第107話 時と場所を選べない進化ってどうかと思うな! 思うな!
『今回、むっくんが受けた損傷はかなりのものでした。それを修復するためにはそれなりの魔力が必要なのですが――テオファールさんが良かれと思って使った魔石が、その』
現在ボクは、でっかいベッドの上で自分に毛布をギチギチに巻き付けている。
そう、進化の光がお外に漏れないように、だ。
『かなりの等級だったので……回復分の寿命を補填するどころか、進化ポイント的なやーつを振り切ってしまいました』
……ちなみにどんな魔物なのか、わかる?
『ご本人に伺いましたからね。いくつもありましたが……特に【ネビュラ・クラーケン】という……簡単に言えばイカさんの化け物の魔石がヤバかったのです』
ああ、なんか概念で聞いたことがある気がする。
……強いの?
『全長約20メートル、平均30本の触腕を振り回して暴れ回り、口からは高密度に圧縮された水ブレスを連射します。控えめに言ってとんでもない魔物です』
……つまり、いつぞやのカメさんみたいに……ボクがどうしたって勝てないタイプの魔物さんってことね。
『それもありますが、今回はむっくんが着実に強くなっていたこともあり……まあ、最後の一押し的な感じでしょうか』
そっかあ……ヴァーティガの呪文も第二句まで言えるようになってたしね。
それなら、前みたいに急激な進化で体に齟齬が……とかも少ない?
『はい、大丈夫ですよ。あの時よりも大幅な変化は起きないでしょうね』
よかった……あ、そういえばトモさん! ボク、ヴァーティガと夢でおはな……し……を……?
な、なんか、なんか急に無茶苦茶眠気が……ねむけ、が……
『ああ、始まりますね。それではむっくん……生命魔素、変換開始――』
あらがえぬ……あらがえぬ、ねむ、け……
――すひゃあ。
・・☆・・
「ムゴゴゴ」
たぶん朝。
毛布に包まれて、ボクは目覚めた。
「なんという寝相なのナ……ムークも人のことを言えないんじゃないのナ?」
この声はアルデアだ。
珍しいね、ボクより早く起きるなんて。
「まったく、世話の焼ける男なのナ……」
どうやら毛布を取ってくれるらしい。
エジプトのミイラくらい巻き付けたからね、ボク。
「そら」
ぐるぐる……と、毛布が取れた。
あ~れ~!? って感じに。
……うおまぶし! 結構な時間になってるっぽい!
進化でスヤスヤしすぎたね……
「アリガト、オハヨウ」
「おはようなのナ……む、ムムム?」
どうしたのアルデア、そんなにボクの顔見て。
「ドシタン?」
「ムー……ウナッ」
おわわ!?
何でいきなりボクを裏返しに!?
「ムーン……お前、背が伸びたし体が少し変わっているのナ?」
「エッ」
トモさん! そんなに変わんないって言ったじゃないのさ!?
「ソウナン!?」
「フムム……まあ、それも仕方ないナ。胴体半分に手足まで失ったんだからナ……心配しなくても、生きていれば丸儲けなのナ。多少体つきが変わってもナ」
あ、そういう感じの勘違いをしてくれるのね。
「ウ、ウン……アダッ」
何故デコピンをするのですか、アルデア。
「ンフフ、別に前より不細工になったとかそういう感じではないのナ。大丈夫、相変わらず外側だけは雄々しいのナ」
外側だけはってなんすか!
それだと中身はヘッポコみたいに聞こえるんですけど!!
『そだよ~?』
シャフさんまで! ひどいや!!
「元気そうでよかったのナ。それじゃあ私は飲み歩きに行くのナ~! ナナナナ、ナナナ~♪」
そう言って、鼻歌? まじりにアルデアは去って行った。
自由人……スタンピード終わった感じなんかな、これだと。
パンパン聞こえないし。
『ええ、その通りです。昨日の夜半過ぎに終わった感じですかね……丁度いいことに周囲に誰もいませんし、ササっと確認を済ませますか?』
うん、そうする。
今更だけどワクワクしてきた!
トルゴーンに入ってから初めての進化だもんね!
じゃあ、よろしくお願いしま~!!
『はい、では』
ブンっと表示される、懐かしのスキルボードくん!
さあ、確認するぞ~!
・個体名『むっくん』
・保有スキル『複合視覚補助』『魔力吸収最適化』『衝撃波(大)・全方位』
『高性能空中姿勢制御』『魔導推力増強器』
『隠形刃腕・超振動』『撃発高回転螺旋刺突棘・二段・任意射出』
『連環撃発棘・二段・電磁赤熱化』『耐衝撃・対魔法複合高密度甲殻』
『魔素凝縮電磁投射砲・過電流』
……なんかちょっと変わってない?
細かいのが足されたりしてて……増えてるのもあるし!
とりあえずトモさん! 一個一個説明おねがいしま!!
