第19話 現場、到着。
「……移送は順調だった」
ぱちり、と焚火が弾けた。
「周囲に魔物やヒトの気配はなく、魔導探知にも反応はなかったんだ――あの時までは」
焚火を見つめながら、ハンゾさんは話している。
「俺達は護送の装甲竜車1台、そして護衛の竜車4台で行軍していた。俺の竜車は一番後ろで、荷台の仲間が後方を警戒していたんだ」
結構な大所帯ねえ。
まあ、地球で言う所の政治犯の護送なんだから当然か。
「――瞬き一つの間だった。ふと気づいた時には……俺達の周囲はあの黒い魔物に囲まれていたんだ」
一瞬だって……? 一体何が起こったんだよ。
フルットを出発して、今は夜。
道中で魔物に襲われることもなく、この休憩所へとたどり着いた。
明日早く出発すれば、昼前には例の襲撃現場に到着するんだって。
「それからはもう、必死だった。何体も魔物を倒したんだが……小規模なスタンピードかと思うような量でな、そのうちに怪我で気を失ってしまい……後は、ムーク殿が知っている通りだ」
商人風の服を鎧に着替えたハンゾさん。
彼……じゃない彼女は、そう言って膝を抱えた。
むーん……わからないってことだけはわかった。
とにかく、見てみないことにはわかんないよねえ……っと。
「ムーク殿、それは?」
「エ? 金網デスガ」
カルコさんが可愛らしく首をかしげている。
いや……だって誰もご飯用意する気配がないもん。
えっと、たしかバッグに切った野菜と地竜の塊肉が入ってたな。
「ポポポイ」
テーブルを出して、材料を並べる。
野菜はこれでいいとして……肉はちょっとデカすぎるね。
カモン、隠形刃腕っと。
「フンフフン」
お肉を切り分けて……ロロンが持たせてくれた香辛料を振りかける。
野菜の方は新鮮だから塩をパラっとでいいね。
「ヨイセ」
あらかじめ作っておいた炭酸水の魔法具に……グレープフルーツ的なモノを絞って入れる。
あとは、人数分のお皿とフォークを準備。
ボクの分はお箸で~。
「ヨシ、ジャア適当ニ焼キマスノデオ好キニドウゾ~。炭酸水ガ苦手ナラオ茶モアリマスカラ」
……ム。
何故お2人ともそんなにキョトンとしていらっしゃる?
「手際がとてもよろしいですね、ムーク殿。脱帽でありまする」
「随分と手慣れているようだな、驚いた」
ええ~? そんなに?
ロロンに比べたら天と地の差だけど?
「旅ガ長カッタモノデ……オ2人ハ?」
2人は揃って顔を逸らした。
「ぶ、部下がやってくれますので……」
「兵站の担当は俺ではない……」
ああ、そういうこともあるよねえ。
今は多様性の時代だからねえ、男だの女だのは関係ないか……
「マ、食ベテ寝マショウ。明日モ早インデスカラ……オットト、パンヲ忘レテタ」
街で買ったクソデカフランスパンをスラーイス!
火から遠い所に置いておく……っと。
「ああ、そう言えば衛兵隊からの物資を失念しておりました。申し訳ありません、ムーク殿」
「イイデスヨ、ソレハ朝ゴ飯ニシマショ~」
これくらいの食料じゃ、ボクのバッグはビクともしませんので。
餓死への恐怖が凄いからね……保存食も山ほどあるぞい!
木像を取り出して並べ、手を合わせる。
今日のママはハンマースタイルSDです。
フルットの教会に影響されました!
「ナムナム」
「女神メイヴェル様か……随分可愛らしい造形だが、他で見かけたことはないな」
ハンゾさんが興味深そうにのぞき込んできた。
「自作デス。暇ナ時ニ作ッテマス」
「ほう……多趣味だな、ムーク殿」
趣味がないと人生は楽しくないと思うもん。
そんなことを言ってる間に、お肉に火が入ったようだ。
ボクとアカならレアでモグモグできるけど、この人たちに何かあったら大変なので薄切りにしといてよかった。
「『腹ガ減ッテハ戦ガデキヌ』ッテイウ諺ガアリマシテネ。サ、冷メナイウチニ食ベマショ」
率先してボクが一口……ンマイ! 順当にンマイ!
焼けた野菜もホクホクしていていいね……異世界でもジャガイモは最強だ!
「美味いな、こういう飯もよいものだ」
「おいしゅうござりまする。暖かい食事はいいですね」
2人とも気に入ってくれたようだ。
ご飯はおいしく食べないとね~?
