第129話 魔法具調達虫。
「さて……それじゃ、どんな鎧がいいんだい?」
一夜明けて、再びのヴィラール工房。
朝ご飯を食べてから到着したボクを、作業着みたいな恰好のヴィラールさんとパドマさんが出迎えてくれた。
アカとピーちゃんは、多分屋根の上で遊んでると思う。
ロロンは洗濯物と縫い物、アルデアはお空の散歩。
みんな思い思いに過ごしている。
「エエット……」
『ああ、念話の方がいいかい? キミはちょっとまだ口が回らないみたいだし』
ありがたい……生後一年未満なので、赤ちゃんなので。
『ボクの体なんですけど、我ながら鎧に干渉する部分が多くて……見てもらった方が早いですね』
マントを脱いで椅子に置き、まずは胸カバーを開く。
ヴィラールさんは少し面白そうにしたけど、パドマさんは後ろで『!?』って顔をしている。
ボクは慣れっこだけど、見るとビックリするもんね。
『これがあるので、胸は無理なんです。それに……』
今度は後ろを向いて、アフターバーナーの噴射口をガチャン。
『後ろ腰もこうなってまして……あと、これも』
同時に補助翼を展開。
我ながら展開する部分が多いなあ。
「ほほう、面白い体だね。なるほど……これは通常の鎧では対応し切れないな」
「ソウナンデス」
「虫人さんの体って凄いんですねえ……」
パドマさんは感心しているけど、それはボクオンリーかもしれんよ?
「ふむ……」
ヴィラールさんは椅子に腰かけて、腕を組んだ。
あ、なんかメモ開いてる。
「キミが成長すると、また何かしらが増える可能性はあるねえ……それならレイオス鋼を使っても難しいか」
そうなんですよ。
申し訳ありません、よくわからん体で。
「むーん……むしろ、鎧でない方がいいかもしれないね。ちょっと席を外すよ、パドマちゃん、ムークくんにお茶でも出してあげなさい」
そう言って、ヴィラールさんはどこかへ歩いて行った。
「はぁい。工房長は考えをまとめる時に個室に行く癖があるんです、座ってゆっくりしていてくださいね?」
「ハーイ、ア……木工細工シテテモイイデスカ? 後デ掃除スルノデ」
「どうぞどうぞ、ああなった工房長は長いですから……ごゆっくり」
わーい。
コレをしていれば、待つのは全然苦にはならないので助かる!
去っていくパドマさんの背中を見ながら、隠形刃腕を展開した。
・・☆・・
「まあ、綺麗な像。どなたですか?」
出してもらったお茶に舌鼓を打ちつつ、無心で彫っていると……パドマさんがやってきた。
集中していたから全然気付かなかったよ。
「月ノ女神、シャンドラーパ様デス」
「ああ、祖父が祈っている女神様ですね……へえ、このようなお姿なのですか」
たしか、パドマさんは月の民について何も知らないんだよね。
「綺麗な女神様……ここいらじゃ誰も知らなくて、教会もないのにムークさんはお詳しいのですね。見てきたみたいにしっかり精緻に彫ってます!」
……見てきたからね~。
「エヘヘ」
しかし、やっぱり女神様ってみんなどえらい美人さんばっかりだね。
今までにそんなに見てないけど、この先も色んな像を見たいなあ。
「あれ、こちらは……どなたですか?」
完成したカマラさんの木像に気付いたパドマさんは、首をかしげている。
そっか、この人は会ったことないんだね……カマラさんも、ラーフルさんも……本当に、お孫さん世代には何も伝えずにいたんだ。
セーヴァさんは若いのに知ってたけど……なんか、また別なんだろうな。
あのお葬式も取り仕切ってたみたいだし。
「……トッテモ優シイ、大好キナ人デスヨ」
「あら、それは素敵ですね」
パドマさんは、ぽんと手を叩いた。
……そうだよ、素敵な人だったよ、とっても。
「いや、待たせたね」
その後もパドマさんと談笑していたら、ヴィラールさんが帰ってきた。
なんか、小脇に包みを抱えてるね。
「在庫にいいものがあってね……それを少し加工してみたよ。あ、パドマちゃん。喉が渇いたからお茶をくれないか」
「はーい」
ヴィラールさんはテーブルの上に荷物を置き、それを包んでいた布を取り払った。
そこにあったのは……バッジ? いやベルトのバックルの部分だけって感じの金属だ。
なんじゃろ、これ。
「要は、キミが欲しいものは鎧でなくてもいいと気付いたんだよ」
「ホホウ……ソレガ、コレデスカ?」
謎金属にしか見えない。
「これはね、レイオス鋼に魔術式を刻んだものだよ。とりあえずおへその……キミにはないか、とにかくそこら辺に押し付けて魔力を流しなさい」
了解です……ここらへんかな?
むんむん……うわっ。
謎金属がぴっちり張り付いた! マジックバッグみたい!
