第18話 出張虫。
「実を言いますと、今回ムーク殿をここへ呼んでいただきましたのは……事情を聞くだけの目的ではないのでございまする」
爆弾を落としたカルコさんは、続けて口を開く。
「ムーク殿も知っている通り、サジョンジ家の内部は大規模な刷新がございました。それによって、放逐されたもの、断罪されたもの、そして……今回のように、幽閉されるものも出たのでございまする」
内情! 大家の内情!
そんなんペラペラと話していいんですか!?
横にコハルコさんがいるんですよ!?……むっちゃピーちゃん撫でとる!
ニッコニコだ! 妖精好きさんだ!
『中にいろんなジャムが入ってて美味しいわ! とっても美味しいわ! あ! ムークさんもどうぞ、どうぞ~!』
「ヴェッヘン!?」
クッキーを捻じ込むのはやめろくださ美味しい!
まだあるんならアカやロロンにお土産として持って帰りたいネ!
「ふふふ……よろしいですか? 続けても」
「ムグモ、ア、ハイ」
しょうがねえなこいつ……とか思われていたらどうしようか。
「サジョンジ前当主、デツーグ様は病にて急逝なされました。その後、ルカオコ様を新当主として再出発をしたサジョンジですが……前当主の母君、細君、そして娘は数多くの不祥事が発覚したために……【都払い】という刑罰に処されることになったのでありまする」
病気……あっ(察し)
ゲニーチロさんが色々やったんだろうね……ボクは空気が読めて命が惜しい虫なので、ノーコメンツ!
「【都払い】とは、首都より出され……トルゴーン辺境の寺院に死ぬまで幽閉される刑罰にございまする。前当主の血族というだけで、担ぎ出そうとする輩がおりますもので……」
日本の戦国時代みたい、ほんとに。
この国も色々大変なんでござるな、ニンニン。
『ニンジャかサムライか、どちらかにしなさい』
ぎゃふん。
「それで……母君と細君はトルゴーン北部の【コンゴール】娘は南部の【ハウリュ】という寺院に移送されることになったのですが……」
「今回、ソノ竜車ガ魔物ニ襲ワレタ……ト?」
こくりと頷くカルコさん。
「娘の方はわたくしと部下が見届け、こちらは首都から近いのでトリハに任せていたのですが……その通りでございまする」
あっ! カルコさんの南に行く用事ってこういうことか!
なるほどなあ……こんなに近いのに、大変だねえ。
「そこで、ムーク殿にお願いしたいことがあるのでござりまする」
……まさか。
「……捜索、デスカ?」
「その通りでござりまする。わたくしとともに、襲撃場所に赴いていただきたいのでありまする」
……ナンデ?
ボクこの国の要職とかじゃないよ?
と、思っていると。
コハルコさんが参加してきた。
「……先だってのラーガリ騒動、そしてこの顛末……外部には一切説明されていません。よって、衛兵隊を大々的に動かすことが出来ぬのです。冒険者への依頼もまた、同様に」
……ああ、わかっちゃったぞボク。
「ボクハ顛末ヲ知ッテルカラ、ッテコトデスネ?」
2人は揃って頷いた。
あ~、そうくるか~。
むむむ~……
「……コチラノ用事ガアリマスノデ、半月程度ナラオ付キ合イデキアマスヨ」
デルフィネさんの駆け落ちお手伝いっていう仕事があるしね。
それに……この件も無関係じゃない。
だってさ、あの人たちは北からこの国を抜けるって言ってたもんね。
周辺に激ヤバ魔物とかがいたら困るもん。
「そうですか! それはありがとうございまする!」
カルコさんはパッと顔を明るくして、手を握ってきた。
「トリハの兵は壊滅状態で、首都に応援を頼むのも難儀しておりましたので、助かりまする! 勿論、ちゃんと報酬はお支払いいたしますので!」
そこの件はぶっちゃけどうでもいいけど……お仕事するならお給料は必要ですね。
「表立って支援はできませんが、補給等は我々にお任せを」
ザララ~っとクッキーを追加するコハルコさん。
あの、まだ残って……ない!
ピーちゃんがソフトボールみたいになってる!!
『バターの味が優しいわ! いくらでも食べられるわ!』
「ふふふ、それはなにより……聞くところによればもう1人妖精をお連れだとか。そちらへもお土産がありますので」
頼むまでもなかった……
・・☆・・
「ト、イウワケ。……オイシイ?」
「はぐもも……おいし、おいし!!」『別腹よ! 甘いものは別腹だわ~!!』
山盛りになったクッキーの前で、妖精2人のテンションがストップ高だ。
卸の業者くらいもらっちゃった……
「行く先々で面倒ごとに巻き込まれる男なのナ……これは、カマラさんが言っていたように放っておくと大英雄になるやもしれんのナ……」
二日酔いっぽいアルデアが苦笑い。
ちがわい! そんなんじゃないやい!!
