第13話 たまには自炊虫。
「たろいま、たろいまあ!」
「オッカエリ~。楽シカッタ?」
「アルデア、はやい! かっこい、かっこい!」
シャフさんとお話ししつつ、木像をサリサリして……そろそろお昼っぽいから準備してたらアカが帰ってきた。
どうやら遊んでもらったようだ。
『丁度よかった。アカ、ここに火つけて~』
「あーい!」
旅をしながら切り倒しまくった木材を組んで、竈にしてある。
そこに、アカが火炎魔法を放つと……一瞬で火が付いた。
いや~、ライターいらず!
サバイバルにおいてかなりのアドバンテージだねえ。
一家に1人は妖精が欲しいところ虫。
「おやびん、なにつくゆ、なにぃ?」
「焼肉~」
燃え始めた焚火の上に、足つきの金網を置く。
ふふふ、ロロンの足元にも及ばぬ我が料理スキルではあるが……!
今のボクのバッグには、調味料も材料も、あーる!
少なくともクソデカ森林よりはまともなモノが作れるはずですわ!
「わはーい! アカ、やきにくしゅき~!」
アカが謎ダンスからの頬ずり!
焼肉嫌いな人なんか見たことない虫です。
ドワーフさんたちは、あの穴の中で食事をするためにお弁当を持参している。
なので、ボクたちはボクたちで適当にすればいいのだ!
バッグから折り畳みテーブルを出し、その上に材料をポポポイ。
お肉はこの前仕留めた地竜がまだ残ってるし、昨日市場で買った豚肉みたいなのがあるから十分だろう。
後はお野菜……このカボチャみたいなのとマルモにしよう!
「おてつだい、しゅる、しゅる~!」
なんだこのいい子は。
ええっと、それなら……
「モウチョット待ッテネ」「あい~」
まずは展開した隠形刃腕で……マルモを適当に切る! カボチャも適当に切る!
地竜も一口大に切って……金串を取り出す。
焼肉というか串焼きにしちゃおうっと。
おおっと、材料に塩コショウを振って……と。
『じゃあねアカ、こうやって……お肉とお野菜を交互に刺していって』
「あい~!」
テーブルに着地して、アカが一生懸命哉串に材料を刺していく
あ~、なんじゃこのかわいくて真面目でかわいい子は!
『かわいい2回言ってんじゃん、ウケる』
いいでしょ何回言っても!
ボクも一緒にやろっかね~……
「ホホーウ、ムークはマメな男だナ。里の男どもなど料理はロクにせんのにナ」
ふぁさ、とアルデアが降りて来た。
そうなんだ? なんか意外。
「ヘー、リーバンサンモ?」
「【狩り司】とその周辺は別だナ。一度狩りに出れば全て自分たちでこなす必要があるのナ」
あ、そりゃあそうか……
「んしょ、んしょ……できた、できたぁ!」
「アラ~、上手! 明日カラ串焼キ屋サンニナレルネ~?」
「んへへぇ、えへぇ」
撫でる撫でーる!
「ンフフ、仲がいいのナ。どれ、私もやるのナ~」
おや意外。
アルデアってこういうの苦手だとばかり。
「……私とて女の端くれなのナ! 馬鹿にするんじゃないのナ!」
「ゴメンナサイ」
料理中だからかアルデアキックは飛んでこなかった……命拾いした!
「デキタヨ~、熱イカラ気ヲ付ケテネ~」
金網の上でじゅうじゅうよく焼けた串焼きを、皿に移す。
金串だから超熱い……ので、木を削って作った菜箸で分解してお皿に……っと。
……あれ!? これじゃ交互に刺した意味は……ま、まあいいや、味は一緒だし。
「相変わらず妙な所で器用な男なのナ……その『ハシ』、よくもまあそんな難しそうなもので……」
体というか魂に沁みついているので!
アルデアとアカには木のフォークを準備しております!
さて……超適当な盛り付け、終わり!
炭酸水に果物は絞っておいたし、後は木像!
おひいさまとSDヴェルママを置いて……
「ナムナム」「にゃむむ」
いつもありがとうございます、これからも頑張ります~!
「もう慣れたのナ……『蒼穹の神よ、美味なる糧に感謝を』」
アルデアは自分の神様に祈って……いただきます!
「ウマウマ」
「あふ、はふ……んま、んま~!」
素朴だけど、とっても美味しい!
地竜の味もいいけど、塩コショウはやはり偉大だね~!
「ンムム……美味いナ! 酒が欲しくなるが我慢ナ~」
アルデアは我慢ができて偉い!
