第79話 させんよ!ボクはハッピーエンド至上主義虫なんだからね!!
一歩、足を踏み切る。
地面の割れが大きくなる。
二歩、空中で全力衝撃波。
地面が割れて、なにかが出てくる。
追加衝撃波、更に加速。
地面から、鋭く尖った白色の石……牙が、飛び出す。
カタコちゃんを抱っこしているおねえさんが、ボクを見る。
一瞬、視線が彷徨って――彼女は、抱っこしているカタコちゃんを……ボクに、投げた。
投げられたカタコちゃんは、目を丸くしている。
空中で、カタコちゃんをキャッチ。
それを見届けたおねえさんは、安心したように目を閉じて――
「――雄ォオオオオオオオオオッ!!!!」
投げる、ヴァーティガを。
蒼白い燐光を虚空に刻みながら、頼れる相棒は真っ直ぐ飛ぶ。
飛んで――今まさにおねえさんを噛み千切ろうとした、牙に食い込んで止める。
地面から飛び出した大地竜の口は、ヴァーティガによって閉まらなくなった!
「カタコチャン、ゴメンネ――ロロン! 頼ムッ!!」
後ろから走ってきたロロンを見もせず、カタコちゃんを放る。
「合点でやすっ!!」「わ、わ~!?」
キャッチした音を認識しつつ、更に衝撃波!
「――ソレハ、サセナイゾ!!」
地面から破片を散らしながら出てくる、大地竜の首!
その口に、飛び掛かる!!
「きゃ、あ、ああっ!?」
「ゴメンナサイ! ゴ期待ニ沿エナクッテ!!」
大地竜の口の中でヴァーティガへ縋り付くおねえさんを――抱える!
その瞬間、ヴァーティガがズレて口が閉じる形になる!
「ヌゥウゥウウウウウウウッ!」
飛び込んだ口の中で両手両足を伸ばして閉じる動きを、止める!!
あだだ、魔力込めてなかったから牙が手を貫通しちゃった!
装甲が軋み、割れ、痛みが走る――だからどうしたァッ!!
「サア、飛ビ降リテ! 下ニ仲間ガイルカラ大丈夫! 早ク!!」
「あ、ああ、あ――」
ああ、駄目だ!
おねえさん、震えて動けそうにない!
それなら……隠形、刃腕ッ!!
「きゃッ!?」
刃先を外へ曲げて、間違っても刺さらないようにしたそれでおねえさんを掴み――
「ゴメンナサイッ!」「きゃあああっ!?」
外へ、投げ飛ばす!
「アルデアーッ!!」
「よっと、掴んだのナ!」
空中へ飛び出したおねえさんは、アルデアが足でキャッチした!
最高の仲間だ! やったね~!
「オゴガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「グヌウウウウウウウウウウッ!!」
ボクを噛み砕こうと、大地竜が吠えた。
上下に感じる圧力が増大し、装甲が、軋む!
むしんちゅを美味しくいただけなかったから怒ってるのかな?
まあ、それを認めるつもりは――ない、けど!!
「スゥウウ――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
両手両足に魔力を込め、全部の棘を同時に放出!!
「ゴバギャ!?」
右手以外の棘は、大地竜の口中を蹂躙。
さすがに、内側からは効くでしょ!
その証拠に、力がめっちゃ緩んだしね!
「――回、レェ!!!!」
最後に残った右手の棘が、上あごに突き刺さって高速回転を始める。
噴き出す血液が、電磁赤熱によって焦げて、熱湯みたいな温度になる!
「ゴッボボ!?ゴボーッ!?!?」
これはたまらなかったのか、大地竜は噛む動作を止めて震えた。
よし、ここだァ!!
自由になった左手をマントに突っ込み、魔石を取り出して口へ!
噛み砕きながら、左手でヴァーティガを掴む!
そして――
「『我ガ剣ハ、牙ナキモノノタメ』!!」
瞬間、一気に流れ込む――魔力!!
大地竜の舌を踏んで、外へ!
飛び出しながら、牙を右手で掴む!
「コレ、デモ――喰ラエ! 悪食野郎ォ!!」
飛び出した勢いで半回転して――蒼く輝くヴァーティガを、叩き付ける!
今しがた飛び出したばかりの、大地竜の口へ!!
「ギィエッガ!? ゴガ、ガガガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
牙を砕き、口を歪ませ――蒼い幾何学文様が、大地竜の顔面に侵食していく!
「爆発スルゾォ! ミンナ、離レロォオオオオオオオオッ!!」
「キャーッ!?」
地面に着地し、逃げ遅れた虫人のお姉さんを抱え――バックステップ!
