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第78話 護衛虫、頑張ります!

「どうしても必要なモノだけ持っていくんだぞ! 生きてエンシュに着けばなんとでもなる!」


「爺ちゃん、その大剣は置いていきなって! もう振れねえだろ!?」


「そうだよ!こっちの短槍にしときなって! 安心しなよ、俺たちにゃ英雄殿がついてんだから!」


「ヤカコ! 身重なんだから歩かんでいい! 俺が背負子でおぶるから!」


 村中が大騒ぎだ。

必要なものを風呂敷的なのに詰めて準備する人。

槍とか剣をかき集め、戦えそうな人に配る人。

不安そうに泣く子供をあやす人。

それでも、パニックってほどじゃない。

なんか……慣れてる感じがあるね。

避難訓練みたいなの、よくやってたんだろうか。


「ムークさん!」


 お、若い虫人さんが走ってきた。


「お客人に申し訳ねえんだが、アンタらにゃあ女子供の列を護衛してもらいてえ……いいかい? 俺達は自分の身は自分で守れるし、その方がいいんだが……」


「ハイ、オ任セクダサイ」


 責任重大だけど、ボクは地理に明るくない。

先導や偵察はできないからね、そっちの方がいいや。


「責任重大でやんす! ワダスも、一層武者働きするのす~!」


 ボクの名乗りからずっとテンションの高いロロン。

彼女は、やる気満々で槍を握り締めている。

頼もしい……!


「ムークといると退屈しないのナ。本当に……お前は呪われてるんじゃないのナ?」


「全力デ否定シタイ」


 さすがに国家規模の異変までボクの悪運が及んでいるとは思いたくない!

ボクは清く正しく……は別として、穏やかに生きていきたいだけの虫なのですよ!


『アカ、さっきの話聞いたでしょ? アカはちょっと上を飛んで……何かが来たら魔法をぶちこむ! 頼むよ子分さん!』


『あいっ! アカ、がんばゆ! おやびんといっしょ、がんばゆ~!』


 可愛くって頼もしい子分からの念話も返ってきた。


『偵察はお任せよ! お任せよ~!』


 ピーちゃんもやる気十分だし、ボクも気を引き締めよう。

まあね、どうせ向かう先は一緒なんだし……いいか!



・・☆・・



「それでは、出発! 暗いから足元に気を付けるんだ!」


 前の方から声が聞こえて、人が動き出した。

この村の総人口は50人くらいだから……けっこうな人数!

こんなに大人数で移動するなんて、転生して初だねえ。

地球? 概念しか知らん!


 ボクら一行は、集団の後方に位置している。

前には、女性や子供、老人などの戦えない人たち。

前方には戦える人達が集まっていて、索敵と偵察をしながら進む形になる。

カマラさんは、村長と一緒に前の方にいるみたい。


「かあちゃん、こわい……」


「大丈夫よ、大丈夫。メイヴェル様が守ってくださるわ……こんな村にも神託を下してくれる方ですもの」


「綺麗な声よね、私感動しちゃった!」


「いつでも私達を思ってくださるのよね……生き延びられたら、一層帰依しなくっちゃ!」


 前の方からは小声で不安そうにしている気配……ここでもヴェルママの人気は凄いな、さすがむしんちゅのゴッデス!


『私の子らを頼みます、虫よ。私自ら手助けをしたいのですが、加減が難しく……』


 噂をすれば!

……前に言ったでしょ、ママ。

ママの子供ならボクにとっては兄弟姉妹みたいなもんだって!

守ってみせますとも!

今は手の届く範囲にいるしね!


『ううう……なんと、なんといじらしき虫か……』


『おわーっ!? だからギャン泣き鉄砲水はやめろし! やめろし~!!』


 ……が、ガンバルゾ~。


 きゅ、と。

マントが引かれた。

おや、アカ……じゃないな? 下か……


 そこには、小さい虫人の女の子がいた。

ふむん……テントウムシっぽい?


「おじちゃん、つよいの?」


 おじちゃんは生後1年未満なんだよ、少女よ。

キミはボクよりも年上なのだよ~?

ま、いいか。


「ウン、強イヨ。トッテモ……頼レル仲間モイルカラネ」


 不安そうに見上げてくるその子を、撫でる。

そこそこ強くはなったと思うけど、まだまだなんよね……でもこんな不安になるようなことは言えません!


「おやびん、とってもつおい! さいきょ、だいじょぶ!」


「ようせいさんだ~!」


 アカが上空から下りてきてその子の周りをくるくる回っている。


「カタコ!? 駄目じゃない、ご迷惑かけちゃ!」


 お母さんか、お姉さんか……ともかく、成人してるっぽいむしんちゅがダッシュしてきた。

やっぱりテントウムシっぽいね。

顔の造り自体は人間女性っぽいけど。


「大丈夫デスヨ。ハイ」


 女の子……カタコちゃんを抱き上げ、走ってきた女性に渡す。

軽いなあ、体重。


「あ、ありがとうございます!」


 あ、この人! 焼き魚持ってきてくれたおねえさんじゃん!

