第133話 いのちだいじ!
「いい!? 冒険者ってのはねえ! そんなにホイホイなれるほど甘いもんじゃないのッ!!」
「はい……」「あい……」
「父さんを覚えてるでしょう!? あんなに強かった父さんだって、ちょっと油断したら死んじゃうんだから!」
「うう……」「えう……」
「あんたたちは子供なの! まだまだ体もできあがってないの! 知ってるでしょう!? 獣人が冒険者になれるのは14になってから! あと6年もあるんだから!」
「はい……ごめんなさい」「ごめんなさぁい……」
ララップさんのお家。
木の匂いが素敵なそこで……ボクとロロン、そしてピーちゃんは、お説教されている姉弟を見ている。
2人とも床に正座してプルプル震えてるけど……まあ、しょうがないよねえ、こればっかりは。
あと、獣人さんって冒険者になるのに年齢制限あるんだねえ。
ま、当たり前か~。
「危険ダモンネ、ショウガナイネ」
「んだなっす。ムーク様は鎧袖一触でやんしたが、ヒュージ・スライムは侮れねえ魔物なのす……子供ぐれえ、一息に溶かしまっす」
ずず、とお茶を飲むロロン。
あ、これはララップさんが出してくれました。
ハーブみたいな匂いがして美味しい!!
姉弟を助けて、ラーフルさんに連絡して……衛兵にも話は伝わった。
衛兵さんたち、みんなよかったよかったって大喜びしてたなあ……いい人たち。
なお、下水道の入口の鍵当番だった人はララップさんに半泣きでエンドレス土下座して、その後ボクに抱き着いてありがとうありがとうって言ってました。
そりゃあね、閉め忘れたせいで子供が死ぬところだったんだもん……入った子供たちも悪いけどもね。
んでんで、問題は解決したからご飯でも食べに行くかな~なんて言ってたら、ララップさんがおうちに招待してくれたってワケ。
それで……今に至る。
『あ、そう言えばピーちゃん。この街にも中華料理屋さんあるんだってさ。ゴーサクさんのミライ飯店のお弟子さんだってさ』
『まーっ! 素敵!』
肩に乗って姉弟を心配そうに見ていたピーちゃんは、急にテンションを上げて揺れ始めた。
おお、液体インコ。
『麻婆豆腐食べたいなあ、今晩にでもみんなで行こうか』
『そうね! そうね! 私は油淋鶏が食べたいわ! 食べたいわ~!』
あ、ボクもボクも~!
中華料理を広めたゴーサクさん、将来は何らかの神様になってもおかしくないと思うの。
ラーメン神とかチャーハン神とか、ギョーザ神でもいい。
「ムークさん! この子たちに言ってやってくれませんか!?」
うおい!? 何がですララップさん!?
「冒険者は危険な仕事だって! 貴方はとっても立派で強そうですけれど……危険な目にも遭ってきたんですよね?」
あ、あ~……そゆこと。
たしかに、あの子たちには格好よく魔物を倒した話しかしてなかったもんね。
まあ、言ってたのはボクじゃなくてロロンなんですけど。
「ドッコイショイ~」
椅子から立ち上がって、床に正座している姉弟の方へ歩いていく。
そして、腰を落として視線を合わせた。
「ウントネ……ボク、今マデニ滅茶苦茶大怪我シテルヨ?」
「ど、どんな……?」
ミップちゃんが聞いてきた。
帰り道で話を聞いた感じ、このお姉ちゃんが引っ張ってたみたいだもんね。
お姉さんの許可も出たし、ちょっと釘を刺しておこうかな。
「数エキレナイケド……例エバ、コボルトノ長ニハ魔法デオ腹ニ穴アケラレタシ」
「ひう」
「ベネノ・グリュプスニハ右腕ヲ千切ラレタシ、トライ・ペントニハ腕ヲ半分溶カサレタシ、オオムシクドリニハ左腕ヲ吹キ飛バサレタシ……」
「ひうう」
「チョット前ハ魔法デ足ヲ持ッテイカレタシ、毒モ盛ラレタシ……アア、黒曜ゴーレムト戦ッタ時ハ体中ニ破片ガザックザク突キ刺サッタネェ……」
「……!」
ふむん、こうして考えると……常人なら何回か死んでますな、ボク。
この場では言わないけど、クソ人間の自爆に巻き込まれてダルマにもなったしねえ。
「ほ、ほほほほら見なさい! こ、ここここんなに強そうなムークさんだって、大変な思いをしてるんだからね!」
どうやらボクの損傷遍歴具合が想像を超えていたらしく、ララップさんまで震えている。
耳がピクピクしてる……!
「マア、ボクハ運ヨク回復デキタケド……危険ナンダヨ、冒険者ハ」
「ふぁい……」
ショックを受けた様子のミップちゃんを撫でる。
「デモネ、ボクニハ魔法モ特技モアルシ……ソレニ、トッテモ頼モシイ素敵ナ子分モイル」
「じゃじゃじゃぁ!?」
ロロンは褒められるのにそろそろ慣れて?
ボクのことは褒めまくるのにさあ?
