第62話 ママ大喜びの巻。
「極楽……極楽……」
「ごくらくぅ……えへへぇ……」
『お外のお風呂は何度入っても格別だわ……』
大自然を見ながら、入浴虫。
まだ昼だけど、ここは風がよく通るから涼しいや……
『しばらくお風呂に入れなかったからねえ。体は綺麗にしとかないとねえ……』
「アカ、おふろしゅき~……」
タライに浮かんだアカが、ヘリに顎を乗せてうっとりしている。
『嫌いな人なんていないわ、いないわ~……』
アカの横には、完全に水没して尾羽だけが出ているピーちゃん。
控えめに言って小鳥の水死体。
知らん人が見たら腰抜かすと思う。
「むうぅ……蒸し風呂もよいが、ワレは湯につかる方が好きだな……なんとも、甘露」
そして、もう1人。
アカたちのようにタライの中じゃなくて、ボクの横にプカプカ浮いてる黒髪の妖精。
そう、ヴァルである。
「なんだ? ワレの肢体が気になるのか? ふふん……もそっと近くで見せてやろうか?」
「イヤ全然興味ナグベェエエエ!?」
ボクを悪戯っぽく見たと思った次の瞬間には! 眉間にめり込むヴァルパンチ!!
ウギー!? スリットの部分が割れたァ!!
『なんこのアホ虫』
『否定できません……』
否定しておくれ女神様~!
・・☆・・
この先のことを話し合った後、一念発起したボクはお風呂を用意することにした。
なんでかって? ここに至るまでお湯で濡らした布で体を拭くことしかできなかったからですよ!
いっくらボクやアカ、それに妖精さんたちが汗をかかないからって! それとこれとは別問題なのですよ!
これから何かヤバーイことが起きるかもしれないので! その前に身を清めておくのだ!
というわけでね……休憩所の近くには池があったので、そこから水を汲んできました!
きったない水じゃなくて、湧き水なことはトモさんが太鼓判を押してくれたしね!
のでのでの~で、無事に沸かしたお風呂にみんな入ってもらって……最後がボクら!
だって堪能したいしね! 一番最後でもいいというか、一番最後が最高なのです!
『コイツ女性陣の出汁スープ堪能するってマ? やっべ、いつの間にかHENTAI指数が跳ね上がってるし……将来有望だし……』
『むっくんの特殊性癖インセクト……猥褻謎ヘッド……』
人聞きが悪すぎるんよ!?
あのねえ! ダルトンさんもトーラスさんも入ってたでしょうが!!
『うるへー! せっかくヴァルちゃんがキャストオフ可能なボインバイン妖精なんだからしっかり見ろし! むっくんの前世は多分屋久杉!』
屋久杉は多分まだ立派に生きてると思うよ!!
なんですかその罵倒は! 世界遺産に謝ってくださーい!!
「なんだ、また女神様とお喋りか。このような場所で神託を受けるとはなんとも奇妙だな」
「アババ」
ぱちゃり、とお湯をかけてくるヴァル。
女神様たちの念話はこの子にも伝わるけど、意図的にミュートにできるんだ。
受信はできるけど発信はできないってわーけ。
……ということは送受信が完璧なテオファールは、妖精よりもすごいってわけね。
『ん~、まあね。そんな感じかな?』
……あ、丁度いいやトモさん。
近くにヴェルママおるー?
『――私はいつでも虫に寄り添っていますよ』
おった!
ねえねえママ、前にアカと話すのはまだ早い……って言ってたじゃん?
あれから進化したけど、もういけるんじゃないの? 神託的なアレ。
『……む。少し調べてみましょう……ふむ、ふむふむ、出力を絞れば……大丈夫ですね! 礼を言いますよ!』
あ、大丈夫なんだ。
じゃあアカに言ったげよ。
『ねえアカ、メイヴェル様がね、アカとお話したいんだって』
「んゆ? それ、まま? まま?」
「ソソソ」
おー、覚えてたか。
ついでにピーちゃん……は水底で寝てるな、完全に水死体。
彼女はまたの機会だね。
『はい! 私が母ですよ! 小さく愛しい虫!』
『ふわ~! だれ、だあれ?』
いきなりの神託にアカがビックリしちょる!?
フルスロットルすぎますよママ!
『初めまして、小さい虫。私は女神メイヴェル……全ての虫の母であり、その行末を見守るものです』
……すごいや、とっても凄い女神様みたい。
『(とっても凄い女神様ですよ、戯け虫)』
そうでした!
なんかね、いっつも距離が近いからね!
ふへへ、ごめんなさーい!
『アカ、でしゅ! まま! まぁま! よろしく、おねしゃ~!』
『――ァッ!?!?!?!?!?』
なんかズズーンって聞こえたんだけどォ!?
