第83話 登頂虫、くつろぐ。
「着イタ~!」
「ついた! ついた~!」
ボクが声を上げると、同じように喜んだアカとハイタッチ。
『山登りも悪くないわ! 悪くないわ~!』
ピーちゃんも嬉しそうだけど、キミの場合はほぼボクのマント内だったからね?
まあカワイイしあったかいからいいけどさ。
「見えてはいたのに随分と遠かったのナ~?」
アルデアがもたれかかってくる。
それはほんとにそう!
あの休憩所を出てから歩き続けること2日。
ボクらは、遂に目的地であるミレドン山脈の頂上へとたどり着いた。
昨日のうちに着きたかったけど、ギリギリ夜になったんだよね……なので今は早朝ってカンジ。
いや~……ゆるやか~な登りだったから疲れはしなかったんだけど、とにかく距離感がバグって大変だったよ。
あと、これはいいことなんだろうけどさ……魔物が一切出なかった。
だから変化もなくて暇で暇で……ひたすら歩くだけだったね。
ディナ・ロータスってそんなヤバい魔物だったんか……強かったけども。
で、登山道というか登山街道を登り切った先は平たくなっていて……その道の先には街があった。
切り立った山と山の間にすっぽりはまるように、城壁で囲まれた空間がある。
ラーガリからトルゴーンに入った時を思い出すなあ。
「アレが国境の砦でやんす。中はちょいとした街になっていて、一通りのものは揃いやんすな」
ダルトンさん詳しいなあ……そりゃそうか、ちょっと前にあそこを通ってこっちに来たんだし。
「なんにせよ行くのナ~。今日の所はゆっくり休みたいのナ」
「んだなっす! いい宿をば紹介しやんしょ」
さてさて、あの中はどうなってるのかな~?
・・☆・・
「ディナ・ロータスノ件マデ追加サレテタ……」
せっかく街まで来たのに、肩を落としてしまう。
原因は入場の時だ。
衛兵さんに魔導紋を出すまでもなく、イセコさんが『こちらがムーク様です』と皆さんご存じですよね? 的な感じで問いかけた。
そんな有名じゃないでしょ……と思ってたら、門を守る衛兵さん達は揃って頷いて槍を持ち上げた。
そして……『フー! ラー!!』ですよ。
内ポッケのピーちゃんがビックリして垂直に射出されちゃった。
「それはもう、ムーク様のご活躍はここいらでは知らぬ者はいませんよ」
ニコニコした雰囲気のイセコさんである。
顔布があるのに、満面の笑みなんだろうなあっていう確信がある。
「はわぁあ……」
ロロンがキラキラしている。
「ロロンモ大活躍ダッタッテ噂ヲ流サントナ……」
「じゃじゃじゃァ!? ワダスはええのす! ええのす~!!」
「フギギギ」
マントを引っ張らないでください!
キミほんと自分のことは二の次だね! ね!
「イチャついてないで行くのナ!」
脛に食い込む! そらんちゅキック!!
ディナ・ロータスに蹴られるより痛いかもしれない!
「スイマセン、オ部屋空イテマスカ」
「あらまあいらっしゃい! ご人数は?」
砦の中はやっぱりちょっとした街になっていた。
イセコさんが衛兵さんに聞いていた宿は、門を入ってすぐの所にあった。
二階建てのこじんまりとした綺麗なお宿!
「エト、ヒト7人ト……妖精3人デス」
我ながら大所帯になったものだねえ。
「こにちわ~!」『よろしく! 私はピーちゃん!』「世話になるぞ、女将」
「あらあらまあ! まあまあ! なんて可愛らしいお客さんなんでしょ!」
テントウムシっぽい女将さんが、目を輝かせている。
まあ妖精たちが怖がってなかったからいい人なんでしょうけど。
やっぱりむしんちゅはいい人ばっかりだな~。
「ア、コチラノ2人ハ別室デオ願イシマス」
「はいはい! それじゃ皆さんは一階の奥の大部屋! お2人は階段を上がってすぐのお部屋にどうぞ~!」
よかった空いてた。
「トリアエズ3日宿泊シタインデスケド」
「はぁい! 申し訳ないけどウチは先払いでお願いするわ!」
はいはい……バッグゴソゴソっと。
いやあ……謎虫だったボクがこうして暮らしていけるようになるとはねえ。
強くなる云々よりも、こっちの方が嬉しいなあ。
・・☆・・
「おやびん、おふろ、おふろいこ~!」
「行ク行ク~!」
そんなこんなで通されたお部屋。
広くって掃除も行き届いて綺麗! むしんちゅさんって掃除好きだなあ。
だが残念ながらここにはお風呂はない……ないが! この街にはお風呂屋さんが! あるのだ!
