第31話 それなりに安全な道、それなりに。
「ジャ、今日モソコソコ頑張リマショウネ」
「はい、よろしくお願いします!」
ボクがそう言うと、トーラスさんは元気よく頷いた。
デルフィネさんも……うん、よく眠れたみたいだね!
フルットを出て、翌日。
お風呂と睡眠で元気になったデルフィネさんたちと出発した。
回復力が凄いな……昨日の件で反省したので、今日はちょっとスピードを緩めて歩こう。
考えてみればボクはいままでずっと歩いて旅してきたんだ。
足腰が丈夫になってても当たり前だよねえ。
「気負いすぎないことナ。バテて倒れる方が大変なのナ~っと!」
アルデアはそう言って、上空へ飛び立った。
「アカもいく~!」『私も! 私も~!』
おっと、妖精たちも行くみたい。
偵察が捗るなあ。
「では、街道の先を偵察して参ります」
そしてイセコさんはブンッ! って消えた。
ニンジャ! 朝からニンジャ!!
「じゃじゃじゃ……見事な隠形なのす~!」
いつの間にかボクの横にいたロロンがピョンピョンしている。朝からカワイイ。
多少勘は鋭くなったボクだけど、あの人の気配は近くにいないと全然わかんない。
さすがはゲニーチロさん直属のニンジャむしんちゅよ……
「ロロン、コノ街道ヲズット行ケバイインダヨネ?」
「んだなっす。『北端街道』ば道なりに行き、中ほどで北上でやんす」
この『北端街道』は、読んで字のごとくトルゴーンの一番北の端にある街道だ。
この国の北西の端にあるのがフルットだから、緩やかにカーブしつつ東へ続いている。
「ア、途中ニ『リーチミ』ッテ街ガアルヨネ? ソコ寄ッテモイイ?」
フルットの冒険者ギルドで地図見たんだよね~。
「はい。元々そこが分岐までの大きい街でやんす、補給と休養ばしねえと」
シャフさんの教会がある街なんだよね。
長いこと滞在はできないだろうけど、像は拝んでおきたいねえ。
これでシャフさんのおフィギュアが作れるぞ!
『なんこの虫ぃ! 朝からあーしの好感度稼ぎよるわ、ふはは』
『あ、朝からコマシ虫……』
脳内の人聞きが悪い、悪すぎ!!
と、ともかく…頑張って歩こう。
当面の目的地はリーチミだ!
そこを過ぎたら分岐だから、まだまだ先は長いねえ。
ま、賑やかでいいけど! 旅は楽しくなくっちゃね!
ウキウキの旅が今日も始まるぞい~!
・・☆・・
「ギャッギャッギャ!」
「ンニャロメ!!」
ボク目掛けて粗末な剣を振り上げたそいつに、ヴァーティガをフルスイング!!
「――ゲベェア!?!?」
剣を砕いて一切減速せず、赤肌のゴブリンの胸にヴァーティガが直撃!
べきべきぼきぼきと嫌な感触を手に残しつつ、ゴブリンは吹き飛ぶ!
「ドラァ!!」「――ギャイン!?」
そして、ゴブリンが跨っていた森狼にむっくん・キック!!
顔面を陥没させて、吹き飛ぶ狼!
「次ハドイツジャァ!? ア、イナイ」
痙攣する狼を見ながら周囲を確認すると……もう生きてる魔物はいない。
ちょうど目の合ったロロンが、ニコニコしながらゴブリンに突き刺さっていた槍を引き抜いた。
カワイイとサツバツが同居している……!
しばらくは平和だったけど、やっぱり魔物は出るもんだ。
イセコさんがブンッと出現したと思ったら『赤ゴブリンの集団がこっちに来る』って知らせてくれたんよね。
今更だけど、狼に乗ったゴブリンって赤ゴブリンって言うんだ……見た目のまんますぎる。
そして出くわした群れを、ボクとロロンとイセコさんでボコボコにしたんだ。
初めて見た時にはビックリしたけど、所詮は狼に乗った気持ち強めのゴブリンでしかない。
衝撃波とヴァーティガブンブン丸で問題なく皆殺しにできました。
んでんで……
「大丈夫デスカ~?」
森の方を向いて、声をかける。
「はいっ! 大丈夫です!」「トーラスが守ってくれたのナ……」
トーラスさんとデルフィネさんは、木に登って抱き合っている。
さっきのゴブリンたちは登れないからね、イセコさんに言われてすぐに避難してもらってたんだ。
そこで思わぬ発見をしたんよね。
トーラスさん……むっちゃくちゃ木登り上手かった。
種族の特性ってやーつなんかねえ? デルフィネさんを背負ってスルスル~! ってさ、鮮やかだったよ。
歩くのとはまた別なんかな、でも……これで咄嗟の敵襲の時は避難場所ができるね。
木なんて山ほどありますしな~?
「ごぶりん、いっぱい、いっぱい!」
偵察隊からアカだけが戻ってきてる。
アルデアには、『ヤバい敵だったらアカ経由で伝えるから』と言ってあるので、大丈夫。
つい最近気付いたんだけどさ、アカとの念話って無茶苦茶離れててもつながるんよね。
なーんでトモさん教えてくんなかったの?
