第98話 お願いします!お友達!!
『あらムーク……なるほど、少し面倒な状況のようですわね』
『ごめん……大見得切った手前、申し訳ないんだけど……助けてほしいんだ』
ハテナ顔のニカイドさんの前で、テオファールと念話。
ボクからの発信は無理なので、トモさん→龍の神様→テオファールっていう感じにリレーした。
いや、まさかOKが出るとは思わなかったんだけど……ボクがやろうとしてることを知ったヴェルママが、仲介しないと神殿吹き飛ばすぞオラー!!って大暴れしたらしいんよね……
むしんちゅ愛が強すぎるママでよかった。
ぶっちゃけこんなの裏技だけどさ、これで街が守れるんなら文句ないよ。
『なんでもいうこと聞く……って言ってもボクじゃできることに限りはあるんだけど』
『まあ、わたくしはムークに借りがありましてよ?』
……そんなもんある?
『一番初めに仲立ちをお願いしましてよ? お忘れになって?』
そういえば最初の出会いはそうだったね……完全に忘れてた。
『それに、お友達のお願いは無視できませんわ?』
ううう……ボクに涙腺があったら即死だった。
『ありがとう、本当にありがとう!』
『お礼は後に取っておきなさいな。そこまではいくらわたくしでも一瞬と言うわけにはいきませんわ? そうですわね……半日、半日は頑張りなさいませ?』
『うん、わかった! ありがとうテオファール!!』
『さすがにその規模のスタンピードは捨て置けませんわ。それに……人族の国には恨みもありますので』
やった!これでなんとかなりそう!!
『ああ、ムーク。一つ忠告をしておきますわ』
『なに?』
『人族は性格の悪い作戦を考えさせたら大陸一ですの。ただ座しているだけとは、思わぬほうがようございますわ……それでは、後程』
最後に爆弾を落として、テオファールからの念話は切れた。
……なんとなく、それはボクも思う。
「ニカイドサン、了承ガモラエマシタ……【頂ノ白銀龍】ガ、援軍ニキテクレマス」
「……は?」
あ、無茶苦茶ビックリしてる。
そうだよね、『援軍に心当たりありまああす!』って言ったと思ったらいきなり黙り込んでコレだもん。
ボクが同じ立場なら頭の病院にぶち込もうかなって考えるレベルだもん。
「それは……真にござるか?」
超疑ってる……
どうしよ、どうやって証明すればいいのかな。
「――ニカイド殿、ムーク殿の言うことは真じゃよ。先程まで行われていたのは広域魔導通信の一種じゃ、内容まではわからぬが……確かにかのローラン登山道付近から高出力の魔道波が送られてきておる」
「な、なんと……」
ギャーッ!? なんですかニカイドさんいきなりボクの手をギュッとして!?
今バキバキってすごい音がしたんですけども!?
ボクのお手々にヒビが!?
「かたじけない……かたじけないムーク殿! なんという御仁か……正に其方は英雄にござる!!」
「チ、チチチ違イマス! 凄イオ友達ガイルダケデスカラ!!」
ボク自身はそんなに凄くもないんですのよ!!
「デ、デモ来ルマデ半日カカルッテ言ッテマス!」
「むしろそれだけの時間で来ていただけるとは、僥倖……それまでは我々がなんとしてもここを守らねばなりませんな!」
ボクの手を放し、ニカイドさんが歩き出す。
「それでは、先程の作戦通りにお願いいたす! 申し訳ありませぬが、白銀龍様についてはお越しになった時に改めて通達させていただこう、今この場では混乱します故!」
そう言って、彼は反対側に走って行った。
「む、むむむムーク様、このワエコをお傍に置いてください! 伝令内容をいち早くお伝えしますので!」
あら、このおねえさんは初めてここに上がった時に銃を持ってきてくれた人じゃん!
シラコさんに言われてきたのかな?
「ハイ、ヨロシク!」
よーし! 先行きが見えてきた!
半日どころか、テオファールが来てくれるまでに全滅させちゃるぐらいの気持ちで行くぞ~!!
「ミンナーッ! 話ガアルンダ!!」
周囲を警戒しながらボクを待っている仲間に、まずは伝えないと!!
・・☆・・
「ムーク様! 東方面に大型の反応! そちらへお願いいたします!」
「了解!」
みんなと合流して、チョットだけ休憩した後……地獄が発生した。
そう、全方位から魔物が押し寄せてきたんだ。
なんだかボクはさ、順番に来るもんだって思ってたから……ちくしょう! ヒューマンが憎い!!
というわけで、ダッシュ虫なう。
東……ボクらがこの街に来た方角。
そこは、街道も森も……ゴブリンまみれになっていた。
あ、正確に言うとゴブリンの死体まみれね。
片付けるのって大変だろうな……これ。
『敵、正面から来ます! 大地竜!』
見えてる見えてる! 今まさに森からドシャーって出てくる大地竜が! 3体!!
「ワエコサン! 頑丈ナ壁ハドコデス!?」
「はいっ! あちらにあります!!」
あった!北にもあった詰所みたいなの!
よーし、とにかくやるぞ!!
「ロロン、アルデア、アカ! ボクハ一番左ノヲヤル!!」
「わかったナ!」「お任せくだんせ!」「あーいっ!」
頼れる仲間たちの声を聞きつつ、詰所の壁にベタン!
