第72話 さよならルアンキ、きっとまた!
楽しい時間って奴はあっという間に過ぎるもので、ルアンキに滞在してもう一月経った。
美味しいものを食べて寝て、アカと釣りして……たまに漁船の護衛依頼を受けて。
そんなふうに過ごしていたら、出発することになった。
ボクらはカマラさんの護衛だからね、正直永住したくもあるけど、それはそれ。
このお仕事が終わってもまだまだ行きたい所も、見たい所もあるし!
隠居するにはまだ早すぎると思う虫です。
『おやおや、寿命二年未満虫なのに大きく出ましたね?』
ひぎい!
寿命が欲しい!欲し~い!!
まあ、そんなこんなで……『アスノ飯店』の前でルフトさんに見送られている。
時刻は多分早朝、人気が無くってちょっと寂しい。
「色々、オ世話ニナリマシタ」
「いやいや、何言ってんだい。まだまだいてもいいのにさ……10年くらい」
「長スギデスヨ、ハハハ」
ルフトさんの長命種ジョークは反応に困るなあ。
『ルーちゃん!また来るわ!また来るわ~!』
「あいよ。アタシもあと500年ばかしは生きるつもりだからね、いつでも来な!」
……ピーちゃんもルフトさんも、長生きさんでいいなあ。
スケールが大きすぎるよ。
「ルフトさん、本当にえがんすか? こげに調味料ばいただいて……」
「いいんだよォ、そんなに高いもんじゃないからね。ロロンちゃんは筋がいいから、使いこなせると思うよ……アンタの旅が終わって、食うに困ったらまたここで働きな! はっはっは!」
「じゃじゃじゃ……おもさげながんす!」
ロロンは今までのバイト代的な感じで香辛料とか調味料のツボをいっぱいもらっている。
ふふふ、これでボクらのパーティはもっともっと食が充実するね!
「いい思い出になったよ。本当に世話になったねぇ……コイツは運気を呼び込むタリスマンさね。まあ、店の片隅にでも置いとくれ」
「おやおや、コイツはありがたいねえ……この街でもアンタのタリスマンは大評判だからさ!得しちゃったねえ、泊めただけでさ!」
ルフトさんに、カマラさんが結構豪華なタリスマンを渡している。
泊めてもらったどころか三食お世話になりましたが?
100万ガル払っても足りないくらい美味しいご飯をもらいましたが?
おっと、こちらも……
「アカ」
「あいっ! おねーちゃ、どうじょ、どうじょ~!」
アカとピーちゃん、そしてカマラさん合作のお守りだ。
ちなみに外側はボクが彫りました!
「あれまあ、こいつは嬉しいねえ! それにしても変わった形だねえ」
『それはね、さっちゃんに昔教えてもらった形をムークさんに彫ってもらったのよ! なんだかとっても縁起がいいんですって!』
まあ、そういうことにしている。
いつものように将棋の駒の形で、『亀』という字を崩して彫ってあるんだ。
ボクの彫り方はともかく、中身は絶対ご利益があるよね!
「舌がすっかり肥えてしまったのナ。とってもお世話になったのナ」
「はっはっは! 空の民を唸らせるなんざ、天上のゴーサク師匠に自慢できるねえ!」
アルデアはこの街にいるあいだ、しょっちゅう空を飛んでダイエットしてたもんね……
ストイックというか……飛べなくなると困るもんね~。
「デハ、マタ来マス。キットマタ」
「あいよ! ムークさんがいるとアンタ目当てのお嬢ちゃんたちで店が混むからねえ! 嬉しい悲鳴だったよ、また来な! 今度は1年いたってかまわないよ!」
……むしんちゅ女性のお客さんが多いのって、ここがトルゴーンだからってわけじゃかったんだ。
イケメン虫も辛いでござるな~?
「ばいばい、ばいばーい!」『元気でね!みんなみんな元気でね~!』
妖精たちの声が響く中、ボクらは東の門に向かって歩き出した。
ううう……お別れっていつになっても慣れないよねえ。
・・☆・・
「お立ちですか。これは街娘たちが嘆きましょう……また、いつでもお越し下され」
「ハイ、キットマタ。釣リモシタイデスシ!」
東の門に立っていた顔見知りのジローエさん。
彼にも別れを告げて、門をくぐって外へ――
「――英雄殿の前途を祝して! 捧げェ! 槍ィ!!」
「「「フー! ラー!!」」」
ヒギーッ!?
それ辞めてくださいってばァ!!
・・☆・・
「さて、こっから【ジェストマ】までは普通に歩いて2月ってとこさね。雨季に入るともうちょっと伸びるけど、この季節なら問題ないよ」
「間に街ば、いぐつありやんすか?」
「丁度中間地点に【エンシュ】っていう城塞都市があるよ。その他には村やら小さい街やらで、まあ補給に手間取ることはなかろうね」
整備された街道を歩きながら、カマラさんの説明を聞く。
ここはトルゴーンの中心を通る街道だからか、結構人とすれ違う。
「休憩所もあるしね、ゆっくり行くとしようかい……アタシも急ぐ旅じゃないしね」
ふむふむ、それじゃあ当面の目的地はその【エンシュ】ね。
補給の心配はいらないってことだけど、ボクのバッグにも備蓄がたっくさんあるし!
