第96話 スタンピード、本格化。
ヴェルママの広域神託が響いてから、ただでさえ高かった衛兵さんたちのやる気がストップ高になった。
銃や弓、クロスボウの射撃精度まで上がったのか、森から飛び出してくる魔物がバタバタ倒れている。
倒れすぎて、ちょっとした山になってきた。
ちょっと待って、あれ大丈夫なの?
魔物の流れが滞るんじゃ……
「魔導兵、炎熱一斉射――今ッ!!」
うわあ、壁の一番下から火の玉が一斉に飛び出して――魔物の山ごと殺到してきた生きてる連中も吹き飛ばした!
清々しいまでの力押しだ……
「……ふうむ、楽ができるのもそろそろ、かの」
ラオドールさんがパイプの火を消し、綺麗な杖を持って立ち上がった。
「ニカイド殿!」
その声に、遠くで立っているニカイドさんが大きく手を上げる。
え、一体何が始まるんで――
「来るのナ!」
アルデアが叫ぶのとほぼ同時に、森の一部が弾けた。
大木と土の破片を撒き散らして出てくるのは……まさか!
アレは……大地竜!!
しかも、大きい! 成体か!
ここに逃げる時に戦った奴よりも一回りも大きいぞ!?
「まだナ!」
どおん、どおんと弾けていく森。
なんてこった……成体が、複数ッ!!
「ごほん……『大水球』」
うわわわ!?
ら、ラオドールさんの頭上にでっかい水球が!?
とんでもない魔力を感じる……!!
「『凝縮』」
あれ、でっかい水球がソフトボール大の複数に分裂して――
「『逆巻き、貫け』」
消えた?
「ギブッ」「ッガ」「ガバッ」
……あああ! 大地竜が!
大地竜が全部……穴あきチーズみたいになって倒れた!?
えっえっ……今の水球がああしたの!?
「精霊魔法……恐ろしく強力ナ……!」
アルデアが驚愕している。
精霊魔法……サカグチさんがやったみたいな魔法か!
水を圧縮して、ウォータージェットみたいに使ったんだ!
す、すご……
「ホレホレ若いの、爺ばかり働かせるでない……空から来るぞ。気合を入れよ」
ああ、森の奥から黒い影がワラワラ飛んできた!
アレは……飛竜だ!
「射角が取れない!エンライでは狙えん……魔導兵、各自一斉射用ー意ッ!!」
下からの声……今度はこっちの出番だね!
「アカ!」「あーい!」
アカが魔力を練り、全身のミサイルスロットが光り始める。
ボクもやるぞォ……むん、むん、むぅうん!!
「――えぇーいっ!!」
放たれるアカミサイル!
それに続いて――速射衝撃波、拡散式!!
イメージとしては無数のビー球をばら撒く的な感じで!!
アカのミサイルは飛竜の頭とか胸に着弾し、バラバラにしていく。
ボクの衝撃波は、翼の薄い所を貫通してバランスを崩す!
そう、下に叩き落とすだけでいいんだ、アイツらは!
下に落ちればエンライでとどめを刺してくれるし!!
「――スヴァーハ!!」
ロロンも考えることは同じなようで、土マシンガンを扇状にばら撒いている。
「『疾駆し、弾けよ、旋転の稲妻』ッ!!」
アルデアの綺麗な槍の先から、青白い稲妻が空中を蹂躙していく。
飛竜たちは悲鳴を上げながら、どんどん地面に落ちていった。
「落ちたぞ! エンライ、一斉射!!」
銃声が響いて、地面に落下してバタバタしている飛竜たちがどんどん成仏していく。
うーん、流れ作業!
この調子で行くといいね!
『新手ですよ、むっくん! また飛竜です!』
かかってきなさい!
衝撃波はいくらでも撃てるんだからね!!
・・☆・・
「……妙じゃな」
襲い掛かる飛竜の群れをコロコロし続けていると、不意にラオドールさんが呟いた。
「妙デスカ? 飛竜ガ多スギルトカ?」
ずうっと飛竜が飛んで来るもんね。
今の所森から出てすぐの所で対応できてるけど。
「いや、飛竜はよいのじゃ……そこな衛兵! 上官を呼んでくれぬか!」
ラオドールさんの声に頷いた衛兵さんが、どこかへ走って行く。
そして……シラコさんが走ってきた。
「どうなされましたか!?」
「おお、すまんのシラコ殿。ここの衛兵に魔術探知に長けた者はおらぬか? できれば3名ほど欲しい」
「おりますが……何かご懸念でも?」
「うむ、少し嫌な予感がある。儂1人でもいけはするじゃろうが、確実性が欲しい故な」
なんだか難しいお話みたいだね。
ボクにはわからないので――引き続き衝撃波をばら撒く仕事をしていようっと!
