第46話 クジラは海にいてください!
『リククジラモドキ』
陸上で生活する『リククジラ』という魔物がいる。
こちらの性格は温厚で、草食性。
体は大きく、皮膚も厚いが争いを好まず、襲い掛かられてもひたすら防御と逃走を選択する。
頑丈な皮膚と丈夫な骨を持つ、持つが……死ぬと魔力が抜けて非常に脆くなる。
加えて肉もとりたてて美味というわけでもないので、ヒトによって狩られることは稀である。
むしろ雑草、それもヒトの食用に向かない種類を好んで食べるため、街道筋や森中の『掃除屋』として歓迎される風潮がある。
それに若干似ているのが『リククジラモドキ』である。
若干というのは、遠くから見ればシルエットが似ていないでもない、という程度である。
こちらの性格は獰猛で、肉食性。
積極的にヒトや魔物を捕食するので、人里近郊で目撃された場合は即座に討伐依頼が発令される。
体表面に魔力を纏わせ、土魔法を行使する強敵である。
『……ですよ、理解しましたか?』
すごく理解した!
この世界の図鑑がガバガバだってのも改めて理解した!
なんだよ遠くから見たら似てないこともないかな~? って!
「腕が鳴りやんすね! ムーク様ァ!」
「ソウネ、ウン」
ボクの横を歩くロロンは、目をキラキラさせて臨戦態勢だ。
……なんか、あの、小刻みにボクを見すぎじゃない?
散歩中にこっちを振り向きまくるワンちゃんっぽい……カワイイネ!
「今から硬くなってちゃもたねえぞ、ムークさんたちよ」
ばん、と肩を叩かれる。
叩いたのはヴィクセンさんだ。
「ま、今回は1匹じゃないっぽいし……用心に越したことはないわよ」
カリーナさんは、少し肩をすくめてるけど普段通り……に見える。
「じゃじゃじゃ、斥候が戻るまではさほど気を張らんでもえがんす」
そして、ダルトンさんは薄く微笑んでいる。
……ボク以外はみんな落ち着いてるね!
「んみゃあ……んみゃあ……」
マントのポッケでスヤスヤしてるアカもね!
油断しすぎないように、ボクも備えるかな。
ヴァーティガさん、今日もよろしくお願いします!
あっすっごい魔力吸われた!
・・☆・・
今日のボクは、『リククジラモドキ』の討伐依頼を受注して街の北方へ向かっている。
メンバーはボク、ロロン、アカ、それにイセコさんにダルトンさんだ。
ピーちゃんは宿でお留守番です、戦闘向きじゃないからね。
街中ならそらんちゅの追っ手も大丈夫だろうし、デルフィネさんたちとゆっくりしていてほしい。
出がけに見たけど、筋肉痛は大分治ったみたい。
アルデアはもしもの時の為に宿に残っている。
ちょっと二日酔いっぽかったけど、大丈夫かな?
で、ヴィクセンさんとカリーナさんは途中で一緒になったんだ。
この討伐依頼は複数推奨依頼……というか、ある一定以上の冒険者ならどんどんウェルカム! みたいなものらしい。
だから、ボクらの他にも冒険者さんが結構いる。
みんな強そうだなあ……色んな武器持ってさ。
さながら戦国時代だ……いや、戦国時代に先端がドリルの槍はないね。
アレどうやって使うん?
「イセコサン、大丈夫カナ」
彼女は斥候組? として動いている。
ギルド直属の依頼なんよね。
『【影衆】の方のお力をお借りしたい! お願いします~!』みたいな感じで、受注した時にギルドの責任者さんに土下座されてたのはビックリした!
