第87話 魔物には慣れっこの街。
パパパ、という音に目を覚ます。
「ウニャム……」「んゆぅ……」
アカが胸元を滑り落ちていく……いつものことだ。
でも、音は聞き馴れてないね……鉄砲の音かな。
窓から外を見ると、少し明るくなってきている……早朝かな。
外壁の方から聞こえたってことは……こんな朝早くから魔物が出たんだねえ。
あ、またパンパン聞こえた。
「ファ……」
起きちゃったけど、まだまだ寝ていられるぞ……
ここの兵隊さんは慌ててないみたいだし、ボクもお呼びじゃないだろうし……二度寝、二度寝~……
「ピヨ……ピヨヨ……」
枕に突き刺さるように寝ているピーちゃんを見ながら、再び目を閉じた。
すやり……
・・☆・・
(三人称)
「聞いたか、南のこと」
【エンシュ】をぐるりと囲う城壁。その最上階。
ぱぁん、と銃……【エンライ】を放ちながら、1人の衛兵が口を開く。
「おお、【ミレシュ】の巨人騒動か?」
その隣で同じように射撃している衛兵が答える。
「いや、それもあるが隣の【メーラト】の方だ。あちらでははぐれの水晶竜が増えているそうな」
「なんと……生半可な相手ではないぞ。ソレで……大丈夫なのか?」
だぁん、と発砲。
今まさに森から飛び出したゴブリンが、脳天を撃ち撃抜かれて倒れ込む。
「詳しくは知らんが……あそこには今【謡い手】殿がいらしておると聞く。それが誠なら問題はなかろううよ」
「おお、マデラインの冒険者か! それなら大丈夫であろうな……以前に一度戦っておるのを見たが、ああも凄まじい精霊魔法の使い手は見たことがない」
世間話を続けながらも、2人の銃撃は止むことがない。
機械のように射撃を繰り返し、交互に弾倉を交換してまた射撃。
それを、規則正しく繰り返す。
「……なあ、ジュザブロよ。ここ最近……森から攻め寄せる魔物が増えてはいないか?」
「お主もそう思うか、クーバ。種類は変わらんが、じわじわ増えてきているのは感じる」
2人が同時に射撃。
少し上位種に足を踏み込みつつあるゴブリンが、頭と胸を撃ち抜かれた。
「――反応、ナシ! 交代、コウターイ!!」
魔力で増幅された号令が響き、2人は構えを解く。
「……まあ、備えは怠らずにおくしかあるまいよ」
「そうだな、いつ何が起こってもいいように……準備はしておこう」
2人はそう言い、交代要員の為に狙撃場所の掃除を始めた。
この外壁には、こういった場所が無数にある。
昼夜を問わず、こうして迎撃に当たっているのだ。
「さて、明日まで休みだ。どこか飲みにいかんか?」
「それはいい! タジロの奴が言っていたが、南の酒屋街にいい酒を出す店が――」
楽しそうに、だが油断せず。
2人の衛兵は、いつも通りの仕事を終えた。
・・☆・・
「おはよう、ムークさん! よく眠れたかい? この街にいりゃあ慣れっこなんだけどねえ……驚いたろ? パンパンパンパンってさぁ」
「エエ、ソウデスネエ」
頭に鉢巻をした、ちょっとカブトムシっぽい要素のあるおば……おねえさんが、そう言いながらボクの皿にシチューをドバーっと盛ってくれる。
うひゃ~、野菜がゴロゴロでおいしそ~!
「おいしそ!おいしそ~!」
「腕を振るったからね!そりゃあおいしいよ~! アカちゃんも腹一杯食べな! ピーちゃんもね!」
『美味しそうだわ! 美味しそうだわ~!』
ここでの暮らしも5日目。
ボクはもとより、ここの人たちも妖精大好きみたいで……アカたちは何処へ行ってもよくしてもらえるんだ! 素敵だね!
「今日のパンも美味いよ! 遠慮なく食べな!」
「ハーイ!」「わはーい!」「チュンチュン!」
シチューとパンのいい匂いが混ざって朝から天国ですな~。
お外からはパンパン音が聞こえてくるけど……もう気にしない!
だってみんな慌ててないもんね~!
「ここのパンは美味いねえ。ちょいと柔らかすぎるのが気にはなるけども」
「んだなっす。うめえけんど、顎が弱りやんす」
そうかなあ……っていうか、ラーガリの獣人パンが硬すぎるだけじゃないの?
