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第97話 嫌な気配。

(三人称)


「今回は派手にやるねえ……」


「メイヴェル様が神託を下さるくらいなんだ、尋常のスタンピードじゃないのさ」


「かあちゃん、こわいよ」


「安心なさい、この街には強い衛兵さんも、女神様の加護もおありなんだから」


 エンシュの地下に広がる空間。

そこには、下水と併設された巨大な地下空間がある。

前後左右を防壁と同じ【影石】で囲われた、頑丈な避難壕だ。


 そこには、非戦闘員が全て避難していた。

街の各所に4か所の出入り口があり、非常時には厳重に施錠されて選抜された守備兵が詰めている。

内部には井戸と備蓄の物資があり、最低でも1ヶ月の籠城に耐えられる環境だ。


「おとーしゃ」


「おう、どうした?」


 その避難民の中に、ムーク達が食事をした定食屋の店主一家もいた。

店主の名はガラムル、猪の獣人である。

彼は、寄ってきた娘のミルルを抱え上げて抱いた。

かつては傭兵として戦場を渡り歩いたガラムルは、現在はこの街に根を降ろしている。


「びりびり、すゆ」


「だなあ、兵隊さんが頑張ってんだろうな」


 ガラムルには妻がいたが、昨年末に流行り病で亡くしていた。

それからは、男手一つで娘を育てている。


「こわい」


「大丈夫だよミルル。ほれ、あの強そうなムークさんも上で頑張ってんだ、きっと大丈夫さ」


 この戦いが始まる前に食事をしていた一団。

そこにいた、虫人にしては随分と感情が豊かな男を思い出し……彼は娘を強く抱いた。


「なんだい、ムークちゃんを知ってんのかい。あんたたち」


 そんな彼らに声をかけてきたのは、カマラ。

ムーク達の護衛対象の、獣人の老婆である。


「ああ、出撃する前にウチで食事してもらったんだよ。婆さんはなんで?」


「アタシはあの子に護衛してもらってここまで来たのさ、ラーガリからね」


 どっこいしょ、と声を出し……カマラは彼らの近くの椅子に腰かけた。

トソバ村の住人達は、少し離れたところで固まって身を寄せ合っている。

少しは心配そうだが、村を捨てた時の状況よりはマシなのでそれほどでもないようだ。


「そいつは……災難だったな。こんな時に来ちまって」


「なあに、長く生きてりゃこんなのには慣れっこさね」


 パイプに火を点け、紫煙を喫いこむカマラ。

この煙草は心を落ち着かせる香草を配合しており、子供にも本人にも害はない。


「おやお嬢ちゃん。アンタ、アカちゃんの祝福をもらったね? それなら百人力さ」


「わかるのかい?」


「頬に祝福の残滓があるからねえ、このカマラ婆さんは少しだけ目がいいのさ」


 父親と親しげに話しているから安心したのだろう。

ミルルは床に降り、カマラに寄って行く。


「おばーちゃ、むししゃん、しってる?」


「ああ、知ってるさ。ちょいと抜けてるところはあるけど……あの子は立派で優しい親分さね」


 ミルルの頭を撫で、カマラは懐からタリスマンを取り出した。


「これをやろう、お嬢ちゃん。災いから身を遠ざける、幸運のタリスマンさ」


「きれぇ、きれえ!」


 色とりどりの糸で構成されたタリスマンを、ミルルは目を輝かせて受け取った。


「おいおい、悪いよカマラさん」


「いいのさ。そんなに高いもんじゃないし……それにほら、この子は将来のお得意さんになるかもしれないからねえ」


 笑いながら、カマラはミルルの首にタリスマンをかけてやった。

ちなみに、トソバ村の子供たちも同じものを受け取っている。


「いっしょね~」


 話し込んでいるのに興味を持ったのだろう、トソバ村のカタコが歩いてきて胸元を示す。


「わたし、カタコ!」


「みるる!」


 虫人と獣人の子供は、お互いのタリスマンを見せ合って笑っている。


「子供ってのはいいねえ、すぐに仲良くなっちまうんだから」


「本当になあ……婆さんにもいるのかい?」


 ガラムルの言葉に、カマラの顔が少し曇った。


「ああ……『いた』よ」


「も、申し訳ねえ。不躾に……」


 慌てて頭を下げるガラムルに、カマラは笑って返した。


「気にすんじゃないよ。もうずっと昔の話さね、昔のね……」


 そう言って、カマラは杖を少し強く握って……頭上を見上げる。


「頑張んなよ、ムークちゃんたち」


 今も戦っている虫人とその仲間たちを思いながら、彼女は紫煙を吐き出した。



・・☆・・



「ラオドール殿、これでよろしいか?」


「おお、骨折りをさせたのう。結構、結構」


 飛竜の群れをコロコロした後、魔物たちは小康状態に……なっていない!

