第104話 たーまや~!!
「――ぎぃ、あぁっ」
実は大剣だったヴァーティガ。
その一撃は、黒炎を放つ大剣を斬って、それを握っていた両腕を斬って――
人間の肩口から入って、腰のあたりから飛び出した。
「――オオオオッ!!」
動きの止まった人間の、鳩尾を蹴る。
意識が朦朧とするけど、少しだけ残った魔力を流す。
右足の棘を、どこかの骨が砕ける感触を感じながら――放った!!
今度こそ、棘は突き刺さって貫通した。
両腕を失った人間は、体中から血を撒き散らしながら吹き飛んで、壁に激突。
地下空間が揺れるほどの、轟音が響いた。
「ご、ぱっ」
人間は、信じられない量の血を吐いて――前のめりに倒れ込んだ。
そして何度か痙攣を繰り返して……動かなくなった。
『むっくん、むっくん! 一刻も早く回復を! むっくん!!』
トモさんの声を聞きながら、ボクも倒れ込んだ。
指一本も動かない……これ、これ、ヤバい、かも。
「――びん、おやびんっ!!」
倒れ込んだボクの前にアカが着地した。
ああ、助かる……動かないから魔石出せないじゃん!?
ど、どうし――ごばば!?
「のんで、のんで~!!」
これは、魔力ポーションのボトル!?
アカってば頼れる子分すぎるマッズウウウウウウウウウウウウウウウウ!?!?
なにこれ!? 煮詰めたシップ水を腐らせた物体!?
魔力ポーションってこんなに、こんなに不味いのォ!?
「アゴゴゴゴ……」
マズ過ぎて痙攣しながらも、あっという間に倦怠感も飢餓感も消えていく。
『これは……上級魔力ポーションですか、カマラさんの持ち物でしょう。凄まじい魔力回復力ですね……』
有難いけど、不味い!まずーい!!
「おやびん、おやびいん!」
「……アリガト、アカ、ダイスキ」
死ぬほどまずかったけど、死ぬことはなかった。
ふう……元気虫!
『いやいや、バキバキじゃんむっくん』
……ほんとだ!?
体中の鎧がメタメタに壊れて、中身がむき出しになってるゥ!?
さっきの攻撃の余波か!?
あああ!? ヴァーティガがまた棍棒に戻ってる!?
……なんなんだ、わかんないことだらけだよ……
「アカも~! アカもおやびん、だいしゅき! ちゅよい! かっこよ、かっこよ~!」
頭に抱き着くアカを撫でながら、体を起こす。
なんとか、なったね……
『第二句までの詠唱、本当にギリギリでしたよ。もう少し保有魔力が低ければその場で死んでいたんですからね! この、迂闊虫!』
ご、ごめんなさい!
でもああしないと倒しきれないって思ったから、無我夢中で……
『全くもう、むっくんは本当にハラハラさせる子ですね、今度からは――まだ人間が生きています!!』
なんだって――マジだ!?
血塗れだけど、こっちを睨んでる!?
「おおいなる……しゅじょう、よ、わが、いのち……ひざもと、に、かえさん……」
魔力!?
もう死にかけなのに、とんでもない魔力が渦を巻いてる!?
『むっくんの寿命消費と同じです! どういう理屈かはわかりませんが……それを使って魔法を詠唱しています!!』
「アカ、ゴメン!!」「にゅわっ!?」
立ち上がって、跳ぶ!
衝撃波の余波で鎧が砕けまくるけど、そんなこと言ってる場合じゃない!!
『あれだけの魔力量、仮にここで発動すれば……この区画は吹き飛びます!』
やっぱり!
どう見ても自爆する系の行動だもんね!!
「……けがれ、ものに、かみなる、ばつを……ッヲ!?!?」
地面に横たわる人間に、隠形刃椀を突き刺して跳ぶ!
入口に、向かって!!
「サセルカ! ソレダケハ――サセル、カ!!」
瓦礫を弾き飛ばし、階段を駆け上がって――地表に、出る!!
「……ちじょう、に、らく、え――ぎぃ!?」
「黙ッテロコノクソ人間ッ!!」
隠形刃椀で引きずっている人間に、左ストレート!
パイル、オン! 縫いつける!!
早く、早く、はや、く!!
冒険者ギルドを飛び出し、南の壁に向かって走る!
ゴンドラを待っている時間なんてないから、レールを蹴りつけて加速!
上に、上に! もっと、上に!!
「む、だだ、むし、け……ら……」
人間の気配が希薄になる――ヤバい、死ぬ!
死んだら発動する系の魔法だったら、とってもヤバい!!
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!! ミンナ、逃ゲロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
レールを足と衝撃波で無理やり駆け上がり、最上階へ!
ボクがいた時よりもボロボロになってる皆さんが、こっちを見て何か叫んでいるのが見える。
その中を駆け抜けて――あった!詰所!!
