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第64話 レスキュー虫、頑張ります!

「チョット痛イケド、スグニ楽ニナルカラネ」


「おくすり、おくすり!」


 ゴブリンと狼の群れを向こうに回して戦っていた走竜ちゃん。

彼女は、腕や背中に粗末な作りの槍が突き刺さったままだ。

とにかく、深そうな傷を選んでポーションを使わなくっちゃ!

ボクが現在持っているのは、中級ポーションが10本。

前にそらんちゅからの賠償金としてアルデアが頂いたものが混じっている。

『しばらく一緒に行動するのだからそっちの背嚢に入れておくのナ』なんて言ってたけど……ありがたいや。

申し訳ないけど使わせてもらおう。


「ギャルルゥ……」


 戦闘の興奮が冷めたのか、走竜ちゃんは伏せてちょっとしんどそう。

待っててね、すぐに治療をする……う、う?


「グルゥウウウ!ウルルウウ!!」


 ボクの腕ムッチャ噛まれとる!!

どうしたん!?痛いことされるって思ってるの!?

あっ!草食性だけあって全然痛くない!歯が平たい感じがする!!


「だめ!だーめぇ!おやびんたべちゃ、やーっ!」


 アカが必死で止めに入るけど……ボクは草ジャンルじゃないから大丈夫だと思うよ。

でもどうやって説得?したもんか。


『いえむっくん、ちょっと待ってください。彼女の後ろ……』


 後ろ?

そういえばこの子、このデッカイ木の前に陣取ってたんだよね。

カブトムシ時代はこれくらいの木のウロでよく寝てたなあ……あ、あれ?


 走竜ちゃん……ボクを噛んだまま体を回した?

ええっと……なんだろ?


 ――あっ!


『なるほど、さすが走竜……主人を守っていましたか』


 走竜ちゃんがボクに見せるように体を回した先。

大きな木の根元は、開いたウロになっていた。

そして、その中には……


『むっくん、ポーションの準備を!』


 お腹に槍が突き刺さった、虫人の女性が倒れていた。

……鉄製の槍は、彼女の脇腹を貫通している。

地面には、真っ赤な血が沁み込んで……かなりの出血量だ。

一瞬もう駄目じゃ……って思ったけど、胸が上下している。

大丈夫、まだ助かる!


「ギャルル!ギャゥウ!!」


 『なんとかして!』みたいな感じで吠える走竜ちゃんに、ボクは頷いた。



 とにかく木のウロから彼女を抱えて、明るい場所に運ぶ。

お腹の傷がぶっちぎりの大怪我だけど、それ以外にも切れ味の鈍い刃物で切り付けられたような傷がいくつもある。

破傷風とかも気になるけど……今はそれどころじゃない!

トモさん!どうしよう!?


『まず、貫通している槍の両端を切断して引き抜きます。抜けたらすぐに傷口にポーションを流し込んで傷を塞ぎ、綺麗な布で患部を巻いてください。他の細かな傷は……ふむ、致命傷はありませんので放置で』


 えぇ?だってこのままじゃ傷が残っちゃうよ!

女の人なのに!


『説明は追って行います!急がないと彼女は失血死しますよ!』


 ハイわかりました!!


『アカちゃん、ポーションを持っていてください。むっくんが槍を引き抜いたらすぐに流し込んで、傷口を押さえながらヒーリングしてあげてください』


『あいっ!がんばゆ!』


 ヒーリングってなんぞや。

あ、たまにアカがやってくれてるほんわかあったかい感じのハンドマッサージのことかな?

いつの間にそんな高等技術を……おやびんは脱帽ですよ。


 よし、やるか。

隠形刃腕、片方だけカムヒア!

魔力を流して……切断力を極限まで、上げる!


「あ、うぅ……う」


 虫人さんが呻いた。

さっきは暗かったからわからなかったけど、かなり若い人だ。

ロロン以上アルデア以下?くらいかな。

依頼表には1人だけだって書いてあったから……この子1人で行商してたんか、ガッツがあるねえ。

そういうむしんちゅなのか、身長はアルデアくらいあるけども。

この人は……ラクサコさんを思い出す感じ。

なんか、蚕とか蛾っぽいモフモフが見える。


「必ズ助ケルカラ、安心シテ」


 意識があるのかわからない彼女に声をかけて――槍の片方を切断。


「うぁ!?」


 ごめん我慢して!もう片方も切るッ!

なるべく振動が伝わらないように、瞬時に!!

そして……アカとアイコンタクトして……一気に、短くなった槍を引き抜く!!


「っぎ!?いぃ――ッ!?」


 虫人さんは、体を震わせて意識を失った。

ううう、痛々しいけど仕方ないんだ!


「アカ!」「あいっ!」


 アカが、ポーションを傷口にドバドバ流し込む。

いつぞやのマーヤみたいに、傷口からは血液とポーションの混合液みたいなのが逆流してきて……やがて、ポーション由来の緑色だけになった。

そして、じわじわとお肉が盛り上がってきて……傷は塞がる。

魔法みたいだ……実際魔法だけど。


「みゅんみゅんみゅ~……」


 塞がったお腹の傷にアカが手を当て、優しい光が患部から漏れてくる。


『アレは癒しの波動を含ませた魔力を流しているのです。むっくんにわかりやすく言えば、新陳代謝を促進して生気を充填するような効果があります。アカちゃんはまだまだ子供なので、出力はささやかですが……やるとやらないのでは大違いですよ』


 ウチの子分が有能すぎる……前にやってもらったけど、じんわりあったかいんだよね、アレ。


『さて、彼女の他の傷にポーションを使わない……否、使えない理由ですが。マーヤさんのケースと同じですよ……出血等によって体が弱っているため、一番酷い怪我を治すだけにとどめておかないといけないのです』


 ああ、そういえばそうか。

ポーションはその人の持っている生命力的なやーつを増幅するんだから、弱ってる人になんでもかんでも使うと逆に衰弱死しちゃうんだっけ。

危ない危ない、トモさんがいてくれてよかった。


「ギャルル」


 ボクの横から、走竜ちゃんが顔をぬっと覗かせて……虫人さんを心配そうに見つめている。

かなりの絆を感じるね……躾けるのが大変だって聞いたけど、一旦信頼関係が構築されたらこんな感じになるのかな。

猟師と猟犬的な?