「ギャガガガガ、ガガガガガガガガガガガガガアガガガッ!?!?!?」
距離を取る間に――地面から肩のあたりまでを露出していた大地竜は、地面を砕きながらのたうち回っている。
そして、顔中に広がった紋様が――爆発。
大地竜の頭を、内部から吹き飛ばした。
「コノ人ヲ、頼ミマス!」「わ、わかった!」
援護に来たっぽい手近な虫人にお姉さんを渡し、更に魔石を噛み砕く。
失った魔力が急速に回復してとっても気持ちが悪い!
でも、次に備えないと!
「ムーク様! 指が!?」
ロロン、指がどうし――なぁい!?
右手の指が4本もなァい!?
「大丈夫! 生エルカラ!!」
認識したら痛いけど、トモさんよろしく!
『修復開始――完了』
「ンギグググ!」
一気に生えた! とっても痛い!!
でも生えたからいいや!
さて――肝心の大地竜は……大丈夫そう。
だって、下顎しか残ってないもん、頭。
動いてもないし……
ふむん……前に森で戦ったのよりも大きいね。
でも、水晶竜とドンパチやってたのよりかは小さいや。
トモさん、他には!?
『地下の魔力と混ざり合って、索敵が妨害されていますが……少々、お待ちを。索敵範囲を地中に集中させます、その間上空監視がおろそかになりますので、ご注意を』
了解!
暗視を起動――うわ、一面の緑色に……赤い点が、いくつも!
羽が生えてるってことは……あれが飛竜ってやつか!
「ウナーッ! ウナナナナナナナッ!!」
現在進行形で、アルデアぽい赤い塊が珍妙な掛け声で大暴れしてる。
飛びながら槍で薙いでいるのか、小さい赤い塊がどんどん地面に落ちていく。
すっご……
「おやびん、だいじょぶ、だいじょぶぅ?」
おっと、アカが飛んできた。
「ダイジョブ。親分ハ無敵ナノデ」
指がちょっと吹き飛んだけども。
「インラーダ・ローグル・ウゥム――スヴァーハッ!!」
おお、今まさにロロンの魔法が森を薙ぎ払っている。
あっちもすごいなあ、土の槍がマシンガンみたいに……ああっ!足元がふらついてる!
「ロロン! アッチノ……女性陣ヲ頼ムヨ!」
「じゃ、じゃじゃ……ワダスはまだいける、のす~……!」
慌てて駆け寄ってロロンを抱え上げてダッシュ。
魔石回復ができないからなあ……魔力ポーションの導入も検討した方がよさそうだね。
「むわわわ……」
そのままロロンを抱え、女性たちがいる所に到着。
みんな不安そうだけど……うん、怪我人はいないね!
「頼ムヨ、ロロン。マタ大地竜ガ来タラボクヲ呼ンデ! 皆サン、コノ子ハボクトッテモ可愛クッテ頼リニナル子分デスノデ、ヨロシク!」
「はわわわ!?」
目を白黒させるロロンを撫で、再び最後尾へ!
移動が完全に止まっちゃったね……早いとこ生き残りをアレして、避難を再開しないと!
『ピーちゃん! 前の人たちは大丈夫!?』
『大丈夫よ! ちょっと怪我している人もいるけど、重傷者はいないわ! むっくんが一番の大怪我よ!』
……そっか、ならいいや!
もう生えたしね!!
『――索敵完了。現在、周辺の地下に敵影、なし!』
ありがとう女神様っ!
今度はもっとちゃんと気にしていよう……間に合ったからいいものの、あんなのもう二度と御免だよ。
心臓が潰れちゃうかと思った……心臓ないけど!
『むっくん、後方の敵はいいですが、これからは前方も気にしないといけませんよ』
え、なんで?
……あああ!前の方からも魔力チュウチュウしにくる魔物がいるのか!
後ろのことしか考えてなかった!!
『まあ、村人さんたちもかなりの戦力のようですが……油断は禁物です』
はい!
護衛虫、滅茶苦茶頑張りますよ!!
――再生した左手パイル、飛んでけーっ!!
「――ゲェアッ!?!?」
今まさに茂みから飛び出そうとした、若干大きい地竜の首を貫通!
気付けてよかった……本当に。
「おやびん、それ、さいご、さいご!」
お、これでとりあえずは打ち止めか……でも、おかわりが来るかもしれないから気を張っておこう。
「――魔物は片付けた! 明るくなるまで進むぞォ!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」
村人さんたちも問題なさそうだ!
よーし、休憩するまで頑張って進むぞ~!