第60話 見えてはきたけど、まだ遠い。
「申し訳ありません、ムーク様。これより別行動とさせていただきます……何かありましたら、まず上空へ魔法を撃ち上げますので」
「ハイ、オ気ヲツケテ。コチラコソスイマセン」
キリッと挨拶するイセコさん。
彼女は、ディナ・ロータスを警戒して森の中を偵察しながら動くらしい。
「いえ、お気になさらず……それでは!」
ブン、と消える彼女……やっぱりニンジャだ!
しかし……本当に出てこないでいただきたいなあ、亀さんには。
「しぇば、オラが先頭に。後のこどは、手筈どおりに」
「はい、お任せくなんせ!」
ダルトンさんが前に立って歩き出す。
その後ろにトーラスさんとデルフィネさん。
最後尾にボクとロロンだ。
「行ってくるのナ」『何かあったら念話で教えるわ!』
上空へはアルデアとピーちゃん。
うーむ、これは鉄壁の布陣ですわ。
『油断……慢心……粗忽……』
……気を引き締めないとネ!
「今日は寝ずに監視してやる。感謝するのだな」
「アカも! アカも~!」
両肩の妖精が頼もしい……ボクも頑張ろ!
「トーラスサン、調子ハドウデスカ?」
「大丈夫です、ご心配かけてすみません」
トーラスさんの横で話しかける。
……ふむ、顔色は良いね。
「以前痛感しましたので、色々とさらに準備を……すぐに体を鍛えるのは無理ですので、ちょっといいタリスマンとブーツを買いました。これだけで大分変わるものですね!」
「ホホーウ」
タリスマンはわかるけど、靴かあ。
聞いたことがある気がしないでもない。
ボクは常に裸足というか装甲剥き出しなので、いまいちわかんなかったなあ。
「デルフィネサンモ、元気ソウデスネ」
「歩くのにやっと慣れて来たのナ。アルデアも初めはそうだったんじゃないのナ? 空の民は種族的に長く歩くのに向いてないのナ~……」
あー、なんかそんなこと言ってたね、そういえば。
なるほど、体自体がそこまで弱いってわけじゃないんか。
『そもそも、むっくんや仲間たちは一般人を大きく超えた体力を持っていますから……冒険者ですし』
そうでした。
今までは死ぬか生きるかでそこまで考えてなかったけど。
『この世界、一般の方々は一生を街で過ごす場合も多いですから。外出もせいぜい近隣の大きな街にいくぐらいですよ……少人数での旅ができている時点で強者側です。ちょこちょこすれ違う方々を見ればわかるでしょう?』
大き目の隊商とか、護衛付きの竜車とかだったなあ、そういえば。
旅って時点でハードルが高いんだなあ。
トーラスさんたちは駆け落ちをしなかったら、あんまりお外に出ない人生だったんだろうなあ。
……それなのに駆け落ちを決心するなんて、凄い人たちだよね。
恋って素敵なんだねえ。
『そー! そーそー! いいよむっくん! ラブイズオール! ラブイズビューティホー! もっともっと学ぶし! 世界は愛に満ちてるし!!』
うわあ。
シャフさんのテンションがとんでもないことに……
『これはいい傾向だし……! 目指せ恋人100人くらい!!』
目指さないよ!?
多い! 多すぎ!!
ヤマダさんでも50人くらいなのに!!
『産めよ増やせよ地にミチミチに満ちよ~♪』
増えすぎじゃない……?
この世界は地球程人口は多くなさそうだけどさあ……!
『おい、ムーク』
ん、なんすかヴァル。
なんかびっくりしてるみたいだけど。
『お主まさか……複数の神と交信できておるのか?』
『あ、そうそう……なんかね、トモさんつながりで仲良くなったんよ。みんないい人だよ?』
すっかり慣れちゃった!
当初は脳内が混乱してたけどね、慣れって怖いなあ。
『ちすちーすヴァルちゃん! あーしはムロシャフト! 慈愛の女神やらせてもらってま~!』
『なんっ……!? 『名付き』の神々だと!?』
なんかもっと驚愕しとるねえ。
まあ、シャフさんは有名神だから仕方ないか。
『――おや、新顔の妖精ですね。名乗っておきましょう……我が名はメイヴェル、以後見知りおきなさい』
『な、なななななッ!?!? ……よろしくお願い奉ります!!』
めっちゃ念話でっか。
『ムーク! ムーク!!』
「ムギーッ!?!?」
ヴァルは猛然とボクの顔面に突撃してきた。
あああ! なんでかほっぺにヴァルパンチがめり込んでる!
ボクの装甲は硬いはずなのに何故ェ!?
『なぜ昨日このことも説明せなんだ!? お主という男は! この粗忽者!!』
『ムギュ~! ごめんなさいごめんなさい~!!』
「たのしそ! アカも! アカも~!!」
何かの遊びと勘違いしたのか、アカまで参戦してきた。
最初はビックリしていたトーラスさんたちは、わちゃわちゃするボクらを見て……楽しそうに笑い出した。
ふぐぐぐ……喜んでもらえてなにより! なにより!
