第108話 色々足りなくなりましたが、空は(比較的)自由に飛べました。
「ムーク様!? もう動かれて大丈夫なのすか!?」
進化した体を試運転すべく、アカを肩に乗せてベッドから立って布のカーテンを出る。
棍棒に戻ったヴァーティガも忘れずにね。
すると、そこにはお盆に果物的な何かを乗せて歩いてきたロロンがいた。
「ウン、ピンピンシテルヨ。ホラ見テ見テ」
「じゃじゃじゃぁ!? な、なんとはあ……ご立派に!」
補助翼を展開して見せると、ロロンは目をキラキラさせて喜んでいる。
果物をこぼさないように、ちっちゃくぴょんぴょんしてる!
何このカワイイ生き物!
「色々デキルコトガ増エタカラネ、チョット修行シテクル」
「そうでやんしたか……あっ!」
ロロンが何かに気付いたような顔をして……近くのテーブルに果物を置く。
そして……とっても申し訳なさそうに、ポッケから布を取り出した。
「ムーン? ナニソレ」
黒くてつやつやの布地に包まれてるのは……あ、ボクのマジックバッグ!
……まさか、その布って……
「ムーク様のマントと、風呂敷でやんす」
やっぱり!
そうだ……今回バッグはすぐに魔石を取り出せるように、首元に小さくして付けてたんだった。
あの火球で燃えなかったのはいいけど……マントは。
『いい働きでしたよ、そのマントは。例の魔法が炸裂した時にむっくんを守りましたからね……それがなければ、ひょっとして首だけになっていたかもしれません』
そっか……
受け取ったマントの成れの果てを見る。
ありがとう、ボクの素敵なマントさん。
お世話になったね。
「何カニ再利用デキンモノカ……」
このまま捨てるなんてできないしね。
おひいさまから貰った大事なものだし。
「しぇば、ワダスが繕って……その、棍棒の飾り布にしてもえがんすか?」
「オー、ソレハイイ! アリガトウロロン!」
さすがのロロンだ!
なーんていい子なんでしょ!
「ひゃわっ!? はわわわわ」
嬉しくなって、ロロンを持ち上げてグルグル回っちゃった。
降ろしてあげないと!
「ジャア、オネガイデキル?」
「はいっ! お任せくだんせ!! ああ! そちらの果物ば、お食べえってくなんせ~~~~~!!」
早速そうするのか、顔を赤くしたロロンは布を大事そうに胸に抱いてどこかへ走って行っちゃった。
行動が早い……!!
そして果物をアリガトウ!!
「おやびん、あーん、あーん!」
「ムゴゴゴ」
アカ! 果物を口にねじ込むのはやめてくださ――美味しいなコレ!
・・☆・・
「ベルト君モナインダッタ……」
果物を食べた後、アカと一緒に外へ出て……はたと気付いた。
胴体の半分まで消し飛んだんだから、流体金属腹巻きも殉職しちゃったことに。
マントと違って跡形もない……うう、格好いい腹巻き……
地味に攻撃を受け止めてくれる、縁の下の力持ちだったのになあ……
「丸裸ハ、マズイ」
慌ててバッグから例の風呂隠し布を取り出して、体に巻く。
試運転が終わったら、ロロンに手伝ってもらって探すかな……腹巻きも欲しいけど、まずはマントだ。
今巻いてるこれには何の効果もないもんね。
「ごわごわ、ごわごわ~!」
アカはこの布の手触りが面白いようで、肩の上でキャッキャしてる。
なにしてもカワイイなあ。
「これはムーク殿!? 如何なされたのですか!?」
てってこ歩いて、やってきました門の前。
クワガタっぽい衛兵さんが無茶苦茶驚いてる……
「病ミ上ガリニ、軽ク鍛錬ヲト思イマシテ」
「なんという向上心! し、しかしそれなら衛兵隊本部でもできましょう? スタンピードが終了したとはいえ、お一人ではあまりにも……」
心配されてる……くすぐったいなあ。
「だいじょぶ! アカ、アカいる~!」
『私もいるわ! いるわ!!』
右肩のアカ、そして途中で合流した左肩のピーちゃんがそれぞれ抗議している。
「こ、これは失礼を……ですが、くれぐれもお気をつけて!」
「もしよろしければ私が護衛をいたします!」「私!私も!」
「馬鹿者! 下がっておれ!!」
……女性兵士さんたちがむっちゃ出てきた……
「大丈夫デス、戦ウワケジャアリマセンカラ。散歩デスヨ、散歩」
問題が大きくなる前に、ササっと出発した。
イケメン虫も大変でござ……調子に乗るのはやめておこう、そうしよう。
『っち、コレで勝ったと思うなし』
何の勝負もしてないんだけど……
あんまり遠くに行くと心配されるかもしれないので、街が見えるくらいの場所まで歩いてきた。
ここなら周囲に何もないし、スキルの試運転もしっかりできそう。
『2人とも、何が起こるかわかんないからお空飛んでて~』
そう言いつつ、補助翼を展開。
『あいっ!』『まあ! むっくんの羽が格好よくなったわ!』
どうやらピーちゃんにも好評のようだ……さて。
続けて集中……背中側の装甲を開けて、『魔導推力増強器』に魔力を集中する。
――ブースターに魔力が集中し、きぃいい……と耳慣れない格好いい音が聞こえてきた。
おお、それほど魔力を持っていかれる感じじゃないね。
なんか、集めた魔力をギュ~って圧縮して使ってるような感じ!
