第106話 大歓迎虫。
「ムムム……ム」
目を開けると、真っ暗。
夜に起きちゃったかなって思ったら……すんすん。
このお花みたいないい匂いは……アカ!
『起き抜けのHENTAI虫……!』
冤罪! 冤罪ですよもう!
トモさんったら……
アカがボクの顔面を横断して寝てるみたいだ。
相変わらず凄い寝相だよね……そっと横に下ろしてっと。
ふう……視界はクリア!
外は明るい……朝かな。
って……何この状況。
ボクは……布で区切られた空間にいて、大きなベッドに寝ている。
枕元には翼を全開にしたピーちゃんが寝ていて……近くのソファには丸まったロロンがいる。
んで……何故かそのソファの下では……お酒の瓶を抱えたアルデアが大の字でスヤスヤ。
『むっくんはお空でばーん! した後にテオファールさんにキャッチされてここへ運ばれたのです。ちなみに衛兵隊の本部ですよ、ここは』
そ、そうなんだ……あの人間の魔法、とんでもなかったなあ……
なお、殺しちゃったことに関しての罪悪感はなぁい! 攻めてきた敵の心配をするほどボクは優しい虫ではないのだ!
しかし、テオファールにはしっかりお礼を言わないとねえ。
何から何までお世話になって……
……トモさんトモさん! スタンピードは!? スタンピードはどうなったん!?
『アルデアさんの状況を見ればわかるでしょうに……小康状態になっていますよ。今でも小型の魔物は押し寄せていますが数は少ないですし、大型はテオファールさんが片っ端から駆除しました』
よ、よかった……あ! ほんとだ、パンパン聞こえる!
でも散発的な銃声だね……よかったあ。
一瞬しか見えなかったけど、テオファール凄かったなあ……ビンタで大地竜の頭が粉々になってたもん。
恐ろしくも頼もしいお友達よ……
『ちなみに今は1日後です。むっくんは両手両足と胴体を半分失いましたが、今はこの通りです』
えらいことになって……ないね。
五体満足虫じゃん、ボク。
『すごかったですよ。半死半生のむっくんにテオファールさんが魔石をザラザラ流し込み、街から提供された魔力ポーションを溜めた風呂桶に沈めていましたからね』
拷問かな?
それで治るんだからボクって単純な体ですわ……
『あら、起きましたのね』
布が動いて、テオファールが入って来た。
龍人形態なんだ、まあ当たり前か。
『なんで念話?』
『早朝ですのよ? それに……ロロンさんが起きてしまいますわ。 ずうっと心配していたし、戦闘で疲れていらっしゃるんですもの』
ああ、そうか……ボクとしたことが。
『そっか……ああ、テオファール、色々あって言いそびれてたけど……助けに来てくれて、ありがとうね』
頭を下げる。
テオファールはニッコリと微笑んだ。
『うふふ、いいんですのよ? 『お友達』ですもの、うふふ』
無茶苦茶機嫌がいいね……
『むっくんのお陰で神殿が更地になるのは避けられたし! センキュセンキュ!』
おやシャフさん。
ヴェルママは元気?
『マジヤバかった。むっくんが魔法でジューッ! ってなった時はもう怒り狂って人間の国に神罰ぶっぱしようとしてたし』
……ヤバかった。
でも、僕としてはクソ人間の国がどうなろうと知ったことでは……ある。
いくら上層部とかがクソでも、全部の人間さんがクソとは限らないもん……!
腹は立つけどさ……!!
『えらーい! むっくん超えらい! エラ虫! シャフさんポインヨ付与したげるね~』
有難いけど結局何に使えるんですか、そのポインヨ。
そろそろ教えてくれてもいいんじゃ……
『あーメンゴ! あーしは神託系の仕事があるからこれで~!』
逃げた! 逃げた!!
……んもう!!
『本当に女神様相手に物怖じをしませんね、ムークは……』
『もう慣れたよ、慣れた』
諦めって大事だと思うの。
『それにさ、みんないい人だよ。優しいしさ……トモさんいなかったらさ、ボクなんて虫のまんま死んでたと思うもんね』
『ちょ、ちょっとむっくん! もう! この……タラシ虫! しょうがないのでポイントを付与しますね! もうっ!』
なんで今怒られたの、ボク。
『(それと、今メイヴェル様に言及するのはやめておきなさい。神殿が消し飛びますから)』
……はい。
落ち着いたらね、落ち着いたら。
『そうだ。テオファールはどうするの? もう帰っちゃう?』
『わたくしとしてはあまり衆目に触れることが得意ではないのでそうしたいのですが……こちらの指揮官さまが、礼として宴を開くと言われましたので……もう少しここにおりますわ。特に差し迫った予定もございませんし』
ああ、それならいいや。
『そっか、アカも喜ぶよ……ム?』
もぞ、と気配。
さっきまで枕元にいたアカがボクの膝にいて……むにゃむにゃしながら目を開けた。
「ふみゅ……おやびん……おやびん! おやびーん!!」
「ムワワワ!?」
そして、すぐさま顔面に飛びついてきた。
びっくりした!
「おきた~! おやびんおきた~!!」
「ハーイ、起キマシタヨ~。イイコイイコ、トッテモイイコネ~」
顔面張り付き妖精と化したアカが、全身で喜んでいる。
心配させただろうからね、甘んじて受けグゥウエ!?!?!?
「むーぐざまアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「ゴボーッ!?!?」
ロロンが! ロケットと化したロロンが!
ボクの脇腹に! 脇腹に!?
グエーッ!?!?
・・☆・・
「むししゃん!むししゃん!」
「おじちゃん!おじちゃーん!!」
「ムゴゴゴゴ」
ミルルちゃんとカタコちゃんが突撃してきた!
君たちも元気ねえ!
アカとロロンの声で、ボクが起きたってことはすぐさま周囲にバレた。
あっというまに衛兵さんが押し寄せ――なんやかんや感謝祭があって、それが終わったと思ったら……今に至る。
この大広間のベッドの周りは、現在衛兵さんとかトソバ村の人たち、そして街の住人の皆さんがミッチミチに詰まっている。
みんなめっちゃお礼言うじゃん……慣れないなあ。
『ふふふ……甘んじて受けなさい、英雄虫!』
トモさんがご機嫌なのが救いというかなんというか……まあ、いいか。
「むししゃん、あいがと、あいがとー! おとーしゃ、あいがと~!!」
「ハイハイ、ウンウン」
ミルルちゃんは、ベッドの上のボクの膝の上にいる。
もう元気だから降りたいんだけど、周り中から『安静にしててー!!』の嵐なんだよね。
魔素なんとかだってことがあんまりバレたくないので、このままだけど。
あ、ちなみに対外的にボクの体は『テオファールがむっちゃ凄いポーションを使ってくれた』ってことになっている。
彼女には悪いけど、龍のポーションなら胴体も手足も生えても問題ないなあ……って感じで皆さん納得されてる。
便利! ドラゴンって便利!
個人的な恩返しはちゃんとするけどね! ね!
「いやあ、あん時はもう駄目かと思ったぜ……本当にありがとうな、ムークさん」
「イエイエ」
ミルルちゃんのお父さんことガラムルさんだ。
彼は、あのクソ人間に片方の義足を破壊された。
体の方はポーションで治ったみたいだけど、義足はそうはいかない。
今も、松葉杖をついている。
あれ、結構高そうだったもんなあ……街から補填とかされるんだろうか?
今度ニカイドさんに聞いてみよう。
「それによ、スタンピードを片付けた白銀龍様をここへ呼んでくれたのもあんたなんだろ? 感謝してもし足りねえってやつだよ……! 元気になったらウチに飲み食いしに来な! 全品タダにするからよお!」
「ソレハ……楽シミデスネエ!」
あそこのご飯おいしかったしなあ!
十分な報酬だよ、報酬!
ちなみにテオファールはどこかにいます。
姿を消しているのでボクには皆目見当もつきません。
「きて! きーて!」
「ウン、行クヨ。ネーアカ」
「あい! おいしかった、かったあ!」
ミルルちゃんの頭に登っているアカが同意。
キミたちも仲良くなったねえ。
『私、食べてないわ! 行きたいわ! 行きたいわーっ!!』
「メギャーッ!?!?」
ピーちゃん! わかったから突撃してこないで!?
ほっぺたが爆発する!!
・・☆・・
「おうおう、元気そうじゃの」
色んな人が話に来て、握手したりハグされたり、腹の足しにしてくれってご飯とかお菓子とかを置いていったり。
そんなことをずうっとしていて、気が付いたらもう夕方。
いつの間にか近くにいたシラコさんが『怪我人なんだからそろそろ休ませないと』的なことを言ってくれたので、皆様はお家に帰って行った。
それで一息ついていたら……ラオドールさんが来たんだ。
アカとピーちゃんはベッドでスヤスヤしていて、ロロンはお洗濯。
アルデアはまだ端っこで寝ている。
……寝すぎじゃない?
「オカゲサマデ……」
「ほっほ、流石は『魔素転換者』……回復力は一級品じゃな」
……バレとるがな!?
ど、どどどどうして!?
『むっくんは知りませんが、昏倒している時に彼の目の前でテオファールさんが魔石をバンバン口に入れていましたので』
……それは、しかたないか!
それやんなかったらボク死んでたかもしれんし!
でも、どうしよ。
この人って【ジェマ】のエルフさんだし……気を付けろって言われてたし……
「心配せんでも口外せぬよ。お主には孫が世話になったし……あれほど身を粉にして働いた者には報いねばな」
レクテスさんにはお世話になったことはあっても逆はないんだけど……ま、まあいいか。
「じゃが、注意せよ。自分の国のことを悪く言うのもアレじゃがな……研究の徒には人の話を聞かん社会不適合者も多いからのう」
……コワイ!!
「どこにしまったかの……おお、これじゃ」
ラオドールさんは、懐から綺麗な宝石が付いたペンダント?を取り出した。
なにこれ?
「ジェマの研究者に会って、何か困ったらこれを見せい。まあ、儂もそこそこの顔であるからな……無下にはされんであろう」
……ありがたいすぎる! すぎる~!
やっぱりエルフさんは最高だ! 最高!!
『むっくん、むっくん』
あ、はいなんでしょトモさん。
『すっかり言い忘れていました――むっくん、今晩あたり進化しちゃいますよ』
あー、進化ね、進化。
そっかあ……はああああああああああああああああああああああああああ!?!?!




