第2話 お風呂、お食事、そらんちゅウーマン。
「とりあえずは風呂ナ、風呂。その後で宿に行くのナ」
街に入ると、アルデアが先に立って歩き出した。
あ、そういえば駆け落ちがどうこうって言ってたねえ。
「ココ、来タコトアルノ?」
「ないのナ。でも落ち合う宿の名前は知っているから心配ないのナ」
なるほろ。
じゃ、まずはお風呂だねえ。
「じゃじゃじゃ、ドワーフの方々が多いのす~……」「おひげ、おひげ~」
ロロンと、その肩に乗ったアカが言うように……この街はドワーフさんが多い。
むしんちゅもいるけど、それと同じくらいの比率で歩いている。
男の人はみんなムキムキで、豊かなお鬚だねえ。
……あ! 女性もいる!
「ムキムキダ……」
ドワーフは、大体150㎝くらいの身長だ。
今まさに目の前を歩いている方には……髭がない!
かわりに、豊かな髪を綺麗に三つ編みにしている……身長は男性と同じくらいだけど、女性は顔で年齢がある程度わかるねえ。
顔は普通に人間要素が多い感じだけど……男性みたいにムキムキですなあ……荷物むっちゃ持ってるけど、涼しい顔で歩いてる。
「ワダスもあれくらいゴツくなりてえのす……」
ど、どうかな~ロロン。
先に身長が伸びた方がいいんでないかなあ?
『むっくんは筋肉フェチではない、と……』
いや違うよトモさん!
ロロンの種族って大きくなるじゃん? だからそうなる前にムキムキになったらバランスが悪くなるんじゃないかなって……
『お風呂よ! お風呂に行くわ~!』
ああピーちゃん、肩でそんなに羽ばたいても流石にボクは動かな……動いとる!?
凄いなこの子!?
・・☆・・
『鉄分が豊富そうな温泉だわ! これはこれでとっても素敵だわ~……!』
「ウンウン……極楽……」
視界は茶色いお湯で満たされている。
ちょっと鉄っぽい匂いがするけど、これはこれで……
ボクらは『アダマンの湯』という、硬そうな浴場を選んだ。
なんというか……トルゴーンらしくキッチリした外観なんだけど、中身はこう……金属! 金属! 岩!
って感じの豪快な内装。
これ絶対ドワーフさんの手が入ってるでしょ……嫌いじゃないけどね。
ドワーフさんの国にも行ってみたいなあ……
「おうおう、妖精連れたあ珍しいねえ」
ざぶぶ、とお湯が動く。
ボクの横に、ドワーフの……髭が真っ白だから推定お爺さんのドワーフが入って来た。
なんで推定かというと、体中がムキムキで傷だらけだから!
あんなムキムキしたご老人はさすがにいない……わけないな、ラーガリのクソ強老人村あったし。
「コンニチハ」『こんにちわドワーフさん! 私はピーちゃん!』
仰向けに浮かんだピーちゃんが元気に挨拶。
今更だけどアカは女湯ね。
「随分気さくな妖精だなあ。儂はゴゴロンってんだ、よろしくな」
硬そうなお名前ですこと……
「ムークデス、ドウモ。イイデスネエ、ココノオ湯ハ」
「お、虫人にしちゃあ話の分かるにいさんじゃねえか。【爆ぜる稲妻】たあ大仰な名前だが、立派な体も負けちゃいねえな!」
……トモさん?
『ドワーフの古語でしょうね。一瞬で考えた偽名ですが、色々な所の古語に似た響きがあるのでしょう』
偽名の方がどんどん格好よく盛られている……!
むっくんもかわいくって好きなんだけどね。
「にいちゃんたち、どっから来たんだい?」
「ラーガリカラデス」『大冒険だったわ!』
思えばそうだよねえ。
国を縦断したんだからさ。
その前に激ヤバ森林脱出したから……その時点で四国を半分踏破したくらいの距離だけども。
「はぁ~……遠路はるばる、ってヤツか。若いってのはいいねえ……儂も若い頃は諸国を回ったもんだ……」
「ゴゴロンサンハ、【ガリル】出身デスカ?」
たしか、そんな名前だったよねドワーフの国。
「おおよ、国元じゃあ兄弟姉妹が多くってな。一生下働きは御免だからよ、腕を磨きつつここに落ち着いて……ちいせえが工房をやってるんだぜ?」
『一国一城の主ね! 素敵だわ、素敵だわ~!』
ピーちゃんの飼い主さんも、一からお店を作ったから……なんかこう、シンパシーを感じてるのかもね。
「がっはっは、いいこと言うじゃねえかピーちゃんよお! 妖精に褒められたなんざ、一生の思い出になるぜ、がっはっは!」
「チュチュピヨ」
ゴゴロンさんが爆笑した反動でピーちゃんが沈んだ!
サルベージ、サルベージ! 桶の中に救助!
「おおっと、すまねえすまねえ」
『洗濯機みたいで楽しかったわ~!』
ピーちゃんは喜んでいるのでまあ、いいか。
「アノ、モシヨカッタラ……オイシイオ店トカ是非教エテクダサイ」
「おうともさ、儂はこの街でに50年住んでるからな! いくらでもあるぜ~?」
地元の人たちとの交流……ふふーん! これぞ旅の醍醐味ってやーつ!