「よしよし、それでいい。それではもう少し魔力を流してみなさい」
はーい、むんむん……
「よっこらしょ」
ヴィラールさんが小さな木片を投げてきた。
それはボクのお腹に飛んできて――その手前で跳ね返った?
なんか、透明な壁にぶつかったみたいだ。
「コレ、結界デスカ?」
「そうそう、込めた魔力に応じた結界壁を展開する魔法具だよ。これなら何処にでも付けられるし、持て余すことはないだろう?」
ふわー!すごい!
確かにこれなら、ボクがどんだけ成長しても大丈夫だ!
「ちなみに込められる魔力の最大量は私の半分程度にしてある。キミには悪いけど、多分倒れるくらい魔力を込めても満タンには到底届かないだろう、毎日寝る前に少しずつ魔力を込めなさい」
……何千年も生きてるっぽい凄いエルフさんの、半分。
遥か高みにありますなあ、それは。
「加えてこの子に刻まれた魔術式はもう一つあってね。攻撃の種類をある程度見極めて、放出する魔力量を調整する機能もある。投石から魔法まで、それに応じた防御壁を展開できるよ」
「ハイテクスギル……!」
凄いや、それならボクはこれに魔力をただ込めればいいってことだね!
難しい操作も必要ないし……とんでもない魔法具だ!
――その時虫に電流走る。
これ……こんなに凄いんならとってもお高いのでは?
今までの街で見たことないし、ヴィラールさんは凄い魔法具屋さんみたいだし……
『成金虫のくせに……』
なんか嫌なお名前!
いやいやいや、ボクのお金はボクだけのお金ではないのですよ?
……と、とりあえずラーヤの宝石を使わせてもらうかな……
「おや、どうしたの? 浮かない顔をして」
「イヤ……エエト、トリアエズ代金ナンデスガ、コレヲ……」
バッグからじゃら、と宝石をいくつか放出。
いくらになるのかわかんないけど、以前鑑定してもらった時に結構な高値だったから……
「【マルド】【オールフ】【ザンガ】の原石か……純度も高いねえ。これは代金には多すぎるな」
ええ……そんなに高価な代物だったんですか、これ。
「例えばこの【ザンガ】なら10万ガルにはなるねえ……今回の話とは別だけど、買い取らせてくれないか? これは魔術の触媒として優れている鉱石だから」
……以前に鑑定してもらったのは、どうやら安いものだったようです……
改めて、ボクのバッグがコワイ今日この頃。
「ふぇえ……」
ドン引きしているパドマさん。
尻尾がシオシオになってる……
「今回の料金は……そうだねえ、3000ガルくらいじゃないかな? 別に貴重なモノも使っていないし……作業も大した手間じゃないからね」
嘘でしょ!? 安過ぎですよ!?
『――気にしなくていいんだよ。この商売は道楽だし……それに私、ヒトによって値段を上下させる悪徳技師だから、さ』
追撃の念話に、ウインク。
えぇえ……それってどうなの……
『伊達に長生きしてないんだよ。正直な所、あくせく稼ぐ必要はないんだ……これは道楽さ、道楽。気にせず貰ってくれたまえよ』
……ど、どうしよ。
『ああ、じゃあこう言い換えようか。カマラちゃんと仲良くしてくれた、お礼も含まれている、と。私にとって、それは安売りをするいい理由になるのだよ、うふふ』
……これは……断れそうにないな。
「……ジャア、コレヲ」
1000ガル硬貨を、3枚置く。
「ソシテ、コレモ」
ことり、とカマラさんの木像も置いた。
昨日話を聞いてから、今までずっと彫っていたものだ。
表面にはロロンから貰った香油を塗っていて、艶やかでとってもいい匂いがする。
「……やあ、これは素晴らしい! ふふ……貰いすぎかな、これでは」
ヴィラールさんは、嬉しそうに木像を両手で抱えるのだった。
この笑顔を見れば、嘘じゃないってわかるねえ。
・・☆・・
「おやびん、おやびーん」
工房から出てすぐ、アカが空からやってきた。
ヴィラールさんは『また遊びにおいで』と送り出してくれたから……お言葉に甘えようかな。
この街にいつまで滞在するかはわからないけど、素敵なお知り合いが増えてよかったね。
「つりいく? つり~?」
……ふむ、まだ夕ご飯には早いし、行こうかな。
「行ク!!」
「わはーい!」
釣り好きなアカもこの決定には大満足なようだ。
いい子分、とってもいい子分。
『私も行くわ、行くわ~!』
おっと、ピーちゃんもすっかり元気になったみたい。
じゃあ、何か素敵なモノを釣りに行こう!
・・☆・・
※宣伝
『無職マンのゾンビサバイバル生活 欲求に忠実なソロプレイをしたら、現代都市は宝の山でした』は角川BOOKSより絶賛発売中! 電子版もありますよ!!
書き下ろし短編あり、加筆修正あり! 何より神奈月先生の美麗イラストあり!
よろしくお買い上げのほど、お願いします!
※SNS等で感想を呟いていただけますと、作者が喜びます。
是非お願いします!!




