第80話 護衛虫、歓待虫。
「ムーク様、こちらを!」「体をお拭きください!」「お疲れではありませんか? よろしければ天幕で……」
「ダ、ダイジョウブデス、ハイ」
圧が!凄い!!
襲って来た魔物を千切っては投げ、千切っては投げ。
そうして、襲撃が一段落して歩き出して……夜通し、歩いた。
途中で何度か前方からの襲撃はあったけど、村人さんたちが問題なく処理し……街道脇の休憩所までたどり着いた頃には、すっかり朝日が昇っていた。
有難いことに、周囲に魔物の気配はなく……ボクらはやっと腰を落ち着けることができたんだ。
もちろん、魔物避けの結界が作動していることは確認してね!
で……今に、至る。
適当な場所に転がって寝ようとしたら、むしんちゅレディズが走ってきて……むっちゃ、お世話されてるの。
「アノ、ミナサンモ休ンデクダサイ。ボクハ転ガッテ寝ルノデ……」
「まあ、いけません! 今敷物を出しますので!」「ラカコ! 干物持ってきて!」「そうね、ここで作っちゃいましょうか!」
あああ、何も聞いてもらえない……料理の準備が始まってしまった!
「ワダスもお手伝いをば……」
「あんたは戦って疲れてるんだ、親分さんのとこで休んでな!」
「はわわわわわ」
ロロンが虫人のおばあちゃんに押されてこっちへ来た。
おお……明らかに疲れている。
「オツカレ、ロロン。コウナッタラ一緒ニ休モウカ」
「じゃじゃじゃ、ワダスはもう大丈夫なのす~……」
どこがよ、むっちゃ眠そうだし。
「カムヒア、アルデア~」
「休む時には休むのナ。それが鉄則なのナ……」
「むわわわわ」
後ろからやってきたアルデアが、ロロンを抱え上げて……今しがた敷かれた敷物の上にゴロン。
がっしり掴んだまま、即座に寝息を立て始めた。
寝つきの良さが、異次元!
じたばたしていたロロンもさすがに限界なのか、そのまま寝息を立て始めた。
なんか面白い!
「おじちゃーん」
ム、この子は……カタコちゃん!
うーん……元気そうだけど、やっぱり寝不足なのか眠そうではある。
「ヤア、疲レテルデショ?」
バッグに手を突っ込み……出でよ飴玉!
「ハイ、ドウゾ」
「わー! ありがと~!」
カタコちゃんはボクの横にちょこんと腰かけ、飴玉を口に放り込んだ。
と、視界に動きがある。
むしんちゅキッズたちが、ぞろぞろとこちらへやってきて……ボクを見ている。
ふふん……お見通しだぞキッズたちよ!
「ハイハイ並ンデ~、小サイ子順デスヨ~。ミンナ頑張ッテ歩イタカラネエ、御褒美、御褒美~!」
ふふふ、ボクのバッグを甘く見ないでほしい。
食料は無茶苦茶あるし! お菓子も無茶苦茶あるのだ!!
「「「わーい! おじちゃん、ありがと~!」」」
「ハッハッハ、苦シュウナイ! ヨキニハカラエ~!」
この子たち、村が壊滅しそうになって逃げてきたってのに元気だね……異世界キッズは逞しいのかな?
「アカトピーチャンハ一番小サイカラ~、アーン」
「あむむ」『柑橘系ね!柑橘系だわ!』
寄ってきた妖精のお口に飴を捻じ込み、行儀よく背の順で並んだ子供たちに飴玉その他を配ることにした。
着の身着のままで逃げてきたからねえ、このくらいはサービス虫!サービス虫ですよ~!
・・☆・・
「こりゃあムーク殿、子供らが申し訳ない……!」
「イエイエ、全然」
おや、お久しぶりですね村長さん。
話し合いとか終わったんじゃろか?
ちなみに、ボクの周囲には子供たちが転がってスヤスヤしております。
アカとピーちゃんもね。
みんな疲れてたんだから仕方ないよねえ。
「『子ハ宝』デスカラネ、元気ナ子供タチデスネ~」
「そういっていただけると、大変ありがたいですじゃ……」
村長さんはボクの前に座り、懐からパイプを取り出した。
「なんとか、この先の目途はつきそうです。斥候に探らせたところ、我らを追う魔物はおらんとのこと……もっとも、前から魔力溜まりを目指す魔物どもは別でしょうが……」
「ソンナニ遠クカラ来マスカ?」
村周辺の魔物はともかく、一晩も歩き続けたのに?
「儂はさほど詳しくありませんが、カマラ殿によると今回の龍脈……普段になく大きいらしいのです。かなりの距離にまで、その波動が届いておるようだ……とのことで」
ほうほう……カマラさんが言うなら間違いないネ。
「チナミニ、【エンシュ】マデドノクライデスカ」
「女子供、老人を抱えておりますのでな……どんなに急いでも、一週間。魔物次第でさらに伸びるかと」
むーん……さすがにそんなに楽にはいかないか。
「ですが、伝令魔法が届いておれば巡回騎士団が派遣されるはずですので……さしあたってここ3日間が勝負かと」
おお、巡回騎士団!