『心配せんでもメイヴェル様が仰け反って神殿の壁突き破った音だし』
心配しかないじゃん!? なんでそんなことに!?
『だぁって、メイヴェル様と直接話せる子供なんて基本いないっしょ? アカちゃんはものっそい特別なんだからね?』
『格の高い女神様との交信は身心に負担がかかるものですからね。あ、アカちゃんは大丈夫ですよ? 進化してレベル的なものも上がっていますしね』
あ、そうなんだ……じゃあママにとってこれがめったにないキッズとの直接会話になるんだねえ。
『広域の神託ではなく個別で、しかも双方向ですから。どうやら刺激が強すぎたようですね、心の』
うむむ……コメントに困るのう。
『まぁま! いつも、ありがと、ごじゃまう! おてて、いっぱい! おやびんみたい! まーま、まましゅき!』
『――オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?』
何この轟音!?
『総員退避~! メイヴェル様の半径約30メートルから離れるし! 溢れた神気で吹き飛ばされんぞ~! 新入りはもっと遠くに逃げるし~! 最悪年単位で寝込むし~!!』
『(遠く離れた私のお部屋は無事なので、いっちょカレーでも煮込みましょうか)』
えらいことになっとる……
そして我が女神様はマイペースでもある……
『(今日はオムハヤシカレーを作りますよ、えへん)』
なんという素晴らしいものを!?
いいな、いいな~!!
『小さき虫よ……母はいつでも……あなたを見守っていますよ……これからも、励みなさい……』
なんか死にそうな声!
『あいっ! アカがんばゆ! おやびんといっしょ、がんばゆ~! まぁま、ばいばい、ばいばーい!』
『ああああああああああああ虫が愛おしい! 愛おしい!! ああああああああっ!!!!』
……うん、まあ、その……喜んでもらえてよかったねえ!
「今のは……その、あまねく虫人を守護するメイヴェル様……であるよな? ムーク」
ヴァルがドン引きした顔をしている!
なんか聞こえてたっぽい。
「……ソダヨ~。優シクテトッテモイイ方デショ、ホントニ」
「……そう、だな。慈愛に満ちては……おられるな……そ、それでよい、それでよいのだ」
彼女は慌てたように顔をパチャパチャ洗うのだった。
……気持ちはわかる、すごくわかるよ。
でも僕はもう慣れました!!
さて、神託も済んだし湯冷めしないうちに上がるかな。
『ピーちゃん、茹で鳥になる前に上がろうね』
『鶏がらスープの気持ちがわかったわ……わかったわ……』
わからんでヨシ!
・・☆・・
「相変わらず長い風呂だナ。毛も生えてないのに何処を洗ったのだか……ひょっとしたら生えてるのナ?」
「セクハラデシテヨ!」
「せく、は~? 何の呪文ナ?」
ホコホコ状態でキャンプに帰還。
早速アルデアがセクハラしてきた。
まあそれはいいとして……特に変わった所はないね。
「おやびん、ほこほこ、ほこほこ……ふわぁ……」
「うむむ、これは良い……ふわぁあ……」
アカとヴァルは内ポッケで眠りつつある……姉妹かな?
「ピッピヨ……ンチュチュ……チュムチュム……」
ちなみにピーちゃんはもう眠っている。
肩の上で、仰向けになってね……インコの概念壊れちゃう!
「何カアッタ?」
「いいや、特に動きはないナ。ゼルグさんが言っていた休憩所は真っ直ぐこの先だから、何かあればすぐにわかるのナ」
ここから遠くに見えるミレドン山脈までは一本道だ。
問題の休憩所を超えて何日か歩けば、やっと麓にたどり着くってわけ。
見えてるのになあ……空気が済んでるんだろうねえ。
「もう少しすれば、私が偵察に出ますので」
やっぱりいつの間にか隣にいたイセコさんが言う。
「スイマセン、湯冷メシナイヨウニ気ヲ付ケテクダサイ」
お風呂入ったばっかだもんね。
むしんちゅも湯冷めする……んだろうね、女性はヒト要素多いっぽいし。
「ご懸念なく、それほどヤワな鍛え方はしておりませんので」
「カッコイイ……!」
キリっとするイセコさんに思わず拍手。
案の定彼女は消えた。
……ニンジャ!
「ムーク様ぁ、昼食の準備ばしますので食料を出してくやんせ~」
「ハイハーイ」
今日のお昼はなーんじゃろな~?
干し魚を入れたゴロゴロスープの昼ご飯を終えて、皆で休憩中のこと。
急に空間が歪んで、息を切らしたイセコさんが戻って来た。
「――動きがありました!」
来たか……来てほしくなかったけど!