『はい、では順番に……まず『高性能空中姿勢制御』ですね。これはむっくんの補助翼がより細かく動くようになったようです。空中での姿勢を保つのが目標でしょう』
おー、地味に便利。
でもこれも気になるけど、その次……『魔導推力増強器』ってナーニ?
『背中の中心と後ろ腰に意識を集中してみなさい。何かできるようにはなっていませんか?』
ふむん、そう言われても……ム、ムムム……できた!
今装甲がガシャってスライドした感じがあるよ……っひ!? なんか中にある!
今触ったけど、中に筒みたいな円形の感触があったよ!?
『それが、噴出口です。地球の戦闘機で言う所のアフターバーナーのような器官ができたようです』
マジで!?
こ、これでボクも単独離陸虫になれるんだ……今度お外で試してみよう!
柔らかい所で! 墜落したら痛いし!!
えーっと……とりあえず次だ次。
次に変わってるのは……
『『撃発高回転螺旋刺突棘』ですね。これは……射出時にさらに回転を強化して、弾道の安定化と貫通力を強化したようです』
おー、使いやすくなったんんだ!
ふふふ、メインウェポンが強化されたぞ!
んでんで、チェーンソーの方は今まで通り……と。
んじゃ、残りは……
『では最後、『魔素凝縮電磁投射砲・過電流』ですね』
そうそう、それそれ。
なんか不穏当な単語が追加されてるんですけども。
『これは、従来の電磁投射砲をさらに……むっくんの言葉で言うとオーバーチャージできるスキルですね。まあ、わかっているとは思いますが……慣れるまではやめておく方がよろしいかと』
ですよね~……
今の電磁投射砲でも大変なのに、その上なんて……絶対体バッキバキになるし、吹き飛んでグシャア! なるじゃん……使い所はしっかりしないとね……
むーん……確かに、一部を除いて妙な進化はしていないね。
順当って感じ!
勝手がわからなくて大変な事にはならないと思う。
油断はせずに鍛えよう、そうしよう。
『素晴らしい向上心です……それで、体も確認しますか?』
うんする!
アルデアが言ったことも気になるしね!
『では、どうぞ』
目の前のスキルボードくんが、鏡になる。
さーて、ボクのニューボディは……
素敵な兜の形状に変化はない。
全身も大きく変わってないね……あ!でも身長は伸びてる!やった!!
後ろは……ムムム!
おー! 補助翼が! 展開した補助翼が大きくなってる!
今までよりも細かく動くし……むんっ!
背中の中心と、腰の装甲がバシャン! って開いた! カッコイイ!!
宇宙船とか飛行機みたいな、ジェットエンジンっぽい器官がある!
おおお……格好いいけどどんどんボクってばロボみたいになってくねえ……
『前を向いて胸の装甲板を開いてみてはいかがですか?』
あ、それも見ておこう。
よいしょ――ひえっ!?
胸の中心にある宝石はそのままだけど、その周囲に宝石が増えてる!
上下左右、等間隔に配置されてる! なんか強そう!
『取り扱いには注意してください。通常の電磁投射砲の威力も上がっているようですし』
街中で暴発しないようにしないとな~……
『――虫よ』
あ、ママだ。
もう大丈夫?
『此度は本当に……本当によくやりましたね……母は、母は誇らしいですよ……』
うーん……でも、衛兵さんが亡くなっちゃったし……ボク、もう少しなんとかできたんじゃないかなって。
『アンタ何言ってんの、むっくんがやったのはなっかなかできることじゃないんだから! 胸張りなって!』
シャフさん……
『そんなんじゃ死んだ子たちもももぐももも!?もももも~!!!』
『――私が言うべきことを……おのれムロシャフト……貴様ァア……!!』
『誰か~! 誰か屈強な龍神の方ぁ~! あっ! ゲルムシュフト様! お助け……なぜ逃げるのですか!!』
……ええと、その、うん。
ヴェルママ、ボクもっと頑張るからさ!
今度はクソ人間が来ても、もっと上手く立ち回るよ!
来てほしくないけど!!
『まあ……なんと雄々しく、勇ましき虫でしょう! 母はとても嬉しいですよ! おほほ! おほほほ!』
『このむしんちゅ全肯定ゴッデスがよ……!!』
『(今回は壁を貫通しただけで済みました……この後お疲れ様特上寿司パーティーを執り行います)』
……丸く収まった、のかな!?
「おやびん! おやびぃん!!」
「ムワワワワ」
ボクの体を確かめ終わったあと、しばらくすると帰ってきたアカがほっぺたに突撃してきた。
ちょうどいいから見せてあげよう、ボクのニューボディを!!
「見テ見テ、羽カッコヨクナッタデショ」
ばしゃん、と全身の補助翼を展開する。
アカはそれを見てキャッキャしている。
「かっこい! はね、はねおっき! おっき~!」
ンフフフ、全肯定子分が今日もカワイイ!
『なんかねえ、もうちょっと上手く飛べるようになったみたい。一緒に飛ぼうか、アカ』
『あーい! いっしょ、いっしょ~!!』
さーて、試運転だ、試運転!




