第109話 平和って最高。
香ばしい匂いがするお芋を口に入れる。
外はカラっと、でも中はホクホク!
胡椒っぽい香辛料がまたよく合う……そして、この別皿のソース!
スパイシーで、ちょっと酸味がある最高のソース!
総合的に……!
「オイシイ! オイシイ!!」「おいし! これしゅき、しゅき~!」
ボクと同じ皿から食べてるアカにも大好評!
そして……一際大きいお芋に頭を突っ込んでいるピーちゃんにも、大好評みたい!
念話も聞こえないくらい夢中になってるしね。
「はも……んぐ……んめめなあ~……」
ロロンも気に入ったみたい。
「どーじょ、どーじょ」
おや、お店の奥からミルルちゃんが小皿を持ってきてくれた。
上に載ってるのは豆料理かな?
「おやおや、こいつは大した店員さんだねえ。これはお駄賃さ、取っときな」
「あいがと、おばーちゃ!」
その料理を受け取り、かわりに砂糖菓子っぽいのを握らせるカマラさん。
避難している間に仲良くなったんだねえ。
「ナナーナ、ナナナナ~♪」
顔が真っ赤だよアルデア……ずっと左右に揺れてるし……飲み過ぎでしょ。
吐いても知らないからね、もう。
「おとーしゃ、おとーしゃ!」
「おっとお! いいモン貰ったなミルル! さあさあ追加だ! どんどんやってくんな!」
ガラムルさんが両手に料理を満載してやってきた。
そう……ここは、スタンピードの前にも食事した彼のお店。
あの時は確認していなかったけど、『ミルン』っていう名前なんだ。
なんでも……ガラムルさん、亡くなった奥さんからとったんだって。
じゃあ、ミルルちゃんを1人で育ててるんだ……すごいな、お父さん!
なんでここにいるかって言うと、ボクが元気になったから。
ちょうどいいので、カマラさんも加えてフルメンバーで来たんだよね。
いやー、料理が美味しい!
豪快な盛り付けに味付けだけど、とっても美味しいや!
「むししゃん、おいち?」
「トッテモオイシイヨ、ネーアカ」
「おいし!おいし!」
「きゃーはは、あははは!」
アカはミルルちゃんの手を取って、2人でくるくる回っている。
はー、微笑ましい。
「どうだいウチの味は? 傭兵団仕込みだが、悪かねえだろ?」
料理を並べていくガラムルさん。
あ! から揚げに酷似した物体がある! あっちのはポテトサラダかな?
お肉ばっかりと思いきや、野菜類もいっぱいあるのが嬉しいね!
「ハイ、全部オイシイデス!」
「がははは! こりゃあ看板に『英雄様御用達』って書かねえとな! ハハハ!!」
それやめて!!
……待てよ、それなら。
『あら、もうお芋さんが無いわ……あら?』
芋を貫通したピーちゃんを持ち上げる。
「……『妖精御用達』ノホウガ珍シクアリマセン?」
『おいしいわ! とってもおいしいわ! 特にこのカリカリベーコンが美味しいわ!!』
カリカリベーコン……ボクまだそれ食べてない!
「そいつはいい! がはははは!! ほいよ、ピーちゃん。これも自信作……ララ豆と芋の煮物だ!」
「チュンチュク! チュンチュク!!」
あああピーちゃん!またキミは首からスープに突っ込んでもう……猟奇的!!
「はもももも! はもももも!!」
アカも!?
……まあいいや。
「ソウイエバ、ガラムルサン。義足大丈夫デスカ?」
今は松葉杖じゃないけど、魔導っぽくない簡単な木製の義足になってる。
片足を引きずっていて大変そうだ。
「まあな、ちょいと不便だが問題ねえよ。それに、ニカイド様が新しいのを調達してくれるって言うんでな! 避難民救助の功績だとよ、悪いねえ」
おー、そりゃよかった。
「当然デスヨ。ガラムルサンガ頑張ッテクレナカッタラ間ニ合イマセンデシタカラ」
あの時は本当にギリギリだったからねえ……
「ムークさんがいなかったら同じことさ。あん時のアンタときたら鬼神の如き、ってやつだなあ……あのクソ人族相手に一歩も引かずによ」
「アハハ……」
正直必死であんまり覚えてないんよねえ。
「そういえば、ムークちゃんはあの時目が真っ赤に光ってて雄々しかったねえ。今は元通りの綺麗な青色だけどさ」
「……ソウナンデス!?」
マジですかカマラさん。
ボクのお目目そんなことになってたんですか?
「おや、無意識だったのかい? アンタもよくわからん体してるねえ……今もちょいと体つきが変わってるしさ。龍のポーションってのは本当に不思議だねえ」
はい、急速再生と同じくこの体もそういう説明になっております。
急に進化して焦ったけど、返す返すもテオファールのお陰だ。
本人には申し訳ないと思ったけど『別に構いませんわ?』ってすぐに許してもらえたのが助かる。
今もこの周辺のドコかにいるはずだと思うけど、一切気配はわかんない。
クソ人間とはえらい違いだ。
「デモ、今更ダケドホントニイインデスカ? 全部無料ナンテ」
結構飲み食いしちゃってるけどなあ。
「気にすんな、命の恩人なんだからよ! 欲がねえなあ英雄様ってのは?」
バンバンと肩を叩かれるボク。
おおう、揺れる揺れる。
「アレだぜ? 今の護衛仕事が終わったら元居た傭兵団に紹介してやってもいいんだぜ? 【豪鉄】っていうそこそこ名の知れたとこなんだがよ……」
「アハハ、考エテオキマス、ハイ」
嫌なんじゃよ! これ以上のサツバツはごめんなんじゃよ~!!