それならご飯の恩返し、しないとね~。


「おじちゃん、【おーつの】さまのおともだちなの~?」


 おねえさんに抱っこされて、カタコちゃんが聞いてきた。

お友達……ううむ、どうなんじゃろ。


「ソダヨ~。トッテモ大キクテカッコイイ人ダッタヨ~」


 コレに嘘はない。


「ダカラネ、オジチャンニ任セトイテ」


 カタコちゃんをもう一度撫でる。


「うん、わかった~」


 おねえさんは、何度も頭を下げながら女性陣に合流していった。

なんとも、小さい子だったなあ……


「……特ニ子供ハ守ラナイトダネ、ヴァーティガ」


 相棒にそう言うと、案の定古代文字が薄く光った。

そして魔力をチューッ! されるのだった。

『やったるで!』って感じの反応なんかな、これって。

ま、とりあえず魔石齧っとこ~。



・・☆・・



「ガルルル!」


 街道脇の草むらから、地竜が飛び出す。

目前のご老人に飛び掛かる体勢だ!


「サセンヨ!!」


 衝撃波を脳天にぶち込む、地面に転がして――ヴァーティガアタック!!

相棒がその顔面にめり込み、なんとも表現に困る状態で死んだ。


 村を出発してからしばらくは大丈夫だった。

だけど、ちょいちょい魔物がコンチニワすることになってきたんだよね。

まったくもう、おとなしく大地の魔力とやらをゴクゴクしてなさいっての!


『おやびん! うしろ、うしろいっぱい!』


『こっちにどんどん来るわ!来るわ~!!』


 妖精たちからの念話……ええい、大人気だね!


『後方、左右に広がって地竜の群れが近付いてきますよ!』


 左右か……


「ロロン、ボクハ左ヲ!」


「合点、ワダスは右を!」


 だけど、頼れる子分がいるから大丈夫!

ヴァーティガを担いで……魔力を集中!


「オーム! カラハリ・カラハリ・ダム・オウ――」


 ロロンが槍を回転させ、魔力を練る。

槍の先端が魔力で光り、闇に綺麗な円が描かれていく。


「スヴァーハッ!!」


 その円の中心から、細かく光る結晶が森に向かって放たれた!

すご!綺麗なマシンガン!


 ボクも負けてられないな――むん、むん、むーん!

速射衝撃波、乱れ撃ち!!


「ギャガッ!?」「ガアアッ!?」「ッギ!?」「ギャババ!?」


 左右の林から悲鳴がバンバン聞こえてくる。

よしよし、当たってる当たってる!

速射程度なら休まず撃てるようになったもんね、ボク!


『アカ! 撃ち漏らしが来たらどんどん撃って!』


「あいっ! みゅんみゅんみゅ……」


 上が明るくなった!アカの雷撃魔法!


「――えぇ~いッ!!」


 カワイイ声に続いて、可愛くない稲妻が飛んでいく。

更に悲鳴が大きく、多くなる!

地竜程度の魔物なら、ボクらで殲滅できるぞ!

進化してよかった!


「ムーク! 遠くで木が倒れているのナ! デカブツがこっちへ来るのナ!」


 上空のアルデアが叫んだ。

安心した瞬間にこれだ!

デカブツ……大地竜か!


「近付イテキタラマタ教エテ!」


「了解ナ! 私は上空から援護するのナ――『纏いて落ちよ、地走る雷』!!」


 アルデアが放った細い稲妻が、地面に着弾して――網みたいに分かれて森の奥へ!

おおーっ! アルデアも魔法使えるんだ! ロロンとはちょっと違うけど、カッコいい詠唱!


 大地竜の速度がどれくらいか知らないけど、こうして引き撃ちしてれば大丈夫そう!

魔力もまだあるし、魔石は店を開けるくらいあるんだからね!


『むっくん、希望的観測は死を招きますよ』


 はいっ! 肝に銘じてますぅ!


 その時、前方から声が響いた。


「前からも来る! コイツは……飛竜だッ! 構えろ、者ども!!」


「「「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」


 回り込むなんてひどいよ!?

畜生、ここからじゃ援護に行くわけにいかないから……頑張って! 戦える村人さんたち!

とにかく、後方の敵に対処しなくっちゃ!!


 トモさん!後方は!?


『小康状態です、全滅したわけではありませんが……距離を詰めてきませんね。何かを待っているのでしょうか?』


 新手を待ってるのかな?

まあ、こうして気を張っていれば大丈夫――


「……ン?」


 前の人たちが戦ってるからかな?

なんか、さっきよりも地響きがあるような――


「――イケナイ! マサカコレッテ!?」


 前にも覚えがあるぞ、この感覚。

地震じゃなくって、まるで土の中を何かが移動しているような――


 その振動は、ボクの真下を通って――女性たちの方へ、行く!?

っちぃい!性格が悪い、ねえ!


「――下カラ大地竜ガ、来ルゾォ!!」


 ボクは、そう叫んで踵を返した。

そして、衝撃波を放って跳ぶ。


 さっきの2人がいる地面が割れ始めるのを見ながら、跳んだ。

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― 新着の感想 ―
タイカクじゃなくてオオツノだった。
やるしかない!水晶竜とガチ喧嘩してたから今のムッくんでもかなりの難敵か?間に合え!
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