第136話 素敵な会食、経済を回せないボク!
「なんと! ピーちゃんはすげえお人だったんでやすねえ!」
『そんなことないわ! ちょっと長く生きてるだけだわ~!』
ヤタコさんの声に、ピーちゃんが飛び上がって抗議している。
ここは、ヨーサクさんのお店。
時刻は夕ご飯にぴったりのあたり、たぶんね。
今日は予定がバッチリ合ったので、ヤタコさんを加えて食事に来たってわーけ。
セーヴァさんもいるので、結構な大所帯だ。
「ムークは酷い奴なのナ、こんなに美味い店に私を置いて先に行くとは……」
ギョーザをモリモリ頬張りながら、アルデアがぼやいている。
「ダッテ前ノ時、飲ミニ行ッテイナカッタジャン……」
ボクに言われても困る虫です。
「私までありがとうございます、ムークさん。この街で長いこと暮らしていますが、この部屋で食べるのは初めてですよ」
セーヴァさんが嬉しそう。
そう、今いるのは……ピーちゃんルーム(ボク命名)なのだ。
なんかするっと通されたけど、やっぱり特別なお部屋なのね、ここ。
「ボクジャナクッテ、ピーチャンノオ陰デスヨ」
素晴らしきはインコさんの御威光ってやーつです。
「ムークのダンナは欲がないねえ! それにしても……カマラさんはもう旅立ちなすったんでやすか、ご挨拶もできねえとは……」
一瞬、緊張する。
そんなボクを知ってか知らずか、セーヴァさんが微笑んだ。
「おばさんは旅が好きだから、しょうがありませんよ。今度は西へ行ったみたいです、ふふふ」
……そういうことに、なっている。
カマラさんは1人で旅に出て……頃合いを見て、病で亡くなったことにするようだ。
例の『禁忌指定魔物』の件でだ。
……月の民さんたちがそうするなら、ボクには何も言えない。
せめて、バレないように気を付けよう。
「アカ、オイシイ?」
「おいし、おいし!」
アカもそこら辺の事情は理解しているようで、今も普段通りの態度でラーメンを啜っている。
ボクお手製のちっちゃいお箸の使い方、上手になったねえ。
ちなみにお味は豚骨もといオーク骨です。
とってもおいしい!
「ゾルゾルゾル……」
悲しいけどお腹は空く、そして悲しくてもラーメンは美味しい。
人生とはままならないものだと思う、ボクなのだった。
『ウケる。ラーメン啜りながら人生考えてるし~!』
いいでしょシャフさん!
「ずしゅる……むえっほ!?」
無理して啜らなくていいからロロン!
キミも変に努力家だねえ!?
・・☆・・
「ダンナたちは、これからどうなさるおつもりで?」
食事が一段落ついたころ、ヤタコさんが聞いてきた。
「コノ街デノ用事ガ終ワッタラ、北ノ『フルット』経由デ首都マデ行キマスヨ」
……そうだ、すっかり忘れてた。
「アルデアハ、ソレカラドウスルノ? 里ニ帰ルノ?」
彼女の当初の目的地はそこだったよね。
「……絶対に帰らないのナ。今帰ればまた見合いを組まれるのナ……! 母者のことだから、絶対にそうするのナ……!!」
食べ過ぎてぽんぽこになったお腹が苦しそうなアルデアは、それでもきっぱりと答えた。
お見合い……そういえばそうだったね。
アレも酷い目にあったなあ……
「なので、飽きるまでムークについていくのナ……嫌と言ってもついていくのナ……」
「ギギギギ……嫌ダナンテ言ッテナイジャン……!!」
なんでマントを締め上げるんですか!
そんなことしなくても断らないからァ!
「いっしょ、いっしょ!」『嬉しいわ! 嬉しいわ~!』
「ンフフ、くすぐったいのナ」
妖精2人はアルデアの肩で楽しそう踊っている。
旅の仲間は多い方が楽しいもんね、とっても。
アルデアはいい人だから余計にね!
「セーヴァサン、アカノ授業ハドウデス?」
「順調ですよ。本当にアカちゃんは飲み込みがいいので……普通の職人なら1年で会得するものをすでに学んでいます」
な、なんてかしこい子分なのかしら~!?
撫でちゃろ! 撫でちゃろ!!
「スゴイネエ、スゴイネエ!」
「んふふぅ、んふぅ! あはは!」
お腹ぽんぽこなアカは、膝の上で嬉しそうに笑っている。
あ~……無限のかわいさなんじゃよ~!!
「授業アリガトウゾザイマス。本当ニ……」
「いいえ、前にも言いましたが暇なもので。お気になさらず……可愛らしい生徒ができて私も嬉しいです」
なんていい人なんだろうか、セーヴァさんは。
カマラさんの件で恩義を感じてくれてるんだろうけど……悪いなあ。
とりあえず、ここの払いはボクが持とう、そうしよう。
『そもそも、受け取ってもらえますかね?』
……うぐぐ。
そういえばそうだった。
この前も払おうとしたんだけど、ヨーサクさんに『ピーちゃんにとても得難いお話を聞かせてもらいましたので……』って言われてタダになったんだった。
きょ、今日こそは受け取ってもらえますように……!
