表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

281/330

第60話 初対面だけど、知ってるようなそうじゃないような人。


 アルデアと一緒に釣りに来たけど、彼女は速攻で竿を押し付けてどこかへ。

ボクはといえば、釣りを始めてすぐに声をかけられた。


「エエ、ソウデスケド……」


 振り向くと……あれ、誰もいない。


「下でございまする、下」


 視線を下に向けると……いた。

頭からすっぽりとフード付きマントを羽織った人影があった。

ちっちゃ!ロロン以下の身長だ。

むむむ、触角が見えるってことはむしんちゅさんか。


「お初にお目にかかりまする」


 その人は、ボクに向かってぺこりと頭を下げる。

ふむん……子供にしては言葉が丁寧。

声は女の人っぽい。

小さいむしんちゅの種族なのかしら。


 そう思っていると、その人は甲殻ハンドを使ってフードを外す。

綺麗な金色の髪の毛が見えて……同じように金色の目がボクを見ている。

ふわぁ、なんか綺麗と可愛いの同居したみたいな人だね。


「――拙はカルコ。ノキ・カルコと申しまする」


 変わった一人称だなあ。

……んんん?

ノキ……ノキってどっかで聞いたような……?


『トキーチロさんの家名ですよ。お忘れ虫』


 トモさん補足助かる!

ああ!そうだったそうだった!


「エット、『ノキ』ッテモシカシテ……」


「はい、ご想像の通り拙は……ノキ・トキーチロの孫でありまする」


 孫!

トキーチロさんの孫ですか!

ボクは厳密にはご本人にお会いしてないけど……あの人も小さかったんだろうか?


「ソ、ソウデスカ。アノ……何故ボクヲ知ッテルンデス?」


 むむん、なんとも気まずい。

いや、ボクは敵対したって言ってもお芝居に巻き込まれただけだけど……

イセコさん(INトキーチロさん)にお腹をギャボー!されたんだよね。


「黒く輝くお体、雄々しき一本角……ゲニーチロ閣下からお聞きした通りの偉丈夫だったので。思わず声をかけてしまいました」


 むしんちゅとしてはイケメンのボク!

ふふふ、虫から進化した甲斐があったねえトモさん!


『はいはい、その調子でむしんちゅの恋人をラグビーチームほどこしらえましょうか』


 こしらえませんよ!こしらえません!

それとこれとは問題が違うんじゃよ!!


『は~、おもんな。むっくんはもっとガツガツいきなって~!チキュウ出身の山田っちを見習ってさ~!』


 このただれた慈愛の女神さんめが!めが!

あのねえ!女の子にだって選ぶ権利があるでっしゃろ!

ボクの外見はイケメンかもしらんけど、内面で選ぶ子もいるんじゃが!?


『虫よ、あなたの内面は最高に可愛らしいのですよ。自信をお持ちなさい』


 マ、ママ……!


『私の像を作る程の虫なのですから、最高に決まっています』


『即物的すぎるっしょ、このちょろカワむしんちゅゴッデスは――ひぎゅん?!!?』


『(あああ、ムロシャフト様が隣の部屋との壁にめり込みました)』


 収集がつかない脳内は放っておこう、そうしよう。

トモさんの隣の人、本当に申し訳ありませんです。

ボクは特に悪くありませんです。


 現実のカルコさんを放ってちゃよくないよね。


「ゲニーチロサン、ボクヲ褒メスギデハ……ア、立チ話モアレデスノデ座リマショウ」


 幸いここにはクソデカベンチがあるのでね!


「よろしいのですか、それでは」


 ボクとカルコさんは並んベンチに腰かけた。

……足が浮いてる。

ほんとにちっちゃいなあ、この人。


「アノ……ゲニーチロサンニ色々聞キマシタ。アナタノオ爺サンノコトトカ……」


「拙も聞きました。じじさま……祖父がご迷惑をおかけしたようで、誠にもって申し訳ございませぬ」


 お腹をギャボー!されたしね。

でも、裏の事情とかを聞いちゃうと責められないや。

誰も死ななかったし。


「イエ、モウ治リマシタノデ」


「そのようで。ご自分限定の回復呪法をお使いになられるとか……傷一つ残らぬとは、凄まじき練度でございまする」


 減るのは魔力じゃなくて寿命ですので。


「ソレデ……何故カルコサンハココニ?」


「トルゴーン南部に用事がありまして。それと……拙の事は呼び捨てで結構です、ムーク殿。拙はまだ齢20にも届かぬ若輩者でございますれば」


 ボクよりもバリバリ年上じゃないですかやだー!!

まあでも、この外見だと仕方がない、か。


「……性分デスノデ、オ気ニナサラズ」


「左様でありまするか」


 こう言っておこう。

これが一番無難でござる。


「ソウイエバ、旅ノ商人サンニ聞キマシタヨ。サジョンジガイイ家ニナッテキタッテ……新シイ当主様ッテ、トッテモイイ人ナンデスネ」


 そう言うと、カルコさんは少し頬を赤くして目を瞬いた。


「……ルカオコ様のご尽力でありまする。勿論、ゲニーチロ閣下のご協力もありまするが……我ら配下は、ご下知をひたすらに実行するだけでございますので……」


 おやおや、照れちゃってかーわい。

ロロンと同じくらいの年齢かな、笑うと幼く見えるねえ。

なんかこう、ポカポカしちゃう!


