第40話 市場散策虫。
「む、ムークさん……ご迷惑を、おかけします……」
「イエイエ、オ気ニナサラズ……」
ポチくんたちと無事依頼を達成して、翌日。
お風呂に入ってぐっすり寝て起きたボクが食堂へ降りてくると……プルプル震えるトーラスさんが待っていた。
全身を襲う筋肉痛に大ダメージを受けてるっぽい……
「じ、自分にこれほど体力がないとは思いませんでした……」
ぐったりと椅子に体重を預けるトーラスさんの周囲を、アカが心配そうに飛び回っている。
ちなみにピーちゃんはまだボクの肩で爆睡してる。
とんでもないバランス感覚ですわ。
「イヤア、普通ニ歩クノトハ全然違イマスカラ……」
街中のウォーキングと違って、魔物とか追っ手に気を遣いながらの移動はねえ……
死にかけながらあの激ヤバフォレストを踏破した経験があるから、ボクは平気だけど。
「面目ございません……」
ずうん、と落ち込むトーラスさん。
「げんきだして、だして~?」
その頭を撫でてヒーリングしているアカ。
控えめに言って天使、エンジェル。
「マア、無理シテモイイコトアリマセンヨ。ソレニ……ソノ疲レカラ回復スルト楽ニナリマスヨ」
そんな話を概念で知ってるような気がしないでもない。
「はい……ありがとうございます。いや、情けない……」
うーん、トーラスさんってば落ち込んでる。
これは時間が解決してくれることを祈るしかないでしょうな~?
「トニカクユックリシテ下サイヨ。体ガ資本デスノデ」
「はい……」
この人は戦闘職じゃないからな~。
そんなに気にしなくてもいいのにな~?
「おはようムークさん! アカちゃん!」
おや、宿のお姉さんだ。
いい匂いがする……素敵な朝食の気配だ!
「トーラスさ……大丈夫?」
「お構いなく……」
ぐったりしているトーラスさんにびっくりしながらも、お姉さんはテキパキとテーブルに朝食を並べていく。
フワフワのパン、瑞々しいサラダ、具がたっぷりのスープ!
ごっきげんな朝食だ~!
『そういえば目玉焼きになにをかけるかで論争になる場合があるそうですよ、私は醤油とマヨネーズですかね』
『あーしはソースにマヨも乙だと思うんよ』
いいな~、ソースまだ見つけてないんよね。
食材の方はこの世界もかなり豊富だけど、調味料がねえ……
あ、今日市場で探してみようかしら。
トーラスさん、とても今日出発は無理そうだし。
「ピーちゃ、ごはん、ごーはん~!」
『納豆が食べたいわ……』
肩で寝ていたピーちゃんがむっくり起きた。
ボクも食べたい!
『ピーちゃん、納豆ってこの世界にあるの?』
『さっちゃんとゴーサクちゃんが頑張って再現したのよ! 周りの評判は最悪だったけど、とってもおいしかったわ!』
臭いもんね……でも、あるなら食べたいなあ。
首都で探そうかな。
「おはようござりやんす~!」
あ、ロロンモ外からやって来た。
洗濯ものを干してくれてたんだなあ、助かる!
「体中が痛いのナ……」
「寝ててもいいが、食わんといつまでたってもしんどいのナ。運んでやるから頑張るのナ~」
デルフィネさんを米俵みたいに担いで、アルデアが階段を下りてくる。
面倒見がいいね、彼女。
「ああ、アルデアさんすいません」
「気にするんじゃないのナ。お前に任せていたら階段から2人揃って転がり落ちるのナ」
それはそうなんだけど……歯に衣を着せてよ!
ホラ見なさい! トーラスさんがもっとグデデーンってなったじゃん!
「取り分けいたしますね!」
イセコさんがいつの間にかボクの横に!?
ニンジャ! ニンジャ!!
・・☆・・
「お任せください、この街の地形は頭に入っておりますので」
「アリガタヤ……!」「にゃむむ」
どことなくドヤ顔のイセコさんに手を合わせる。
アカも真似してかーわいい!
「お、おおおおやめ下さい!」
めっちゃワタワタしてる……可愛らしいけども、ワタワタの速度が速過ぎて両手が見えない!
「なんという据わった腰……! 凄まじき練度……!」
ロロンは謎に感動している。
フンスフンスしててこっちもカワイイね!
朝食後、小休止を経てボクたちは街に出ることにした。
デルフィネさんたちの警護? 看護? はアルデアがやってくれるから安心!
そらんちゅの追っ手が来ても、リーバンさん達なら街中で大暴れなんてしないだろうしね。
それに、さすがにそこまでの大暴れがあればすぐに気付けるし。
というわけで、今日はオフの日。
ギルドでお仕事を受ける気はないので、散策とウインドウショッピングを楽しもうと思ってね!
