たちも乗り気だった。
「ミンナデ! ミンナデ行キマショ~!」
ロロンとイセコさんもね! ね!!
この街は国境にあるから、結構人通りが多い。
山に近い関係上、冒険者も結構見かける。
ということは……そう! ご飯屋さんが多いってこと!
概念だけ知ってる日本でもあったように……こういう活気のある街には! 昼間からお酒の飲めるお店があるハズ……あった!
「ここはいい店なのナ~♪」
『山上の栄光亭』という名前のご飯屋さんは、この時間帯からもお酒を出している。
経営しているのはムキムキドワーフの若く見えるご夫婦……見た目が迫力満点だけど、妖精たちにニコニコして手を振ってたから絶対いい人!
「いい飲みっぷりだねえ! はいおかわりと……可愛いお客さんたちにはコレ! おつまみ盛り合わせだよ!」
奥さんがデーン! とジョッキと大きいお皿をテーブルに置く。
中身は……ワオ! お肉に魚にサラダ! おいしそ~!
「わはーい!」『彩も豊かだわ! 豊かだわ~!』「ほう、美味そうだ!」
妖精たちはも大満足そう!
「ここのエールは絶品なのナ! こんな美味いエールは飲んだことないのナ~!」
「嬉しいねえ、ダンナがガリルの『ドヴォルク酒造』で修業した結果だよ! ウチの名物さ!」
アルデアは本当に気に入っていたようで、この店に来てからもう4杯目だ。
……元気になってよかったよかった。
「ムーク様、ムーク様ぁ」
「ハイハイ」
どしたんロロン、そんなニコニコして?
「えへぇ~……世界ば、ぐるぐるしやんす~……えへへぇ……」
ロロンはボクのマント越しに体を押し付けてグラグラ。
こ、これはまさか……!
「イセコサン!?」
「果実酒ですね……酒精がかなり薄いので、間違えて飲んでしまったのでしょう」
ロロンってばお酒弱いから……
「アララ……ダイジョブ?」
「わだすはらいじょうぶでぎゃんす~……」
全然大丈夫じゃない!
倒れても困るし膝の上に乗せておこうか。
「うぇへへ……ムークさまぁ……えへへ……」
膝の上にロロンを乗せると、彼女はとっても嬉しそうに胸に後頭部をゴンゴン。
それをしばらく続けて……器用にもその場で丸くなった。
あらあらカワイイ! あーらカワイイ!!
「誘ったお前が飲まなくてどうするのナ! ホラ飲め! 飲むのナ~!!」
「ガボボッボボボボボ!?!?」
ちょっともう! アルデア! 今はロロンのKAWAIIを堪能させてくださ――きゅう。