ここはラーガリとの国境と違って今は雪が降ってないけど、それでもちょっと寒い。
旅の汚れもあるし、ここで綺麗にしておきたいねえ!
『私も! 私も!』
「ワレも行こうか、風呂は最高だからな……」
妖精たちもお風呂好きだからね。
他の人たちは……
「ワダスもご一緒いたしやんす!」
ロロンは来るみたい。
「オラはこの先の話ば、トーラス殿と詰めておくのす。お先にどうぞ」
「了解デス~」
それで……
「ウナナ~……ナナ……ナ~……」
ソファで寝息を立てているアルデア。
起こしたら怒られそうだし、置いて行こうか。
イセコさんは衛兵さんたちと情報交換するために宿を出ていて、今はいない。
さーて、この街のお風呂はどんな感じかな~!?
「オア~……」
「おあ~……」
ごつごつした岩を加工した大浴場。
ボクとアカは揃って同じような溜息をもらしている。
「オ風呂ハ最高……」
「しゃいこ、しゃいこ~……」
男湯は空いていて、ボク達の他には誰もいない。
まだ昼前だもんね……
「ハイアカ、果実炭酸水」
「あいがと、あいがと……んくんく、おいし、おいし~……」
ボクもゴクゴク……うまうま。
お湯の中で飲む冷たいものは格別ですなあ。
「おやびんといっしょ、うれし~……」
「ボクモボクモ」
アカは男湯でもOKだからねえ。
ちなみにヴァルは女湯に行っています。
あの子はその……ナイスバディだから。
ピーちゃんも今日は女湯の気分だからって、あっちに行ったけど。
『行きたいですか?』
なんでさ。
『男は度胸だし?』
なわけないでしょ。
それは度胸じゃなくて無謀って言うのよ?
「おやびんほかほか、ほかほか~」
ぱちゃちゃ、と泳いできたアカが肩に来た。
ほほう……肩に乗って足湯と併用することで長く楽しむ魂胆ですな?
天才かもしれんね、この子は。
前からわかってたけど!
「チュピピ……ピチチ……」
「すひゃあ……すひゃあ……」
「んむぅ……んふ、んん……」
お風呂から出て合流した後、宿まで戻った。
そのままお昼ご飯にしてもいいかと思ったけど、アルデアが起きてるかもしれんからね。
結局……アルデアは同じソファで夢の中だったけど。
出かける時よりも寝相悪くなってたけど。
なんで上下さかさまになるんですか……?
んで、お風呂で温まった妖精たちはベッドで就寝。
寝る子は育つ! 大いに育ってほしいものですよ、特にアカ。
『ヴァルちゃんみたくおっぱい育って欲しいってか? こんスケベ~?』
全体的に! 全体的に!!
ンモ~……
「ロロン、ゴ飯ドウシヨッカ。食ベニイク?」
この宿に昼食はないからね。
別料金では作ってくれるらしいけど、街ブラしながら食べてもいいな。
「ふわぁ……しゅ、しゅぐにご用意ば、いだしやんしゅ……」
無茶苦茶眠そう!
「オ昼キャンセル!」
「じゃじゃじゃ~……」
こんな眠そうな子にご飯作らせるわけないでしょ!
ボクは鬼虫ではなァい!!
ということで妖精のお隣りにどうぞ~!
「おもさげ……ながん……ふみゅ……」
ロロンは抵抗もせずに、ベッドの上でくるんと丸くなって眠り始めた。
この子も疲れてたんだね……
さて……ボクも若干の眠気を感じるような気がする。
これはアレだな……ちょっと早目のお昼寝虫と洒落こもうかな!
トモさん、なんかあったら起こして~……
ベッドに寝転がるなり、眠気がアンブッシュしてきたので身を任せることにした。
いや~……これで一段落……スヤァ。




