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第118話 激闘。

 涼やかにカマラさんが名乗った瞬間、闇渡りの姿は消えた。

夜に溶けるように。


 ――火花。


 カマラさんの右手がブレて、虚空と打ち合った。

まるで、マシンガンでも受け止めてるみたいな、盛大な火花が飛び散っている。

攻撃を捌いてるんだろうけど、全然……見えない!


「『月の民』……まさか」


 そんな光景を見ていると、アルデアが震える声で呟いた。


「……知ッテルノ?」


 後ろのお墓にも書いてあったね、『月の子』って。


「ああ、この西国と……【北ノ魔国】の中間に住んでいた、獣人の一族なのナ」


「……話にしか、聞いたことは無がんすが……とても強い一族だったと」


 ボクに縋り付いて震えているロロンが付け加えた。

そ、そんな出自だったんだ……カマラさん。


「眉唾モノの噂だと思っていたが……まさか、あの魔物……【闇渡り】と単身で斬り合えるほど、だとは」


 え? 斬り合い?

アレって杖で捌いてるんじゃ――


「――ッフ!」


 ぎゃりん、と大きな音。

カマラさんが虚空を大きく杖で薙いだ。


「――GYRRRRRRR……」


 ゆら、と影が揺れて……闇渡りが出現。

な、なにアレ!?


 ――でかい!?

さっきは子犬サイズだったのに……今は、深淵狼よりも大きいぞ!?

大地竜の半分くらいある……!


「ナンデ……」


「――闇渡りは、物質的な存在ではないと聞いたことがあるのナ。形状は不定形、大きくも、小さくもなる……のナ」


 なんて出鱈目な生き物なんだ……


「――本性が出たね。アンタの腐った性根には、その方が似合いさね」


 杖を片手で握り、横に流すカマラさん。

……ああ! 斬り合うって言ったのが今わかった!


 カマラさんが持っている杖の、先端にある宝石から……光が伸びている。

ボクのヴァーティガよりも長い……まるで、刀みたいな形で!


『高密度に圧縮され、可視化できるほどの濃度になった魔力の刃です。とてつもない魔力を込めています……成程、魔素で構成されている闇渡りにダメージを与えられる理由は、あれですか』


 それって、凄いのトモさん?


『凄い、なんてものではありません。指向性を持った純粋な魔力を、霧散させないように固定させて振るっているのです……生半可な術者では、展開することもできない超絶技能ですよ』


 カマラさんがそんなに凄い人なんて、全然わからなかったよ……


『私もそうです。先程弾けたタリスマンで魔力の拡散を抑えていたのでしょう……全く分かりませんでした……私の目から見ても、彼女はただの老婆でしたよ』


「――KYYYAAAAAAA‼‼」


 闇渡りが、ガラスをこするような不快極まる声で吠える。

ボクのマントに包まっているピーちゃんが、震えながらもっと深くに潜った。

ボクの足からも、さらに力が抜けた。


「――ふん、他愛ない」


 闇渡りが跳躍の途中で消え――カマラさんの背後に、手だけが現われた!

危ない!


「――っし!!」


 後ろを振り返ることもせず、カマラさんが横に跳びながら回る。

一撃を躱しながら――その腕を深く切りつけた!


「――GGGYYYYAAAAAA⁉⁉」


 どこからか、耳障りな悲鳴。

再び実体化した闇渡りには、右の前足がなかった。

切り口から、墨汁みたいな色の魔力が溢れている。


「ヤッタ……コレナラ……」


 希望を見出したボクに、振り向くロロン。

その顔は真っ青だった。


「駄目なのす……闇渡りは、そげに容易い相手では無えがす……」


 その声にかぶさるように、闇渡りの手は初めからそうだったように……生えた。


「魔力が意思を持ったような存在なのナ。魔力がある限り、無限に再生するのナ……」


 ボクみたいなものか……


『保有魔力量の桁が違いますよ。アレが生きた時間は、それこそ100や200年ではないでしょう……それだけの期間を食らい続け、殺し続けた結果が……アレ、なのです』


 恐ろしい相手だ。

馬鹿みたいな魔力量の癖に気配も読めないし、たぶんさっきの攻撃をボクが喰らえば体は粉々になるだろう……


 でも、カマラさんは。

カマラさんは何の気負いも見せずに向かい合い、斬り合っている。


「FRRRRRRRRRRRRRRRRR‼」


「――ッハ!!」


 再び闇渡りが吠え、今度はカマラさんが突っ込んだ。

おばあさんだと信じられないほど、恐ろしい速度の踏み込みだった。


『杖の刃を維持しながら、同時に最高峰の身体強化魔法を併用していますね。恐ろしいほど精緻な魔力操作が必要ですよ、アレは』


「――GGGGGGGRRRRRRR⁉⁉」


 まず、右前足。

そして、左後ろ足が――斬れた。

ボクには1回杖を振ったようにしか見えなかったのに!


