第110話 パーリナイ! パーリナイ!
「さて……此度はご苦労だった! 皆!!」
壇上っぽい所で、ニカイドさんがジョッキを持ち上げている。
うーん、心なしかテンションがとても高い!
「エンシュを襲った未曽有のスタンピード、そして人族の襲撃……それを! そなたらは持てる力のすべてを用いて退けたのだ!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」
ジョッキを振り上げるニカイドさんに、上がる歓声。
皆テンションが高いなあ、まあ当たり前だけど。
「だが、此度の災禍において……4人の尊き命が天上に昇ることとなってしまった」
一転して、声の調子が落ちる。
「ゴーザブロ、シローザ、ゴロック、ヤキーチ……彼らは自らの責務を全うし、避難民を見事に守り通したのだ……! まずは! まずは彼らに! 彼らの貢献に――杯を捧げようではないか!!」
そうか……そんな名前だったんだ、あの人たち。
ボクがもう少し早く到着できてたら――
『おらァ! もっかいソレ蒸し返したら定期的に硬いモンに小指ぶつける呪いかけんぞ!むっくん!!』
……はぁい、ごめんねシャフさん。
『許ーす!!』
許された!!
おっと、ボクも皆さんと同じように杯を掲げないと。
しかし、衛兵さんたちがいっぱいだあ……
ここは、衛兵隊本部の最上階。
そこにある、なんかこう……会議とかする用のでっかいでっかい大広間だ。
そこには、この前の戦いで活躍した衛兵の皆様が集まっていて……料理とか! お酒とかが無茶苦茶用意されている。
そう、これは……お疲れ様の宴なんだ。
献杯と黙とうが終わり、ニカイドさんはまた杯を持ち上げた。
「それでは、皆の者。今夜は大いに飲み、食い、疲れを癒すのだ! 我らと、エンシュの前途に――乾杯ッ!!」
「「「乾杯ッ!!!!」」」
そこかしこでジョッキが打ち鳴らされ、宴が始まっ――
『――愛しきエンシュの者たちよ。皆が息災で、母はとても喜ばしいですよ。この先も、たゆまず精進なさい……』
急にお出しされたヴェルママ神託で、会場はプチパニックになったのだった。
・・☆・・
「おやびん!おいし、これおいし!」
「モガガガガ……美味シイ!!」
なにこれ! 何のお肉かわかんないけどとにかく美味しい!
エスニック? 風の味付けって言うのかな……おいしい! ぱりっとしてておいしい!!
「ンジャオ返シ、ア~ン」
お肉を包んだ美味しいパイをアカに差し出す。
「はもも! はもも! ぱりぱり、おいし! おいし!!」
アカは目を輝かせ、お皿を持って飛んでいく。
その先には、椅子に座っているカマラさん。
「おばーちゃ、これおいし! たべて、たべて~!」
「はいはい、ありがとうねえ」
ンフフフ、なんという微笑ましさなんでしょ。
サイズは全然違うけど孫とお婆ちゃんって感じ!
このパーティ、カマラさん含めてボクらは全員招かれてる。
村の人たちは、この1階下で同じような立食パーティをしてるらしい。
っていうか……このエンシュ、今そこら中でパーティなんですよ。
なんかね、ええと……なんでだっけトモさん。
『スタンピードが早く済んだので、それによって消費されるはずだった備蓄が余ったから、ですよ? それを民間に放出して大盤振る舞いなのです』
ああ、そうだったそうだった。
今回の騒動は無茶苦茶大変だったけど、期間としては短かった。
テオファールが超がんばってくれたからね!
あ、この会場にもテオファールはいます!
いるけど……壁にもたれてる……皆恐れ多くて中々近づけないっぽい。
よーし、ここは虫がひと肌脱ぎますよ~!
「ムーク様! あの……!」
あ、シラコさんだ。
「ピーちゃんがミートパイに潜り込んでいるのですが……あの! もちろん取り分けたものなので問題はないのですが、それはそれとして大丈夫なのですか!?」
「……大丈夫デス。妖精ハ窒息トカシナイノデ……デモ案内シテクダサイ」
先にピーちゃんを掘り出してからだね……
「楽シンデル~?」
「あらムーク。ええ、美味しくいただいておりましてよ……あなたも……ふふ、楽しんでいるようですわね?」
まあねえ、両手に骨付き肉を持ってるからねえ! ボク!
ちなみに右手の方にはピーちゃんが突き刺さっております!
もう6割くらい食べてる!
テオファールの方は……上品にお酒なんか飲んでるっぽい。
ふむん……オシャレ!
着ている服も布なんだけど、なんか……とっても綺麗でツヤっとしてる布!
絶対に貴重でお高いんだろうな!
