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第81話 お元気そうでなにより、なにより!

(三人称)

「本当に、珍しい御仁ですなあ」


 トソバ村の村長が、薄暗がりの中を振り返る。

【エンシュ】に向かって進む村人たちの最後尾にほど近い場所を見て、目を細めた。


「らくちん、らくちん~」


「カタコ! つぎはおれだからね~!」


「いいな~、そのつぎはわたし~!」


「ハイハイ、喧嘩シナイノ。順番、順番」


 そこには、村の客人であり冒険者のムークが……纏わりつく子供らをかわるがわる肩車しながら歩いていた。


「あれほどの腕がおありなのに、子供らにも優しく接して……やはり、【大角】閣下の隠し子であらせられるのでは?」


「はっは、どうだかねえ……あの子は【帰らずの森】に捨てられてて、最近人界に出てきたらしいから……子供ってモンが珍しいんだろうさ。あとは……普段からアカちゃんを可愛がってるから、その延長線上かもしれないねえ」


 村長の横を歩きつつ、タリスマン売りのカマラが呟いた。

彼女もまた、村の客人である。


「なんと……あの人外魔境で、あれほどの偉丈夫になるまで……なるほど、昨晩の鬼神の如きお働きに納得がいきました」


「あの子に色々教えたエルフってのがいい連中だったんだろうね、性根の曲がった所のない、いい青年さね」


 そういうことに、なっている。


「凄かったもんなあ、昨日のムークさん」


「おお、ララコを噛み砕こうとしてる大地竜を……」


「無理やり口ぃ、こじ開けちまうんだもんなあ……それに見たかよ、回復呪法もお使いになってたしな」


 周囲を固める村人たちも、少し興奮して話し込んでいる。


「姪っ子がよぉ、昨日からずうっと顔真っ赤にしてらあ」


「無理もねえやな、あれだけのいい男なのに偉ぶったところはねえし、何よりつええ! まだまだ、強者ってのはいるもんだねえ……」


 虫人たちにとっての『いい男』の条件。

まず第一に、体に纏う生体甲冑が立派で光り輝いているか。

第二に、角が生えているならそれが長く立派であるか。

そして第三に……強いかどうか、である。

そして、ムークの場合は『女子供に優しい』という項目がプラスされている。

好色からではなく、思いやりや優しさ……という部分だ。


 あまり感情を表に出さないのが普通である虫人の男性において、ムークはともすれば幼子のように笑う。

そのギャップもまた、彼が女性陣から熱い視線を送られている原因になっているのだろう。


「ザヨイ家の魔導紋を持たされるだけあって、腕っぷしも中身も一級品なんだろうなあ」


「そりゃあそうさ、あの【大角】閣下が変な男に与えるわきゃねえもんなあ……」


 加えて、ムークの持つザヨイ家の魔導紋。

そもそも武家の魔導紋というもの自体が、血族以外に渡されるのが稀なのである。

『家』を示す魔導紋……もしもそれを笠に着て乱暴狼藉を働くことがあれば、それはすなわち『家』への評価に直結する。

つまり魔導紋を与えるということが……その対象に対して、全幅の信頼を表しているのである。


 極めつけに、『決して悪人には懐かぬ』とされている妖精があれほど懐いているのだ。

誰が見てもムークは、『人品卑しからざる立派な戦士』という評価に落ち着くのだった。


「おやびん、アカも! アカも~!」


「ドウゾドウゾ~、頭ニドウゾ~!」


「わはーい!」


 当の本人は、そのような高評価には気付きもせずに笑っているのだった。



・・☆・・



 魔力を充填し、空へ向ける。

夜の暗黒の中でも、ボクの暗視機能なら昼間みたいにハッキリ見えるんじゃよ!


「クタバレ害竜ッ!!」


 気合と魔力を限界まで込めた3本の棘が、腕の装甲にヒビを入れながら発射され――


「――ギュッヲオオオッ!?!?」


 今まさに空中でブレスを放とうとしていたオオムシクイドリの――口に飛び込んで貫通、盛大な血飛沫をぶちまけた。


「アカーッ!!」「あーいッ!!」


 駄目押しに、アカの魔導ミサイルが無数に発射。

夜空に綺麗な軌跡を描きながら、全弾がオオムシクイドリの顔面に着弾。

鱗や血液なんかを盛大にばら撒いた。


「――ガ、ァア――」


 子竜以上成体未満くらいのオオムシクイドリは、慣性の法則に従って地面に落下。

地面を抉り、木々をなぎ倒して……死んだ!


「ヤッホウ! アリガトウ、アカ!」


「わはーい! がんばった、がんばった~!」


 頼れる子分とハイタッチ!

でも油断はしなァい!!


「新手はおりやんすか~!」


「いなぁい! ソレで最後だ!」


 ロロンが先頭に向かって怒鳴ると、声が返ってきた。

よーし、新たなオオムシクイドリはナシ!


「ミンナデ山分ケシマショ~! 【エンシュ】ニツイタラ売レルヨウニ~!」


「みんなァ! ムーク様のお許しが出たぞ~!」


「ありがてえ! 明日の飯は豪華だぜ!」


「手早くな! 手早く~!」


 村人さんたちが、解体用の刃物を持ってオオムシクイドリに群がる。


「いいのナ? 成体ではないとはいえ、それなりの儲けになるのナ」


「イイノイイノ、ボクハ家モナンニモナイケドサ……コノ人達ハシバラク【エンシュ】デ暮ラサナイトダシ」


 現状、お金にも食料にも困ってない。

だから、独り占めするのはナシだ。

村人さんたちも提案した当社は無茶苦茶断ってたけど、ボクが頑として認めなかったから諦めたみたい。

村を捨てた人たちの前で『ウヒョヒョ~イ! まるっといただきですよ~!!』なんてする気はさらさらないのだ。

子供たちもいるし、そんなことはできませんねえ。

教育に悪いので~!


