第111話 新装備、調達の巻。
「ダンナぁ! ムークのダンナぁ! お元気そうで何よりでやす!!」
心づくしのパーティーが開けて、次の日。
カマラさんとボク以外の全員が、ポンポンのお腹を抱えて眠りにつき……朝。
もうそろそろ朝ご飯かな~……くらいの時間に、その人はやってきた。
そう、ロドリンド商会のむしんちゅ、ヤタコさんだ。
衛兵さんに言われて、1階に出たらもうそこに立ってたんだ。
「オハヨウゴザイマスムワワワワ」
「ギャッ! ギャッ!!」
そして、走竜のシュテンちゃん!
この街は道幅が広いので、街中も自由に動けるんだねえベロが青臭い!!
「おねーちゃ! おはよ~!」
「んふふ、はい! おはようございやす!」
アカとほっぺたをくっつけながら、ヤタコさんはシュテンちゃんが曳いている荷台から大きい……とっても大きい包みを持ち上げた。
「ささ! 一階へどうぞ! この中にお眼鏡に適うブツがありゃあいいんですが」
え? ボクなんにも注文してないけど……あ。
「ヒョットシテ……ニカイドサンカラ?」
「はい! お望みのマントや装備、見繕ってきやした! ささ! ささ~!」
「ささ~! あははは、ささ~!」
あ、そういうこと……おおう、ズンズン行っちゃった。
ヤタコさんって力持ちなんだなあ、むっちゃ大きい包みじゃん。
・・☆・・
「此度は大変な目に逢われたみてえで……あっしはルアンキへ戻る途中でやしたが、スタンピードがあるってんで近付けずに悔しく思っておりやした! ニカイド様に聞きやしたが、獅子奮迅の大活躍だったんですね、ダンナ!」
「イヤイヤ……ソレホドデモ……」
テキパキと、一階の大広間に包みの中の物を出していくヤタコさん。
あの包みより明らかに内容量が多いんですけど……あれもマジックバッグなんかな?
「さて……まずはマントでさ! 色々取り揃えましたんで、どうぞ手に取ってご覧になって下せえ!」
あっという間に並んだ、色とりどりの毛皮たち。
おお~……壮観。
何がどうなのかわからない……あ! ロロン!
手招きすると、ダッシュで来てくれた。
カワイイ&ありがたい!
「じゃじゃじゃ、これは立派な毛皮でやんすな~」
「ボク全然ワカランノヨ。一緒ニ見テクンナイ?」
「お任せくなっせ!」
持つべきものは目利きのできる子分よ……
『他力本願虫よ……』
人聞きの悪い! 適材適所虫と言って!
……トモさんお寿司屋さん終わった?
『龍神様方も沢山来られて大盛況でした。ネギトロが大人気でしたよ』
何故ネギトロ……美味しいけども。
ま、まあいいや。
「ムーク様が前に着込んでらしたのはオルト・ファングの毛皮でらしたから……ふむ、少々お待ちを」
ロロンが真剣な目で毛皮を選んでいる。
その横でアカは毛皮を撫で、手触りを楽しんでいるようだ。
「それでは、毛皮はロロンの姉御にお任せして……こちら、使えそうな魔法具でやす」
真剣なロロンを邪魔しないように、ヤタコさんが魔法具っぽいものをじゃらじゃら並べていく。
何が何やらさっぱりですねえ。
説明してもらえばいいか。
「エエトネ、ボクハ棘ヲ飛バスカラ手甲ト脚絆ハ無理。胴体ニ使エルモノガイインダケド……」
前の腹巻きくんと同じような感じのがあればいいんだけど……
「はい! 以前の時にダンナの戦い方はしっかと目にしやしたから……それ用の物を見繕ってきやした!」
よく気が付く人だなあ。
「僭越ながらご説明をば、させていただきやす。まずこちら」
……指輪、だね。
何の変哲もない。
「こちらは【レイオス鋼】を加工したモンでさ。魔力を込めると拳を包んで、棘を生やしやす」
渡してきたので嵌めて……魔力を流す。
おお!ドロッと変形して……あれだ、棘付きメリケンサックみたいになった!
ふむ……左拳にはちょうどいいかもしれないね。
何も付けてないみたいに軽いや、これはいいかも。
咄嗟の戦闘で役に立ちそう!
材質も腹巻きくんと同じだし……いいかも。
これは保留っと。
「お気に入りでしたら他にも同じようなものを取り揃えておりやす。ただ、その金属は他の魔法金属と共存できねえので……」
「アッハイ、知ッテマス」
「他にもこういうモンが……握って魔力を流して下せえ」
なんだろこの棒。
ふむん……むんむん……ワッ!?
刃が生えてきた!? すご~……〇-ムサーベルじゃん! ビームじゃないけど!
コレはとっても素敵だけど……
「棍棒ガアルカラネエ」
同時に2つの武器を使えるほど、ボクは器用じゃないのだ。
「左様ですか……ではこちらを。以前使っておられたような腹に巻く金属鎧でさあ」
おー、いっぱいある!
ちゃんとした鎧っぽいのがあるねえ。
それじゃ、早速試着してみよう!
