第63話 昼下がりの接敵。
「恐らく、ゼルグさんの言っていた隊商でしょう。一群となってこちらへ向かって来ます、かなり速足です……恐らく、何らかの身体強化魔法か魔法具を使用していると思われます」
かなり疲れた様子のイセコさんが言った。
相手がかなり速いってことは、それを上回る速度で帰ってきてくれたんだろう。
「コレドウゾ」
「あ、ありがとうございますムーク様……んく、んく」
とりあえず水を差し出すと、彼女はそれを一息で飲み干した。
「ソノ連中……ドレクライデ、ココニ来ソウデスカ?」
「そうですね……夕暮れまでには」
あら、結構余裕があるな。
「まだその連中が敵と決まったわげではね、まずは守りの備えをするのす」
「んだなっす! ここは見晴らしがええのす! 我らはこごに残り、トーラスさん達は池の周囲で待機して欲しいのす!」
ダルトンさんとロロンの言う通りだね。
怪しい連中ってだけで先制攻撃とかしてたら、ボクらも盗賊と変わりがないモン!
ええっと……選手宣誓! しなきゃね!
『まさかとは思いますが……専守防衛のことですか?』
……そうそれ!
・・☆・・
「ダルトンサン……ソレハ?」
トーラスさん達を池のほとりに下がらせ、各々が武器の確認や食事の後片付けをしている。
そんな中で……ダルトンさんは虚空から、ソフトボールくらいの岩を取り出して地面に並べている。
「これは【クロブ岩】っちゅう石でがんす。塊で買い付けて、暇な時間に削っておりやんした……下手な魔法よりも、これをば投げる方が楽でがんす」
投げる……なるほど。
見た感じとっても重そうな岩だ。
こんなのがダルトンさんの力でバンバン投げられたら……うひゃあ。
大砲と変わりないじゃん、これ……
「オラは遠間に使う魔法ば不得手なもんで。これが一番だなっす」
「頼モシイスギル……!」
歴戦の傭兵さんで、二つ名持ち。
いやー……ロロン繋がりであまりにも有能な方が雇えてしまったなあ。
ロロンも槍を手入れしているし、ボクも準備しとこ。
といってもヴァーティガを出しておくだけなんだけども。
あ! マントに魔石仕込んでおかなくっちゃ。
『アカ、ごめんけど起きて。ヴァルも』
「うにゅう~……あい~……」
「ふわぁ……なんだ、もう夜か?」
2人の妖精がモソモソ出て来た。
申し訳ないけどマントにアレコレせんといけんからね~。
ヴァーティガを出して……うん、今日もどこにも汚れ無し!
まあさっきお風呂のついでに磨いておいたからねえ。
異次元の頑丈さだけど、いつも綺麗にしておきたい。
「上空からはまだ何も見えんナ」
「ウグーッ!」
アルデアが肩に着地してきた。
この子ったら音もなく! 音もなく!!
「……トーラスサンタチ、2人デ大丈夫カナ?」
「いざとなればデルフィネが飛べばいいのナ。トーラスのようなヒョロヒョロなら、あやつでもかなり高い所まで運べるのナ」
……相変わらず友人の恋人にひどいや。
「ソレナラ安心カ……デモ追ッ手ガ来タラ?」
ちょっとね、正直忘れかけてたけど。
「ふん、追っ手はあの【狩り司】リーバンなのナ。近くで我々が戦っていれば、デルフィネを攫って帰るようなことはせんし……そうでなくとも、まずは話し合いで解決しようとするはずナ」
「ソウカナ」
「そうだとも。それに……奴らはムークに貸しがあるのナ?」
おーん? 特にこれといったことはなさそうだけど……?
「前の嫁追い騒動を忘れたのナ? あの時『私は』賠償を受け取ったが……お前は受け取っていないのナ。お前は『私への賠償のみでいい』と言ったが……奴らはそれを借りと受け取っているハズなのナ」
え、えええ……あの話ってアレで終わりじゃなかったの?
「連中は堅物ぞろいなのナ。今回の騒動にお前が加担していると知れば、まず確実に話し合いでケリをつけようとするのナ~? 私は素敵な相手と知り合えて僥倖ナ~♪」
「アヒャヒャ!」
アルデアはボクの顔を羽で撫でて、ウキウキしながら槍の手入れに戻った。
くしゃみするかと思ったじゃんか! ンモ~!!
「おやびん、おやびーん」
おっと、アカが飛んできた。
……そうだ!
「オイデオイデ」
「んゆ~?」
目の前でホバリングしているアカのマントに……っと。
バッグから出した魔石の中でも小さいやーつを、裏側にポイポイ入れておく。
ロロンがちょいちょい縫ってくれて、魔石を引っ掛ける所があるんだよね。
「オ弁当。ボクト離レテル時ニ使イナサイネ~」
「おべんと、おべんと! ありあと~!」
「オウフ」
アカが顔に抱き着いてくる。
ふはは、なんとカワイイ子分よ……!