『ボクってば恐らく元人間なんでさ、このマントだと落ち着かないんよね……早くいい布探さないと』
ヤバいものは露出してないけど、気持ちとしては全裸マントなんよ。
『そういえばそうでしたわね……あなたがいた場所の服はどんなものでしたの?』
周囲には誰もいないけど、一応念話。
テオファールの近くにいると、考えるだけで会話できるから楽。
傍受とかされないしね。
『むーん……この世界の一般的な服は、ちょっと古めかしい部類になるのかな? 同じような感じなんだけど、もっともっとスカートが短かったり、動きやすそうだったり……したんじゃないのかな?』
『まあ、随分と煽情的ですのね?』
こればっかりは見てもらわないとわかんないからな……
『ふふ、でもその灰色のマントもよくお似合いでしてよ?』
『これってお風呂の覗き防止布なんよねえ……見た目はともかく、防御性能は皆無だからね』
テオファールの近くのテーブルにあるお皿に、骨付き肉(INピーちゃん)を安置。
これは……炭酸水だね! ゴクゴク。
ふう、とっても美味しい。
『ここのお酒は中々でしてよ? ムークは飲まないんですの?』
『ボクってばお酒飲むと記憶が飛ぶし、その間歌って踊るみたいでさ……美味しいご飯の記憶も消えちゃうから、基本的に飲まないの』
この前もやっちゃったからねえ……そして次の日起きたら、おひねりが1000ガル超えててビックリしちゃった。
どんだけの人の前でやったのかコワイ。
ガラムルさんに謝りに行ったら『儲かってしょうがねえからまたやってくれ!』って大喜びだったけどさ。
ミルルちゃんがさくらさくらとか歌っててビックリしちゃったよ。
気に入ったみたい。
『ふふ、それは見てみたい気もしますわ?』
『やめてくんしゃい』
ちん、とグラスを合わせる。
ここは壁際だからみんなの様子がよく見える。
アカは、カマラさんと一緒に楽しそうにしてるね。
たまに衛兵さんが寄って行って、食べさせてもらったり頭を撫でられてて喜んでる。
皆優しい人でよかったなあ。
あ、ゴウバインさんもいる!
あの人も妖精ホント好きだなあ……
ロロンは……あ、いた。
ベロンベロンになってるアルデアの横で眠ってる……飲まされたな、あれは。
可哀そうなのであとでご飯をいくらか貰っておこうかな。
『ところで、ピーちゃん大丈夫?』
『熟成したお肉がおいしいわ! とってもおいしいわ!』
骨付き肉内部のピーちゃんも元気そうで何より。
今は尾羽の先っちょしか見えないけど。
「ムーク殿! 白銀龍殿!」
おや、ニカイドさんがやってきた。
ボクらが一緒にいたから来やすかったんだろうか。
「お楽しみいただいておりますか?」
「ハイ! トテモ!」
「久方ぶりに、宴に招かれましたわ……大変満足しておりますわよ?」
不満なんかあろうはずもないネ!
美味しいから! 料理がとっても美味しいから!!
「それはようござった! お二方は今回の英雄にござる! おおいに楽しんでくだされ!」
「アバババババ」
ニカイドさんボクの肩ばっかり叩くじゃんか!
なんでテオファールは……よく考えたら龍だし、異性だしそりゃあそうか……
「おっと、そうであった。ムーク殿は今回装備の大半を失ったとお聞きしましたが……」
「エ、何故ソレヲ」
ロロン以外は知らないハズなんだけど……
「それは見ればわかり申す。(なにせ、貴公は首と胴体しか残っておりませんでしたからな)」
ぼそぼそ、と内緒話。
そ、そりゃそうか……
「ソレナラ話ガ早イデス。困ッテマシテ……イイ店ガアレバ教エテ欲シインデスケドモ……」
「それはもう! 責任をもってご紹介いたします! 明日にでも本部へ行かせますので、存分に吟味なすって下され!」
えええ!?
「イエイエイエ、自分デ行キマスノデ……」
「何を仰る! その程度はさせてくだされ、伏してお願い申す!!」
伏さないで!伏さないで!!
皆さん大注目じゃないですか!? わかった! わかりましたから!!
「ワ、ワカリマシタ……」
「はっはっは! それは重畳! それでは、お楽しみくだされ!」
ニカイドさんは嬉しそうに去っていく……
「ドウニモ居心地ガ悪イ……」
「うふふ、称賛されてしかるべきことをなさったのです。ほら、シャンとしなさいな」
ぽん、と肩を叩くテオファール。
むむむむ……
「見なさい、娘さんたちが貴方に話しかけようと狙っておりましてよ? ふふ、大人気ですわね?」
「オオウ……」
コワイ!目がコワイ!!
みなさん美人だけど目がギラギラしてらっしゃる!?
ど、どどどどうしよ、助けてトモさん!!
『ともちんはお寿司握るのに忙しいかんね~。あーしからあっりがたーいアドバイスしたげる!』
頼れる女神様は寿司職人になってる!!
『抱け! 抱くのだ! 片っ端から抱け~!!!!』
嫌でござる!嫌でござる!!
「ムーク様!是非冒険のお話を――」「あああ!そのお召し物も素敵です!それで――」「あの時は助けてくだすってありがとうございます!つきましては――」
ヒャーッ!!
スタンピードよりも強敵かもしれない! 誰か~! 誰か~!!




