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第99話 続く状況。

(三人称)




 エンシュ外壁、東側最下層。

そこでは、【エンライ】を構えた衛兵たちが切れ目なく射撃を続けている。

押し寄せる魔物……今はコボルト対して。


「撃て撃て撃て! 照準もいらんぞ! とにかく体のどこかに当てろォ!」


「地面が見えん……こんなスタンピードは生まれてこの方初めてだ!」


「お前は去年衛兵隊に入ったばかりだろ! 新兵!」


「弾倉が残り2つ! 追加持ってこい! 早く!」


 銃声が響くたびにコボルトは倒れるが、即座に後ろから新たな個体が参戦する。

それが、波となって押し寄せてくる。


「死体が山になり始めた――魔導兵、前へ!!」


「炎熱一斉射――撃て!!」


 前列で射撃している衛兵たちが、一斉に下がる。

後ろに控えていた魔導兵たちが前進し、即座に魔法を放った。

火球の魔法が死体の山に直撃し、爆炎を上げて死体を吹き飛ばした。


「良し! 交代――射撃始めぇ!!」


 再び、【エンライ】が火を噴き始めた。


「……一体いつまで続くんだろうか」


 銃撃の後ろで、年若い獣人の魔導兵がこぼす。

ここエンシュには、獣人の衛兵も多い。

彼はその中でも珍しい、魔法に長けた衛兵だった。


「終わるまでさ、ジョンス」


 横に待機している年かさの魔導兵が、彼を慰めるように肩を叩いた。

虫人ゆえに年齢は分かり辛いが、声からは老成した雰囲気がある。


「自分にやれることをしっかりやりゃあいい。それが一番大事なことだ、無理をせずにな」


 これは、戦争でも冒険者の依頼でもない。

功を焦る必要はないし、それは悪手だ。


「魔力を回復させることをまず考えるんだ。どうせまた次が――」


 地響き。

押し寄せるコボルトたちの中心が揺れ、地面が裂けて黒光りする頭部が飛び出した。


「大地竜だ!」


 ジョンスが目を見開き、魔力ポーションを飲もうとする。

それを、先程の魔導兵が止めた。


「やめときな。忘れたのかいジョンス……俺たちには、『上』に強い味方がいらっしゃるってのを」


 魔導兵がそう言った、次の瞬間。

聞き馴れない音と共に、今しがた出現した大地竜の頭部が閃光に包まれ――吹き飛ぶ。

一拍遅れて、頭部を失った胴体から凄まじい勢いで鮮血が噴き出した。


「相変わらずとんでもねえ魔力だ……今上にいらっしゃるのは、噂の【大角】閣下の縁者様かい」


「ザヨイ家の魔導紋をお持ちって方か……」


 自らの魔法とは隔絶した、超威力の一撃。

それを認識したジョンスは……落ち着きを取り戻した。


「そうだよな、俺が先走ってトチったら……迷惑になっちまうよな」


「そうさ! その意気だぜジョンス! 俺たちは俺達にできることをするのさ、しっかりと、確実にな」


 椅子に座り、魔力を回復させる瞑想を始めた後輩を見て……虫人の男は嬉しそうに目を細めるのだった。


 スタンピードは、まだ終わらない。



・・☆・・




 よおおし! 大地竜の頭を吹き飛ばした!

次に備えて魔石を……あふん。

おかしいな、床が垂直になってる……?


「ムーク様、ムーク様! お気を確かに!!」


 誰この足……ああ、ワエコさんか。

ってことは……昏倒しちゃったのか、ボク。


「大丈夫デス……ワエコサン、スミマセンガ、マントノ首元カラ魔石ヲ取ッテクダサイ」


 魔素変換なんちゃらってバレちゃうけど、今は別にいいや。

この戦いが終わったらニカイドさんに言っておこう……ラオドールさんにバレなきゃいいけど。

【ジェマ】の人には気を付けろって言われたもんね……あの人はたぶんいい人だけどさ。


「し、ししし失礼します……これを、どうすれば?」


 あ、取ってくれたんだ。


「ボクノ口ニ放リコンデ……大丈夫ナノデボクハ、エエット……」


『魔素転換者です』


 たすかるう……


「魔素転換者ナンデ……魔石ヲ吸収デキルンデスヨ」


 そう言うと、ワエコさんはしばし躊躇して……ボクの口にカランと魔石を放り込んだ。

ばりばり、がりがり……やっぱり全然美味しくないや……ごくり。

むむむむ……ぐんぐん回復! 一気に健康体!!


「ドッコイセ……」


 体を起こす……よし、新手のデカブツはいないね!


