第6話 嬉しい副産物。
「ロローン、大丈夫~!?」
かなり遠くまで転がっていったロロンを追いかける。
アカとピーちゃんも一緒に着いてきた。
もう周辺に気配はないし……油断はしていないけど、大丈夫そう。
「はわぁあ……目が回りやんす……修行ば、足らながんすぅ……」
丸まり状態を解除したロロンは、地面に座ってフラフラしている。
よかった、大丈夫そうだ。
「大丈夫~?」
「ムーク様、ワダスはだいじょう……はひゃああ!? それはこちらの台詞でやんすゥ!?」
ボクを見てぱっと顔を明るくしたと思ったら、一瞬で真っ青になってダッシュしてくるロロン。
「おやびん! おてて、おてて~!」『溶けたチーズみたいになってるわ! なってるわ~!』
妖精たち、慌ててるのはボクを心配してるのか。
おてて……おててェ!?
「溶ケトルゥ!?!?」
ボクの素敵な右手が! ドロリッチ!!
おにょれイワバミぃ!!
・・☆・・
べりべり……と音がする。
「アノー、ロロン。ボクモウ治ッタンダケド……オ手伝イ……」
「ならねえのす! お座りくださっしゃい!!」
「ハァイ」
イワバミの成れの果てから、背中? の装甲を引っぺがしているロロンがむっちゃ叫んだ。
おおん……おやびんもお仕事したい……
溶けた右手は、大事な寿命パワーですっかり元通り。
なんだけど……子分的には動いちゃ駄目らしい。
「それに、慣れてねえとコレば剥ぐのは難しがんす……! 力ばいらねえので、ご懸念なぐ……っと」
むうう……ロロンってばいい子だけどこうなると頑固だからねえ。
「だめ、だーめぇ!」『休める時には休まなきゃだめよ! だめなのよ~!』
今現在、ボクの両肩でエキサイトしている妖精たちも頑固だった……
トモさんトモさん、新手はいる?
『今の所は安全ですね。群れを1つ潰したのでしょう』
そっか……ならまあ、いいかな。
「今更ダケドサ、小サイ連中ノ甲殻ハイラナイノ~?」
「よっと……! んだなっす、これくらいデカいのでねえと、へにゃへにゃで使い物にならながんす~!」
たしかに、小さいのは甲殻も柔らかかったなあ。
「オ肉ハ?」
「じゃじゃじゃ……一応、食えなくはねえらしいでやんす。ただこの臭いは消えねえどころか火を入れると強くなりやんす……お食べに?」
「イリマセン、トテモイリマセン」
強くなるってなんなのさ……今でも無茶苦茶シンナーみたいな激臭なのに。
ロロンは丈夫そうな革の手袋をして作業をしている。
体液が危ないもんね……とりあえず、水分補給できるようにお茶のポットを準備しておこう。
「んく……んく……ぷはあ!」
作業を終えたロロンが、お茶を勢いよく飲み干した。
「オツカレ~」
イワバミ(大)の甲殻は重ねられてより分けられ、いくつかの山になっている。
背中側のやつしか売り物にならないんだって。
詳しい子分がいてよかったあ。
残った部分と小さい連中の死体は、一か所に纏めてアカの魔法で焼いてもらいました。
埋めるにはここの地面はちょっと硬すぎるからね。
さっきロロンが言ったように、焼くと激臭が一段巻パワーアップしたけど。
風下で燃やさなきゃ死ぬところだったよ……
「あぐあぐ」『素敵な歯ごたえだわ~!』
妖精たちは、街を出る途中で買った限りなく岩に酷似した焼き菓子に夢中。
獣人さんが屋台を出してたから、懐かしくなって買っちゃったんだよねえ。
ボクも齧ってるけど、ラーガリを思い出す硬さだね……美味しいけど。
「頭の甲殻が一番高いんでやんすが、他の部分もいい値で売れまっす。これで路銀が増えやんした~!」
「イイコイイコ、トッテモイイコ」
どんどん財産が増えていく……これはどこかで経済を回す必要がある、ありすぎる。
ゴゴロンさんは鍛冶屋やってるから、報告ついでに買い物の一つでもしていこうかな。
現状、ボクは何の武器も防具もいらないけども。
ヴィラールさんの工房で便利な魔法具、探しとけばよかったな~。
「モウチョット休憩シタラ行コウカ」
「んだなっす!」
作業を終えても元気いっぱいなロロンは、お代わりをグイっと飲み干すのだった。
・・☆・・
特に何があるわけでもなく、帰り道は平和だった。
お昼をちょっと回ったかな~? くらいの時間に、ボクらは無事に帰還することができた。
ギルドで教わった通りに街を歩いて……やってきましたゴゴロンさんのお店。
【鉄と槌】という超シンプルな名前のそこは、職人のお店が立ち並ぶ一角にあった。
ご本人は『小さい店』なんて言ってたけど……一般的な大きさだった。
「おー、早かったなあ」
ちょうど何かを運んでいた様子のゴゴロンさんがこっちに気付き、手を上げながら歩いてきた。
「入ってくれ、茶でも飲みながら話そう」
「アッハイ」
さっさと店に入っていくゴゴロンさんを追う。
おお~……武器がいっぱいある! このお店は武器専門なんだ。
「いい鋼の匂いがしやんす~……」
ロロンは鼻がいいなあ。
鋼の匂いは分からないけど、店内に並んでいる武器はキラキラしていてとっても強そうに見える。
片手斧、両手斧、両手斧、片手斧……斧しかなくないこの店!?
