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第62話 甘えすぎては癖になる、かもしんないので!

「えぇ? 何か仕事がしたいって?」


「ハイ!」


「いやいや、ピーちゃんの大恩人を働かせるほどウチは困窮してないからねえ」


「イヤイヤイヤ、コウ毎日恵マレテイルト悪イ……イイエ、ボクトイウ虫ガ駄目ニナル気ガスルノデス!」


 朝、アスノ飯店が開店する前。

今日も今日とて美味しい朝ご飯を作ってくれているルフトさんの前で、ボクは頭を下げていた。

何かお仕事を貰うためである。


 カルコさんの分の食事代も結局受け取ってもらえなかったし、ここは是非とも何かをせねば!

毎日ご飯を貰って散歩して釣りして……控えめに言って最高の生活だけど!だーけーど!

その恵まれた環境にあぐらをかいてちゃ駄目だと思う虫、むっくんです。


 この先も旅は続くんだし、あんまり平和ボケしすぎるのも問題だと思うの!

カマラさんは勿論ロロンも働いてるし、親分たるボクがボケ~っとしてるのはあんまりよくない!

そしてなにより居心地がよくないのだ!


『おお……なんという勤勉な虫か!』


 おはようヴェルママ!

勤勉って程あくせく働きたい!ってわけじゃないけどさ……立派な虫にはなりたいのです、ボクは!

ママもトモさんも胸を張って紹介できるような、そんな立派虫にねっ!


『なん……なんという、いじらしい虫でしょう……嗚呼、今すぐに顕現したいほど愛おしい……!』


『素晴らしい向上心なのでトモさんポイントを差し上げます』


 わーい! うれしいな!


『(むっくん、おいむっくん)』


 う?

なんでしょシャフさん。

この感覚は遠隔神託っぽいね?


『(あんた朝っぱらから何したん!? メイヴェル様の神殿が激震してるんですけど!?)』


 ママって神殿に住んでたんだ……いや、前の龍神サマもそうだったか。

そ、それはともかく今回は何も悪くないんじゃない?!

でもなんか……ごめんなさいでした!


「むう……ムークさんは義理堅いねえ。まあ、そんなんだからアカちゃんやピーちゃんが懐くんだろうね……」


 おおっと、ルフトさんが腕組みしてる。


「ナンデモヤリマスヨ!薪集メトカ!ナンデモ!」


『木こり虫になりたいだけでは?』


 それもある!


「そうさねえ……薪は出入りの業者に頼んでるし、別に備蓄もあるし……待てよ、業者……そうか!」


 ぽん、と手を打つルフトさん。

おや、なんかあるのかな。


「それじゃあね……冒険者ギルドに出した依頼なんだけど……」


 冒険者!ギルド!

冒険の予感がする~!



・・☆・・



「はい!たしかに受付いたしました! お気をつけて行ってらっしゃいませ!」


 銀色の触角と目が素敵な受付嬢さんが、ボクの手をギュッと握る。

冷たくて気持ちがいい!スベスベ!


「ハイ! アリガトウゴザイマス! 行ッテキマス!!」


「はぅっ……!!」


 ロロンくらい振動してるけど大丈夫!?

握られたから握り返したけど、なにか悪かったかな?


 ま、まあいい。

ルフトさんが朝一番でギルドに出した依頼を無事受領したので、いざ出発だ!


『おやびん、おわった、おわったぁ?』


『うん、終わったよ。久しぶりにお外で冒険だね!』


『ぼうけん!いっしょ、おやびんといっしょ!』


 マントの中にいるアカに念話を返して……ボクは冒険者ギルドを出た。

ソロ冒険者むっくん(妖精つき)いきまーす!



・・☆・・



「クマコ、どうだった!?どうだった!?」


「ゴツゴツしてて……でもスベスベで……それにアレ反則でしょ!あの挨拶!」


「行ってきます!ってちょっと可愛いわよね! 虫人の男どもには可愛げってものがないのにさあ!」


「そうそう!いつ見ても妖精ちゃん撫でてるし、とっても優しいわ! やっぱりあのお方はただものじゃないわね!」


「否定してるけど、孤児だってのは本当みたいだし……やっぱり【大角】様の御落胤かも!」


「そうじゃなくてもいいけどね!全然!あ~!帰りはアタシの所に来てくれないかしら!」


「おーい、受付が渋滞してんぞ~」


「「「ハーイ!ただいま~!!」」」



・・☆・・



「どっち、どっちぃ?」


「コッチ!」


「こっち!こっちぃ!」


 肩に乗ったアカが笑顔で指を差している。

うーむ、和むねえ、和み過ぎるねえ。


『こらむっくん、今日は2人だけなのですから油断は……?』


 禁物~!