「――っ!」


 飛び上がったカマラさんが、踵落とし。

足を2本失って再生していない闇渡りは、顔から地面に叩きつけられた。

彼女は空中で1回転し――魔力の刃を下に向けた。


「『地に伏せよ』!!」


 ずん、と刃が闇渡りの延髄を貫いて――大地に縫い付けた。

その体を蹴り付け、カマラさんは後方に離脱。

やつの体には、杖から離れた刃がまだ刺さったままだ。


 ざざ、と着地したカマラさんは杖を放り投げ――凄まじい速さで両手を組んで次々と印を結び始める。


「『帰命したてまつる・帰命したてまつる・不空なるものよ・不変たるものよ』」


 闇渡りに突き刺さった刃が輝き、何重もの魔法陣が地面に展開していく。


「GYAAAAAA‼ GBBBBBBAAAA‼」


 影渡りは体を薄れさせて逃げようとしているが、展開した魔法陣が干渉しているようでそれはできないみたいだ。


「『彼岸に生くるものよ・怨敵を調伏せしめるものよ・猛る風よ・全き光よ』――」


 放り投げた杖が、落ちてくる。

カマラさんはそれを掴んで、また魔力の刃を展開。

今度はそれを筆みたいに使って、虚空に魔法陣のようなものを描き始めた。

それは、あっという間に複雑な紋様となって――


「『三界にあまねく輝くものよ』――『降魔調伏・六刀陣』!!」


 カマラさんが叫ぶように詠唱した瞬間、闇渡りの周囲に無数の魔法陣が出現。

次の瞬間には、その全てから光り輝く剣が降り注ぎ始めた。


「AAGAAAAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA⁉⁉⁉⁉」


 絶叫する闇渡り。

体を動かして逃げようとするけど、光の剣が触れた箇所が塵になっていく。

塵になる端から再生しているけど、また剣に貫かれて塵になる。

それを、何度も何度も繰り返している。


「聞いたことがない魔法だが、恐ろしい威力なのナ……そうか、アレが最適解なのナ」


 震えながらボクに抱き着いているアルデアが、呟く。


「やつの体を構成する魔力が尽きるまで、ああして『殺し続ける』のナ……普通なら何百人もの魔導兵がやることを、カマラさんはたった1人でやっているのナ……!」


 カマラさんは、凄い。

ボクが何もできないくらい怖い相手を、ひるまずに攻撃し続けている。

アルデアが言う通りなら、このまま闇渡りを倒せるかもしれない。


 でも、なんでだろう。

ずっと、ずうっと……嫌な予感が消えないんだ、ボクの……心から。


「――おばーちゃ! うしろ!!」


 アカが、泣きながら叫んだ。

その瞬間には、カマラさんの後ろの空間が歪み――腕が、飛び出してきた。


「ぬ、う――!」


 その長くて太い腕は、冗談みたいな長さの爪で空間を薙いだ。

――カマラさんの鎧の肩部分が、引き千切れて吹き飛んだ。


「――やっと、お出ましかい」


 鎧を破損させながらも、カマラさんは空中を何度か蹴って攻撃を躱した。

そして、危なげなく着地。


 ああ……そんな、そんなのってないよ!!

なんだよ、このインチキ!!


「『闇渡りは一匹だが、軍隊を持っている』……ひいじっさまの言った、通りでがんす……」



 カマラさんの周囲は――虚空から出現した闇渡りの『群れ』に、囲まれている。



 一匹でも恐ろしいのに……それが、あんなに!


『保有魔力で作り出した分身、のようなものですね。これは……街が滅ぶワケです』


 トモさんの声にも、いつもの元気さはない。


『むっくん……アンタさ、辛いだろうけど助太刀なんか考えたら駄目だよ。アレは、今のアンタたちが100回死んでも勝てない相手だから』


 ……うん、シャフさん。

分かってるよ、そんなこと……ボクが飛び出しても、足手まといにしかならないってことは。

でも……でも……悔しいなあ。

結構強くなったと、思ってたんだけどなあ……


「……ソウダ、テオファールヲ……」


 そう呟いたら、アルデアの腕の力が強くなった。

ボクを締め上げるくらいに、強くなった。


「――駄目ナ、それは駄目なのナ」


 ロロンが、ボクを真っ直ぐ見つめた。


「ムーク様……ワダスが小さい頃、ひいばっさまに言われたこどが、ありやんす」


 彼女の小さな手が、マントをぎゅっと掴む。


「――この世には、決して余人が手助けしてはならねえ戦いがある、と」


 その目からは、涙が次から次へと溢れてきた。


「これは、この戦いが、ソレなのす。ワダス達は、ただ、見ていることしか……みていること、しか……でき、できねえのす……!!」


 ロロンは、じっとボクを見つめてそう言った。


「……その通りなのナ。これは、カマラさんの戦いなのナ……我々が……いや何人たりとも、それを汚しては、ならないのナ」


 アルデアの声も、震えている。

彼女も本当はなんとかしたいんだ。

ロロンも、同じ気持ちなんだ。

……でも、それはできないんだ。


 ボクも、覚悟を決めたよ。

どんなに辛くても、苦しくても……悲しくても、この戦いを……見届けるって。

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― 新着の感想 ―
テオファールさんカモーンは考えていたけど、街も無事には済まない。必ず死人がかなりでる。それぐらいの難敵のようですね。それができるならムッくん達を付き合わせないし、タリスマンも渡してない。…カマラさんご…
初めまして。 かなり絶望的なパラメータ差がある戦いなんでしょうけど、この闇の獣に対しての最適解ってやはりむっくんなんじゃないかと思います。 まず、むっくんの持ってるヴァーティガが闇特攻で、解放には多大…
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