第63話 魔物ども、そこのけそこのけ謎虫が通る!
『方位、その場から左に45度!森の奥の方で、何かが争っています!』
「ばきばき、どかーっておとすりゅ、すりゅう!」
頼れる2人からのナビだ!
そっちの方向は……鬱蒼と茂る森の奥の方!
やっぱり街道から外れてたか!
お目当ての行方不明者かどうかわかんないけど、とにかく行ってみよう!
「了解!」
ゴブリンの成れの果ては一旦放置!
「行クヨアカ!ツカマッテテ!!」
「あいっ!」
肩につかまるアカを確認して――むっくん・ジャンプ!
空中で衝撃波ァ!カッ飛べボク!!
街道を後にして、突撃じゃあ!
・・☆・・
「おやびん!あっこ、あっこ!」
「見エタ!!」
2人のナビに従ってジャンプ&ダッシュを繰り返すこと数分。
ボクの耳にも、森の奥から響く音がハッキリ聞こえてきた!
バキバキと何かを倒すような音と……
「ギャルルルルッルル!!」「ギャガガガガ!」「ガアアアアアアアアアアウ!!」
前にも聞いた覚えのある走竜ちゃんっぽい声!
それに、さっき倒したゴブリンによく似た声と……犬っぽいの!
『このまま突っ込むよ!』『あいっ!』
適当な木の幹を蹴りつけて、上空へジャンプ!
森の上まで飛び出して――音の方向へ体を向ける!
ああ、今まさに木が倒れてる場所見っけ!
ちょっとした森の切れ目になってるね、あそこ!
追加で衝撃波、発射ァ!
装甲を軋ませながら、そこへ向けて突っ込む!
木の枝を散らしながら、森に再度侵入!
地面の苔を撒き散らしながら着地するボクの目前に……それは見えた!
『体が大きい……上位種ですね、あれは!』
ゴブリン、それに狼。
さっき成仏させたゴブリンよりも、背が2倍くらいあるムキムキのやーつ!
黒の森ゾーンで見たような連中!
そして……黒い毛皮の、小汚い洋犬の群れ!
無茶苦茶いる!20より先は数えてる時間がナッシング!!
「ギャルルル……!!」
その集団が、走竜を包囲している。
その走竜は……後ろに大きな木を庇うように立って、吠えている。
彼女の体には……
「――アカ! アノ走竜ノ上ニ飛ンデ守ッテ!!」
「あいっ!!」
無数の槍のようなものが突き刺さって、少なくない血を流していた。
業者さんはいないけど、まずはあの子を助けないと!
『賢明ですね。走竜の野生種が生息している場所は近辺にないはずです、ということはつまり……』
あの子が行方不明の片割れってワケね!
「ムンッ!!」
アカに続き、ボクも飛ぶ、
だけど、ボクの目的地は走竜ちゃんじゃなくて――囲ってるゴブリン集団の、外延部!!
「オォオオッ!!」
空中で叫ぶ。
すると、ゴブリンが何体かこっちを振り向いた!
ので――!
「コレデモ、喰ラェッ!!」
両足パイル、連続発射ァ!!
「ギャボ!?」「ガッバ!?」
よし!串刺し確認!
ボクの棘は上位ゴブリンに問題なく通用する!
「ガルウウアッ!!」「ギャギャギャギャギャ!!」
思った通り、アカよりも目立っているボクを視認したな!
そのままずっと注目してろォ!
アカが走竜ちゃんの援護に行くまでねッ!!
「オウリャアッ!!」「ギャッガ!?!?」
衝撃波を発射!
足パイルに貫かれたゴブリンの隣のやーつ!そのお腹にむっくん・ダブルキック!!
お腹をグズグズにしながら着地!
「ギャバルガ!!」
棍棒で殴りかかってくる新手ゴブリンに――左ストレート!!
インパクトの瞬間にシングル発射ァ!!
「ギャウッ――!?!?!?」
胸に大穴を空けながら、ソイツは吹き飛ぶ!
棍棒がボクの頭に炸裂したけど……ちょっと痛いだけでなんともないやッ!!
「オオオオオッ!!」
中々の反応速度でボクに殺到するゴブリンと狼の群れ。
それに向けて――速射衝撃波乱れ撃ち!全力全開でッ!!
ショットガンを連射するようなイメージで放った衝撃波は、狼の首をへし折りゴブリンの骨を砕く!
それによって空いた空間、そこにすかさず左手パイル!二連!!
「ギャッ――!?」「ギャインッ!?!?」
ドリル回転する素敵な棘は、当たるを幸いと肉を引き千切って貫通を繰り返す。
直線状のゴブリンと狼が、どんどん戦闘不能になっていく!
