第85話 備える街。
「突けェ!!」
「「「ハッ!!」」」
「突けェ!!」
「「「ハッ!!」」」
片手に長い槍を持ったむしんちゅの兵隊さんたちが、号令と共に鋭くそれを突いている。
その度に、穂先が空気を切り裂く轟音が周囲に響く。
凄い音だなあ、刺さったら痛いじゃ済まなさそう。
「腰の入ったいい突きなのナ」
「んだなっす。中々の精兵ぶりでやんす」
ボクと同じようにその光景を見ていたロロンたちが、槍談議。
腰とかよくわかんないけど、強そうなのはわかるねえ。
『アカ、ピーちゃん、お空はどう?』
『いーてんき! きもちい! あはは!』
『あの雲はソフトクリームそっくりだわ! そっくりだわ~!』
ここの上空にいるであろう妖精たちは、平和を謳歌している。
いいこと、いいこと。
ここは、エンシュの衛兵隊本部。
昨日ここで歓待されたボクらは……今日も引き続き滞在している。
宿屋を探そうとしたら、そのままここに泊まれって言われたんだ。
ボクらは避難民じゃないから……って断ったんだけどねえ、聞いてくれないの。
それならってお金を払おうとしたら『大角閣下のご縁者から金など取れない!』って無茶苦茶固辞された。
縁者じゃないってのがボクの言い分なんだけど、魔導紋を持ってるってことはもう縁者みたいなもんだって言われて……今に至る。
ゲニーチロさんの名声が凄い。
村人さんたちは、まだ休んでいるみたい。
疲れてるだろうからねえ……それに、後で事情聴取みたいなのがあるらしい。
あの人たちは、村に帰れる目途がつくまでここで暮らすのだそうだ。
その間、動ける若い人たちはここの仕事を手伝ったり、冒険者ギルドで日銭を稼ぐらしい。
滞在費と食費もかからないから、村に帰った後のための貯金もできるって寸法。
この国って凄いしっかりしてるんだなあ……セーフティネット? 的なアレが。
あ、カマラさんはなんかこの街に顔なじみがいるから会いに行ったよ。
強行軍の疲れもあるし、半月くらいはここで滞在するんだってさ。
……次はいよいよ目的地の【ジェストマ】だねえ……長いようだった護衛任務もこれで終わりか。
最後まで油断せずに頑張らないと。
そういえば、カマラさんは帰りはどうするんだろう。
っていうかあの人、拠点というか家ってあるんかな?
出会った場所だから……あるとしたらラーガリなんかね?
ボクらはアルデア以外決まった目的もないし、なんなら帰りも護衛したげよっかな?
「2人トモ、今日ハドウスルノ?」
「勿論素敵なベッドを堪能するのナ。すぐに立つわけじゃないから2、3日はのんびりといくのナ」
アルデアは予想通りだねえ……
「ワダスは、今日の所は武器の手入れと繕い物をばしやんす」
ロロンもそうだった。
じゃあボクはお散歩といこうかなあ。
残念ながらこの街、ルアンキのように近くに釣りスポットが存在しないのでね……
川はあるけど、ちょいと街から離れてるんだってさ~、残念。
大きい井戸があるので水には困らないそうだけども。
「ンジャ、晩御飯マデニハ帰ルカラネ」
ボクは2人にそう言って、マントを体に巻き付けるのだった。
あ、アカたちにも声掛けとこ。
「知らない人について行くんじゃないのナ」
「ハイ……」
基本的に信用がない虫、むっくんです。
・・☆・・
「そうかい、そりゃあよかった。南に嫁入りしてるんだろう? 母親の顔も見たいだろうさね」
「おかげで飯が貧しくなっちまったよ、ははは」
「男ってのはこれだからねえ……北に行った娘さんは?」
「ああ、そっちは子供が産まれっちまってな。しばらく動けそうにねえんだ」
「そうかいそうかい、それじゃあコレはオマケだよ」
あ、カマラさんがお店開いてる。
む~ん……獣人のお客さんと話し込んでるみたいだから、邪魔するのはやめとこっと。
本部を出て、街を見物しながらぶらぶら歩いている。
この街の規模は……ルアンキと同じくらいかな。
アッチと同じように、たいていのモノはこの街で揃いそうだねえ。
この街ってすごいや。
何がって、外壁が。
高い上に……なんかマンションみたいなのが貼り付いてる。
そこから直に壁に入っていけるみたいねえ。
銃眼っていう狙撃ポイントがむっちゃ多いのがわかる……今も衛兵さんたちが動き回ってるし。
頂上だけじゃなくって、中間や低い所にもあるっぽいなあ……
「おじちゃん!」「ム?」
あ、カタコちゃん。
それに、子供たちも何人か。
なにかこう……遊んでる。
なんだろ、鬼ごっこかしら。
「ドシタノ? 大人ハ?」
「はたらきにいっちゃった! あと、かいもの!」
ほーん……みんな働き者だねえ。
昨日聞いたんだけど、カタコちゃんの親族はおねえさんのララコさんだけみたい。
ご両親は猟師で……今は毛皮を卸にルアンキに行ってるんだって。
ちょうど留守の時にアレが起こったんだねえ……連絡とかは大丈夫なんだろうか?