魔石準備、口に放り込んで――胸ハッチオープン!!
魔力充填、開始ィ!!
「オーム! ギャラガ・ギャラガ・ボーディ・ギャラガ……スヴァーハッ!!」
ボクに先んじて、ロロンが魔法を放つ。
空中に粒子が集まって、円錐型の巨大なクナイみたいになったやつだ!
初めて見た! 彼女も本気らしいや! 込められてる魔力量が凄まじいもん!
ボクもやらんと!
むん、むん、むううううん!!
視界がかすむ程の魔力を、胸に集めて――魔素凝縮電磁投射砲、発射ァ!!
うぐぐぐ、背中の装甲が軋むゥ!
音にすればきゅおん、だろうか。
そんな音を出して――急激な魔力減少に死にそうになりながら光線が射出された。
あっという間に大地竜に殺到した光線は、避けようとした大地竜の首を8割方抉りながら地面を爆発させた。
よ、し! これでいい!
じゃあ次……に行く前に、魔石、を!
口放り込んでいた魔石を噛み砕き、即座に魔力を回復させる……ううう、しんどい、コレ超しんどい。
一気に魔力が充填されるから違和感も凄いし、絶対に体によくない気配がする!
前にトモさんも言ってたし!
よろりと体を起こせば、真ん中の大地竜の土手っ腹に突き刺さった土の円錐が爆発する瞬間だった。
ロロンの魔法もすごいや……あれまだ生きてる!?
遠いから聞こえないけど、なんか吠えながら口を大きく開けて――ブレス!
「ブレスが来る! 障壁最大出力ッ!!」
誰かの声と一緒に、結界が出現。
大地竜の放った赤黒いブレスは、そこに衝突して弾けて消えた。
ブレスが消えた後、放った大地竜は地面に倒れ込む……あれが最後の力だったのか!
「思った以上に硬いのナ――!」
最後に残った大地竜に向け、アルデアが腕を振り上げる。
その大地竜の体には、至る所に焦げ跡があった。
アルデアの雷撃魔法か、アレ!
「『わが手に落ちよ! 弾ける稲妻!』」
わわ!? 空からアルデアの手に、落雷!?
そ、そんな……焦げちゃわない!?
「――ウ、ナーッ!!!!」
ばじん、そんな音が響いて……アルデアは、落ちてきた稲妻を、投げたァ!!
物理法則さんが息してない! 今更だけども!!
アルデアの手から離れた稲妻は、槍のような形になって――大地竜の脳天に直撃。
体全体に紫電が走って……大地竜の目と口からとんでもない量の放電があった。
の、脳味噌に電気ショック……あれじゃあひとたまりもないや。
「ウ、ム……ムーク、大丈夫ナ?」
「大丈夫、モウ元気!」
ボクを心配しながらやってきたアルデアは、ボクの体に手を伸ば……さずに壁に手を突く。
そして、ずるずると座り込んだ。
「交代ナ……私はお前と違って出鱈目な回復力は無いのナ……このまま休んで魔力を回復させるのナ……」
「魔力ポーションハ?」
まだ使ってないでしょ? 4本もあるのに。
「アレは本当に最後の手段なのナ……今はまだ魔物の襲撃に波がある……ので、使わん、のナ……」
それだけ言って、アルデアはすうすう寝息を立て始めた。
……このまま寝かせてあげよう。
アルデアの頭を撫でて、戦場を確認することにした。
「おやびん、おやび~ん!」
アカが飛んできて肩に着地、頬を擦り付けてくる。
んふふ、くすぐったい。
「アカ、がんばった、しゅごーく、がんばったあ!」
「ソダネエ、偉イ偉イネエ、自慢ノ子分ダネエ」
アカには、銃が狙いにくい所にいる魔物を間引いてもらっている。
アカミサイルはこういうときに無茶苦茶便利だもんねえ。
「えへへぇ、えへぇ」
なーんてかわいくて役に立つ最高の子分なんでしょ!
ボクは幸せ者の親分ですよ、ええ。
そして……ロロンも肩で息をしながらやってきた。
「ムーク様、いささか魔力ば、使いすぎやんした……しばし、暇ば頂戴いたしやんす……」
おおっと危ない、倒れそうだ。
あの魔法、無茶苦茶魔力使ってたもんねえ。
「むわわわ」
ふらつくロロンを支え、頭を撫でながら椅子に座らせる。
「ソコデ休ンデテ。ボクトアカデ見張ッテルカラ」
「おもさげ……ながんす……」
もう一度頭を撫でると、ロロンは可愛らしい寝息を立て始めた。
バレリアさんがやってた高速魔力回復って、超絶技能らしいからね。
普通の人は眠るのが一番早いんだとか。
まだ切羽詰まってる感じじゃないから、このまま寝かせてあげよう。
「ワエコサン、結界ハドレクライ持チマスカ?」
さっきのブレスみたいなの、四方八方から時々飛んで来るんだよね。
そこら中の冒険者さんや魔導兵さんが頑張ってるけど、それでも完璧じゃない。
たまに被弾して、結界がビカビカ光るんだもん。
「っは! 専門の魔導兵が配置されておりますので……まだまだ大丈夫です!」
それならいいか……よし、気を引き締めて頑張るぞ!!