「モウ大丈夫ダヨ。ジャ、キミノ怪我モ治ソッカアワワワワワッワワ」


 ボクとアカが何をしたのかわかったのか、走竜ちゃんはボクの顔をベロンベロン舐め回してきた。

青臭……くはない!ってことは長いこと食べてないのか!

不憫……!待ってなよ、治療が終わったら青草をお腹爆発するまで食わせちゃるからな!!



・・☆・・



『むっくん、大変です!』


 走竜ちゃんに突き刺さった槍を片っ端から抜いてポーションを振りかけるという作業が終わった頃、焦ったようなトモさんの声!

なんですか!?


「おやびん、おねーちゃ、あつい、あつーい!!」


 アカが飛びついてきた。

あ、熱い……?


 うわ!?

虫人さんの顔が真っ赤だ!?

男性と違って顔がヒューマノイドっぽいからよくわかる。

元々は色白だったんだろう顔は……高熱を発しているように赤くなっている。

いや実際にすっごい熱!額が熱い!!

トモさんこれどういうこと!?治ったんじゃないの!?


『どうやら彼女を切りつけた刃物に毒が塗られていたようです。腹部の傷は治りましたが、あのポーションに解毒作用はありませんので……』


 クソゴブリンめぇ!

いつか時間ができたら間引きしちゃる!!


 で、どうしよ。

おでこ冷やしたら治るようなもんじゃないんですよね?


『ええ、なまじ傷が治った現在……血流に乗って毒が活発に回り始めています。アカちゃんにやったような仮死状態モードは無理ですし……』


 トモさんは、一呼吸置いて言った。


『このままでは……もって半日、でしょうか』


 なんですと!?!?

え、ええええらいこっちゃ!えらいこっちゃ!!


「ギャルル!ガウ!ギャウ!」


 ご主人の異変に気付いたのか、走竜ちゃんが騒ぎ始めた。

その悲痛な鳴き声が、ボクのパニックを消し去った。


「大丈夫、大丈夫ダヨ」


 マントを脱いで、地面に置く。

そして……その上に虫人さんを抱えて下ろし、ミノムシのように巻く。

バッグの中から丈夫な革ひもを取り出して……布がほどけないように、固定。


 トモさん!お願いがあります!


『アカちゃんのナビゲートですね、了解しました。先にルアンキまで誘導して、受け入れ態勢を整えます』


 打てば響くように!

最高の女神様がいてボクってば幸運!!


『アカ、聞いてたでしょ? 先に街まで帰って、お医者さんを準備してもらってくれるかい?』


『おやびんは?おやびんは~?』


『ボクはこの人を運ばなきゃだからね、お空を飛べるアカならもっと早く到着できるでしょ。できるかな?』


『あいっ!まかして、まかしてぇ!』


 頼れる子分は、全身から魔力を放出してガッツポーズ。


「ギャウ、ギャルルル……!」


 心配そうに鳴く走竜ちゃんの頭を撫でて……虫人さんを抱っこ。

革ひもを胴体に巻き付けて、固定っと。


「心配シナイデ、頑張ルヨ、ボク……キミハ追イカケテキテ……デキルンジャロカ?」


『走竜の嗅覚はとても優れています。何かむっくんの持ち物を与えてください』


 むむむ……じゃあ、野営で使った毛布!

それをマフラーみたいに走竜ちゃんの首に巻いて……っと。


「ジャア、頼ムヨアカ!」「あいっ! がんばて、おやびーん!!」


 アカが笑い、一瞬で上空まで上昇。

魔力の爆発を残して、ルアンキ方面へ吹き飛ぶように飛んでいった。

うーん、もうジェット機どころか未確認飛行物体!


『アカちゃんのナビはお任せを。むっくんも同時並行で――』


『――ここは私に任せてもらいましょうか』


『はい、よろしくお願いしますメイヴェル様』


 ……なんて豪華なカーナビなんじゃろ。


『虫よ、私の子をお願いしますよ』


 ふふん、ママの子供ならボクにとっても兄弟みたいなもんだからねっ!

お願いされなくたって、やりますともさ!


「ジャア……行クゾッ!!」「ギャルルルルッ!!」


 『頑張れよお前!』みたいな鳴き声に見送られ、足元の地面を吹き飛ばして走り出した!

レスキュー虫、行きマース!!


『うう……なんと立派な虫か。私は嬉しくて泣いてしまいます、ううう……』


『ともちんの部屋が大洪水なんスよ!あーあーもー!お隣ちゃんごめんし!逃げてー!』


 ……行きマース!!

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レスキュームシ!?あ、新しい。だが悪く無い!行けムッくん!! でもあんまり患者さんをシェイクしないようにネ?毒の回りが早くなっちゃいそう。慌てず騒がず振り過ぎず。且つ優雅に気品に溢れエレガントでハイソ…
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