・・☆・・
「全滅カ……」
「申し訳ございやせん! お許しを~!!」
ヤタコさんは綺麗な土下座をしている。
「イエイエ、気ニシナイデ下サイッテ。ボクノ体ガヤヤコシイノデ……」
え~、鎧類は……全部体に合いませんでした。
合わないっていうかさ……ボク、進化して背中と腰にアフターバーナー付いちゃったじゃん?
それをね、絶妙に塞ぐの、鎧が。
ってことはね……戦闘中に吹き飛んじゃうよね、当然。
というわけで……鎧はキャンセル! キャンセルです!!
「ちめた! あははは~!」
んで……アカが持って遊んでる流体金属ゾーンだ。
前の腹巻きくんとよく似てるねえ。
「コレハ【レイオス】デスカ?」
「ああ、はい! 他の種族だと持て余し気味でやすが、虫人の男にはもってこいの鎧なんでさあ!」
だよねえ。
みんな腰布とかマント装備だし。
結局、ボクに装備できる防具ってコレ一択なんよねえ。
胸は開くし、背中も開くし……改めてよくわからん体だよね。
隠形刃腕みたいな隠し腕を使うむしんちゅもいるって聞いたけど、見たことはない。
「アノ……コレデ、体ノ前面ダケヲ塞グ物ッテアリマス?」
後ろを向いて、噴射口をガチャン。
「コレナモンデ」
「あああ~……ええと、その……も、申し訳ありやせん!」
ヤタコさんはまたドゲザした。
ないのねえ、この中に。
そうよねえ、金太郎の前掛けみたいな鎧なんかそうそうないもんねえ。
……今更だけどさ、服巻くんが焼けずに残ってても……今装着できないじゃん!
だってアフターバーナー増設しちゃったから!!
おおお……進化は嬉しいけど、思ってもみなかった問題が持ち上がってしまった……
どうしよ……トモさん……
『ふむふむ……現状、一般的な鎧や魔法具では対応できませんね。オーダーメイドなら対応できますが……』
だよねえ。
『高度な魔法鍛冶師が所属している都市は……トルゴーンなら【ジェストマ】が一番近いですね』
あ、そうか。
エルフさんとかがいっぱいいる街なんだよね。
そっかあ……じゃあ、そこまで我慢するしかないか。
防具はあるに越したことはないけど、現状は仕方ないねえ。
『それよりいいものがありますよ、右の奥にある……鎖があるでしょう? それを取ってください』
お? アクセサリー枠?
あ、ホントだ……これなんだろ?
結構ゴツイ感じの首飾りだね?
『それを首に巻いて……後ろで装着してください』
はーい。
あ、でも難しいなコレ……ぬ、ぬぬぬ。
ネックレス……ええい! むつかしい!
「アカ、タスケテ」
「あい~♪」
頼れる子分よ……よし、これでいい。
これからどうするの、トモさん?
『魔力を込めてください』
了解~……ぬんっ!
わ、わわわわ!?
溶けた!ネックレスが溶けて……顔に張り付いた!?
ど、どうなってるの今のボク!?
「鏡でやす」
ありがとうヤタコさん!
え~っと……お、おー!
頭だけ装甲が追加されてる!
銀色の兜を被った感じになってる!
額の触角のちょいと下から……鼻の位置くらいまで、仮面みたいに張り付いてるねえ!
カッコいい! ロボットみたい!
ボクの本来の頭は横スリットで、この兜? 仮面? は縦スリットだ!
『むっくんの一番大事な部位は頭部ですからね。まずなんとしても守るのは頭部です。胴体の防具は今ロロンさんが選んでいるようなマントで我慢しましょう』
むーん……それしかないかあ。
じゃあ、鎧はこれで……武器はさっきのメリケンサックくんで、マントは……
「ムーク様、こちらの毛皮ばいかがでやんしょ……はぁ~! なんとまあ、勇ましいごと!!」
黒い毛皮を持ってきたロロンが、ボクの顔を見て喜んでいる。
ボクも格好いいと思ってたけど、どうやら合格らしい。
「ソノ毛皮モ綺麗デ格好イイネエ」
「はい! ヤタコさん、コレは【オウルベア】の毛皮でやんしょ?」
「へい! 歳経た個体から剥いだ逸品でさあ!」
おうるべあ?
『フクロウに似た顔をした熊の魔物ですね。ムキムキでとっても強いですよ……彼らの毛皮は魔法に対して極めて高い耐性を持つのです』
ほほ~、そんな魔物が!
魔法耐性が高いのはとっても嬉しいねえ。
「ジャア、コレト……コレト、コレクダサイ。オイクラデスカ?」
ロロンが選んだものだから間違いない毛皮。
そして、メリケンサックくん。
最後に、ネックレス。
この3つだ。
それなりに懐はあったかいけど……あんまり高いなら考えないとね~?
「……はい? 代金はエンシュの街からいただくことになっておりやすので、払いはいりやせんよ?」
……使わせて! お金は使わせてェ!!
結局、『防衛戦の報酬扱い』だからお金はいりません! って言われて……無料になりました。
いいのかな……いいのかなあ?
経済……経済を回したい! とっても回したい!!