「遅いのナ。茹で虫になっているかと思ったのナ~?」
『おかいり、おかいり~!』
「お帰りなさいでやんす!」
温泉を堪能して、だいたいのお風呂屋さんにあるくつろぎスペースに移動。
どうやらボクたちが最後だったみたい。
「髪も生えていないのに長風呂だナ。まあ……甲殻を磨いていればそれくらいにはなるナ」
いや、まあ……湯船を楽しんでいる時間の方が長いけども。
ボクの装甲、磨くとキラキラになるのでとっても気に入ってるんだよね。
「おうおう、たまげたぜ。ムークさんよ、アンタも隅に置けねえな……綺麗所ばっかりじゃねえかよ!」
一緒に出てきたゴゴロンさんが、バンバン肩を叩いてくる。
肩に寝そべったピーちゃんは、その振動をものともせずに爆睡している。
大物インコさんだ。
「じゃじゃじゃぁ……わだ、ワダスはまだちんちくりんの若造でやすゥ……」
「ホホーウ、見る目のある御仁だナ。よく言われるのナ」
ロロンは真っ赤になって、アルデアは大きく胸をそらせてドヤ顔をした。
性格が出てるねえ……
「ムーク、連絡が来たのナ。少し遅れているそうなので先に何か食べるのナ」
あ、そうなの。
連絡ねえ……あの全自動矢文的なやーつで届いたのかな。
「ア、ジャアイイ所ガアルヨ。コチラノ……ゴゴロンサンガ教エテクレタンダ」
「おうよ、嬢ちゃんたちも大満足すること請け合いだぜ!」
地元民コミュニケーションが早速役に立ったねえ!
・・☆・・
「おいし、おいし!」『初めて食べたわ! ちょうどいい塩加減で美味しいわ~!』
アカとピーちゃんが、肉塊に舌鼓を打っている。
2人だけじゃなくって、ボクもだけどね!
「ビジュアルニ反シテ、繊細ナ味デオイシイ!」
ゴゴロンさんにすすめられた『黄金の戦斧』という、どう考えても武器屋さんみたいな名前の食堂。
そこで出されたのは……茶色い、固く焼いた粘土だった。
これどうすんの……って思ってたら、店員さんが小さなハンマーでそれを砕いた。
すると、その中には……香ばしく焼かれたお肉の塊がでーんと鎮座していたんだ。
なんかテレビで似たようなのを見た気がしなくもない!
んでんで、お味は最高。
たぶん竜系のお肉は、中までしっかり火が通っていて……外がパリッと! 中はジューシー!
外側の粘土っぽいものは……恐らく塩と香辛料のペーストか何かだろうね!
「肉もいいが、このセリノも新鮮で最高なのナ! いい畑で育ったのだろうナ!」
アルデアが絶賛しているのは、異世界クソデカセロリみたいなの。
お肉と一緒に大皿で提供されたそれには、ちょっと酸味のあるドレッシングがかかっている。
歯ごたえもいいし、鮮烈な香りがしてとっても美味しい! さわやか!
肉と交互に食べると、無限にいけちゃいそう!
ここを教えてくれたゴゴロンさんには大感謝だね!
誘ったんだけど、『今日は女房が飯作ってくれてるから』と断られちゃった。
夫婦仲もよくていいねえ!
『女神なので特に必要ではありませんが、たまには野菜も食べましょう』
『トモちん……麺にたどり着かないんだけど……』
『天地返しですムロシャフト様、こうグイっとひっくり返すのです』
『むむむ……ジャンキーな味だけどあーし結構好きかも……ぞぞぞぞ』
女神様たちもなんか食べてるし、平和だなあ。
「酒が欲しくなるナ……しかし今はやめておくのナ……」
そっか、友達との約束があるんだもんね。
「ネエ、アルデア。ソノ……例ノ話ナンダケド」
「宿で合流したら話すのナ、今は食うのナ」
そっか、それなら食事を楽しもう。
「むぐ……この後味は【シロクサ】に【ベッカ】でやんしょうか……【ギョウジャグサ】はわかりやすいでやんすが……」
ロロンはなんか研究というか、分析しながら食べてる。
まさか再現に挑むつもりなんだろうか……どうしよ、むっくんパーティの食事事情がさらに向上しちゃう。
……特に困らないな?
「アカ、オ野菜アーン」
「あーん! んみゅぐ……ぱきぱき、おいし、おいし!」
なんでも好き嫌いなく食べれて偉いねえ~?
・・☆・・
そんな素敵な食事を終え、暗くなり始めた頃。
アルデアの言っていた宿にたどり着いた。
「ホホーウ、なかなかの宿ナ~」
きっちりとした寸法で建てられた、レンガ造りのお宿。
長い煙突から煙が上がっている二階建ての家だ。
ええ、名前は……『コマガァ亭』か。
なんとも耳慣れない名前だ。
○○の○○亭っていう感じのラーガリとは違って、異国情緒を感じるねえ。
「アルデア!」
宿に入ろうとしていると、後ろから声をかけられた。
振り向くと……そこには、大きなゴーグルをかけたそらんちゅの女性が立っている。
アルデアよりもちょっと背が低くて……なんか、むっちゃ顔隠してる!
「元気そうナ、デルフィネ」
アルデアは、そう言って軽く手を上げた。
……あれ、なんか聞き覚えがあるような……?