「んしょ、んしょ」
考え込んでると、彼女はスルスルと登ってきた。
素早いねえ、将来有望だねえ。
「ヨッコイセ」「わはー!」
途中から手伝って、肩車にっと。
出会う子供たち、みんなこれ好きだねえ。
「おじちゃんはなにするの~?」
「散歩ダネエ。特ニ用事ハナイヨ~」
気楽な冒険者です、ボクは。
「じゃあね、あそこいこ?」
カタコちゃんが指差すのは……外壁?
ずいぶん渋い所に……
「こどもだけでいっちゃだめっていわれた~、いきたい!」
「ムムム……マアイイカ」
ボクも興味あるし!
でも……ボクの中身はカタコちゃん以下の幼児なんですけどねえ?
ま、バレないからいいか!
他の子は……あ、興味ないのね、了解~。
「コンニチハ」
「こっこれはムーク殿! 如何なされました!?」
カタコちゃんを肩車してテコテコ歩き、やってきました外壁のそば。
たまたまそこにいたハンミョウっぽい衛兵さんにご挨拶したら、なんか知られてた。
装甲がキラキラ光ってて格好いいなあ。
「イエ、外壁ニ興味ガアッタノデ……ココデ見テモイイデスカ?」
「それは問題ありませんが……なんなら登ってご覧になりますか?」
えっまさかの入場OK?
「デモ、子供ガイルンデスガ……」
「ムーク殿とご一緒ならば問題ありませぬよ、ではこちらへ」
凄い信頼感……頑張って保護者虫せんと!
「ジャ、危ナイカラ降リテ手ヲ繋ゴウネ」「はーい!」
いいお返事をしたカタコちゃんと手を……繋ごうとしたらちょっと身長差が凄かった。
仕方ないので、刃を内側に回した隠形刃腕を起動。
中ほどを握らせた。
これなら大丈夫でしょ、もしもの時には巻き付ければ安全だし。
「うでさん!」「アヒャヒャ」
くすぐったい!
「それでは、これにお乗りくだされ」
歩いて行った外壁の根元には、なーんか知ってる気がする箱があった。
手すり付きで、上には頑丈そうな鎖が付いてる……その先は外壁の頂上に繋がっている。
……うん、これエレベーターだね。
凄いや、異世界で初めて見た!
「上には伝えてあります、揺れますのでしっかりと手すりを掴んでくだされ」
「ハイ」「はい!」
ボクは手すりを握り、カタコちゃんはボクにガッシリしがみついた。
「上げてくれ~!!」
衛兵さんがそう言うと、箱はいきなり中々の速度で上昇を始めた。
ヒエーッ!? 意外と速い!!
鎖だけじゃなくって、レールで固定されてるからそんなに揺れないけど!
しかしこれって、やっぱり魔力で動いてるのかな?
なんか上の方からそれっぽい気配感じるし……
「はやいね~」「ソダネ~」
動じないカタコちゃんと一緒に景色を眺めていると、あっという間に頂上に着いた。
「ようこそムーク殿! こちらが最上階です!」
頂上には……クロスボウを持った衛兵さんが待っていた。
女性むしんちゅだ!珍しい!
「……アッハイ」
むっちゃ……アレ! 偉い人が視察に来た感じになってない!?
ボク全然お偉いさんじゃないけども!?
「おじちゃん、すごいひとなのね~」
「違ウ違ウ! 全然偉クナイッテバ」
勘違いが加速してゆく!
凄いのはボクじゃなくってゲニーチロさんだってば~!
「すごーい! とおくまでみえる~!」
女性兵士さんに案内され、外壁の頂上を歩いている。
カタコちゃんが言うように、街の周囲が一望できる。
この街の周囲はぐるっと森に囲まれているけど……外壁から1キロ?くらいの所まではフラットになっている。
これって……森から突撃してくる魔物がよく見えるように、だよね。
いやあ……この街も殺伐としているなあ。
「ここからなら全方位が狙えます。この場所には常に警備が常駐し、昼夜を問わず警戒しております」
「タ、大変デスネ……」
「いえ、ここはトルゴーン中部要所の街。この程度の備えは当然です」
キリっとする女性兵士さん。
そっか……もしもの時の避難場所になってるのか、この街は。
だからあんなにすんなりと避難できたんだねえ。
「――東122! 数4!」
って、いきなり何が!?
なんか拡声器みたいな感じで報告? が聞こえたんだけd――
「――撃てーッ!!」
ひぎい!?
ドドドドン、と轟音が!?
こ、これって――銃の音!?




