第86話 知ってはいるけど、見慣れてはない!
「――全弾命中! 無力化!」
「後詰はナシ! 突発的な模様!」
「了解! 警戒を厳にせよ!!」
あ、あそこか。
森から飛び出して来たっぽい何かの魔物……たぶん狼? が倒れている。
なんという早業……
「すっごいおとね~!」
カタコちゃんは特に怯えた様子はない。
肝が据わりすぎているキッズだ……
「エット、今ノッテ魔法デスカ?」
案内してくれた女性兵士さんに聞いてみる。
聞いてみたけど、魔力の気配もなかったし……何よりもあの音。
絶対に鉄砲だと思うんだけどね?
でも、ここでボクが知ってたらややこしいじゃん?
『貴様何故機密情報を!? 殺せーっ!!』とかになったら困るもん。
「いえ、魔法ではなく……実際にご覧になった方がよろしいでしょう。おーいワエコ、一丁持ってきてくれ!」
「ハッ!!」
ちょっと!? 話が早すぎるんですけど!?
いいんですかそんな簡単に!?
『ゲニーチロさんの威光ですね。よっ! 虫の威を借る虫!』
なんかやだ! その言い方やーだ!!
「こちらが……こ、これはムーク殿! お初にお目にかかります、私はワエコと申しま――」
「下がれ下がれ! はしたない!」
なんか、銃っぽいのを持ってきた女性兵士さんが押しやられている。
……ええっと、その……イケメンは辛いね?
『ケッ』
シャフさんが遠隔舌打ち神託を!?
と、とにかく……見てみよう。
「こちらが、先程使われていた武器です。この国では『エンライ』と呼ばれていますが……ご存じですか?」
「イエ、初メテ見マシタ」
と、言っては見たものの……見覚えがあり過ぎる。
全体的には木っぽい材質で作られていて、要所要所に金属パーツが使われているね。
概念だけ知ってる、昔のライフルによく似てると思う。
引き金も、狙う所もあるし……拾床っていうんだっけ? 肩に当てるところもあるね。
長い銃身を持つ、ザ・ライフル! って感じ。
「これはクロスボウとは違い……弾丸を発射する武器なのです」
そう言って女性兵士さんは、細長い物体を見せてくる。
おお、ライフルの弾丸だ! なんか知ってる!
「ヘェ~」「へ~」
だけど知ってる感じは出さない!
「このお尻の部分に衝撃に反応する物質が入っておりまして……内部でここを叩くと、先の礫が飛んでいくのです」
火薬かな?
でも、もっと昔の鉄砲みたいにザラザラ~って入れないんだね、火薬。
この世界の進化具合って変な感じ。
薬莢? が開発されたのって地球でもここ100年くらいなんじゃなかったっけ?
よく知らないけども。
「撃ってみましょうか……ここを、こうして」
女性兵士さんは、素早く銃……エンライを操作。
なんかガシャってレバーを操作して構えて――森に向かって引き金を引いた。
――ぱぁん、と音がする。
「わっわっ」
カタコちゃんが抱き着いてきた。
ビックリするよねえ、この音。
「スッゴイデスネエ……デモ、クロスボウトカ魔法ニ比ベテイイ所ッテアルンデスカ?」
クロスボウはともかく、魔法があるならこれいらなくない?
「はい、まずはなんと言っても魔力を一切使用しない所です。それに、クロスボウや弓よりも射程距離が長く……比較的真っ直ぐ飛びます」
「ホウホウ」
「加えてこの音ですね。魔物はコレの音をひどく恐れるのですよ……なので、森からやってくる魔物どもを恐れさせて食い止めることもできます」
ふむん、まあ聞き馴れない音だしねえ。
「もちろん欠点もあります……高価ですし、我々が作っているわけではないので故障の時には難儀します」
欠点も教えてくれるのヤバくない?
「それに、威力はさほど高くはないのですよ」
マジで?
狼くんは一撃だったじゃん。
「ゴブリンやコボルト、狼などはコレでカタがつきますが……それ以上ともなると魔法の方が効果的ですね」
ああ、そういうこと……魔法はすっごいもんねえ。
「アノ、『ココデ作ッテナイ』ッテ……?」
「そうです、このエンライは全て【ガリル】からの輸入品なのです」
あ!ドワーフさんの国!
そういえば前にトモさんがそんなこと言ってたね!
「まあ、欠点はありますが防衛においては有用な武器です。これなら弾丸さえあれば一日中撃てますからね」
「ナルホド……守ル側ニハイイ武器ッテコトナンデスネ」
適材適所ってやーつか。
見た感じ、一発しか打てないって感じじゃないし。
弾倉だっけ? あの箱みたいなのが付いてるもんね。
第一次世界大戦くらいの性能なのかな? よく知らないけども。
『片手間に計測してみましたが、軽く魔力を纏わせたむっくんの装甲なら弾けますね』
知らない間に銃が効かない虫になってた!?