あの頼もしさなら合流しちゃえば平気そうだね。
あ、そうだ。
「アノ、昨日言ッテタ『守国協定』ッテ何デスカ?」
「おお、そういえばムーク殿はとつくにの出身でらしたな……守国協定とは、巡回騎士団等に普段から協力をしておるといざとなれば守ってもらえる約定のことですじゃ。我らは小さな村とはいえ、その責務は欠かしておりませんので……」
あー、なるほど。
一種の相互……相互……
『相互扶助、ですね』
そうそれ!
なるほどね~、色々あるんだなあ。
「それにしても、引っ込み思案なカタコが良く懐いたものですな……妖精にも好かれるムーク殿の人徳でしょうか」
「飴玉ノセイデハ?」
座っているボクのマントに包まってスヤスヤしているカタコちゃん。
アカもピーちゃんも一緒で、とっても和む光景だ。
「昨夜は大地竜を屠られたとか……ララコの命もお救い下さり、感謝のしようもありません」
ララコ……あ、おねえさんのことね。
「イイ人ニハ長生キシテモラワナイト、駄目ナンデ」
「これはなんとも……やはり、噂通り【大角】閣下の――」
「隠シ子デハゴザイマセン!」
噂キャンセル!
くそう!こんな所まで噂システムが追いかけていらっしゃるんですか!!
「はっはっは……また夕方に出発しますので、それまではごるゆりと英気を養ってくだされ。そろそろ食事もできますでな」
ちょっと! 本当に無関係だってわかってるんですか村長さん!?
あああ!追いかけたいけど子供と妖精が起きちゃうから!起きちゃうから~!
・・☆・・
「みがいてるの~?」
「ソウダヨ、昨日頑張ッテクレタカラネエ」
美味しいご飯を食べて、また子供たちお昼寝して……起きたら昼過ぎくらいの時間になっていた。
まだ出発には間があるので、ヴァーティガを磨いている。
カタコちゃんはボクのどこが気に入ったのか、アカと遊びつつまだ近くにいるんだ。
なお、この子もアカに教えられてお手玉4個を習得したのでボクよりも上級者です。
「きれいね~、わたしもみがく~」
と言うので布を渡したけど……キッズは慈悲なき者とは対極に位置しているからヴァーティガも特に反応はしていない。
「んしょ、んしょ……あのね、おねーちゃんたすけてくれて、ありがとうね~。こんぼーさん!」
光もしないし、震えもしない。
けれど、ヴァーティガはどこか喜んでいるように見えた。
やっぱりキミは子供好きか……仲良くなれそうな棍棒だよね、ほんとにさ。
「よるあるくの、こわかったけど……おじちゃんがいるからだいじょぶだね」
「ウム、任セテオキナサイ。魔物ナンカ片ッ端カラハンバーグニシチャウカラ」
「はんばーぐ?」
あ、これ翻訳されてないっていうか地球言語だった。
「……挽肉ヲ捏ネテ作ルオイシイ料理ノコト。【ロストラッド】ッテ遠イ国ノ料理ダヨ」
申し訳ない山田さん……でも絶対にあるという確信はある!
だって日本人だし!
「こんどおねーちゃんにたのんでみる!」
「エエット……マルモト卵、ソレニ【バイツ】ノ粉ヲ入レルト上手ニデキルヨ」
知る限りのレシピも伝えておこう……異世界ナツメグにはまだ出会ってないので省く。
『大根おろしとポン酢でもおいしいのよ……のよ……』
肩のピーちゃんから念話寝言まで返ってきた。
和風ハンバーグか……おいしそう! たまにはサッパリいきたいね!
「まあカタコ! こんな所に……ムーク様にご迷惑をかけていない?」
「いなーい! ねえ、おじちゃん?」
「トッテモイイ子デスヨ、イイ子」
ええっと……ララコさん? が走ってきた。
「それにムーク様、昨晩は本当に……本当に! ありがとうございました!」
「イエイエ、冒険者ナノデ」
ララコさんは土下座の体勢に入りかけたので、なんとかむっくんキャンセルを放っておいた。
危ない危ない……ヒトに土下座されるのって本当に慣れない、慣れたくもない。
「せめてこの子だけは……と思ったのですが、私まで……お怪我もなされたようですし」
「治リマシタノデ、オ気ニナラサズ」
助けられてよかったね、本当に。
駄目だったらとんでもないトラウマになる所だったよ、ボクの。
「ムーク様は、私達姉妹の英雄です! 【大角】閣下のような!」
きゅ、と手を握ってくるララコさん。
うひー、くすぐったいや!
「ハッハッハ、恥ズカシイデスネ。照レチャイマスヨ」
「まあ……ふふふ」
「あはは~」
つられたのか、カタコちゃんまで笑い始めた。
へへ……なんかさ、こういうのもたまには悪くないねえ。
『神殿内に告ぐ! メイヴェル様の鉄砲水が来るし~! 総員退避~!!』
……ごめんなさいでした神殿の神様たち!
ボクは悪くないけど、本当にごめんなさいでしたァ!!