やっぱり有能ニンジャむちんちゅは引く手数多……
「接敵したら合流する手筈でやんす! あのお方なら大丈夫でがんしょ!」
ボクを心配して、ロロンが慰めるように顔を覗き込んでくる。
おっと、子分に心配させちゃいけないねえ。
「アリガトネ、ロロン」
「はわわわ」
そのふわふわな髪をちょっと撫でて、ヴァーティガを緩く握る。
きつく握り過ぎてたからね、落ち着いた。
「ポチの坊主、ふてくされてねえといいんだがな」
「あの年頃はねえ、一番前のめりだから仕方ないわよ。突っ込んで死ぬよりマシでしょ」
ヴィクセンさん夫婦はポチくんをお留守番に置いてきた。
この依頼は一定以上の力量を持った冒険者専用なので、駆け出し冒険者は参加を認められることはないんだって。
……ボクも超駆け出しなんですけどってギルドで言ったら『ザヨイ家の魔導紋持ちだから全然OKです。むしろ参加してくださいお願いします~!!』的な感じで受付嬢さんに強烈なハグをされたの。
いや、アレはもうタックルだな、タックル。
イセコさんなんか攻撃と勘違いしてたもん、気が付いたら受付嬢さんの首筋に刃当ててたし。
『曲者!』って台詞、まさか異世界で聞くとは思わんかった虫ですよ。
『(色々と言いたいことがあり過ぎますが、今はやめておきましょう)』
『(しゃーなしだし、しゃーなし。トモちんカレーお代わり)』
『(頑張るのですよ愛しい虫。母は見ていますからね……女神トモ、激辛お代わりです)』
『(まいどありー、です)』
……なんにも聞こえないけど、なーんかくすぐったい。
向こうで内緒話でもしてんのかね~。
あ、そろそろアカを起こしてあげないと。
「むいむい……あさぁ?」
自分で起きて超偉い! エラすぎ妖精!
「……匂うな、近いぜ」
ヴィクセンさんはそう言って斧を構えた。
その後ろで、カリーナさんはクロスボウに矢を装填している。
街の北にある草原を、北に向かって歩くことしばし。
鬱蒼とした森の手前に、ボクらはいる。
「――来た! 合図だ!」
周囲にいる冒険者の誰かがそう叫ぶのと同時くらいに、森の中から上空へ向かって花火みたいな赤い魔法が打ち上がった。
「――伝令!」
おお、森からイセコさんが飛び出して来た!
結構な勢いなのに足音が小さい! ニンジャ!
「『リククジラモドキ』が来るぞ! 数は2! 全て成体! 個別に来るが、侮るな!」
イセコさんはそう言いながらこっちに走って来た。
うそでしょ2体もいるの!?
「オーム! ビザーザ・ビゼーゼ・ラクタ・ログ……!」
素敵な子分は即座に詠唱に入った!
突き出した槍の先端に、土の塊がドリルみたいな形で集まり始める!
ボクも負けてられん!
左腕に魔力充填! むん、むん! むーん!!
「――来るぞォ!!」
森の中から大きなものが動く音がしてくる。
こちらから見える木が倒れて――
「――ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
何本もの木を吹き飛ばし、土をめくりながら――でっかい茶色の塊が飛び出して来た!
クジラ……じゃない! 絶対クジラじゃないアレ!
どっちかというと概念だけ知ってるクジラの祖先に似て……いや今そんなこと考えてる場合じゃない!
「――スヴァーハッ!!」「飛ンデケーッ!!」
ロロンの魔法とほぼ同時に、ボクも棘を放つ!
同じように、周囲の冒険者さんからも魔法や矢や岩の塊が飛んでいく!
……岩の塊?
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
飛び出して来た魔物が吠えると、大地が重力を無視してめくれ上がった! 土魔法だ!
ボクの棘とロロンの魔法は弾かれはしなかったけど、変な方向に貫通しちゃった!
あれじゃあ中にいる敵に当たってない!
『アカ! 上空からミサイル連射して! 無理しないで、避けるの優先で!』
『あいっ! まかして、まかしてぇ!』
アカが光の尾を引きながら、あっという間に上空へ舞い上がる。
舞い上がりながら、全身の発射口からミサイルを斉射!
「ガアアアアアアアアアッ!!」
土バリアはてっぺんには展開されてないので、そこから叩き込まれるアカミサイル!