まあ、護衛依頼の最中に飲み出したらロックすぎるけど。
「おやびん、おいし、おいし!」
「アカト、アルデアガ手伝ッテクレタカラネ~。トッテモ美味シイネ~?」
「お前はいい夫になる可能性が微細ながらあるのナ……ももも」
微細ってなんですか!?
褒めてくれたんだろうけどさ! なーんか引っかかる! 引っかかる!
「まだ待つのナ? むぐむぐ」
「夕方ッテ言ッテタシネ~……モモモ」
「おいし、おいし~」
お肉、カボチャ、そしてマルモ!
交互に食べるとやっぱり美味しいねえ!
「そうか……まあ仕方ないのナ。2000ガルのためナ」
お給金高いからねえ。
今までもっと高給のお仕事してたからアレだけど、生きてくだけならむっちゃお高いですのよ。
「おやびん、もうない、ない~?」
そんなことを言っていると木皿の中身が残り少なくなってきた。
まさか、こんなもんじゃないですよ!
「ンフフ……ポポイポイ!」
バッグから取り出される追加のお野菜! お肉!
そして……美味しいタレ!!
中身はお酒とかニンニクとか色々混ぜたモノ! 詳しくはわからない! ロロンが作ったので!
「ザクザクザク~」
唸れ隠形刃腕! お野菜とお肉をこう、丁度いいサイズに切るのだ!
それを金網にジャンジャン置いて焼く! まさに焼肉!
「ホイホイホイ」
空いた所にスライスしたかったい獣人パンも置く!
ご飯がないからね、しょうがないねえ。
「ヤケタラ好キニドウゾ。オット……タレヲ忘レテタ」
じゅうじゅう音がし始めたお肉たちに上からポタポタ……うーん! 焦げる匂いがして素敵!
「いーにおい! んふふ~!」
「こういう豪快な料理も素敵なのナ~!」
「オカワリモアルケド、護衛ノオ仕事アルカラ腹八分目ニシトイテネ~……」
焼肉奉行虫……参る!
・・☆・・
「火ハ消エテ~、灰ニ水カケテ~……ット」
ロロン式確認法、完了!
あの子がやるとかわいいけど、ボクがやってもただの現状確認だ。
「ふにゃむ……」「ウナ~……」
ベンチの上では、アルデアが寝ている。
アカもその……母性の谷間で爆睡中だ。
腹八分目……ではあるんだろうね、お腹そんなにポンポコになってないし。
毛布かけたげよ。
『ふう……焼肉はおいしかったですか、むっくん』
あ、お帰りトモさん。
出前系のお仕事終わったんだね、おつかれ~。
『圧巻でした。1升のコメを使ったオムライスをもぐもぐしながら死んだ目で仕事をするメイヴェル様は』
そりゃあそうだろうねえ……あれ? そういえばシャフさんは?
『もうお帰りに……なっていませんね。ソファで爆睡しています……あああ、もう色々丸出しです、信者の皆様が見たら卒倒ものですね……毛布、毛布……』
慈愛の女神のイメージがジェンガくらい崩壊している今日この頃。
まあ……元気で大変結構だとは思いますよ、ボクはね。
『作り置きしていたカレーが消えています……一般女神10人分はあったのですが……』
一般女神がどれくらい食べるかわかんないなあ。
『仕方ありませんね、こんなこともあろうかとグラタンを……ありませんね……確かに好きに食べてもいいとは言ったのですが……あああ……』
トモさんがショックを受けていてとっても可哀そう。
あと、シャフさんどんだけ食べたんですか。
『こうなったら大盛ペペロンチーノでも作りましょう! 幸い私は信者も部下も持たぬ女神……! ニンニク臭くなってもまるで問題はないのですから!』
ペペロンチーノか~……そういえばラーメンは見つけたけどパスタは見つかんないね。
こっちでも探してみようか。
トモさん、ゆっくりししててね。
ボクは木像の続きを彫りつつ皆を待つので。
『はい、警戒も続けますのでご心配なく……うーむ、やはりニンニクの焦げる匂いは最高ですね……!』
行動が早いなあ。
ボクは食後の追い炭酸水でも楽しみますか~!
『ふわぁ……むっちゃいい匂いすんじゃん! あーしの分もある~?』
『なん……ですって……』
戦慄してるけど、よく考えたら女神様に満腹って概念はあるんだろうか。
まあとにかく、向こうも平和で素敵ですねえ。
ミカンっぽい果物を絞った炭酸水をゴクゴクしつつ、遠く離れた神界に思いをはせるボクであった。