本当に離陸前の戦闘機みたい!
若干重心を下にし、魔力を込める。
ちょっとスキージャンプの跳ぶ前みたいな感じになってるね。
さて……行くか!
魔力を流す量を増やし、甲高い音がどんどん高くなる。
それでは……むっくん! テイクオフ――
「――ギャアアアアアアアアッ!?!?」
かなり離れていたハズの、森。
そこに、ボクは弾丸のように突っ込むのだった。
か、加速が……加速が唐突で、さらに速すぎるゥ!?!?
『おやびーん!?!?』『キャーッ!? むっくん! むっくーん!!』
妖精2人の叫びを聞きながら、ボクは木をなぎ倒す虫と化したのだった。
ちくしょう!殺人的な加速だからちくしょう!!
あああああ! ここら辺の木は柔らかいなあ!!
ちょっとは黒い森を見習っていただきたい! ムグーッ!?!?
・・☆・・
「おい! アレを見ろ!」
「木が倒れ……まさか! ムーク殿の身に何か!?」
「いや違う、体当たりだ……体当たりの鍛錬をされておられる!」
「な、なんと……あれ程の傷から復帰されてすぐに、これほどの鍛錬を……!!」
「凄まじき武人よ……我らも見習わなければならんな! 皆の衆!!」
「「「応ッ!!」」」
・・☆・・
「だいじょぶ、だいじょぶう?」
「大丈夫……ナントナク、大丈夫!」
かわいそうな自然破壊を繰り返すこと、数度。
木々をなぎ倒したり、地面に潜ったり、泥まみれになること数度。
すっかりドロドロになったボクは、なんとなく『魔導推力増強器』の扱いに慣れてきた。
これ、思ってる半分以下の魔力を込めないと加速し過ぎちゃうんだ。
地面からの離陸で使おうとすると、どこかで齟齬が出る。
『がんばって! 小鳥さんの巣立ちみたいでとってもワクワクするわ! するわ!』
なので……離陸というか、初手からの使用はまだ厳禁。
だからこうして……まずは、ダッシュ!!
ダッシュからの! 三段跳び!!
ホップ! ステップ! ステップ! 大ジャーンプッ!!
『四段跳びじゃん、ウケる』
――大ジャンプ中に、衝撃波を下に向けて発射!
ここで補助翼展開! 風に乗ったら――『魔導推力』――もとい魔導アフターバーナー点火ッ!!
――景色が、一瞬で流れる。
なんて、加速、力ゥ!!
ここで補助翼をほんの少し、ほんの少し操作。
ボクの体は、それだけで空に向かって急上昇した!
足元には、さっきまで散々突っ込んでた森がある!
フーッ!! やった! やったよ!! 飛んだ、飛んだぞ~!!
『はやい! おやびん、はやい、しゅごーいっ!!』
『ロケットさんみたいで格好いいわ! 格好いいわ~!!』
妖精たちが追い付いてきた。
キミたちだって速いじゃん!
でも……ハッハ! これは素敵だ! とっても素敵だ!!
『2人とも、これから一緒にエンシュの上を飛んでみようよ!』
『あーいっ!』『負けないわ! 負けないわよ~!』
アフターバーナーに魔力を流し、圧縮!
殴りつけられたように加速する、ボク!!
慎重に補助翼を操作し、旋回してエンシュ上空へ体を向ける。
お世辞にも流線形じゃない我がボディは空気抵抗が凄いけど、一回勢いが付いちゃえばなんとかなるね!
高速機動戦闘とかはまだ無理だけど、一撃離脱とか速攻逃げるとかにはとっても使えそう!
「キレイダナ~」「きれえ、きれえ!」
『人に乗って見る景色は格別よ、格別だわ~!』
足元にエンシュが見える。
頭にピーちゃん、そして肩にはアカ。
速度を一定にして、アカの念動力の力を借りつつ飛行虫。
散々転げ回った甲斐があって、これくらいのことはできるようになったねえ。
『そろそろご飯食べに行こうk――』
ばじん、と嫌な音。
……なんで背中のブースターが爆発するんですか!?
『ああ、過負荷のようです。できたばかりの器官で無茶をするから――』
ああああああ! あっという間に地面が!地面が近付く!?
アカ!ピーちゃん! 逃げて~!!
とにかく衝撃波で速度を殺さないと! 殺さないと!
『まあ、なんの遊びですの?』
急激に落下したボクを優しく空中でキャッチし……不思議そうにのぞき込んでくるテオファール。
いままで姿を消して近くにいたのか……
『ありがとう! 命の恩人だ! 愛してる!!』
『あいっ!?!?』
その優しい龍さんは、目を少し見開いて恥ずかしそうに……
『もうっ! 破廉恥ですこと!』
「アギャーッ!?!?!?」
特大のデコピンをくれたのだった。
ボクは兜が割れて昏倒しましたとさ。
めでたし、めでたくもなし!!
追伸
ロロンの手によって、マントくんは綺麗な組み紐へと変身しました。
とっても嬉しい。