「じゃじゃじゃ、参加できねえのは心苦しいでやんすが……気張りやんせ! ムーク様!!」
そしてロロンはお目目をキラキラしている。
平常運航!
衛兵隊の本部から、ボクは帰って来た。
仕事を受けることにしたので、準備とかあるしね。
今回の仕事は、ボクだけで行く。
これは、カルコさんからの指示だ。
『ロロンさんやアルデアさん、それに妖精は目立ちまする』
という、もっともな理由で。
そこを行くとボクは一応むしんちゅ。
それなりに知られてはいるけど、冒険者の仕事中なのね~って思ってもらえるだろう。
それに、アルデアとロロンにはそれでなくとも街にいて欲しい。
デルフィネさんの恋人が早めに来るかもしれないしね。
今回の調査がどれくらいかかるかはわからないけど……その方がいい。
「おやびん、さみし、さみし?」
「サミシイ! ナノデ今撫デ貯メシテイクゾ~!」
アカとピーちゃんを撫でる! 撫で~る!
「きゃーはは! あはは、あははは!」
『すべすべよ、すべすべだわ~!』
……正直、このために帰ってきたと言っても過言ではないのだ
ボクの準備ができ次第、すぐに街を出る。
なので、モタモタはしていられないのだ……でも撫でる!!
「……フゥ、行ッテキマス」
行くか……お仕事へ。
「いてら! いてら~!」
アカの声を背に、ボクは席を立った。
「気張りやんせ~!」
ロロンもだった。
親分は頑張るよ~……撫でてこ!!
「じゃじゃじゃぁ!?」
訴えないでください!!
・・☆・・
「その節は、世話になった」
「エェ……?」
衛兵隊の本部へとんぼ返りし、カルコさんと合流してそこから門へ。
その門前には……商人さんが使うような竜車が待っていた。
見覚えはないけど、声は聞き覚えのある人が御者席にいる。
「ダ、大丈夫ナンデスカ?」
「問題ない、既に全快した」
御者席に座っているのは……虫人の、女性。
光沢のある緑色の髪の、キリっとした人だった。
これは、カマキリさんじゃないね……たぶん、タマムシ的な人だ。
光の当たり具合によってきらっと光って素敵!
「問題大ありでありまする……参加させねば首を斬って自害するとまで言われたのでありまする……」
ボクの横で、カルコさんが深いため息をついた。
ああ、頑固なタイプの方なんですね……
「とにかく出発しよう、この格好は苦手だ」
その人は、商人風の服を着ていた。
さすがに兵隊さんの服は無理よね、超目立つもん。
ボクとカルコさんは顔を見合わせ、荷台の方へ回っ――
「ギュルルルル……」
「ムワワワワ」
走竜ちゃんにべろんべろん舐められた! 青臭い! 元気になってよかったねえ! 青臭い!!
「申し遅れた、俺はトリハ家のハンゾという」
ガタガタと揺れる車内で、そう言われた。
男の人風の名前だね、てっきり女性はみんなコで終わる名前なのかと思ってた。
「タダノ、ムークデス。旅人兼冒険者シテマス」
「謙遜を、ただの旅人がザヨイ家の魔導紋なぞ持っているものか……家中の者ではないのか?」
説明が大変に面倒臭いです、ハイ。
「ムーク殿はラーガリでの災禍の際、【大角】閣下の部下を瀕死になりつつも守り抜いた武人でありまする。その功によって、閣下より魔導紋を賜りました」
合っているようなそうじゃないような……だけど訂正するのもアレですね、ハイ。
『大人になりましたね、実年齢は赤ちゃんですけど』
バブーとでも言えばいいのか。
『まあ! 今のは大変に可愛らしかったですね! ささ、もう一度母の前で……』
……ごめんママ、今はチョット……申し訳ありません。
「ほう、それは……凄まじい。大した修羅場をくぐったものだ」
「修行中ノ身ナノデ……タイシタコトハシテイマセン」
マジで仕事してないからね。
まあ、あの場では一生懸命働いたけど。
「ソレデ、コレカラドウスルンデスカ」
「このまま、魔物の襲撃があった場所まで行きまする。ここから1日といった所かと」
結構な距離があるな……そんな所からここまで逃げて来たんだ、すごいなハンゾさん。
「まだ生き残りがおるやもしれん。敵も、味方も……!」
ぎし、とハンゾさんが奥歯を噛んだ。