『干し魚を鬼のように買い込んでいましたからね……背嚢の約80%が食料で構成されていますよ』
飢餓が本当に怖い虫なので!
もう森時代のような悪夢は御免なんじゃよ~!
「難所はあるのナ?」
「森と隣接してる街道だからね、どうしたって魔物は出るさね。特にトルゴーンの中心領域の森は遺跡がやたら多いらしくってね……たまにそこから魔物が湧くんだよ」
遺跡!唐突にお出しされる浪漫!!
……でも、前のうんちまみれを思い出しちゃった……綺麗な遺跡なら探索したいけどね。
「大丈夫でやんす! ムーク様がおりやんすから!」
ロロンのボクに対する全幅の信頼はなんなのさ。
「だいじょぶ! おやびんいる、いるぅ!」
アカは分かるけどさ。
でも……親分として信頼されてるってことだもんね。
とりあえず横にいるので、ロロンを撫でちゃろ~!
「エヘヘ、アリガトネ」
「ふわわわ……!」
ビックリするロロン、そして即座に割り込んでくるアカ。
ふふふ、この子たちのためならボクは何処でも『頼れる親分』しなくっちゃね!
『虫が……虫が日々立派になって……およよ』
おや、遠隔神託ママだ。
『おわーっ!? およよじゃないんスよ!? これ絶対むっくんのせいっしょ! むっくんの!』
遠隔神託シャフさん!
なに、なにが起こったの!?
『(メイヴェル様の神殿の一角から鉄砲水が噴き出して、ムロシャフト様が吹き飛ばされました)』
ごめんなさいでした!
特に悪くはないと思うけど、ごめんなさいでした!!
「ムーク、ボケボケしてどうしたのナ? ここはもう魔物の領域ナ、油断すると死ぬのナ!」
そらんちゅキックが!スネに!!
「ゴメンナサイデシタ……」
そうだね、ヴァーティガを肩に担いでおこう。
何が出てくるかもわかんないんだしね!
『冒険よ! また冒険の日々だわーっ!』
ボクの頭に乗ってデュルンデュルンしているピーちゃんがそう言うように、ボクは冒険の気配に身を引き締めるのだった。
・・☆・・
「右ナ!」「ガッテン――喰ラエッ!」
アルデアの声に合わせ、左腕で狙いを付けて――パイル発射ァ!!
「ゲバァ!?」
空気を切り裂いて飛んだ棘が、緑色をしたオークのお腹を貫通!
「――スヴァーハッ!!」
その後ろから出てきた新手オークには、ロロンの土マシンガンが直撃!
「ブギッ!?!?」
連射される土の弾丸は、オークの鼻から上をハチの巣にした!
うわグロ!
「――ウナーッ!!」
「ピギュッ!?!?」
最後に残ったオークは、いつの間にか急降下してきたアルデアの槍で脳天から串刺しにされた。
うひゃ~……すっごい切れ味!
「おちかれ、おちかれ~!」『息がぴったり! いいチームだわ! 素敵よ!』
カマラさんの近くで護衛をしていたアカとピーちゃんが、キャッキャしながら飛んできた。
トモさん!まだいる!?
『森の奥からこちらを窺っていましたが、逃げ去りました。恐らく今までに倒したオークの中に長がいたのでしょう』
フムン……やっぱり黒オークと習性は同じか。
でも、こっちの緑さんの方はあんまり強くなかったね。
『むっくんも強くなりましたからね。で・す・が、油断は~?』
しませぇん!
『ふふ、よくできました』
さて、襲って来たオークたちはひいふう……8匹か。
安定して討伐できたね!
「穴ば掘りやんす~!」
そういうなり、ロロンは延長した槍で森の地面をザックザク。
「アレ、オ肉イラナイノ?」
黒オークさんは美味しかったのに。
「森オークなんて硬くて臭くて食えたもんじゃないよ。食えるオークは黒オークだけさね」
そ、そうなんだ……カマラさんの知恵袋助かるなあ。
えっと、埋めるってことは……バッグごそごそ、っと。
「ハイ、聖水」
「ありがとうござりやんす!」
ポーションと同じような瓶に入った透明な水を取り出す。
ルアンキで買っておいてよかったね。
埋めて、コレを振りかけておけばゾンビにならないって超助かる!
バラバラにしなくてもいいし!
便利な道具があるって素敵だな~!
『あ、森オークさんは睾丸が売れるらしいですよ』
……狼くん何体分?
『ふむ……2体分弱でしょうか』
埋める方向で!埋める方向で~!!




