第32話 お花の街、リーチミ。
「ムーク様、見えてきました……あれが【リーチミ】です」
「オオ~!」
イセコさんが指差す方向に、街が見える。
森に隣接するように建っている街が!
「おやびん、きれぇ! きれぇ~!」
『まあ! とっても綺麗な街だわ! 今までとはまた違うわ~!』
両肩の妖精たちも興奮している。
だって……
「じゃじゃじゃ、なして外壁の周りに花畑ば……?」
ロロンが目を丸くして言うように、その街……リーチミは、外壁に沿って円形に……花畑があるんだ!
赤、青、黄色、それに白!
色とりどりの花たちが、規則正しい模様を作ってる!
すごーい! あんな街見たことない!
フルットを出発して、なんやかやで1週間歩いた。
トーラスさんとデルフィネさんはちょっと辛そうな時もあったけど、弱音一つ吐かないで頑張って歩いてたねえ。
そして今日、ついに次の街に到着したってわーけ!
「イセコサン、アンナニオ花ガアルッテコトハ、アノ街ハ平和ナンデスネエ!」
「あ、その……」
イセコさんは、とっても申し訳なさそうな顔になった。
「あの街の周囲に植えられている花は、全てが魔物の嫌う匂いを出す種類なのです」
「……デスヨネ~」
あんなに森に隣接してるのに、平和なわけがなかったのだ……外壁に近寄らせないような手段なのね、アレ。
『それはそうですよ。ふふ、メルヘン虫!』
トモさんが楽しそうで何よりですよ。
「なんとはあ、そげな目的で!」
「ええ、通常はあの状態ですが……スタンピードの際には火を放ちます。あれらの花はとても燃えやすく、さらに魔物が忌避する匂いが拡散されるのです」
「世界は広いですね……」
トーラスさんが興味深そうに相槌を打っている。
夢も希望もなかった……徹頭徹尾魔物用だった……
「よっと。周囲に敵影はないのナ~」
「ギエピー!?」
だから肩に着地しないで! アルデア!!
妖精たちは……逃げてるからいいけど!
・・☆・・
「私は【影衆】のイセコ。こちらはムーク様だ」
「ハッ! 承っております!」「どうぞお入りを! 英雄殿!!」
……え~、門は魔導紋パスどころか顔パスでございました。
イセコさんがそう言うや否や、門を守ってる衛兵さんは槍を真っ直ぐ立ててフリーパス状態です。
「楽でいいのナ」「流石はムーク様でやんす……!」
もはや慣れたもので、アルデアはすたすたと入場していく。
ロロンはお目目がキラキラでかわいいねえ……精神の安定のために撫でちゃろ。
「はわわ」「んへへぇ、えへへ~」
割り込んだアカも撫でたので無敵ですよ。
「いい宿はあるか?」
「ハッ! 【リタァナ亭】がよろしいかと! 浴場に近く、旅の疲れを癒すには一番です!」
「よさそうだな、すまない」
「いいえ! この程度は何のこともございません!」
門前で宿が決まった!
イセコさんの敏腕さがとどまることを知らない!
「(ムーク様、私は衛兵にそれとなくデルフィネ様の追っ手について伝えておきますので……お先にどうぞ。宿で落ち合いましょう)」
「(アッハイ)」
敏腕! 有能! 美人で強い!
無敵じゃんこの人……無敵ウーマンじゃん……
「宿はこのまま真っ直ぐ行って、広場を右に行ったところにあります! どうぞごゆるりとご滞在を!」
「アッハイ、オジャマシマス」
「あいがと、あいがと~!」『親切な人がいっぱい! きっとここも素敵な街だわ~!』
衛兵さんたちは、姿勢を正したままだったけどアカたちにニッコリ笑って手を振ってくれた。
うーん、ここも絶対いい街!(確信)
「あらまあ! お兄さんとってもいい男だねえ!」
言われた通りに歩くと、目的の【リタァナ亭】はすぐに見つかった。
木造の3階建ての綺麗なお宿!
この街は木像の建物が目立つねえ……木のいい匂いがする!
入り口の前にいたモフモフの蛾っぽい綺麗なお姉さんは、ボクを見るなりダッシュで近付いてきた。
ムムム……どこへ行ってもイケメン虫認定……!
調子に乗らんように気を引き締めよう。
「エヘヘ、アリガトウゴザイマス……泊マリタインデス。エーット、6人ト……」
「こにちわ、こにちわ~!」『こんにちはお姉さん! 私はピーちゃん!』
マントの中から飛び出す妖精たち。
お姉さんは2人を見ながら目を輝かせている。
「まー! かわいい~! 部屋は空いてるから入って入って~!」
ぱたぱたと宿に入っていくお姉さん。
話が早くて助かるなあ……
じゃ、ボクらも――
「ちょっとアンタたち! とんでもなくイイ男のご新規さんだよ!」
「なんですって! お、お化粧大丈夫かしら……!」
「まーたまた、嘘ばっかり~……本当だァ!?!? えっえっ!? 妖精!? 妖精ちゃんもいるじゃない~!?」
宿の中が大騒ぎだ。
そ、そんなにですか……?