「ダカラネ、ミップチャンモ本当ニ冒険者ニナリタインナラ……必死デ鍛エナキャ、駄目ナンダヨ。大怪我シタラ大変ナンダカラ」
ボクは遺憾ながら寿命ブッパで欠損が回復するけど、普通の人ならポーションとか魔法とかに頼らないと駄目なんだから。
「ソレニ、キミハマダ子供ダ。マダ戦エル体ジャナインダカラネ? 今回ノコトデワカッタデショ?」
『むっくんは子供どころか乳児だけどね、ウケる! あひひ!』
茶々を入れないでくださぁい! あひひってどんな笑い声なんじゃよシャフさん!!
「うん……わかった……」
内心の葛藤をよそに、ミップちゃんはわかってくれたみたい。
よーし、お説教終わり!
こんなん柄じゃないからね、ボク!
「イイコイイコ、トッテモイイコ~」
「わぷぷ」「あはは!」
姉弟を撫でて、立ち上がる。
うん、子供は笑顔が一番!
これ以上のしつけはララップさんにお任せしよう!
「ア、ソレニ冒険者ニナレテモ、始メハ街中ノ依頼ヲヤッタライイト思ウヨ。ソレデチョットズツ慣レルンダ、ソレガイイ」
たぶん、街中の依頼ってそういう目的もあるんだろうと思う。
「おじちゃんも、はじめはそうしたの?」
おおう、痛いところを突くねえミップちゃん。
「ボクハ……森ニネ、捨テラレテテ。ダカラズット戦ッテハイタンダケド、冒険者ニナッタノハ最近」
こう言うしかないねえ。
我ながらハードモード。
「え~!?」
「ダカラ、ミップチャンハトッテモ幸セナンダヨ? 立派ナ家ガアルシ、家族モイルンダカラネエ」
驚いたミップちゃんを撫で、ロップくんも撫でる。
それだけで幸せってことなんだからさ。
実感が湧かないのもわかるけどねえ。
『あら! 今はアカちゃんも私も家族だわ~!』
ピーちゃんがボクの頬を高速で突く。
キツツキかな? 穴が空きそう!
『ロロンちゃんもね!』
「じゃじゃじゃぁ!?」
ああ! ロロンが丸まっちゃった!?
久しぶりに見たねえ!
・・☆・・
「タダイマ~」
「おかいり! おかいり~!」
ララップさんのお家で美味しい昼ご飯を食べて、ミップちゃんたちに冒険の話をしたりなんかして……帰ってきた。
今日は疲れただろうからね、後は家族でゆっくりしていただきたい。
……ひょっとしたらお説教の第二ラウンドが始まるかもしれないけど……甘んじて受けていただきたい。
強く生きて、未来の冒険者ちゃん。
たぶん弟くんはそうはならないと思うけども。
ボクの彫った木像見て目をキラキラさせてたし……将来はララップさんと同じ木工工房で働くのかな?
ともかく、帰ってきた。
アカの授業は終わっていたみたいで、ドアを開けるなり頬に突撃してきた。
奥のテーブルでは、セーヴァさんがお茶を飲んでいる。
あらら、とんでもない量のクッキーですこと!
「ドウデシタカ、アカハ」
「とても飲み込みのいい生徒です。あと何回か教えれば形になりますよ」
ほほー! それはすごい!
って……
「何回モ授業シテクレルンデスカ? 悪イデスネ……」
セーヴァさんを拘束しまくっちゃうなあ。
「いいえ、私も楽しいですし。それに宿も閉めていますので暇なんです」
ううーん……いい人すぎるなあ。
「おやびん、アカがんばった、がんばったぁ」
ぐりぐりと頬に頭を擦り付けるアカ。
こーれーは! いけない!!
「ガンバッタネ~! イイコイイコネ~! 世界一ノ子分ネ~???」
「きゃーはは! あははは~!」
発火するくらい撫でちゃろ!
か~ら~の~?
「ゴ褒美ニ晩御飯ハ美味シイモノ食ベヨウ! 辛イノヲ!」
「わはーい! おやびん、だいしゅき!」
ウヒヒヒ! これくらい軽いもんですよ!
『甘々虫……』
仕方ないじゃん! 可愛くて立派だから仕方ないじゃん!!
「まあ、本当に仲がいいですね」
それを見て、セーヴァさんはふわりと微笑むのだった。
そりゃあね! 最高の親分子分ですからね!!
「ワダスも、アカちゃんに負けてられねえのす~!」
ロロン、そんなにピョンピョンしなくてもいいってば!
キミも立派で素敵な子分ですよ~!
「おやびん、なにしゅる? なにしゅる~?」
うーん……今日はホント色々あったし……
「晩御飯ノ前ニオ風呂入リタイナア。今日ネ、オヤビン達チョット下水ニ入ッタカラ」
臭くはないけど、気分的にね!
「あら、どうされました?」
「じゃじゃじゃ、実は……」
ロロンが説明すると、セーヴァさんはすぐさまお風呂を沸かすと言ってくれたのだった。
悪いな~……




