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第77話 風雲急を告げないで!!

『ムーク、ムーク!』


 うにゃむ……なんですかテオファール、こんな夜中に……


『眠れないなら子守唄を歌ってあげよっか……ねんねんおもーり~は~、どーこいった~……』


『なんですのその珍妙な歌は! お起きになって!』


 今の叫びで完全に目を覚ましちゃった……むくり。

うおー、真っ暗。

街灯とかないから完全な暗闇だ……今何時くらいじゃろ。


『ムーク、あなたわたくしと会ってから同じ方向へ移動しておりますわね?』


『うん、別に飛んだりしてないし……なんで?』


 みんな寝てる……当たり前か。

いつになく焦った様子だけど、どうしたんだろテオファールは。


『先程急に、地下の様子が変わりましたわ』


 へえ、そんなのわかるんだ。


『えっと……魔力の川があるんだっけ?』


『そうですの。本流ではなく、支流の数が『増え』ましたのよ』


 たしか……魔力の濃い所に川が流れてるんだよね。

……あれ?


『待って、このタイミングでそう言うってことは、その増えた支流って――』



『――ええ、あなたがいる所の近くに『増え』ましてよ』



 えらいこっちゃ!?

トモさん、トモさーん! 今の聞いてた!?


『ええ、聞いています』


 支流が増えるってことは……


『そうです、魔力が濃い所を目指して魔物が集まり始めます。そこで大地からの魔力を吸収し、より強く大きくなっていくのです』


 えらいこっちゃ!えらいこっちゃ!

みんなを起こして逃げないと!


『テオファール! 情報ありがと! 愛してる!』


『あいっ……!? お、お友達ですもの、当然のことでしてよ。お急ぎなさい、魔力を感じた魔物たちは貪欲でしてよ……あっという間に集まってきますわ』


 了解!

さっそく皆を起こし……ねえ、トモさん。


『なんでしょう』


 ……この村の人たちは?


『……とにかく、情報はお伝えした方がいいでしょう。ゲニーチロさんの割符をお使いなさい、それで信ぴょう性が上がるハズです』


『そこの虫人たちがどうするかは、彼らの問題でしてよ。わたくしが手助けしたい所ですが、人里に近すぎる場所ですのでそこごと消し飛ばしてしまいますわ』


 ……と、とにかく! みんなを起こさなきゃ!


「ミンナ起キテ! 大変ダ!!」



・・☆・・



「なんと、地下の龍脈が増えるとな!?」


「エエ、ソウナンデス。ニワカニハ信ジラレナイカモシレマセンケド……」


 みんなを起こし、カマラさんに聞いた村長さんのお宅にダッシュ。

門番の虫人さんに割符を示したら一瞬で通してくれたので、村長の……コガネムシっぽいお爺さんに説明をした。

マギアなんとかっての、トルゴーンでは龍脈っていうのね。

なんだか風水みたい。


「【大角】閣下の割符をお持ちの方が、そんなしょうこともない嘘なぞつくはずもありますまい……しかし、正確な場所はお分かりになるのですか?」


 ボクにはそんなレーダーなんかはない、けど……頼れる女神様!


『もう少々お待ちを、周囲の魔素の変動を調べていますが、なにぶん急な話なので――』


 その瞬間――ぞく、と背筋に寒気が走った。



『――愛しき虫たちよ、北の森中に不吉の兆しあり。……最も大事なのは虫の命、ゆめゆめ忘れることなきよう』



 綺麗な声が、ボクの頭……いや、村全体に響く!

こ、この声は――ヴェルママ!


「村長サン、今ノハ……」


「おお、この神々しき神託はまさしく女神メイヴェル様! 儂が子供の頃、南の山が噴火する前にも同じことが起こりましたぞ! なんと、ありがたや……!」


 どうやら、今の声はちゃんと聞こえていたらしい。

村長さんが土下座みたいな体勢になってる。

ヴェルママってちゃんと女神様やってたんだ……


『ヴァシュヌヴァール様に仲立ちをお願いしましたの。この方法が一番手っ取り早いですわ』


 有能すぎる!友達の龍さんが有能すぎる!


「村長! 今の声は――」


 門番さんが駆けこんできた。


「うむ、まごうことなきメイヴェル様からの神託じゃ! すぐに女子供を集めよ! 物見を出して確認しつつ、武器を用意せよ!」


「わ、わかった! おーい! 鐘ぇ鳴らせ~!!」


 すごい!魔物と隣り合わせの生活をしてるだけあって、反応も判断も早い!

門番さんはまたすぐ外へ走って行き、村長さんはボクの方を向いた。


「……いち早く情報をお知らせいただき、感謝の言葉もございません。このうえ不遜ではありますが、冒険者であるムーク殿にお願いしたいことがございまして……」


「ハイ、ナンデショウ」


 聞き返すと、村長さんは姿勢を正した。


「もしも此度の問題が重大なら……我らは村を捨て、『エンシュ』へ向かいます。あなた方も行く先は同じだとお聞きしました……その際は」


「護衛、デスネ」


「は、はい。お引き受けいただきますか?」


「依頼人ノカマラサンガ良シト言ウナラ、大丈夫デス。ボクラハ護衛依頼ノ最中デスノデ」


 こういう所はしっかりしとかないとね。

それに、カマラさんはきっとOKって言ってくれると思うんだ。


「――話は聞かせてもらったよ、村長さん。問題ないさ、行く先は同じなんだ」


 ほら、ね。


「ムークちゃん、村の意見がまとまるまでなんか食ってきな。アタシはここで村長さんともう少し話すからね」


「ハーイ」


 腹ごしらえだ!