『ムーク!? あなた、何を――』
あっ!大地竜をビンタで粉々にしてるテオファールがいる! すっご!?
助太刀に来てくれたんだね、ありがとう!!
でも今はお礼を言う暇も、ないッ!!
「なぜ、わたし、が……こんなところ……で……」
人間の目から光が消えていく――畜生!もっと根性見せろこの野郎ォ!!
「フンッ!!」
詰所の壁を駆け上がり、両足にありったけの魔力を込めて――ジャンプぅッ!!
その頂点で――衝撃波! 衝撃波! 衝撃波ァ!!
装甲が軋み、破片を散らばらせ――ボクは、ロケットよろしく空へ打ち上がった!
まだだ! もっと、もっと上に! もっともっと上空に!!
『むっくん! 魔力暴走、臨界点――その人間が爆発しますよ!!』
ありったけの魔力を総動員して、かなり高い所まで飛んできた!
人間から隠形刃椀を引き抜いて――
「……ぁ、お……」
「――死ヌナラヒトリデ死ンデロ! クソ人間ンンンンンンンンンンンンンンンッ!!!!!!!!!」
左手パイルに魔力を『込めず』、射出した。
思った通り、貫通しなかった棘3本は人間を引っ掛けたまま――ロケットみたいに空高く飛んでいく!
これだけ、街から離れれば――
『むっくん! 体を丸めて魔力防御! 人間が――爆発しますッ! 今ッ!!』
――目の前に、太陽が出現した。
そう思った次の瞬間には、熱いという言葉すら生ぬるい熱量に襲われる。
魔力でコーティングした手足が、飴細工みたいに溶けて――
・・☆・・
(三人称)
エンシュの衛兵は、見た。
黒い疾風のように壁を登ってきた何者かが、詰所を足掛かりにはるか天空まで飛翔する光景を。
「むっ――ムーク様ァあ!?」
ロロンが目を見開いて叫ぶ。
「ムーク! あいつ、何故あんなに高く――」
アルデアも、その横で驚いた。
それと同時に、白銀龍の念話がほぼ全ての者に届いた。
『いけない――とんでもない魔力が炸裂しますわ! 皆さん!お伏せになって――!』
反射的に、意識のある者たちが伏せる。
それからいくばくもしないうちに――エンシュ上空に、太陽と見紛うばかりの火球が発生した。
壁にも、衛兵にも致命的な被害は出なかったが……恐ろしいまでの熱量に、誰もが背筋に寒いものを覚えた。
「――ムーク様ァアアアアアアッ!!」
上空を見上げ、絶叫するロロン。
何が起こったかは皆目見当もつかないが、彼女が敬愛するムークは……あの火球により近い所にいた。
その意味を知って、彼女はとてつもない絶望感に打ちひしがれている。
「絶望するにはまだ早いナ! とにかく、落下してくるムークを見つけないと――」
空の民の命たる槍を放り捨て、アルデアが羽を振って飛び立つ。
あれ程の高度から落下するだけでも、無事には済むまい。
それより先に、受け止めるつもりだった。
――その彼女の眼前で、銀光が走る。
白銀龍テオファールが、上空の火球へ向かって飛んだのだ。
その速度が生じさせる衝撃波で、何人かの衛兵が地面に倒される。
ロロンやアルデアが見上げる中、テオファールはある一点で動きを止める。
そして……飛び上がった時とは比べ物にならないほどの低速で、下降を始めた。
火球の閃光が収まりつつある中で、テオファールは降りてくる。
そして、ロロンとアルデアの頭上で――淡く光る。
光が収まった後には、彼女は龍と人との中間めいた状態になっていた。
その腕には――
「あ、あああ、ああああああああ!!」
ロロンが叫び、アルデアが息を呑んだ。
テオファールが抱えていたモノ、それは――
――両手両足と、胴体を半ばまで失って……見るも無残に焼け焦げた、ムークだった。
テオファールは、胸に抱いたムークを痛ましそうに見て……ふと、目を見開く。
「なんてこと……息がありますわ! どなたか! 魔力ポーションをありったけお持ちになって!!」
念話ではないその叫びは、城壁の隅々まで届いた。
その声を聞いた全員が、すぐさま動き出す。
おそらく、この街を存亡の危機から救った――英雄を、死なせないために。
・・☆・・
なんだ、ここ。
……ああ、いつもの草原じゃんか。
相変わらず綺麗だな~……
ね、トモさん……トモさん?
あー、そう言えばここって夢空間なんだった。
よーし、寝るまでの状況がよく思い出せないけど……今日こそ空を自由に飛んでやるんだ!
やっるぞ~!
目指せ、明晰夢!!
『緊張感のない男だな、あいも変わらず』
――どちらさんで!?!?