アレもバリバリで美味しけどさ。
「アカ、美味シイネエ」
「おいし、おいし!」
このところ、あまり顔を汚さなくなってきたアカが元気に返してくる。
ボクの……いいや、絶対にカマラさんのお陰ですわ。
「チュワワワ」
ピーちゃんは相変わらず猟奇スタイルで食べてるけど、鳥の姿だから仕方ないねえ。
後で拭いてあげよう。
「アタシは今日も行商さ。ここには顔なじみが多いもんでね……あんたたちは好きにしなよ、ここにゃあ色々店も見るものも揃ってるしね」
よく働くねえ……カマラさんは。
ボクも見習わないと。
「ボクハ冒険者ギルドニ行キマスヨ、タマニ仕事シナイト鈍ルノデ」
「じゃじゃじゃ! ワダスもお供しやんす!」
ええ?
「ロロンモ好キニスレバイイノニ……」
「んだなっす! なのでお供しやんす~!」
おお、ロロンが燃えている。
それなら止めることはないか。
「アカも、アカも~!」『私も一緒に行くわ!行くわ!』
あらら、いつものメンバーになりそうだね。
どんとこいだけども!
「いい酒場街があると聞いたので巡るのナ。明日までには帰るのナ」
アルデアはマイペースでいいねえ。
楽しんでるなあ、旅を。
……迷子にならないでね?
じゃ、今日も一日そこそこ頑張りますか~!
・・☆・・
「混ンデル」『こみこみ! こみこみ~!』
思わず漏らしたボクの呟きに、懐にいるアカの念話が返ってきた。
むしんちゅさんは大丈夫だと思うけど、一応ピーちゃんと一緒にマントにINしてもらってます。
「はわわわ……おもさげながんす~……」
そして混んでいるので、ロロンは肩車状態です。
気にしなくてもいいのに……首があったかいや。
『はわわ、ドスケベ虫……』
なんでさ!?
ま、まあとにかく……依頼だ、依頼を見よう。
まだしばらくは滞在するけど、長丁場になりそうな依頼はキャンセルするとしてっと……
ふむん、街中と外の依頼比率は同じくらいか。
「先に街中を見た方がえがんすね。この時間帯は外依頼が混んでいるのす」
「アイアイサー」
ロロンを乗せたまま、街中依頼が貼っている所へ。
やっぱりトルゴーンだけあって虫人さんが多いね~……その次に多いのが獣人さんかな。
おとなりの国だから行き来も多いんだろうねえ。
さてさて、どんなもんかな……
・『水路掃除』
・『ゴミ回収』
・『荷物運搬』
・『下水掃除』
・『屋台設営・接客』
ほほーう、結構多種多様だね。
でもやっぱり、簡単そうなのは給料も安いや……そして下水掃除は二度とやりたくない!
ここでもオオドブネズミモドキが出たらえらいこっちゃだよ。
しかし『屋台設営・接客』なんて初めて見たよ。
ふむふむ……元締めさんの所で屋台と材料を受け取って、一日商売して返すのか。
儲けから使用料とかを天引きね……いくら儲かるかは知らないけど、損はしないのかな?
チョット面白そうだけど……あ、ロロンが興味を示してない!
それならスルーで。
・『騎獣舎の掃除』
・『屋根の葺き替え』
・『衛兵隊下働き』
ふーむ……色々あるけど、まあ様子見かな?
「ドウスル、ロロン?」
「んむむ……街外の依頼ば見て決めやんしょ!」
「ハイハーイ」
ボクもそう思ってた!
えっちらおっちら……っと。
こっちの方が混んでるねえ。
さてと~?
・『冒険者捜索』
・『ルルボア討伐』
・『ゴブリンの巣破壊』
・『採集・トリノ茸』
・『採取・オオラガ草』
・『リンドヴルムの調査』
お~、いかにもって感じ!
捜索依頼が結構出てるね……冒険者以外にも、行方不明になった人って結構いるみたい。
結構な修羅場なのかも、ここ。
「ムーク様、あのゴブリンの巣破壊依頼がえがんしょ」
「ア、ソウナノ? 了解~」
ロロンがそう言うなら、そうしましょ。
ボクとしては採取もちんぷんかんぷんだしね~。
取られないように、さっと木札を取る。
ええと、なになに……森の浅い所に巣があるっぽいので潰して欲しいって感じね。
報酬はゴブリンの耳の数と、潰した巣の数の合計で決まるのか。
耳はともかく、潰した巣の数なんてよくわかるね?
誤魔化し放題なんじゃないの?
「デ、コレヲ持ッテイケバイイノネ?」
「そうでやんす! あ、あの、その前にワダスを降ろしてくださっしゃい~……」
あ、ごめんごめんうっかりしてた。
ロロンって軽いから!