なんか吠えてるってことは、着弾はしてるんだね!
「近接戦だ! あの妖精ちゃん以外は魔法撃つんじゃねえ! 背中に当たるぞ!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」
魔法や飛び道具が防がれると、冒険者さんたちはすぐに戦法を切り替えた。
まるで合図したように、武器を握って走り出す!
「一番槍もらったァ!」
黒い狼さんが、槍というかドリルを持ってダッシュ。
魔力を流したのか、先端のドリルが高速回転を始めてる! カッコイイ! 浪漫!
「でええええりゃああああっ!!!!」
突進の勢いを乗せ、狼さんが槍を突き込む。
土バリアに刺さったドリルは、破片を撒き散らしながら内部に貫通!
「よっしゃ! 肉に刺さった! 抉るぜ~!!」
「ガアアアアアッ! ギギャアアアアアアッ!!」
おお、なんか効いてる感じの悲鳴が聞こえる!
やっぱり土にはドリルだね! 幸先いいぞ――
「――離れろ! ブレスが来るッ!!」
イセコさんが緊張した声で叫ぶと、ほぼ同時に土バリアが『内側から』弾け飛んだ!
「ッガァア!? ちっくしょ――!」
狼さんが突き刺したのは、どうやら頬のあたりだったみたい。
一瞬だけ突き刺さったドリルが見えたけど、すぐさま茶色い濁流みたいなもので見えなくなった。
超至近距離でブレスを浴びた狼さんは、悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。
何度か地面でバウンドして止まったけど、ピクリともしてない! ああ! 明らかに狙われてる!
モドキの口に魔力が集まり始めてる!
『アカ! ミサイルを頭に叩き込むんだッ! ありったけぶっ放したら逃げるんだよ!』『あいっ!』
アカに念話で指示しつつ、むっくん・ジャンプ!
アカの全身からミサイルが放出されるくらいに、上空でアフターバーナー点火ッ!
カッ飛ぶボク!
「ガアアアッ! ゴガアアアアアアアッ!」
モドキの顔面に突き刺さるミサイルの雨!
狙い通りに、モドキは上空のアカに頭を向けて――地面の土が手裏剣みたいに飛んでった!? ブレスじゃなくって土魔法だアレ!
「にゅ! にゅ! にゅ~!」
アカはなんかカワイイ掛け声を出しつつ、土手裏剣を残像が見えるくらいの速度で回避!
よかった!
「リククジラモドキ――!!」
魔力を注ぎ込んで急加速! ブレる視界でも狙いは外さない!
体をねじって、両足を前に!
風圧を切り裂くパイルに――魔力充填!
側面に衝撃波を放ち、空中でジャイロ回転する、ボク!
「喰ラエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」「――ギャバッ!?!?!?!?」
アカに気を取られていたモドキが、こちらに振り向く。
その眉間に突き刺さる! むっくん・スパイラル卍キーック!!
両足の下から、骨の砕ける感触――まだ、まだあ!!
魔力で若干ヒビの入った足パイル、同時発射ァ!!
「――ギャッ!?!?!?」
射出したパイルが、モドキの顔面に突き刺さって――穿孔! 進化してドリル要素も加わった素敵なパイル!
ボクはパイルを打ち込んだ反動で空中へ離脱しつつ、後方宙返りで姿勢制御。
そのまま、若干地面を削りながら着地に成功した!
この体になってから、アクロバティックに動けてとっても便利!
それと同時くらいに、モドキは顔面から血をドバドバ出して倒れ込んだ。
「ヌゥンッ!」
だが油断はしない! 左腕パイル連続発射!
空気を切り裂いた棘は全て首に突き刺さった……悲鳴も上げてないし、もう動かない。
……やった!
「おやびん! かっこい、かっこい~!」
キャッキャしながら肩に乗ってきたアカをちょっと撫でて、ボクは力を抜いた。
……さあ、次はどこから来るんだ!?