腹が減っては戦が出来ぬ、ってね!

戦はごめんですけれども!



「あぐあぐ、まうまうまう……」


「オイシイネエ」


「おいし、おいし!」


 アカと並んで、地球のカロリーバーみたいなものを齧っている。

街で買い込んでおいてよかった、この保存食。

イセコさんを思い出すなあ……これ系のものを貰う時にお腹をグサー! されたんよね。

厳密にはトキーチロさんにだけど。


「テオファール様が解決なすった依頼に、関係あるんでがんしょうか?」


「ソレは知らんが、例の村での地底蜘蛛といい……大地の魔力に何やら起こっているんだろうナ」


 ロロンとアルデアが話し込んでいる。

ああ、それも関係あるのかな?

そういえば乱れがあるって前に言ってたし……はあ、さすがに世界規模の異変はボクのせいじゃないと思いたいね。


 寝床のある倉庫で車座になって、腹ごしらえなう。


「チュン……チキチキ……ピヨヨ……」


 ピーちゃんは半分寝ながら保存食を齧っている。

おかげでボクの肩にむっちゃ食べかすが落ちる落ちる。

ま、いいけど。


 鐘の音が響いてきた。

カン、カン、カーンっていうリズムを繰り返している。

何か動きがあったんだろうか。


「ム、我らも行くのナ。ムーク、ロロン、武器はもう出しておくのナ」


「合点でやす!」


「ウン、アカ、ピーちゃん、行クヨ」


 さて……どうなることやら。



・・☆・・



「物見衆から報告があった」


 村の広場には、おそらく村人全員が集まっていた。

その中心で、村長さんが少し大きな声を出している。


「ここから北へ5デラシル程の森に、雑多な魔物が大挙して集まっているそうじゃ」


 ざわ、と声が広がって……村人さんたちの顔に緊張が走る。

特に、小さい子を抱いているお母さんたちの顔色は蒼白だ。


「暗くて詳しくはわからんかったが、大地竜と地竜は確認できた。それも10や20じゃねえ、50はいる」


 村長さんの横に進み出た、槍を持って弓を背負った虫人が補足する。

大地竜か……懐かしい名前だね、とっても。


「今はまだ、大地から漏れ出る魔力に夢中だろうがいつこちらに気付くともわからん……よって、我らはこの場で村を捨てる!」


 さらに、広がる不安の声。


「ガイエンが既に伝令魔法を放った。明日にはルアンキとエンシュに知らせが届くだろう」


「村長! それで私達はどこへ……」


 眠る赤ちゃんを抱いた女性が、悲痛な声を出した。


「エンシュへ行く。こういう時の為の守国協定だ……生き残れば、また戻ってこられる! 心配するな」


 シュコクキョウテー?


『なにかの決まり事でしょう。私の知識にはありませんが』


 ふむん。


「それに……ムーク殿、こちらへ!」


 はい?

見ると、村長さんがこちらを見ている。

あ、カマラさんが手招きしてるね……行かなきゃならんか~、これは。


 周囲の視線が突き刺さるのを感じつつ、ボクは村長さんの前に行く。

すると、カマラさんが小さい声で耳打ち。


「(いつだかのアルデアちゃんの時と同じさ。村人たちを安心させるんだ……がんばんな、ムークちゃん)」


 お~……なるほどね。

完全に理解した。


「こちらのムーク殿は、かの【大角】閣下の信篤く……武器を取っては一騎当千の強者じゃ!!」


 いい意味でのざわ、が響いた。

盛られた!盛られた!!

で、でも……不安にさせたら駄目だもんね!


「ムーク殿とそのお仲間たちは、我らと行動を共にして下さる! 皆! 心配は無用じゃぞ!!」


 おお、みたいな感じの声がそこかしこから聞こえてきた。


「(駄目押しだ。割符を出して名乗りな……しっかりやんだよ)」


 ム、ムムム……やるしか、ないか。


 懐から割符を取り出し、多めに魔力を流す!

将棋の駒っぽいそれは青白く輝き、広場の空中にザヨイ家の魔導紋をきらめかせた。


「【トソバ】ノ皆! 我ガ名ハムーク!! 一宿一飯ノ恩義、果タサセテイタダコウ!!」


 さらに駄目押し!

ヴァーティガをずん、と地面に打ち下ろす。

空気を読んだのか、頼れる相棒に刻まれた古代文字が夜の暗闇を切り裂いて蒼く、蒼く発光した。


「(はっは、やりゃあできるじゃないか……いい英雄っぷりだよ。ホラ、若い娘は揃って頬を染めて……ロロンちゃんも大盛り上がりだねえ)」


 村人の後ろの方で、無茶苦茶興奮して槍を振り回すロロンを見て……ボクは笑わないように苦労した。

盛り上がり過ぎだって!

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― 新着の感想 ―
ムーク、英雄譚幕開け。一騎当千!無辜の民を護る為、怨敵蹂躙殲滅せよ。
うーんこの方は大角閣下の隠し子ですね間違いない(村民感)
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