「ギャガガガガガガッ!!」「ウルオオオオオンッ!!」
仲間が続々と倒れていくのに、奴らの戦意は全然衰えない。
それどころか、『新しい餌が来たぞ!』みたいな感じに盛り上がってるようにすら見える!
望むところだ!
棘は再生待ちだけど、ボクには――!!
「――ヴァー、ティガァッ!!」
頼れる黒棍棒があるッ!!
魔力をチューッ!した相棒が、イカす蒼い燐光を灯した。
「ギャガッ――」「――ルオオオオオオッ!!」
横薙ぎに振るった一撃は、歪な大斧を振り上げて飛び込んできたゴブリンの腕を引き千切って胴体を歪ませる。
「ガルアッ!!」「オウリャアアアアアアッ!!」
切り返しの一撃は、空中で牙を剥き出した狼の顔面を破砕!
特にかわいそうでもない狼の顔面の骨を、散弾めいて周囲にぶちまけた!
「――えぇーいッ!!」
包囲の外から、アカのカワイイ掛け声とカワイくない雷鳴!
あっちもたどり着いたみたいだね!
よっしゃあ!親分も頑張るぞ~!!
・・☆・・
『見ていますかムロシャフト、女神トモ! 虫が! 虫があんなにも雄々しく!』
『うげぇええ、見てます見てますぅうううう……』
『メイヴェル様、ムロシャフト様の首が締まっています。顔色がゾンビ色になっていますよ』
『と、トモちんむっさ逃げるの上手ぁあ……ぐぎゅうう……』
・・☆・・
「グアアアアアアアアアアッ!!」
上位ゴブリンの中でもひときわガタイのいいゴブリンが、鉄の塊みたいな棍棒でヴァーティガを弾く!
おお、なかなかやるねッ! だけどォ――ボクにはまだ武器が!あるッ!!
「フゥウッ――!!」
ヴァーティガから右手を離しつつ――むっくん・ショルダータックル!!
「ガババッ?!?!?」
粗末だけど頑丈な鉄っぽい鎧にヒビが入る!
前方に衝撃波を放ち、少しバックステッポ!
そのヒビに向けて――右ボディブローッ!!
鎧に拳がめり込んだ瞬間に!パイル、オン!!
「ギャアアッ!?!?」
鎧を貫いた棘が中の肉に突き刺さって――高速回転!!
赤熱化しながら、ゴブリンの体内を蹂躙していく!!
「ッギ、ガガガガガガガガガアガガガ!?!?!?!」
甲高い回転音、湿った音、そしてボクに降りかかる血液とか諸々!!
それはしばらくするとこげ臭い異臭まで加わって――ゴブリンの体を内側から焼く!!
「ガ、バォア……ァ」
ゴブリンの目から光が消えた。
……よし、トモさん!
『はい、全滅確認です。鮮やかに血生臭い戦いでした』
褒められてるのかな、これ。
ま、まあいいや。
ボクに殺到したゴブリンと狼の混成部隊は、揃って成仏。
『アカ!』『おわた、おわた~!』
今死んだゴブリンを蹴って引き剥がした向こうには……走竜ちゃんと、その上に飛ぶアカ!
周囲のゴブリンは焦げたり燃えたりして死んでいる。
あっちはこっちよりも数が少なかったけど……流石はアカだ!
「ゴルゥルルルルル……!!」
返り血まみれの体で走り寄ると、走竜ちゃんが身を低くしてボクに唸る。
これボクも敵認定されてない!?
「だいじょぶ、だいじょぶぅ! アカのおやびん、つよい、やさし、かっこい!!」
が、アカが降下してその頭に着地。
ボクをむっさ褒めながら全身でナデナデを繰り返すと……おとなしくなった。
「ヤア、コンニオチハ。ボクハ味方ダヨ」
目を見て話すと、敵意?的な感情はゆっくりと消えていった。
よかった、妖精様様だ。
「ギャルル……ル、ル」
「ワワワワ!?」
走竜ちゃんは、大きく息を吐いて膝を折った。
どすん、と巨体が地面を震わせた。
いけない!マジマジと見ると酷い傷ばっかりだ!
と、トモさん!トモさーん!!
『多量の出血と、疲労が原因でしょうか……むっくんお持ちの中級ポーションで対応できると思いますよ。しかし、高価な品ですがどうします?』
はーん!?
そんなん決まってるでしょ!
この場で全部使ったっていいです!でーす!!
『ふふふ、それでこそ私のむっくんです』
まったく、トモさんだってわかってた癖にぃ~?
『ふうむ……女神トモ、ものは相談ですが』
『 あ げ ま せ ん 』
『むむむ』