この街って大きいし、見るべきものもいっぱいあるんじゃないかと思うの。
「ではまず、北市場へ向かいましょう。この街で一番大きな市場ですよ」
「ハーイ」「あーい!」『おみかんが食べたいわ!』
「お世話になりやんす~!」
敏腕有能美人ガイドのイセコさんの指示に従い、ボクらはウキウキで歩き出すのだった。
「これはクロモモという果実です。見てくれは悪いですが、干すと甘みが強くてとても美味しいですよ。そのまま食べると少し酸っぱいですが、それがたまらないと言う人もいます」
ほほ~……たしかに見た目は腐ったモモだ。
「こちらはジマウリという果実です。トルゴーン北部でよく栽培されておりまして、水気が多く水筒代わりに持ち歩く旅人も多いです」
ほほほう。
「ねえさん、アンタ随分詳しいねえ? 農家の出かい?」
イセコさんが説明している果実を扱っている店主のおば……おねえさんは苦笑いだ。
北市場は朝ということもあって結構な賑わいで、見ているだけでも楽しい。
むしんちゅ、けもんちゅ、それに鱗人の姿もチラホラある。
いろんな出店? 露店? があって楽しいな~!
「ええ、実家は【ラハーリ】でラパン農家を営んでおります」
「おやまあ、あすこのラパンはこっちでも人気だよ! 身が詰まってて美味しいってさ」
へえ、イセコさんのご実家って農家さんなんだ。
『ラハーリは、トルゴーンの南西……マデラインとの境にある温暖な街ですね。水が豊富で農業が盛んだとか……ちなみにラパンとはパイナップルのような野菜です』
おー! パイナップル! 食べたいな~……野菜って言った?
『はい、見た目はパイナップルですが味はサトイモっぽいようです』
この世界の野菜も果物も滅茶苦茶ややこしいんよ!
でもサトイモか……醤油も存在するし、煮っころがしにしたら美味しいと思う!
「こげな野菜ば、初めて見やんす……」
ロロンがしゃがみこんで見ているのは……トゲトゲのボール?
なにあれ、武器?
「ああ、ソイツは【ガラージュモドキ】さ。野菜じゃなくて果物だよ」
「瑞々しくプルっとした触感が美味しいですよ。冷やしてスープにしても爽やかです」
おねえさんとイセコさんの説明が分かりやすい!
しかしモドキ! またモドキが出た!
でも元のガラージュがわかんない!!
『同じような形をした植物です。ちなみにモドキじゃない方は食べると嘔吐と下痢が止まらなくなります』
ヒィー!?
なーんでモドキの方が食べられるのさ!?
普通、モドキじゃない方が食べられるとかでしょう!?
『発見されたのは先だったのでしょう。むっくんも散々悩んでいるようにこの世界、図鑑的なやーつは基本的にガバガバのガバですので』
がんばって! 生物学者さんや植物学者さんがんばって!!
『ムークさん! これ美味しいわ! 美味しいわよ!』
「あまーい、あまい! これしゅき! しゅき!」
おねえさんの厚意によって試食妖精と化している2人はテンションが高い。
ちょっと前に朝ご飯食べたっていうのに……かわいい!
「2人ガ気ニ入ッタヤツ、全部山デ買イマ――」
「お待ちなっせ! そげに買い込んでは腐ってしまうのす~!」
ボクの散財計画はロロンによって阻止されてしまった。
ぐぐぐ……経済を大量に回そうとしてフードロスを引き起こすところだった……!
「アリガトウ、素敵ナ子分ヨ」「ほわぁ……!」
ロロンを撫でて気持ちを落ち着けよう……落ち着く……!
フワフワな子分に感謝だね!
「じゃじゃじゃ、そしたらコレばどの程度日持ちいたしやんす?」
「ふむ……この乾燥具合でしたら半年は大丈夫でしょう。陶器の壺に入れればより安全です」
もぐもぐ、ぽきぽき。
「随分お安いでがんすが、なんぞ理由でも?」
「こりゃ去年の分だよ。いい雨が降ったからトルゴーンでは豊作でね」
「ああ、ロロンさんは今年にトルゴーンへ入られたのでご存じなかったのですね。いい品質ですし、ここで仕入れてはいかがです?」
ぱきぱき、ごくん。
「しゃりしゃり、おいし! りんご、いちばんしゅき!」
『爽やかで甘いわ~! 素敵な青りんごだわ~!』
ロロンとイセコさんが、なんか……調味料屋? 香辛料屋? で吟味しているのを、ちょっと離れたベンチに座って見ている。
凄く白熱しているね……!
ボクと妖精2人はさっき買った果物を齧りつつ、休憩。
アカとピーちゃんは、青りんご的な何かを、そしてボクは小ぶりのカボチャのように見える硬い果物をもぐもぐ。
ちなみに甘さ控えめの柿的なお味がします。
歯ごたえもいいのでお気に入りです。
「おやびん! それおいし、おいし?」
「ハイアーン、ピーチャンモアーン」
「はむ……おいし! おいし!」『シャキっとした歯応えが素敵よ! 素敵だわ~!』
ふふふ、今日はなんて素敵な一日なんだろうか……ム?
なんか……いい匂いがする……!
この匂いは――
「マサカ、味噌スメル!」
どこじゃ! どこじゃ~!!
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