サイズは色々あるけど、斧しかなくない!?
斧専門店……さ、さすが異世界だ……
「こにちわ、こにちわ~!」『こんにちわ! こんにちわ~!』
「あれまあ、めんこいお客さんだこと!」
案内されて入ったお店の奥。
そこは生活空間になっていて……ゴゴロンさんと、奥さんがいた。
挨拶をしている妖精たちに目を細めている。
見た目はとっても優しそうなおばあさんだ……若干筋肉が凄いけど。
ラーガリのクソ強老人村を思い出すなあ……
「ま、座んな。それで……依頼品はどうだい?」
「アッハイ」
椅子に座り、背負っていた背嚢に手を入れて……中に隠したバッグからラドル石の塊を取り出す。
「コレデスネ。アト4ツノ塊ガアリマス……ドコニ置キマショウ?」
「おお、こいつはいい純度だ! まだ4つもあるって? がはは、いいねえ……おっと、これの上に置きな」
ゴゴロンさんは、床にゴザを広げた。
そこに、同じように塊を置いていく。
「うーん、ちゃんと気を遣って掘り出してんな。さすがはエラム砂漠のアルマードだ」
「えへへ……」
ロロンが褒められて嬉しそう。
「前に頼んだ冒険者は乱暴でよお、半分くらいが粉になってたんだよ。そのくせ全額寄越せなんて言いやがるからなぁ、ぶん殴って追い出したぜ、がはは!」
……ロロンがいてくれてよかった、とってもよかった。
「お疲れでしょ? お茶を淹れるから待っててな」
奥さんがパタパタと台所に入っていく。
いくつくらいなんだろ……元気だなあ。
あれだけ筋肉あれば元気か。
「……ム」
嬉しそうにラドル石を検分していたゴゴロンさんが、顔をしかめた。
あれ、なんか砕けてた?
「この臭いは……イワバミが出たのか? 見た感じ怪我はしてねえようだが……」
えっ、凄く鼻がいい!?
ボクは全然気づかなかったのに、さすがはドワーフさんだ。
「問題ねえのす! ムーク様が……ああ、ムーク様、アレをば!」
ドヤ顔をしているロロンに言われて、バッグをゴソゴソ。
紐で縛ってまとめておいた甲殻を、ラドル石の隣に置いた。
「ムーク様が大活躍なすって、上位種ば討ち取ったのす!」
違うでしょ! ロロンも頑張ったでしょ!
最後むっちゃ格好よく首をスパーン! したでしょ!!
もう! キミはちょっとボクが好きすぎる! ありがとう!!
「おお~……! こいつはまさしく!」
甲殻をひったくり、目を皿のようにして確認しているゴゴロンさん。
「……アンタら、どうやら一端以上の冒険者らしいな。イワバミの長とやりあって無傷なんてよお」
……腕は溶けました、ドロリッチしました。
でも説明するとややこしいので、黙っておく。
「普通のイワバミは大したことねえが、こと長となるとな……おいムークさんよ、得物はなんだい?」
「ア、コレデス」
背中に吊っていたヴァーティガを、マントの中から出す。
身長が伸びたから問題なく収納できるんだよね、進化最高!
ちなみに革の紐で固定してます、ロロンのお手製!
「こ、いつは……!!」
なんかむっちゃ驚愕してる雰囲気。
ドワーフさん的に、何か気になるんだろうか。
「……いけねえ、我を忘れかけちまった。先に仕事の話をしようや」
その時、奥さんがいい匂いのするお盆を持って帰って来た。
「お待たせ、虫人のにいさん。妖精ちゃんたちは苦手なモノとかあるかい?」
「ナイデス、美味シイモノハナンデモ大好物デス」
とりあえず、お茶にしよっか。
ジャスミン茶みたいないい匂いがする~!
「特製の焼き菓子だよ。さ、遠慮なくおあがり!」
「わはーい!」『いい匂いだわ! いい匂いだわ~!』
妖精たちは、比喩じゃなくて躍り上がって喜んだ。
「先に渡しとくぜ、まずはラドル石の代金だ。状態も申し分ねえからな、5つ合わせて5000ガルだ」
テーブルの上に、どんと革袋が置かれる。
そんなに高いのこの石!? そりゃあ、ロロンが一生懸命トンカンするわけだよ……
「それで……イワバミの甲殻な、どれくらいある? あれもあるだけ買い取りてえ」
「コレモ、武器ノ材料デスカ?」
あるだけって……めっちゃ多いんですけど。
「うんにゃ、娘婿が防具の職人やっててよ。そっちの工房に売ってやろうって思ってな」
へえ~……確かに魔法を反射するくらいだから、いい防具になるんだろうねえ。
「おいし、おいし!」
クッキーに夢中なアカを見ながら、新しい甲殻をバッグから取り出した。