「ムークのダンナは行く先々で慕われておりやすねえ! さっすが英雄様の人徳でさあ!」
「んだなっす! ムーク様は不世出の英傑でやんす~!」
ちょっと! ヤタコさんとロロン!
やめてくださいボクの評価をブチ上げるのは!!
「英雄……英雄ナ……ムーン……それにしてはちょっと、いやかなりボケボケなのだナ?」
「英雄ジャナイノデ!」
アルデアさんや、撫でているそこはボクの肩ですが?
そこに顔はついていませんが?
「皆様、お食事は如何でしたか?」
あ! ヨーサクさんだ!
今日こそは……!
「オ金ハボクガ払イマス!!」
マジックバッグを取り出し、雄々しく立ち上がるボク!
「ははは、ルフトねえさんも代金をいただかなかったのに私がいただくわけには参りませんよ」
ミャーッ!? ここでもか!!
「オ金ヲ! オ金ヲ払ワセテクダサイ~!!」
ボクの悲壮な叫びは、ヨーサクさんの柔和な雰囲気で受け流されてしまうのだった。
経済を……経済を回したいのに! 回したいのに!!
・・☆・・
「ああ、丁度良かった。今伺おうと思っていたところだったのですよ」
無力感と満腹感を抱え、お店から出て歩いていると……ラーフルさんがこちらへ歩いてきた。
あ、ヤタコさんとはお店の前で別れました。
明日にはこの街を去るそうなので、朝にでも見送りに行こう。
シュテンちゃんにも会いたいし。
「ラーフルさん、どうしたんですか?」
セーヴァさんが聞くと、彼は背嚢から何かを取り出した。
「いやね、ムークさんに渡すものがあってね……どうぞ」
そう言ってボクに渡してきたのは、細長い木箱。
なんじゃろこれ、筆箱みたいに見えるけど……あっ。
蓋を開けると……中身は彫刻刀だった。
前にお店で使ったのと同じように、刃の種類ごとに複数入っている。
「エト……コレハ……?」
「ララップに聞きましたが、報酬の一切をお断りなさったようで。ですのでそれは、冒険者に対する依頼料のようなものです」
だって依頼受けてないもん! 善意の第三者的な立場だもん!
あの時食べさせてもらったお昼ご飯で十分なんだよもう……!!
「オ、オ金ヲ……」
「受け取るわけにはまいりませんな、『我々』は頑固ですので」
おおん……なんていい人で、そして頑固なのだ月の民。
仕方あるまい……現金が駄目ならば、これでどうだ!!
「……デハ、コレヲ。習作デスケド、ヨロシケレバ」
バッグから取り出したのは……シャンドラーパ様の木像!
ふっふっふ……こんなこともあろうかと、コツコツ作っておいたのだ。
あの夜に至近距離で見たからね! 細部はさすがに無理だけど、お顔とかはよくできたと思うの!
「おお……なんと素晴らしい! これは……本当によろしいので?」
ラーフルさんは本当に嬉しそうだ。
その証拠に、目がちょっと潤んでいる。
「ハイ、是非受ケ取ッテクダサイ。彫刻刀ト、今マデノオ礼デスヨ」
「……そういうことでしたら、いただきます。ありがとうございます、ムークさん」
いやー、こっちこそありがとうなんですけども?
そう言いかけたけど、ラーフルさんの喜びようを見て水を差すのをやめました。
『むっくんが空気を……!』『読んだし!?』
なんですか女神様方、この世の終わりみたいな声出して!
そんなにおかしいことですか! ボクだって日々成長するんですからね!!
『素晴らしい虫です……母はとても誇らしいですよ』
ママの優しさが沁みるんじゃ……
成長と言えば、アカももっと成長してママと話せるようになればいいのにねえ。
絶対に気に入ると思う、だってアカはとってもいい子なのだから。
『嗚呼、一日千秋とはこのことですね……愛しき小さい虫よ……』
そういえばアカも虫扱いなんだった。
ま、出発点はニセムシだからいいでしょ。
「ボケボケのムーク、ぼうっとしすぎなのナ」
「アヒャイ」
アルデアに後頭部をペシンされてしまった。
いかんいかん、女神様たちとの会話はとっても楽しいけど現実世界? を忘れてたみたい。
頻繁に起こるから気を付けないとな……
「それでは、私はこれで失礼いたします。本当によいものをいただいて……」
木像を大事そうに抱え、深々と頭を下げてラーフルさんは帰っていく。
やっぱり、月の民にとってシャンドラーパ様は特別なんだろうな……
セーヴァさん用にももう1つ作ってるんだよね、絶対にお金は受け取ってくれないだろうから……頑張って彫ろう、そうしよう!