最上階で魔法を撃っているのは、勿論ボクらだけじゃない。
他の冒険者さんたちもいるし、ここにも中層にも魔導兵って人たちがいる。
色とりどりの魔法がビュンビュン飛んでて、とっても頼もしいや。
不謹慎だけど花火大会みたい。
「おやびん、おやびん」
おっと、アカが疲れた顔をしている。
ミサイルいっぱい撃ったからねえ。
「ハイドウゾ」
アカに魔石を渡し、ボクも隠れて口に放り込む。
「ぼりぼり、おいし、おいし!」
無味無臭の石なんだよなあ……ボクには。
これでお互いに全回復だ、まだまだいけるぞ~!
衝撃波用意……ムムム?
なんか、飛竜の群れの後ろにデカイのが飛んでるような――
「――リンドヴルムだ! ブレスが来るぞ、目を塞げぇッ!!」
マジで!? あれが!?
――閃光が走って、森と壁の中間ぐらいの所の空中に着弾。
お、おお!
結界で受け止められてる!
すっご……あれも大丈夫なんだ、結界!
あと超マブシイ!!
こうしちゃいられない!
アイツはまだ遠くにいる、なら――!
「シラコサン! アソコノ壁ッテ頑丈デスカ!?」
さっき作戦会議した詰所みたいなところ!
「え、ええ。あの壁は竜種のブレスが直撃しても耐えられます!」
「ワカリマシタ! ミンナハソコニイテ!!」
そこまでダッシュして……壁に背中を付ける!
隠形刃腕を展開し、床の切れ目にがっしりと固定!
「デッカイノ、撃チマスヨ!!」
魔力集中――胸カバーオープン!!
口に魔石を放り込んで、魔力を溜める、溜める溜める溜める!!
胸の中心にある宝石に魔力が集中して……輝き始め、周辺に帯電した稲妻が集まる!
『敵、正面! 魔力に気付かれました――ブレスが来ますよ!』
視線の先に見えてきたリンドヴルムは、紫色の体をしたジャギジャギのドラゴンだった!
とっても強そうなソイツの口元に、きらめく魔力が収束し始めるのが見える!
させるかーッ!!
エネルギー充填120%ッ!!
――魔素凝縮電磁投射砲、発射ァア!!
「ッギ!? ギギギ!?」
つぶ、潰れるゥ!?
確かに壁は頑丈で、ボクは飛んでいかないけど潰れるゥ!!
魔力!追加魔力でコーティング!!
そんな風に必死で発射したごんぶとレーザーは、リンドヴルムを守るように展開していた飛竜をジュっと消し飛ばして……奴が撃とうとしたブレスに激突。
そのまま、首の上半分を削り飛ばした。
空中で首なしになったリンドヴルムは、慣性の法則に従って森に落下。
盛大に木々をなぎ倒して土煙を上げた。
や、やった……思った通り、電磁投射砲は格上にも、効く……
あ、魔力カラカラになった……
「ムーク様ァ!」
ロロンが走ってきてボクを支え、首元に仕込んだ魔石を口に入れてくれた。
た、助かった……気合入れ過ぎて魔力使い過ぎたから……
「皆の者ォ! ムーク殿が目にもの見せたぞォ!! 我らも続けぇ!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」
おわわ、皆さんが無茶苦茶盛り上がってる!?
まあ、いいか。
士気は高すぎても困ることはないって聞いたことあるし!!
「やるのう、若いの」
ラオドールさんがなんか……ニヤニヤしてる!
「『風よ』『逆巻け』『散らばれ』」
その杖の先端から……竜巻が出た!?
その竜巻はあっという間に散らばって――空中にいる飛竜の翼を残らず切り落とした!?
「ほっほ、この爺も負けておれぬわ」
……そっちの勝ちだと思うんですけど、とっても。
結局、森からやってくる飛竜の群れは……やる気マシマシになった衛兵や冒険者さんたちの魔法乱舞で全滅することになった。
……結果的に仕事がなくなったけど、これはこれで!
『はい、油断は禁物。スタンピードはまだまだ続きますよ!』
はぁい! 女神様!!
・・✩・・
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