『仲良きことは美しき哉、ですね。うふふ』
トモさんがなんかホッコリしている!!
・・☆・・
「オオ~……山ダ……」
歩き続けて昼になり、休憩所で座るボクの前には……大きな大きな山が見える。
近くはないけど、山が大きいから遠近感がバグるねえ。
大分遠くにあるんだろうなあ……
「あの山を登り切った先に、国境の砦があるのです」
「ア、ドウモ」
飲み物をついでくれたイセコさんが教えてくれた。
ふむふむ……そういえばトルゴーンは、ミレドン山脈に囲まれた盆地みたいな土地だった。
だから、ラーガリから登って降りて入国したんよね。
あそこもそんな感じか……テオファールと知り合ったのもそこだったねえ……なつかし!
「あそこまでたどり着けば、まず安全でしょう。途中の森が心配ですが……」
山に向かって走る街道。
その両脇には、鬱蒼と茂る森がある。
この世界、基本的に大規模な森林伐採はご法度だからねえ……
今までは街道と森がちょっと離れてたからいいけど、この先は隣接してるからねえ……
それどころか、街道は途中から森に突入してるっぽい。
「天候に不備が無ければ、このまま数日で到着するでしょう。見えてはいますが、まだまだ先ですので」
空気が澄んでるのかなあ……ま、急ぐ旅じゃないしご安全に行きましょっか。
「おやびん、まだあるく、あるく~?」
「ソダヨー、一緒ニ頑張ロウネエ」
寄ってきたアカを撫でる。
「んふふう! あい! がんばゆ、がんばゆ~!」
「ふぁあ……元気でいいことだ、うむ」
休憩中に懐で寝ていたヴァルが、のそのそマントから出て来た。
よく寝るねえこの子、いいこといいこと。
「おねーちゃも、いっしょ、いっしょ~!」
「んふふ、くすぐったい。お姉ちゃんか……はは、いい呼び方だ、ははは!」
アカに抱き着かれて、ヴァルは嬉しそうに笑っている。
姉妹と言うより親子に見えなくもない……けど、これは言わない方がよさそうだ。
妖精って、種族としての大きさは決まってるのかもしれないね。
縮尺的に言うと、アカは150㎝くらいで、ヴァルは180㎝くらいかなあ。
ラーヤはたぶん170㎝ってかんじ?
ピーちゃんは一般セキセイインコくらいか。
「どうでやんす?」
『ん~! とっても素敵なポモッドソース! ジマリッカにピッタリに決まってるわ! ロロンちゃんはいつでもお店が出せるわよ~!』
今日のメニューはトマトソースのスパゲッティ……もとい、ポモッドソースのジマリッカ!
ピーちゃんが太鼓判を押してデュルンデュルン揺れている。
ロロンはどんどん料理上手になるねえ!
ありがたすぎるよ……日々の生活がどんどん素敵になってゆく!
「ロロン様の煮込み料理は本当に美味しいです。私もいい勉強になります!」
イセコさんはそう言うけど、この人のお料理スキルも凄まじいものがあるよね。
アレだ、和食の達人と洋食の達人みたいな感じ。
大いに切磋琢磨していただきたいです、ハイ。
「うむ、料理とは素晴らしい。ワレも後悔しているよ……今までは魔力を吸収するばかりだったからな、人生を損しておったわ、ははは」
ああ、ピーちゃんも言ってたね……
魔力吸収ってお腹は膨れるけど、何の味もしないんだっけ。
それは辛いよねえ……餓死するよりはマシだけども。
「料理ノデキル人ッテ素敵ダヨネエ……」
ボクはできない訳じゃない……と、思いたいけど。
ロロンと知り合ってから全然料理してない、というかさせてくれないのよ。
こればかりはねえ、ロロンが頑固ですし……自分で作るよりも明らかに美味しいですし……
「……頑張ります! ムーク様!」
「ハヘ?」
イセコさんが燃えておられる。
なんでじゃろ? だってこの人は……
『はーいむっくん、その先は口に出すし~!』
お、おおん?
まあいいか。
「イセコサンハ、モウ既ニ素敵ナンジャ……? 料理デキルシ、強イシ、ソモソモ綺麗デスシ……アレ?」
イセコさんが消えちゃった!?
な、なんでぇ?
『おっしおっし、ぬふふふ……着々と……ぬひひひ……』
シャフさんがなんか、女神が出しちゃいけない笑い方してる……!
「ムーク様ぁ、味見ばお願いできやんすか?」
お、ロロン。
挑まれれば対応せねばなるまい……!
ふむ、スープパスタみたいな感じか……では!
ずるる、もぐもぐ。
「オイッシイ! ンマー!」
トマトスパゲッティが不味いわけないけど、それでもとっても美味しいや!
なんかアレだ、ハープみたいな香りが美味しさを引き立てている!!
「ボクハ幸セダナア……」
「えへへ……えへへへ……まんずまんず! まんずまんず~!」
ロロンはクネクネしながら去って行った。
嬉しそうでよかったねえ……ご飯が楽しみ!
『ぬほほほ……よきよき……ぐふふふ……』
なんかシャフさんがコワイ!!
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