 と、いうわけで。

今日のボクはアカと2人で冒険者をしている。

これでアスノ飯店にちょっとは恩返しができるね!


 カマラさんはもちろん同行しないし、ロロンは食堂で働いている。

ピーちゃんは昔を思い出したのか、店頭で客引きインコとして大活躍。

そしてアルデアは……かなり珍しいことに、ボクらの誰よりも早起きしてもういなかった。

書置きには『美味しくご飯を食べるためにちょっと遠くまで飛んでくる』と書かれていた。

体重が飛行性能に直結するらしいそらんちゅさんにとって、連日の美味しいものラッシュはちょっと大変らしい。

これについてボクが言及することはない、命が惜しい虫なので。


「エエト……」


 ギルドで貰った依頼表とやらを見る。

今回の依頼について、簡単な情報が書いてあるんだ。


『走竜が曳く一般的な竜車。ロドリンド商会所属。外壁に赤いライン、ね……アカ、覚えた?』


『あいっ。あかいせん、あかいせん!』


 うーん賢い。

この子は空前絶後の天才かもわからんね。


 今回の依頼は『竜車の捜索』

アスノ飯店に納入する食材を運んでいる竜車が行方不明なんだって。

正確に言うと、到着が3日遅れているとのこと。

首都を出発して、ルアンキから一番近い街を通過したことは確認されているので……ボクが捜索するのはその街とルアンキ間。

ちなみに歩いて2日ほどの距離なので、そんなに時間はかからないだろうと思う。


 カマラさんにも街を離れる許可は貰ったし、とっとと見つけてアスノ飯店に貢献しよう。

さーて、【首都街道】ウォーキング虫と洒落こみますか。


「シュッパーツ」「しゅっぱつ、しゅっぱーつ!」


 楽しそうに復唱するアカの声に乗せ、足を踏み出した。



・・☆・・



「イナイネェ」


「いない、いなーい」


 街道に沿って歩き続けること、半日ちょい。

太陽は頭上まで上がって、とってもいい天気。

なんだけど……お目当ての竜車は見当たらない。

ふうむ……見晴らしはいいからここまで見落としはないと思うし、一体どこに行ったのやら。

このままじゃ街に到着しちゃうねえ。


「おやびん、もり、もーり!」


「アア、森ダネェ」


 街道の進む先には、鬱蒼とした森が見えてきた。

あの中を街道が通過してるみたい。

先の街まで、ずうっとあの感じみたいだねえ。

トモさん、ナビよろしくです!

ボクも油断はしないけどね!


『はい、了解しました。むっくんの頑張りで探知範囲も広がっていますからね……ただ、魔物などの脅威もあります、油断なさらぬように』


 こっちも了解です!

ミイラ取りがミイラにならないように気を付けないとね!


『行くよ、アカ』


 バッグからヴァーティガを出し、その頼もしい相棒を肩に担ぐ。


『あいっ! まかして、まかして!』


 頼もしい子分も、空中に浮いて帯電を始めた。

ちょっとピリピリする!



「ギャガガガ!!」


 刃先がギザギザで、錆び錆びの粗末なナイフが振り下ろされる。


「――ムゥッ!!」


 それを――ヴァーティガが砕く。

いつもの謎加速を経てさらに威力を倍加させた棍棒は、そのまま直進。


「――ギャバウ!?!?」


 きったない布しか身に着けていない胴体に直撃。

べきべきぼきぼきと嫌な感触を伝えて――ゴブリンを吹き飛ばした。

カッ飛んだそいつは、太い木の幹に激突。

口から大量の血を吐いて、ずるずると倒れ込んだ。

よし、オッケー!


「えぇーいっ!!」「ギャッ!?!?」


 アカが放ったミサイルが、綺麗な爆発。

逃げようとしていたゴブリンの後頭部が砕けて吹き飛んだ。

うーん、バイオレンス!


「オツカレ~」


「おちかれ、おちかれ!」


 これで襲ってきたゴブリンは全滅。

しめてひいふう……13匹ね。

意外といたなあ。


「おやびん、みみ!みみきる~!」


「ハイハイ、了解」


 隠形刃腕展開っと。

お小遣い程度でも回収しとかないとね~。


 しかし、ゴブリンは出れどもお目当ての竜車は見つからない。

これは野宿コースになるかもねえ。

アカと2人だから、テントは出さなくてもいいかもしんないね……っと。

くっさいゴブリンのくっさい耳をサク―リ、っと。


「おやびん!」『むっくん、レーダーに感アリ!』


 おおっと!? 

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― 新着の感想 ―
ヴェルママは近々先っぽだけでも、コッソリ顕現しそうですねぇ。 前回は天界でプチラグナロク起こってましたし。ヴェルママ、フラストレーションが溜まっておられるのでは?後、ムッくん分かってましたが、いつでも…
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