今でもコボルトの群れがジャンジャン押し寄せていて、銃でパンパンと撃退されてる。

大物はいないから、ボクらの出番はなぁい。

リンドヴルムも大地竜も出てこないしね。


 それはそれとして、ラオドールさんの近くには……シラコさんの連れてきた魔導兵っていう魔法に長けた衛兵さんたちが3人集まってるんだ。

なにか、気になることがあるらしい。


「では手短に説明するでな。これから、東西南北へ向けて一斉に魔力探査を放つ。儂らで方角を1つずつの」


「御意。ですが何故です?」


「どうにも嫌な予感がするでな。何もないならないで構わん……爺の心配事で終わればよいがの」


 東西南北に?

だってスタンピードは北からなんじゃ……?

 

「探査距離は10デラシル、地表だけでよい……もしも、何かあれば儂に言え。明らかな違和感があるハズじゃ……明らかな、のう」


 それだけ言って、ラオドールさんは杖を両手で握った。


「――始めよ」


 きぃん、と音がした。

ラオドールさんと、魔導兵さんたち。

4人全員から……なんか、薄くひろーく魔力が放出された。

これが探査ってやつか~。

潜水艦のソナーみたいな感じなんかな?


「――北には『ある』のう」


 そう、ラオドールさんが呟く。

そして――


「東、あります」「南、あります」「……西、あります」


 魔導兵さんたちも、同じように返す。

あるって、なに?

……ああ、森があるってこと~?


『このアホ虫……』


 小粋な虫ジョークですってば!


「嫌な予感程よく当たるのう……ニカイド殿を呼んでくれ!」


 ラオドールさんは立ち上がって大声を出した。

な、何が始まるんです?

もとい、なにがあったんです!?



・・☆・・



「人族共の手勢、1つではなかったようじゃ」


 やってきたニカイドさんに、ラオドールさんはそう告げた。


「先程魔力探査をしたが、北以外のすべてにも反応がある……例の、呪物の反応がな」


「……確か、ですか」


 ニカイドさんの声が、ちょっと震えている。

……人間さんの国、マジでロクなことしないな!!


「出し抜かれたわい……あの呪物は易々と手に入るものではない故、アレだけじゃと思い込んでしもうたわ。まず北で騒ぎを起こし、魔物どもの放つ魔力で露見を遅らせたのじゃろう」


 そんなにこの国が憎いのかよ、人間国家……!

ああやだ! やだすぎる……!!


「アノ、ッテイウコトハ……四方八方カラ敵ガ来ルッテコトデス、カ?」


「おう、その通りじゃ。今はまだ魔力溜まりに群がっておるじゃろうが……遅かれ早かれ、来よるぞ」


 ここ数日、えらいこっちゃの洪水が起こっている気がする。

さすがにボクのせいじゃないとは思うけど、思うけど!!


「ソンナニマデシテ、街ヲ滅ボシタインデスカ……」


「――否、それだけではあるまいよ」


 ニカイドさんがボクを見て……声を潜めた。


「この街の地下には下水施設と避難壕があるのは知っておられるか?」


「ハ、ハイ」



「――それ以外にも、1つあるのだ……【セヴァー】の封印区画がな」



 ……!?!?

そ、それってラーガリで発掘された……魔力を無茶苦茶増幅する鉱石じゃん!?


「……何故ボクニ、ソレヲ」


 そんなホイホイ教えていいもんじゃないでしょ!?


「ムーク殿はザヨイ家の魔導紋をお持ちの方。信じるに足る御仁だと確信しております」


 確信しないで! しないで!!

ゲニーチロさん! あなたの名声のせいですよォ!!


「勿論、人族共がそれを知っているとは限らぬが……これほどの手の込んだ所業、それを念頭に置く他ない」


「ニカイド様、どうなされますか」


 シラコさんの顔も緊張している。

そりゃそうだよ、こんなことになってるんだからさ。


 ニカイドさんは一瞬考え込んで……顔を上げる。


「衛兵隊を全周に分散! 魔導兵も同様にせよ! 拙者は最上階を回りながら指揮を執る!」


「ハッ!! 直ちに!!」


 シラコさんは素早く走り出した。


「ムーク殿、申し訳ござらぬ。貴公らも臨機応変に対応していただくことになる……今より持ち場を離れ、自由に行動していただきたい」


「イ、イインデスカソレデ」


 自由過ぎない?


「冒険者は自由に動く方がよいのです。我が配下ではない故、戦術に組み込むことはできぬ」


 まあ、今からいきなり軍隊行動しろって言われても無理虫なんですけども。

有難いと言えば有難いか……

しかし、とんでもないことになっちゃったな……


 ……あ、そういえば。


「アノ、ニカイドサン……援軍ノアテガ、アルンデスケド」


 自分で頑張る! って言った手前アレだけどさ……この場合は許されるよね?

頼れるものはなんでも頼る! それがボクの処世術! です!!

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― 新着の感想 ―
アホ虫…ありがとうございます!女神様!辛辣だけどピリ辛美味いです!しかし、やはりか。スタンピード!まさかの四方陣。籠城戦は三倍の戦力がいる?だったっけ?敵が何万いるやら…。後ムッくん!連絡自分からでき…
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