「おやび~ん!」


 アカが来たので、同じように魔石を口へ。


「あんぐ、まうまう……おいし!」


 よし、これでお互いに健康体だ。


「す、すごい……魔力が急激に回復して……で、ですがムーク様! ご無理は禁物です!」


「ムワワワ」


 立とうとしたらワエコさんが止めてくる。


「また大物が来れば私がお知らせしますから! そのままお休みを!」


 そう言われてもなあ……壁際でロロンとアルデアも寝てるし。

だけど、そこまで切羽詰まってないならちょっと休憩するか。

あ、そうだ……ゴウバインさんから貰ったお菓子があったね。

どこだっけ……あ、これこれ。


「アカ、アーン」


「あーん……むぐ……あまー! おいし、おいし!」


 やっぱり見た目通りの黒砂糖的なやつだったか。

喜んでもらえて何よりだね、うふふ。


 それにしても……数が減らないねえ、魔物。

あれからここだけで、大地竜を2桁はコロコロしたはずなんだけども。

死体を乗り越えて小さい魔物がまだまだ殺到してくるねえ。

今のところは銃で対処できてるけど……大丈夫なんじゃろか。

結界だって無限にあるわけじゃないしさ。

ここ以外の人たちも頑張ってるんだろうなあ。

知り合い、ラオドールさんとゴウバインさんしかいないけども。

そこら中で魔法の音が聞こえてるから、絶賛戦闘中なんだろうねえ。


「オオ、ダイジョウブデアルカ?」


 噂をすればワニ……じゃない、ゴウバインさん!


「大丈夫デス、何故ココニ?」


「北ガ小康状態故、助太刀ニ参ッタ」


 有難いなあ……


「おじちゃ、これありあと、ありあと~!」


 アカが齧りかけの黒砂糖を嬉しそうに掲げる。


「ガハハ、ヨイヨイ……」


 その頭を嬉しそうに撫で、ゴウバインさんは例の殺傷力高そうな杖を片手で構える。

――一拍遅れて、気配!

また森が割れて……大地竜のお代わりだ!


「オオ、ソノママデナ」


 立ち上がろうとしたボクを制し、ゴウバインさんが魔力を練り始めた。


「『我求メルハ土塊ノ兵士』」


 こおん、と杖が床に打ち付けられて……何も起きない?

あ、違う! 下の地面がモコモコ盛り上がってる! 無数に!?


「『隊伍ヲ組ミ、突撃セヨ! 雄々シク、命有ルガ如ク』!!」


 あっという間に土のモコモコは簡単な人型になって、コボルトの群れにダッシュで突撃していく。

その数は無数……20より先はわかんない!

見た目は土なのに無茶苦茶硬いらしく、激突したコボルトが体のどこかをクシャってさせながら死んでいく! すご~!

トモさん、アレも魔法!?


『そうですね、召喚魔法の一種です。土に精霊を憑依させて使役しているので……広義的には精霊魔法とも言えます』


 はえ~……色んな魔法があるもんですねえ。


 感心して見ていると、コボルトの群れを突破した土の兵隊は大地竜に到達。

わらわらと体に登り始めた。

何体かは大地竜パンチで粉々にされたけど、数が多いので焼石に水だ。

そして、頭部にまで到達した土兵士たちは……うへぇ、大地竜の口にどんどん飛び込んでいく。

ま、まさか……


「『弾ケヨ』!!」


 どむ、とくぐもった音が聞こえた。

大地竜の喉とか、胸が無茶苦茶膨らんでる……内部で爆発したのか、えげつないや……


「ムーク殿ノ魔法ハ威力ガ高イガ、消費ガ大キスギル。コウイッタ搦メ手モ重要デアルゾ」


「オミソレシマシタ……!!」


 この人がいくつかわかんないけど、これが経験の差ってやつか……

魔法って、奥が深いんだねえ。


「正面ニ兵士ヲ展開サセテオク、其方ラハ体ヲ休メルガイイ」


 何から何まで……ありがたいや。

そうだね、魔力は回復したけど体はしんどいし……長めに休憩しておこうかな。

テオファールが来るまでまだ時間はあるし、焦って消耗しすぎても困るもん。


「アリガトウゴザイマス……ム?」


 振動を感じる。

これは……大地竜じゃなくって……近くから。


 というか、この戦いが始まってまだ出番のないヴァーティガからだ。

ロロンの横に置いておいたんだけど……振動して、光っている。

なに? あんな挙動は初めてなんだけど!?


「ス、スイマセンチョット!」


 慌てて走り寄って、握り手を掴む。

――瞬間、ヴァーティガから何かが逆流してきた!


「ッガ――!?」


 なん、なに、これ!?

なんていうか……これは、意思!?

言葉じゃない、もっとこう原始的な、何か!?



 ――危険 地下 子供――



 脳内を襲う変な感覚から、なんとか解読……できたのか、これ?

地下、子供……まさか!?


『なんでしょう、今極小の魔力反応が――街中の方からありました。数は……一つ、でしょうか?』


 まさか、今のって――

いや、勘違いなら別にいい! いいから――


「スイマセン! 街中ニ何カ嫌ナ予感ガアルノデ! 行キマス!!」「アカも! アカも~!!」


 間違ってたら後で謝ろう!

驚いた様子のゴウバインさんと、ワエコさん。

その顔を見ながら、ボクはヴァーティガを握って――空中に身を躍らせた。

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― 新着の感想 ―
ぬー!?地下に魔力反応!結界は表層のみか!ムッくん急げー!そう言えば、大地竜も地面からくるから想定できる事だったか。ヴァーティガ凄いねぇ。意思疎通までできる様になって。
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