「水場ガ無イノダケハ難点ダナ……!」
美味しくご飯を食べ、片付けも済ませた。
残念ながら、誠に残念ながら川が近くにないので……五右衛門風呂は我慢虫です。
「ギャルルル……」「ムワッワワ」
寝そべっていた走竜ちゃん……名前はイーダちゃんが、ベロンベロン舐めてきた。
キミも今日一日ご苦労様だねえ。
「何故カバッグニ入ッテイタ草ヲアゲヨウ」
気が付いたら摘んでるのよね、草。
そんな草を差し出すと、イーダちゃんは喜んで食べてくれた。
『むっくんは飢餓にトラウマがありますからね……』
芋虫時代の記憶が鮮烈すぎてね……ひもじいのは二度と御免ですわよ。
「ギャウ、ギャウ」
イーダちゃん、なんで草を咥えてボクに体当たりすんの?
……食べろってことぉ?
「大丈夫、イッパイ食ベタカラ……オゴゴゴゴ」
そんなに口に押し付けないでよ……わかったよ、わかりましたって。
モグモグ……青臭い! 懐かしの青臭さ!!
美味しくはない! 決して!!
「ギュルルルル……」
それで満足したのか、イーダちゃんは残りの草をバリバリ食べた。
く、口直しに果物をば……アカと一緒に買ったリンゴが……よかった、10個くらいある。
『買いすぎですよ』
いいじゃん役に立ったんだから……シャクシャク。
ああ、リンゴはいつ食べても美味しい。
でも、おひいさまに貰ったリンゴが今までで一番美味しいんだよねえ……思い出補正ってやーつなのかな。
「ギュルル」
「ハイハイ」
ちょーだい! と言わんばかりに口を開けたイーダちゃんにリンゴを放り込む。
むしろ在庫処分になるからどんどん食べて欲しい。
荷台にこの子の食料はいくらでもあるけどね、甘いものは別腹でしょ。
さて、真っ暗になってきたから寝る準備しよっかな。
風呂用の布を取り出して地面に敷き、別の布を丸めて枕。
そして毛布……これで完璧だ!
「ムーク殿、寝床の準備が……もしや、ここで眠るおつもりですか?」
カルコさんが目を丸くしている。
その後ろにはハンゾさんもいる。
……荷台で寝ろってこと? ノウ!
「ボク、地面ノ上ガ一番安眠デキルンデスヨ。森育チナノデ」
「いえ、しかしわたくし共が荷台で眠るわけには……」
「そうだ、俺達は気にしない。行軍中にそんなのは慣れっこだ」
荷台狭いもん……ボクが加わるとミッチミチになるもん……
ロロンやアルデアならともかく、この人たちとパズル状態で眠るのは気にするし……
「ボクハココガイインデス~……ネエ、イーダチャン。ボクモ一緒ニ寝テイイヨネ~?」
「ギャウ! ギュルルル……」
イーダちゃんはボクに首をぶつけてくる。
いや違うな、これ猫が頭押し付けてくる感じのやーつだ。
どうやら許可が出たらしい。
「ネ? 大丈夫デスカラ気ニシナイデクダサイ」
そう言うと、2人は渋々ながらボクの寝場所を認めてくれた。
気にしなくていいのにい。
「星ガ綺麗ダナア……」
仰向けに寝転がって空を見る。
光化学スモッグとかがまだ存在しないこの世界は、怖いくらい星がよく見える。
概念としてぼんやり知っている地球の夜空とは全然星の配置が違うねえ、当たり前だけど。
北極星的なのってあるんかな~? あ、あそこの星綺麗だなあ。
ピカピカしててとっても目立つなあ……おお! 流れ星!
寿命! 寿命! じゅみょ……間に合わんかったか……
『むっくんの寿命は残り4年と3ヶ月ですね』
前よりちょっと増えてる! やった!!
・・☆・・
「これは……想像以上でありまする……」
「まるで戦場だ、クソ……!」
ぐっすり寝て、翌日。
竜車に揺られて移動し、昼前かな~……くらいの時間に、襲撃場所に到着した。
――そこは、ハンゾさんの言うように戦場だった。
森に囲まれた街道筋のそこは、ちょっとした広い空間になっている。
普段ならなんて事のない場所だけど、今は違う。
壊れた竜車、そこかしこに散らばる黒い魔物の死体。
そして……明らかに死んでいる走竜と、鎧を着た人たち。
「生き残りがいるかもしれん!」
「ハンゾ殿! 軽挙妄動は危険でありまする!」
ハンゾさんがまず竜車から飛び降り、ナギナタみたいな武器を持って走り出した。
それを、カルコさんが追う。
自分が所属していた家のことだもんね……心配だろうなあ。
「ムーク殿! 走竜の金具を外してくださいませ! 何かあった時にすぐ逃げられるように!」
「ハイ!」
荷台付きだと小回りきかないもんね……ええと、ここをこうして……よし、外れた!
「オトナシクシテテネ」
「ギャルル!」
はーい! みたいに吠えたイーダちゃんを置き、ボクもヴァーティガを握って走り出した。
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