『聞かれていませんでしたので。そこにないならナイデスネー』
100均の店員みたいなこと言い始めた……
「おやびん、これたべゆ? たべゆ~?」
視界の隅でロロンが半泣きで大きく×を作っている。
大丈夫、ボクだって絶対嫌です。
「ワ~、コンナ所カラ焼キ菓子ガ飛ンデ来タゾ~?」
バッグから孤児院お手製クッキーを取り出して、アカのお口に〇イルダーオン!
「きゃははぁ! あむむ……ぱきぱき、おいし、おいし!」
こらアカ、ボクの指まで食べちゃダメ! こしょばい!
さて……今のうちに穴掘って聖水ぶっかけて埋~めよ!
「ムークさんは本当にお強いですね……一体どのように修行されたらそんなに強くなるんですか? ひょっとして、噂に聞く【大角】閣下に訓練などを……?」
ゴブリンを片付けて歩き出すと、しばらくしてトーラスさんが聞いてきた。
「アー……」
強い、強いねえ……うんまあ、そこそこ戦えるようにはなったよねえ。
『むっくんの自己評価がアホみたいに低い……略してアホ虫』
略してない!
っていうかさあ、ボク気付いたんだけど……森時代に散々トモさんが『むっくんは弱者! 圧倒的弱者!』っていっつも言ってたじゃんか~?
たぶん根底にはあの時の気持ちが残ってるんだと思うよ~?
『……ピュッピュピュ~イ♪ ピュイヨピュイヨ♪』
綺麗な口笛ですこと!
ボクは唇も舌もないから羨ましいねえ! んもう!
「実ハボク、小サイ時『帰ラズノ森』ニ捨テラレマシテ……ソレデ、ナントカ生キテキタダケナンデスヨ……大キクナッタカラ旅立ッタンデ、人里ニ出テキタノモ最近デスシ……」
嘘は言っていなぁい。
(サイズが)小さかった頃のことだしね! ね!
「う、噂にしか聞いたことがないけど、あんなとんでもない魔境から……! 凄いのナ!」
デルフィネさんは大層驚いている。
「アハハ、エルフサンニ助ケテ貰ッテ、色々教ワッテナカッタラ死ンデマシタネエ」
ほんとうに、ほんと~に!
おひいさまには頭が上がらない!
「デモ、アカヤロロントモ知リ合エタカライインデスケドネ!」
「んっふふぅ!んふふぅ!」
「はわわ……」
アカとロロンを撫で~る!
「なるほど……それは、強くなったというより強くならないとどうにもならない環境だったのですね……」
お~?
なんかトーラスさんの表情が暗いねえ。
もしかして体力がないとか、戦えてないのを気にしてるとか?
「トーラスサン、『適材適所』ッテ言葉ガアリマスヨ。アナタハ、アナタニデキルコトデ頑張レバイインデスッテ」
この人は木工職人で、独り立ちを許可されたくらいの凄い人なんだから。
だって外国の工房に紹介文まで書いてもらったんでしょ?
腕っぷし虫のボクよりも全然凄いじゃんか~。
「で、ですが……」
「と、トーラスはそれでいいのナ! 私は一生懸命仕事をするトーラスが好きなのナ!」
「で、デルフィネ~!」「トーラス!」
ガシーッ! と抱き着くお2人。
ご馳走様で~す、仲良くていいねえ!
「はわわ……!」
コラー! ハグは良いけど街道でチュッチュしないの!!
ロロンが削岩機くらい揺れてるじゃんか!!
「むぎゅう! あはは、むぎゅ~!」
「ムワワ」
アカが真似して抱き着いてくる……ちょっと前が見えにくいけど可愛いからヨシ!
・・☆・・
「アルデア、オツカレ」
焚火の前で、アルデアにカップを差し出す。
「ン、気が利くのナ」
1日中飛んでいてちょっと疲れた様子の彼女は、それを受け取ってふうふうしている。
中身は花の蜜をお湯に溶かしたもの。
爽やかで疲れが取れそうな甘いお味がポイントだ。
また見かけたら摘んでおこう、あの花。
「昨日よりはマシだったのナ?」
アルデアが見る方向には、テント。
トーラスさんとデルフィネさんのやつだ。
ご飯食べてお風呂に入ったらすぐに寝ちゃった……疲れてるんだろうね。
「ウン、トーラスサンッテ木登リ上手ナンダネ。スルスル~ッテ登ッテサ」
「一応は鱗人だものナ。まあ及第点ナ」
友達が絡んでいるから、アルデアの採点は厳しめ。
「ソッチハ何カアッタ?」
「この大分先まで飛んだが、特にこれといって異変はないのナ。コボルトを何匹か見かけたから、明日接敵するやもしれんナ」
「――地上の敵はお任せを、コボルトごときに遅れは取りません」
ロロンと一緒に美味しい異世界グラタンを作ってくれたイセコさんが、キリッ! と言った。
頼もしみがすごい……!
ボクも頑張らんとね!
「んにゃあ……ふわぁ……」「みゅみゅ……んん……」「チチチ……ピチチ……」
丸まって寝るロロンと、彼女の横で同じように丸くなるアカ。
それから枕に突き刺さって爆睡するピーちゃんを見ながら、そう思うのだった。
……ピーちゃんだけ後で救出せんとな……