「……ゲニーチロ閣下が『戦士としては珍しいほど穏やかな男』と仰っていたのがよくわかりまする。ムーク殿は、お優しいのですね」


「イ、イエイエ、普通デスヨ、普通」


 薄々勘付いてたけどさ、ゲニーチロさんちょっとボクのこと裏でほめ過ぎではないでしょうか?

このまま噂が拡大して尾ひれがついたら、ボクは救国の英雄くらい盛られそうな勢いなんですのよ……


「いいえ、貴方が被った被害を考えれば、拙を殴り倒しても責められはしないのです。それなのにこうしてお話くださっているだけで……」


「過ギタコトデスヨ。禍根ハアリマセン」


 色々貰ったしね。

コッチ陣営は無傷だもん、別にムキー!とはならない。

それに、百万歩譲って恨みがあるとしても……その対象はトキーチロさんだもん。

お孫さんは悪くないじゃん。


「ソレニ、アノ戦イデ色々気付クコトモアリマシタシ」


 魔力の使い方とか、根性の大切さとかね。

内側から焼かれるとは思ってなかったけどもね。


「……その武人たる心得、感服いたしまする」


 そんなにいいもんじゃないってば~!

何か話せば話すほど、なんかどんどん勘違いされてる気がする~!!


『これが『俺なんかやっちゃいました?』というやーつですか』


 違うと思うな。

トモさんトモさん、お部屋大丈夫?


『はい、完全にキレたムロシャフト様が鉄球を振り回しながら破壊しました』


 大丈夫じゃないじゃん!!


『今は開けた空間でガチンコバトルの真っ最中ですね。ちなみに戦神さま方が賭けの対象にしていますよ』


 年末の格闘特番みたいになっちょる!?

……もう、放っておこうか。

一般謎むしんちゅのボクにはどうにもできぬ、できぬのだ……


 ……む、むむむ?

あれ、なんか……知った気配が近付いてくる!


「おやびん、おーやび~ん!」


 上空からアカ!

お腹がスッキリしたアカだ!


『ああ、先程起きてあまりに寂しそうなので、同時進行でナビゲートしていました。愛されていますね、むっくん』


 ウェヒヒ……かわいい子分だなあ!だなあ!


「ドシタノ、起キチャッタ?」


 ボクの肩にダイブして、頬を擦り付けてきたアカを撫でつつ聞く。


「うん、おきた、おきたぁ! アカも、アカもおやびんとつりしゅる、しゅる~」


 ほほほほ、なんと愛おしい虫か!

……いかん、ママがうつってしまった。


「――聞いていた通りです。なんと仲睦まじい……こうして見ても、中々信じられませぬ」


 カルコさんが目を見開いて驚いている。

妖精ってレアキャラだもんね~。


「うゆ?」


 アカはカルコさんに気付いたようだ。


「おやびん、このおねーちゃ、ともだち、ともだち?」


 と、友達か……どうなんじゃろ。

でも顔見知りとか、知り合いとかって概念はアカにはまだわかり辛いかな?


「ウン、オ友達。トッテモイイ人ダヨ、アカニモワカルデショ?」


「あいっ!」


 アカが逃げないんだもんね。

いい人認定はもう既にされてるでしょ。


「アカは、アカ!よろしく、おねーちゃ!」


「……ノキ・カルコと申します。よろしくお願いいたしまする、アカ殿」


 肩から飛び立ち、カルコさんの周囲を旋回しつつ謎ダンスするアカ。


「……お友達、ですか。よき響きでありまする」


「アア、不躾ニ申シ訳アリマセン……ソノ、コノ子ハマダ子供ナノデ……」


 今日会っただけなのに、急に友達認定はちょっとね……

ドン引きされていないか心配な虫、むっくんでございます。


「いいえ、いいえ。嬉しゅうございまする」


 カルコさんは、ちょっと恥ずかしそうに笑ってくれたのだった。



・・☆・・



「おねーちゃ、がんばえ、がんばえ~!」


「ふんぬぬぬ……!」


「ソノママソノママ……ヨシヨシ!」


 水面で大暴れする魚影に向けてタモを操る。

ぬぐぐ、よ、よし!入ったァ!


「ユラギウオダ!大キイ!」


 カルコさんが釣り上げたのは、見た目だけが(ボクにとって)悪い高級魚だった。


「釣リノ才能ガアリマスネ、カルコサン!」


「も、もったいなきお言葉でありまする……!」


 目をぱちくりさせながらも、カルコさんはちょっと嬉しそう!

成り行きで一緒に釣りをすることになっちゃったけど……楽しんでもらえてよかった!


「ボクモ負ケテラレナギュウウウ!?!?」


「ホホーウ。魚の他に女も釣るとは中々の伊達者だナ、ムーク」


 アルデアの着陸が!痛い!

肩が爆発するう!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
トモさんからお忘れ虫いただきましたぁ!ありがたやありがたや! 何故なのか。釣りしてるだけなのに…女の子釣ってますね!?ムッくん!ワル虫だ!略してワームですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