第130話 ゆったりとしたい虫。
「それでは、アカちゃんをお預かりしますね」
セーヴァさんに頭をしっかり下げる。
「ヨロシクオネガイシマス。アカ、頑張ッテネ」
「あいっ! がんばゆ、がんばゆ~」
フンス、とガッツポーズをするアカ。
頼もしいカワイイ我が子分よ……
「ふふ、これは良い生徒さんですね……私も頑張ります」
セーヴァさんはそう言って、アカを引きつれて部屋に消えていく。
……大丈夫かな~?
「まるで子離れでいない親ナ」
アルデアはボクの後ろで溜息をついた。
おやびん! ボクはおやびん!!
ヴィラールさんの所で装備を調達して、次の日。
朝ご飯を食べたら、セーヴァさんが『宿屋関連の仕事が済みましたので、カマラさんに言付かっていたことをやりたい』って切り出したんだ。
なんだろうと思っていたら……なんと、その内容は『アカがタリスマンを作れるようになる練習』とのことだった。
そういえば、カマラさんは最後に『いい道具をやる』って言っていたね……
前から作成のお手伝いはしていたし、アカはそっち方面の才能があるらしい。
セーヴァさんは、そのための家庭教師……のようなことをしてくれるとのことだった。
ボクとしては、アカがやる気だったので何を言うこともない。
なので、お言葉に甘えることにしたんだ。
「ジャ、ボクハ出カケルネ」
セーヴァさんの授業の邪魔になっちゃいけないしね。
彼女は変な人じゃないと思うし……それに、トモさんがモニタリングしてくれてるし。
「どこに行くのナ?」
「木工工房ノ見学カナ?」
ラーフルさんの働いてる工房に行ってみたいんだよね。
アポなしだから、駄目だった場合はそのまま街ブラに移行するつもりです。
「アルデアハ?」
「今日は良い風が吹くから飛んでくるのナ。夕方まで飛んで、その後は酒場ナ~♪」
好きだねえ……キミも。
「あの、御迷惑でねばワダスもお供したいでがんす」
『私も! 私も~!』
「ウン、イイヨ」
ロロンとピーちゃんはこっちね、了解。
トモさんトモさん、ごめんけどアカをよろしくね。
『はい、お任せを。むっくんはロロンさんがいれば大丈夫でしょうし』
……基本的に! 信用が! なぁい!!
・・☆・・
「ここいらでやんしょうか?」
「タブン、ソウジャナイカナ?」
ピーちゃんを肩に乗せ、ロロンと一緒にてってこ歩くとこしばらく。
宿屋からは街の反対側にある区画に着いた。
ヴィラール工房がある所とはまた違った、職人街っぽい雰囲気だ。
鍛冶屋とか、皮の鞣しをする所とか……色々ある。
セーヴァさんに聞いた場所はここら辺だったはずだけども……
『アレだと思うわ!』
チュチュン、と鳴いたピーちゃんのくちばしの先に……木材が積み上げられたお店が見える。
あ、ほんとだ……奥の方に箪笥とか椅子が見える!
もし違っても、あそこで聞けばわかるでしょ、同業者だし!
「いらっしゃいませ、何をお探しで……おや、ムークさんたちですか」
聞く必要もなかった。
だって店先にいるもん、ラーフルさん。
「コンニチハ、ラーフルサン。ヴィラール工房デハ無事ニ注文デキマシタヨ」
「それはよかった。ヴィラール師は少し気難しい所がありますが、ムークさんなら大丈夫だと思っていましたよ」
そうかなあ?
一緒に釣りしただけだけど。
「それで……本日はどうされました? 旅用の木工品もいくつかはありますが……」
「イエ、ボク……コウイウノヲ作ルノガ趣味デシテ。ソレデ、ヨケレバ見学シタイト……」
懐からシャンドラーパ様の木像を取り出して、見せる。
あの夜のことを思い出したのか、ラーフルさんは軽く目を見開いた。
「おお、これは……素晴らしい。神々しさも感じますな」
それは気のせいだと思います、はい。
「そういうことであれば……工房にご案内致します。私の他にも職人がおりますが、お気になさらず」
そう言って、ラーフルさんは奥の方へ声をかける。
「ガルフ、店番を代わっておくれ」
「はい!」
足音がして……ロロンよりも少し背の高いウサギの獣人がやってきた。
むーん……まだ若い、と思う! 声も高かったしね。
そして、多分男性だ。
「あ、いらっしゃいませ~!」
ウサギさんは、ペコリと頭を下げてきた。
あれかな、丁稚奉公的な感じの人かしら?
