第57話 それなりの儲け!それなりの!
「うむむむ……新手は無しナ!」
上空で偵察を続けるアルデアがそう言って、船の近くに降りてきた。
「よっし! サアコ!」
「あいよォ! 沈む前になんとかしないとねェ!」
「ギュワ-ッ!?!?」
サアコさんが水晶に魔力を注ぐと、今までの速度のまま船が超高速水上ドリフト!
「むぎゅー!あはは、むぎゅ~!」
ボクはアカと一緒に船の壁に押し付けられる!
な、なんでターンするのォ!?
「ナ、何故!?」
「ああそうか、アンタは知らねえんだな?」
網に絡まってえらいことになってるヤジローベさんが言う。
あの、ひっくり返ってるけど大丈夫なんですか。
「【オクトペント】は金になるんだよ!」
えええ!?あのキショいヤツメウナギがァ!?
「食ベルンデスカ?」
「全身毒の塊だから食ったらのたうち回って死ぬぜ! だけど錬金術師が処理すっとな……ビックリ!高ェ薬の材料になんのさ!」
毒の塊……なんでさ。
ウナギって名前なんだからせめて美味しくあってよ。
『ちなみに鰻とヤツメウナギは全く別の生き物です。近縁種ですらありません……ヌタウナギと同じ種類になりますね』
そうなのォ!?
ヌタウナギって……あれか、なんかヌルヌルを大量に分泌するバケモンみたいな生き物ね。
そうなのか……
「よっと……薬なのナ?」
並走から着地したアルデアが言った。
よかった、今回は肩に着陸はしてない。
「おう! 男にも女にも効き目がある精力剤になんのさ! これがまーあ、色んな金持ちに売れるってワケよ!卸すだけでもいい儲けになるぜ!」
「今回捨てた仕掛けの分どころか、まあ半年分の儲けにはなるねえ! アンタたちは幸運の冒険者さァ!」
……精力剤ね。
たしかに、ウナギってワードからしても想像はできるや。
「さあ!沈んじまわないうちに船に括り付けなきゃな!おっつけ他の連中も来るだろうが……ああ、もう来やがった」
あ!方々から同じような船が寄ってきた!
「おいおいヤジローベ!やったなァ! いい冒険者を雇ったもんだ!」
一番近くにいる船のおじさんが腕を振っている……あ、義手だ。
ってことはウナギにやられたっていう幼馴染さんかな?
「もう来やがったかよケンゾ! わかっちゃいるとは思うがウチの積載量いっぱいは貰うぜ!」
「はっは!わかってるってよ!お前んとこを手伝ったらみんなで山分けさ!」
わらわらと集まってくる船。
いやー、皆さん行動がお早いねえ。
「精力剤……ムークに鍋一杯食わせるかナ」
「死ンジャウカラヤメテ!」
なんと恐ろしいことを!?
『ふむ、一考の余地はありますか』
なんと恐ろしいことを!?!?
・・☆・・
「いやーはっはっは、今日はいい日だなあオイ! 毎日繁殖してくれねえかな!」
「毎日は疲れちまうよ。せめて年に1回だねえ」
1年に1回でも大惨事でしょ……
「こちらの給料もはずんでくれるナ?」
「当たり前だ!ほんと、ムークさんたち様様だぜ」
アルデアはしっかりしてるなあ……
「すぅ……すぅ……」
アカはしっかり寝てるなあ……
魔法結構撃ってたもんね、疲れたんだねえ。
ここは、漁業ギルド。
街に入って北側の門の近くにある。
さっきのウナギ騒動で、結構人がいる感じ。
あの後、むっちゃ船増えたんよね……どこからかぎつけたのやら。
ともかく、あの後は桟橋まで戻ってあのバケモンを納品?する手続きをして……今に至る。
アカサンダーで焦げ、ボクの棘で成仏したウナギたちはギルドの職員さん?の手で血抜きをされてあっという間に箱詰めされて運ばれていった。
すぐに魔法で冷やして、錬金術師さんのいる別の街まで運ばれていくんだって。
そして、ヤジローベさんたちはギルドで買い取り金を受け取りに来たってわーけ。
しかし漁業ギルド……冒険者ギルドとはまた違う感じだね、掲示板とかないし。
ただ、ムキムキな人が多いのは同じだけどね。
こう言っちゃなんだけど、冒険者ギルドよりも汗臭くないや。
「よし、これが成功報酬だ。買い取り代金の分も上乗せしといたぜ」
ヤジローベさんが、ボクにずしりと重い革袋を渡してきた。
ほほう、けっこうな重量ですこと。
「フフン、いい儲けだナ」
音からしてそれなりの金額だってわかるのか、アルデアはニコニコしている。
「おおそうだ、ムークさん。どうせなら漁魚証の手続きをしてっちゃどうだい」
「ア、ソウデスネ」
丁度ギルドにいるしね、渡りに船ってやーつ!