『虫はどれだけ私を感動させたら気がすむのですか……嗚呼、愛おしい虫……』


『はいキャンセル! 泣くのキャンセルゥ! あいてる口にカツドンをねじこめトモちん~!!』


『どっせい、です』


『はもも、ももんも』


 ……むがー!

こっちは緊迫してるってのになんですか女神様たちは!

ボクもカツ丼食べたいよ~!!


「ムーク様ァ! 魔石をば、お納めくだんせ~!」


 おお、ロロンがそこそこ大きい魔石を持ってダッシュしてきた。


「エ、イイノ?」


「いいに決まってんでしょ!」


「肉やなんやら貰うのに、この上魔石まで取るわけにゃあいきやせんよ!」


「どうぞお納めくださいムーク様~!」


 おもわず漏らしたら、村人さんたちがむっちゃ言ってきた。

そ、そうですか……じゃあ、いただこう。

この場で食べるのは説明がめんどいので、後でね。


「おじちゃん、たべないの?」


 カタコちゃんなんで知ってるの!?


「……ナンデ?」


「おねーちゃん、たすけるときにたべてた~。おいしーの? ませき」


 おおん……この子ってば目がいいわねえ。

じゃ、誤解されないように説明しとかんと。

真似されたらお腹壊しちゃうよ。


『いえ、幼児なので普通に死にますよ』


 説明しとかんと~!!


「ハイ、チビッ子タチ集合~!!」


 大人はそんなことしないだろうし、子供には最低限説明しないとね。


「オジチャンハネ、魔素転換……ナンダッケ。トニカク、魔石ヲ食ベレルンダ。デモネ、コレハトッテモトッテモ強イ大人ジャナイト死ンジャウンダヨ? イイネ? 絶対ニ食ベチャダメ!!」


「「「はあい!」」」


 あらまあ、いいお返事!


「ミンナイイ子ダネ~! ソレジャア食ベラレル飴玉ヲアゲヨウネ~?」


「「「わあい!!」」」


 ンフフフ、飴玉を始めお菓子の在庫はそりゃあもう山のようにあるんじゃよ!

エンシュに到着したら、先の分まであーげよ!

住んでるところから逃げるんだから、これくらいはね~?


「(大丈夫なのナ? お前の食う分がなくなるのナ)」


 アルデアが心配そうに聞いてきた。


「(チョットシタオ店クライ在庫アルカラ大丈夫)」


「(心配して損したのナ……これからは遠慮なくムークにたかるのナ)」


 何故たかる方向に舵を切るのか……ま、いいけども。


「おやびーん、アカ、がんばった!がんばった~!」


「エライネエ! トッテモエライネエ! ハイオ口アーン!!」


「あむむむ……おいし! おいし!」


 子供たちを見て羨ましくなったのか、全力アピールしながら飛んできたアカに……たぶんフルーツ味の飴玉を放り込んだ。

ついでに寄ってきたピーちゃんにもね!



・・☆・・



 たまに遭遇する魔物と交戦しつつ、新しい休憩所へ到着。

軽く一眠りして、明るくなって目を覚ました。


 いやー、それにしても仕事なかったなあ。

村人さんたちがさあ、『ムーク様にばかり働かせるのはイクナイ!』って感じで……出会う魔物を片っ端から殲滅してたんだよね。

でっかいのが出てきたら援護しようと思ってたけど……みなさんお強かった!

ボクのお仕事は、子供たちを抱っこしたりおんぶしたりするだけだったのだ。

これじゃ冒険者じゃなくって保父さんだよ。

ま、いいけどね……子供ってカワイイし!


「むにゃ……あさぁ?」


「ウン、デモ眠いナラ寝テテネ~」


「あ~い……」


 ボクの膝で、アカは二度寝の体勢に入ったようだ。


「おーい! 街道の先から何か来るぞォ!」


 なんじゃと!?

明るいうちから魔物さんの襲撃か!?

こうしちゃいられない!


「アルデア、ヨロシク!」


「了解ナ」


 毛布にくるまったアカを渡すと、アルデアはその……母性の谷間にアカをイン!

ポケットみたいな使い方してからに……

と、ともかく、敵か味方かわかんない接近者を見極めなければ!


「そのまま座ってなムークちゃん。ありゃあロドリンドの関係者だ」


 えっ!?

……むむむ、言われてみればそんな旗が立ってるような気がする……カマラさんは目がいいねえ!


 街道の先、【エンシュ】方面から土煙と……なんじゃあれ!?でっかい馬車が見える!

先頭は普通?の竜車なんだけど、荷台の部分がむっさ長い!

異世界タンクローリーって感じかな?


 その竜車は、まっすぐこちらへ来て……盛大に土煙を上げながら休憩所に入って来た。

走竜ちゃんの後ろにいる御者さんは、かぶっていた頭巾をスポンと脱ぐ。



「――ダンナ! ムークの旦那ァ! ご無事でらっしゃいますか~!?!?」



 あれは!

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是非お願いします!!

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アカちゃんもソロでオオムシクイドリもヤれそうなくらい強くなってますねぇ。 江戸っ子ちゃん、むっくんの心配半分、また会える嬉しさ半分ですね(・∀・*)
魔素転換のことバレても仕方なしか。子供が危ない目に遭わない方が優先。流石ムッくん。内緒にしてねー?後、メイヴェルママさん女神ーズなにしてんすか。カツ丼食べたい。
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