ボクってば結構強キャラになってたのね~?
『水晶竜のブレスクラスならジュッといきますが』
全然強キャラになってない問題!!
ちくしょう!魔物が強すぎるのが悪い!!
「モット威力ガアルノハナインデスカ?」
「最近開発されたという噂は聞きましたが……実際に運用できるようになるまではまだ時間がかかるでしょうね。ソレを使うよりも魔法の方がまだ強いらしいですし、我々にはコレで十分ですよ」
あくまで補助の一つ、って感じか。
そうだよね、この世界の兵隊さんってみんな銃使わなくても強いしね。
ラーガリのバレリアさん、元気にしてるかなあ。
あの人なんか銃弾全部避けたりできそう。
「持ッテモイイデスカ?」
「はい、弾は抜いておきますが……撃ちますか?」
「イイエ」
受け取る……おお、結構ズシっとしてるねえ。
転生してから銃を持つなんて、なーんか変な感じ!
「おじちゃん、みたい~!」
「ハイハイ」
しゃがんでカタコちゃんにも見せてあげる。
これは……武器じゃなくって珍しいものに興味を持ってる感じだね。
「すべすべね~」
塗ってあるニス的なものの方が気に入ったみたいだし。
「これと同じものを持った兵が、外壁に常駐しております。コレで対応できない場合は後詰の魔導兵が派遣されますし……ムーク殿も、あなたも安心してね」
「えへへ~」
女性兵士さんは、カタコちゃんを撫でている。
強い弱いは置いておいて、兵隊さんも優しくってよかったねえ!
・・☆・・
「むぅう……シラコ兵長ったらムーク様を独り占めに……!」
「それにしても、子供に優しいのねえ。ウチの男どもにも見習ってほしいわ」
「あの背中の腕見た? 無意識であの子を守るように動かしてる……【腕】の呪法にも長けているのね」
「そりゃあそうよ! なんたって【大角】閣下の魔導紋をお持ちなんですから……きっと、私達が束になっても勝てる相手じゃないわ!」
「しかも妖精にまで好かれてるなんて、男としたら最上級なんじゃない? 嗚呼、なんとかお近づきになりたいわ……」
・・☆・・
「アリガトウゴザイマシタ」「おねーちゃん、ありがと!」
エレベーターを下まで降りて、一緒についてきてくれた女性兵士さんにお礼をする。
「いいえ、どうぞ安心してご滞在ください。この【エンシュ】は安全な街ですので! 他にも何かありましたら、いつでも対応いたします!」
胸に手を当てる敬礼っぽい動作をして、彼女は戻っていく……あ、名前聞きそびれちゃった。
向こうは知ってるけどボクは知らないって、なんとも居心地が悪いですなあ……でもお顔は覚えたらまた会えたら聞こうっと。
「たのしかった!」「ネ~」
さて、思いもよらない楽しい暇つぶしができたし……そろそろ帰ろうかな。
晩御飯にはまだ早いけど、ベッドでゆっくりしてもいいねえ。
なんだかんだ言ってまだ疲れはちょっと残ってるような感じはするし……ムムム!いい匂いがする!!
「アッチニ行ッテミヨッカ」
「いくいく~!」
食欲には勝てない虫ですよ~!
なんだろこれ、お菓子系だったら嬉しいな~!
『色気より食い気虫……』
そうですよ???
というわけで、肩車状態で街ブラを続けることにしたのだった。
「おいしい!」
「香バシクッテイイネエ……モグモグ」
いい匂いの正体は、屋台でした。
その屋台で売っていたものは……クソデカドングリ! たぶん!
概念だけ知ってる地球では、あく抜きをしないと食べられたもんじゃない物体だったはずだけど……こっちではホクホクしててとっても美味しい!
剝きやすい甘栗って感じ!
炒っただけって感じだけど、素朴な甘みがたまりませんなあ。
勿論、カタコちゃんにも買ってあげました。
ここに来るまで苦労したんだもんねえ、これくらいはねえ。
それに、一袋5ガルっていう激安でしたし?
「おやびん、おやび~ん!」
おや、心のどこかで食べさせたいなあ……って思ってたらアカが来たよ。
上空のお散歩は済んだのかな?
「アカ、コレイル?」
「いる、いるぅ!」
頭に着地したアカにドングリを進呈。
すぐに皮をむき、かぶりつく。
「むいむいむい……おいし! おいし!」
それはよかった。
ボクのマントがドングリ皮まみれだけどよかった。
『あらいい匂い! 私の分はあるかしら? あるかしら?』
『勿論!』
遅れてやってきたピーちゃんにも、新しいものを差し出した。
美味しいものはみんなで食べないとね!
お土産にも買って帰ろう!