ヤジローベさんは、チョット遠くにいる虫人のお姉さんに手を振る。
制服みたいなのを着てるから、職員さんなんだろうか。
「おーい!ラウコちゃん! このお人の漁魚証を発行してやってくんな! 今回の立役者だぞ~!」
た、立役者なんてそんな……えへへ。
「まあ! しばら……し、しばらく!お待ち!くだしゃい!!」
青い髪のお姉さんはボクを一瞬見て、なんでか真っ赤になって奥の方へダッシュしていった。
「はっはっは、ラウコちゃんったら照れてるよォ。ムークさんはいい男だからねえ!」
「アデデデ」
サアコさんはボクの背中をバンバン叩いている。
結構な力強さ!
『むっくんってばイケメン認定されっぱじゃんか~。よっ!トルゴーンのチンギスハーン!』
『ふむ……目指せむっくん大帝国ですね』
嫌どす!嫌どす!
しれっと王にしないでよ!
どっちも嫌どす~!!
「よく見ればいい男なのナ……? ふうむ、ふむふむ」
アルデア、なんでボクの肩を撫でまわすのさ。
そこには顔はないのだけれど。
「チナミニ、空ノ民ノイイ男ッテドンナ基準?」
「飛ぶのが上手ければ引く手あまただナ。ムークも飛べるから最低の基準はクリアしているナ?」
「ホントニ最低限ダヨネ……」
飛ぶというか、発射というか……ボクもアカみたいに自由に飛びたいねえ。
〇ケコプターみたいな魔法具とかないかしら?
「「「お待たせいたしましたァ!」」」
ウワーッ!?事務員のお姉さんが増えてる!?
「今回の功績によって登録料はいただきませェん!」
「こちら、買い取りをしている魚のリストになりまァす!」
「長くご滞在ですかァ!?できれば毎日来ていただけるとありがたいですゥ!」
ち、近い!近い近い近い!!
もう半分抱き着いて……いや1人は完全に抱き着いてる!抱き着いてるゥ!?
色々当たる!当たる!!
「ホホーウ。モテモテだナ、ムーク」
アルデア!たすけて!
ヘルプ!ヘルプミ―!!
・・☆・・
「釣リ竿マデ貰ッチャッタ……」
「もうけたのナ。ホラさっさと餌を付けるのナ」
「ハイハイ」
外壁の階段を降り、一番下の区画にいる。
そこにはベンチが何個もあって……絶好の釣りスポットと化しているね。
んでんで、なんとか漁業ギルドから脱出して……今に至る。
あのお姉さんたち、目がマジだった……むしんちゅなのにライオンみたいな感じだったよ……
上役さんっぽいおじさんが呼び戻してくれたから助かったけどさ。
そして、漁魚証と一緒に釣り竿も貰った。
バッグにはあるけど、予備を買おうとしたら……餌までついてきた。
あのヤツメウナギって、本当に儲かるんだね……無茶苦茶感謝されちゃった。
「おやびん、こう? こう?」
アカは、子供用の竿を握って餌を付けている。
大分小さいのを貰ったけど、妖精だからそれでも大きいや。
「ソウソウ!上手上手!天才!!」
「んへへぇ、いっぱいつる、つる~!」
はーカワイイ、とってもカワイイ。
いつまでも見ていられるね、これh後頭部が痛ァい!?!?
「早くするのナ」
「ハァイ……」
とにかく、アルデアの竿に餌の生臭い団子を付けようか……
これなんだろ、魚のミンチ?
釣りの仕掛けは一般的?なウキが付いている。
さて、ボクの竿も準備して……トリャーッ!!
ちゃぽ、と着水。
リール付きの竿じゃないもんね、ざっとこれくらいか。
どこかにないかな、そんな竿。
「あとは?あとはぁ?」
ボクの膝の上で釣り竿を持つアカが振り返る。
「待ツ、アノ浮イテルノガ沈ンダラ竿ヲ上ニ振ルンダヨ」
「あーい、まつ、まつぅ!」
あーかしこい。
暫定世界一賢い。
「フム……暇だナ」
まだ投げてから20秒なんですけど!?