ラーフルさんに案内されて店の奥へ行くと、そこは作業場になっていた。
「ここが作業場になっています。あいにく今は納期も差し迫っていないので大きな作業はありませんが……」
「トンデモナイ、初メテ見マシタ」
『木のいい匂いがするわ! するわ~!』
ピーちゃんが肩で嬉しそうにしている。
ロロンもこういう場所は始めて来たのか、珍しそうに周囲を見回している。
ボクも概念としては知ってるけど、こうして見るのは初めてだ。
「ラーフルさん、お客様ですか?」
奥の方にある箪笥? の後ろからひょっこり顔を出したのは、モフモフの耳が特徴の獣人さんだ。
黒いウサギさんだね、こっちは女性かな?
「ああ、とってもお世話になった冒険者の方でね。彫刻を趣味にしていらして、ウチの見学がしたいとおっしゃったんだよ」
ラーフルさん、ボクよりも無茶苦茶年上なのに敬語やめてくれないんだよね……
例の件でとっても感謝してくれてるんだろうけど、心苦しいや。
「まあ、そうなんですか。ウチでよかったら好きに見ていってくださいね……あ! いけない!」
ウサギさんは、工房の壁にあるでっかい砂時計を見てぴょんと飛び上がった。
さすがウサギさん、ジャンプ力がすごいや。
っていうか、壁の砂時計が時計の代わりなのかな。
「もう時間か。ここは私がやっておくから行きなさい」
「すみません! これで失礼します~!」
ウサギさんは風のように去って行った。
おお、はやいはやい。
「彼女はあの若さで幼い兄弟を世話してまして……立派な若者ですよ」
若いんだ……ケモ度80%くらいだからわかんなかった。
でも、立派だねえ。
「さて、では……まずは道具の説明でもいたしましょうか? 特に仕事はないので、お気になさらず」
「アリガトウゴザイマス、助カリマス」
彫刻刀みたいなのがいっぱいあるねえ!
世界が変わっても、こういう所は同じだな~!
・・☆・・
「そうそう、そうです。ムークさんは筋がいい……」
「エヘヘ」
さりさりと彫刻刀で木を削って……大まかな形ができた!
「道具ガイインデスヨ。ボク、今マデ自前ノ腕デ全部ヤッテマシタカラ」
ここの彫刻刀、凄く使いやすいしね……っと。
よーし、こんなもんかな。
「ドウ?」
『素敵よ! かわいいわ!』
レンゲを咥えたピーちゃん像の完成!
我ながらダイナミックにできた気がする!
「じゃじゃじゃ、ムーク様は腕ばどんどん上げやんす!」
ナイフの柄に彫刻をしていたロロンも褒めてくれる。
キミも随分細かい模様を彫るねえ……さすが、手先が器用な子分さん。
「ヨカッタラコレヲ作ッタ職人サンヲ紹介シテクレマセンカ? 自分デモ一揃エ持ッテオキタインデスケド……」
隠形刃腕を使うのは訓練になっていいけど、流石に細かいところは道具を使った方が綺麗にできるしね。
冒険も旅も大好きだけど、他にも色々楽しみたいもん。
人生を豊かにしなくっちゃ。
『その通りですむっくん。人生は楽しんだもの勝ちなのですよ、ゾゾゾ』
……何食べてるの? ラーメン?
『残念、もずく酢です。この喉越しがなんとも……ゾルゾル』
いいな、海藻も食べたい!
干した奴とかはよく見かけるから、この街でも探そうっと。
「ソレは私の手作りなのですよ。気に入っていただけたなら、予備をお譲りしましょう」
「エエエ!? ソンナ、悪イデスカラオ金払イマスヨ!」
手作りなの!? この人は鍛冶もできるんだ!
「……時間だけは多くありましたからな。予備はいくつもあるのですよ、お気になさらず」
「イヤイヤイヤ、駄目デスッテ」
お気にするが!?
基本的にいい人しかいないのが悪いよ! ここ!!
「――! ――!!」
ム?
なんか店先が騒がしいな?
「何でしょうか?」
ラーフルさんがそう言ったのとほぼ同時に、さっきの黒兎さんが走り込んできた。
なんか……切羽詰まってる感じだ。
「ラーフルさん! ミップとロップ、ここへ来ていませんか!?」
「いや……私はずっとここにいたが、来ていないよ。いなくなったのかい?」
「そうなんです! 近所の人に聞いてもみんな見ていないって言われて……!」
かなり混乱しているね……兄弟が迷子になったんだろうか。
「ふぅむ……ここ以外に心当たりは?」
「教会と市場にも行ったんですけど、どこにも……!」
ああ、泣いちゃった。
小さい兄弟なんかな、それは心配だろうねえ……
「……ひょ、ひょっとしたら、下水に入ったのかも……!」
下水!?
うわ、何やら嫌な記憶が……!!
・・☆・・
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