ボクはそんなにバリバリ戦いたい虫じゃないんですのよ~!?
「お代わりなのナ~♪」
アルデアが空になったジョッキを振っている。
「おう……そりゃいいんだが、大丈夫なのかお嬢ちゃんよ」
「大丈夫に決まっているのナ! 美味い酒は飲まんと失礼なのナ! ナハハ! ナハハハ!!」
「まあ、いいけどよお……ホレ」
「ナナナナ~♪」
また注がれたけど、本当に大丈夫なんだろうか……ッヒ!? 何故ボクを見る!?
「英雄様に一献なのナ~!」
ちょっと! それは一献じゃなくて無理やり飲ませる体勢……やめて! ちょっ!? す、すごい力だ!?
たすけてロロ……飲まされて寝てる!?
静かだと思ったら!!
「そ~れ、ぐいぐい~♪」
「ガボボボ!? ガボボボボ!?!?」
喉が! 喉が焼ける! なんだこのアルコールの塊!?
ちくしょう! 異世界にはまだアルハラの概念がないから畜生――
・・☆・・
(三人称)
「お、なんだ? この近くで楽団が一席やってんのかね?」
「まだ日も高いのにな? でもまあ……仕方ねえか。なんたって目出たいもんな、今は」
仕事帰りらしい虫人2人が足を止めた。
何処からか、歌のようなものが聞こえているからだ。
スタンピードは終わり、被害もほとんどない。
何人かの殉職者が出たことには皆心を痛めているが……それにしても少なすぎる犠牲。
滅多にどころか、一生に一度しか見れぬほどの白銀龍の顕現。
そして、街を救った英雄は救国の【大角】の縁者との噂もある。
色々と、普段にないスタンピードであった。
「こりゃあ……ガラムルさんの店の方じゃねえか?」
そこへ、獣人の若者がやってきた。
「へえ、人族と戦って死にかけたっていうあの?」
「そうさ! あの人は腕っこきの傭兵だったんだが……それでも敵わなかった相手をやっちまうなんてな、例の英雄様はさぞお強いんだろうねえ」
どうやらこの3人は仕事仲間らしく、連れだって声のする方へ歩き出す。
「丁度いい、それならガラムルさんに戦いの話を聞きに行こう! ようやく落ち着いてきたしな!」
「そりゃあいい、外壁の補修も済んで懐もあったけえし……行くか!」
「行こう行こう! あそこの煮込みはうめえしな!」
そういうことになったようだ。
いくつかの路地を通り過ぎ、3人がガラムルの店【ミルン】にたどり着いた。
「こいつは……なんだい?」
そこには、黒山の人だかりがあって……歌は店内から聞こえてくる。
獣人が、人だかりの中に知り合いを見つけたようだ。
寄って行って、肩を叩く。
「おーいジョンスのアニキ、なんか催しでもやってんのか?」
衛兵隊の制服を着たその獣人は、振り返ると笑って言った。
「ようハーガル。例の英雄様がな、異国の歌を歌ってるんだよ。中々乙なもんで……いつの間にか人だかりになってんだ」
「そ、そいつはすげえ! かのお方は吟遊にも通じてなさるのか!」
3人が人だかりの外側に着いた時、声が聞こえた。
「――コレハァ~……ヒック! 故郷ニ、伝ワル古イ歌ナンデスケド……ンン~……ゴホン!」
いささか酔っているようなその声の主は、立ち上がる。
新たに加わった3人にも、その姿は見えた。
少しふらついているが、ジョッキを持って立ち上がったその姿は偉丈夫の一言がよく似合う。
太く長い角、傷一つなく輝く、黒い甲殻。
兜のような頭部の隙間からは、蒼く輝く瞳が覗いている。
その姿を見て、人だかりのそこかしこにいる娘たちが改めて熱い吐息を漏らした。
「スゥ――」
ジョッキを振り上げ、肩に妖精を乗せた男……ムークが歌い始めた。
「――英雄ハ来タル、英雄ハ来タル。邪悪ナ龍ヲ討ツ英雄ガ来タル」
雄々しく、勇猛な声だった。
「――イト寒キ地ヨカラ、雄々シキ声ノ魔術ヲ携エテ」
その声に合わせ、肩の妖精が愛らしく左右に揺れる。
もう1人、鳥の妖精はその周囲を嬉しそうに旋回していた。
「――カノ地、全テノ弱者ノ敵。悪シキ龍ニ鉄槌ヲ下サント」
アルマードの少女が、手拍子を打つ。
「――恐レヨ、恐レヨ敵ヨ。英雄ハ来タレリ」
空の民が、ジョッキを打ち鳴らしてそれに加わった。
「――暗闇ハ消エ、伝説ハ尚輝ク。皆ハ知ルダロウ、英雄ガ来タリシコトヲ――」
一節が終わり、ムークが声を潜めた。
そして――また拍子が変わる。
「――ッ♪」
彼が歌ったのは、この世界のどこにも存在しないであろう耳慣れない言語だ。
しかし、何故か心惹かれるメロディーと雄々しき声に、観客は聞きほれた。
その言語の歌はしばらく続き、終わった。
「……ゴ清聴、アリガト、ゴザイマシタ~」
ペコリ、と頭を下げて席に戻るムーク。
観客たちは、万雷の拍手とアンコールを叫ぶのだった。
・・✩・・
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