「ムークはいい男だから仕方がないのナ~」
アルデアさんや、キミが撫でているのはボクの肩ですよ?
ひょっとしてこの人、ボクを格好いい止まり木だと思ってな~い?
「……トリアエズ、入ロッカ」
ここにいても仕方ないので、みんなで中に入ることにした。
「はいこれ! 浴場の割引札ね! それからウチは朝夜の2食が基本だけど、追加料金を払ってくれたらお昼も作るからね!」
「ハ、ハイ……」
「洗濯場は中庭だから! もしアレならアタシが洗濯したげるから、いつでも言ってね!」
「ハイ……」
「それとこれ! 妖精ちゃんたちにサービスの焼き菓子! いっぱい食べてね~!」
「わはーい!」『お花のいい匂いがするわ~!』
「それじゃ! 何かあったらアタシ! ルルコまでよろしく~!」
バタン、と扉が閉まった。
あ、嵐だ……まるで。
チェックインを済ませて、お部屋まで案内してもらった。
ボクらのお部屋は2階の角部屋で、トーラスさんとデルフィネさんが3階。
2人ともお疲れだったので寝たいだろうし……今日の所は別行動かな。
あ、イセコさんは構わないって言ってたからボクらと同じお部屋です。
「掃除ば行き届いていて、とってもいいお宿なのす!」
「もっとするかと思ったが……1泊40ガルでいいのナ? この部屋は」
ロロンは部屋を見回して、アルデアはさっそくソファに腰かけてご機嫌だ。
「あぐあぐ」『やっぱり中にお花の蜜を練り込んでいるんだわ! ほのかな後味が素敵だわ~!』
妖精たちも、出されたクッキーに大喜び。
いやあ……対人運と宿運はチート級だね、ボクは。
マントを脱いで壁にかけて……アルデアの横に座る。
ふわあ、このソファとってもフカフカ!
「落チ着イタラオ風呂イコッカ」
「んだなっす! あ、そいではワダスは先に洗濯ばしてきやんす~!」
ロロンは張り切ってマントと汚れものの入ったリュックを持った。
「イヤイヤ、着イタバッカダカラ休ンデ……」
「じゃじゃじゃ、今日は魔物もいねがったしお構いなぐ~!」
物凄い勢いで出ていってしまった……働き者すぎる。
「しまった、さっきの人にいい酒場を聞くのを忘れていたのナ……もう起き上がれないから、ひと眠りしたら聞きに行く……のナ~……」
アルデアはマイペースだなあ……もう寝た!?
このそらんちゅ、〇びたくんといい勝負できるんじゃないの……?
ま、いいか。
彼女はずっと飛んで偵察してくれてたんだし……疲れてるだろうしね。
毛布かけたげよっと……
「ヨッコイセ」
バッグから炭酸水魔法具を出して、ついでに果物も~。
ボクも休憩しよっと。
移動中に炭酸水は満タンまで作ったし、後は果物を絞るだけ~っと。
今回はリンゴにしよっかな……ふんぬっ!
「イル人~?」
「あいっ!」『は~い!』
じゃ、妖精用のコップも出さなきゃね~。
……ムム!
「イセコサンモドウゾ~」
「ありがとうございます! いただきます!」
ドアが開かずに、イセコさんがブンッと出てきた!
やっぱりね、いるような気がしたんじゃよ!
ボクも日々成長しとるな~?
『虫は生存しているだけで偉いというのに、日々進歩まで……母は感無量ですよ、ええ』
『機微に関しては一切成長せんバグ虫っすけどね~……あ、嘘噓、むっくんってば生きててえら~い!』
『偉すぎるのでトモさんポイントを付与しますね』
……なんだろう、素直に喜べない!
「ムーク様、衛兵への伝達は完了いたしました。これで不審な空の民が接近した場合は私にすぐ連絡が参ります」
「何カラ何マデ、アリガトウゴザイマス!」
「いっ……いいえ! これしきのこと、何でもありません……ふふ」
イセコさん、結構打ち解けてきたねえ。
笑うと綺麗だなあ……笑わなくても綺麗だけど。
表情豊かな女性むしんちゅがちょいと羨ましいボクです。
『大丈夫ですよ。むっくんは体が五月蠅いので』
大丈夫な要素がありまへんがな!?
それもう悪口じゃな~い?
『むっくん! 大変、大変よ~!? アカちゃんが!』
「ふにゃむ、むにゃ……」
うえ!? どしたのピーちゃ――アカが! アカが光ってるぅ!?
こ、これはまさか……進化か!?
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