第101話 許さない。
(三人称)
爆発と共に吹き飛んできたもの、それは衛兵たちだった。
誰もが、体のどこかに浅くないケガを負っている。
「ぬうぅう……み、見えぬ!」
傷がいくらか浅い衛兵が、短槍を支えに立ち上がる。
敵が、見えないのだ。
魔法を放つも、手ごたえがない。
それなのに、向こうの放つ魔法は的確にこちらを捉えてくる。
「怯むな! 者ども!」
「応! 見えぬなら面だ! 面で狙う! 雷神呪、広域!!」
「「「――破ァッ!!」」」
空間に走る稲妻。
彼らのいる場所から、入り口に向けての一掃。
――しかし、手ごたえはない。
「――上だ! 上に――ッガ!?!?」
空中を見上げた衛兵が吹き飛ぶ。
彼は、何度かバウンドして壁にめり込んだ。
すかさず、残りの衛兵たちが空中へ向けて稲妻を放つ。
それにも手ごたえはなく、新たに2人が吹き飛ばされた。
後方、避難民集団。
衛兵の奮戦を見ながら、全員が三角形の内部に身を寄せた。
「よし! 魔力を込めな! 魔力ポーションの予備はいくらでもくれてやるから、全力でやりな! 周りの連中で魔力が練れる奴は力を貸しなァ!!」
子供たちに縋りつかれながら、カマラがさらに魔力を練る。
「『方陣を敷いて守り給え、大地の子らを守り給え、愛し子を守り給え』」
空中に走る線に魔力がたぎり、太く、強靭になっていく。
魔法具に散った娘たちも、手を当てて一心に魔力を練っている。
それによって魔法具そのものも光り始め、結界が張られつつある。
「く、うぅう……」「もっと、もっと……」「魔力、魔力を……」
3人の娘たちは、必死で魔力を練る。
要求される魔力量が多いので、充填速度は遅々としたものだ。
「手伝うよ!」「これでも昔はそこそこやれたんだよ!」「頑張んな、嬢ちゃん!」
周囲から何人かが走り寄り、手助けを始める。
魔法具の輝きが増し、結界の色が濃くなる。
「――虫けらが、無駄なことを」
声が、湧く。
何人かが弾かれたように見れば、そこには黒衣の人影。
その周囲には……地面に倒れて呻く衛兵たち。
全員が、半死半生の状態であった。
人影は、衛兵を踏み越えながら片手を振る。
すると、空間が歪み――剣や槍が現われた。
そのどれもが、闇を煮詰めたような漆黒。
結界は、まだ展開されていない。
中空に浮かぶ槍の1本が、恐怖にかられながらも魔力を練る娘に向かって飛んだ。
それは、瞬く間に空間を疾駆し――
「――じゃらァッ!!」
金属音と共に、弾かれた。
「ガラムル!? お前こっから出たら――」
「――気にすんな! 嬢ちゃんたちは続けなよ!!」
それをしたのは……定食屋の主人で、元傭兵の獣人ガラムル。
彼は、現役時代愛用の手斧を使って槍を弾いたのだ。
「それまでは、もたせてみせらあ! 娘を頼むぜ!!」
彼の手斧は、今の一撃で半ば砕けていた。
とある遺跡で発掘された、かなりの業物が……である。
「――ここには獣もいたのか」
人影が呟く。
その声には、隠しきれぬ嫌悪の感情が滲んでいた。
力量の差は、歴然。
冷たい汗をかきながら、ガラムルが魔力を練る。
失った両足の代わりの魔導義足が、鈍く光った。
「そう言うてめえは……人族だな。しかも一等のクソだ、戦場でよく嗅いだ……屑の臭いがしやがるッ!!」
ガラムルが一気に前へ跳ぶ。
飛んできた剣を弾きながら――崩壊を始めた手斧を、投げた。
音が、3つ。
1つは、ガラムルの手斧が人影の前方で砕け散った音。
残る2つは――
「っぐ、ぅぐ……!!」
ガラムルの左足が砕けた音。
そして、右胸に黒い剣が突き刺さった音だ。
「おとーしゃ! おとーしゃ!」
「駄目よミルルちゃん!」
娘の絶叫を聞きながら、ガラムルは片足で着地。
血を吐きつつ、倒れ込む。
「――舐めんな、クソがァ!!」
倒れ込みながら、砕けた左足の断面を人影に向ける。