『ピーちゃん、何個か大きい魔石を渡しておくよ。戦闘とかでアカが小さいのを使い切ったら渡してあげて』
『お任せよ! ついでにおやつを入れてくれてもいいわよ! いいわよ!』
しょうがないなあ……
「デハコノ山盛リノクッキーモ、オ願イ」
ふふん、経済を回すためにリーチミで買い込んだのだ。
妖精のおやつなんていくらあっても困りませんからね。
『まー! 素敵よ! 素敵だわ~!』
ピーちゃんは空中で小躍りしながらクッキーの入ったクソデカ袋を収納した。
うーん、何度見てもバグる光景。
小鳥にデカ袋が吸い込まれていく……
「ア、コレハ今食ベトイテ」
クソデカドーナツは今2人にあげておこう。
ボクも小腹空いたしね。
「勿論ワレの分もあるのだろうな?」
いつのまにか背中に張り付いていたヴァルが言った。
「当然。ハイアーン」
「はもも……ふむ、素朴だがとても良い味だ。濃いケマが欲しくなるな」
アカにも、ピーちゃんにもあげてっと……
ええと、確かバッグのここらへんに……あった、朝淹れたケマのポット。
地べたに座ってるけど、まあいいか。
「ハイハイ、欲シイ人ハ~?」
「あいっ!」「うむ」『もらうわ! ミルクも入れて欲しいわ! 欲しいわ!』
はい了解~。
英気を養っておかないとネ!
「おい、私の分はあるのナ?」
「モチローン」
アルデアの分も追加ね~。
・・☆・・
「……アレでやんすか」
「ダネ」
ボクの横にいるロロンが呟いて、槍を握り直した。
「確かに速い……アレは身体強化呪法でやんしょう」
ダルトンさんは最前列にいて、その周囲には例の岩がゴロゴロ。
「こちらに敵対行動をとり次第、結界を張ります。向こうの攻撃を防ぎ、こちらの攻撃は通すものを」
イセコさんは有能ですなあ。
今現在どこにいるかわからんけども……声だけしてる!
ボクの見つめる先には、土煙。
結構な数の集団が、小走りを超える速度で殺到してきている。
遠くてまだハッキリ見えないけど……アレが例の隊商モドキってやーつか。
「さて、どう出るか……いざとなったらムークを魔法避けにするのナ」
「別ニイイヨ、ボク頑丈ダカラ」
寿命を墓場に送ればいいからねえ……トモさんボクの寿命どんくらーい?
『あと5年と3カ月と言った所ですか』
結構増えた! この調子で10年を目指したい虫です。
「ホホーウ、これは見上げた英雄根性なのナ。ロロン、お前も危なくなったらムークに庇ってもらうのナ~」
「じゃじゃじゃ! ムーク様はワダスがお守りするのす~!」
ロロンは好戦的だねえ、無理せんといてね。
そんなことを話している間にも、一団は街道を走ってこちらへ向かってくる。
全然減速する気配がないってことは、ここで休憩するつもりはないのかな?
そのまま走り抜けてくれればいいんだけども……
「――隊列に変更あり! 前方が入れ替わります!」
イセコさんが言うように、連中は走りながら順番を入れ替えてるっぽい。
ボクらは当然見えてるだろうから……攻撃の予備動作かな?
後ろから最前列に進み出てきたのは、全身をマントに包んだ怪しすぎる人影だった。
横並びに……5人?
そいつらは、マントの中に何かを持っているように見える。
魔石を口に含み、体内で魔力の循環を始める。
イメージ的には、血液みたいに体中の魔力をギュンギュン回す。
これやっとくと何をするにも早くできるのよね、ボクが編み出した裏技です!
『あ、それは魔術戦闘における初歩の初歩ですね。独学で開眼したのはとっても偉いのでポイント付与しておきます』
そうなんだ……残念無念虫。
どっかで武術と魔術の勉強とかせんとなあ……
「先頭が――あれは!?」
いかんいかん、先頭がなんだって!?
――ナニアレ!?
先頭の5人はなんか、大きい筒みたいなものを持ってる!
アレって……アレ! アレだ!!
――『バズーカ砲』に似てる!
「こちらに向けて――結界を張ります! 反撃は攻撃を確認してからお願いします!」
魔力が集中する気配――ソレと同じくらいに、連中は筒をこちらに確実に向けた!
「オーム! ダハーカ・ダハーカ・ロウ・ドルグ――スヴァーハ!!」
イセコさんの詠唱が完了すると同時に――そのバズーカモドキは、一斉に火を噴いた。