「『飛べ』ぇ!!」
魔導義足に仕込まれた金属球が発射される。
魔力によって加速したそれは、空中で炸裂。
細かい破片となって人影を襲う。
人影は、消えた。
「ッご!?」
次の瞬間には、ガラムルの真横に出現。
彼を蹴りで吹き飛ばし、何度も何度もバウンドさせた。
「おとーしゃ! おとーしゃッ!!」
ミルルが、彼女を抱えているララコの胸で暴れている。
涙を流し、小さな手を必死で伸ばして。
「――五月蠅い獣だ。耳障りな」
人影の周囲にまたも出現する無数の剣。
その切っ先全てが、泣き叫ぶミルルへ向いた。
「――て、めえ、やめ、ろォッ!! 娘に手ェ、出すなァ!!!!」
口から血を吐きながら絶叫するガラムル。
彼は、血が噴き出す両腕でなんとか這いずっている。
だが、その進みは致命的に遅い。
「やめろおおおおおおおおっ!!!!」
射出される剣。
それは、まだ完成しない結界に近付き――
――光り輝く魔力体に、叩き落とされた。
「……何?」
少しだけ驚く人影。
瞬時に振り向くと、入り口方向へ向かって無数の槍が飛んでいった。
「えぇえ~いッ!!」
それは、この場にはそぐわない可愛らしい掛け声と共に放たれた魔力体に――残らず迎撃された。
「……妖精、だと?」
入り口には、浮かぶ影。
薄い朱色の羽をきらめかせた妖精……アカがいた。
『アカちゃん!』
泣いている避難民の子供をあやしていたピーちゃんが、驚きの念話を放った。
「おまえ、きらい! きらーいッ!」
アカが、今度は雷撃魔法を放つ。
「羽虫が! 舐めるな!」
人影が消え、次の瞬間には魔法を躱してアカの眼前に現れる。
いつの間にか手に持っていた黒い剣が、魔法を放った後のアカに振るわれ――
「――ガァアアアアアアアアアアッ!!」
その後ろから突き出された――黒い棍棒に砕かれた。
「な、にぃ!?」
人影は跳び下がろうと体を捩り――
「ぐぅッあ!?」
轟音と共に発射された、捩じり尖った杭を胸に喰らって吹き飛ぶ。
「アカ! ミンナノトコロニ! 守ッテ!」
「あいっ!!」
アカが人影を迂回するように飛ぶ。
彼女が避難民の上空にたどり着いた時には、吹き飛んだ人影と避難民の間に――もう一つの影があった。
「……むししゃん!」
漆黒のマントを靡かせ、片手に棍棒を持ち。
全身からマグマのように魔力を放出させている、人影。
ミルルを抱えているララコが、目を潤ませた。
「――む、ムーク様ァ!!」
避難民も、街の住人もよく知る男。
冒険者のムークが、兜の下の目を深紅に輝かせながら立っていた。
「――許サンゾ……オ前ェ!!」
・・☆・・
危なかった……ギリギリだった!
入口が崩落してて、隙間からアカを先行させて………力ずくで道を開いたけど、間に合ってよかった!
そこら中に死にかけの衛兵さんが転がってるし、今だって定食屋さんが死にそうになってるし!
ただでさえスタンピードで大変なのに……なんてことしやがるんだ、この推定クソ人間!!
バッグに手をイン! 出でよポーション!
「店主サン! コレヲ!!」
倒れている店主さんにポーションを投げる。
「すま、ねえ……」
なんのなんの、命よりは安値ですよ!
衛兵さんたちにもあげたいけど……みんな気絶してる。
――地上と、階段の途中にいる衛兵さんは、死んじゃってた。
ここに降りてすぐの人も。
武器を握りしめたまま、目を開けて。
「……っち、鼻の利く虫けらがいたものだ」
クソ人間は、ローブをはたいて立っている。
魔力が十分に通ってないとはいえ、棘が直撃したのにピンピンしてるなあ。
「――隠レテモ、クソッタレハ臭イデワカル」
「虫けらが、その口永遠に閉じさせてやろう」
怒ってる怒ってる。
だけどね……ボクの方が、もっともっともっと……もっと、怒ってるんだよ!!
「ッハ! デキモシナイ事ハ言ウナ!人間ッ!!」




