第56話 水上戦闘虫。
「――アカ!撃ッテ!!」
「うにゅにゅ……ええーいっ!!」
水から飛び出して吠えた、謎の円筒。
危ない魔物らしいので、すぐさまアカに指示。
間髪入れずに、ボクの後方から紫電が放たれた。
「ギュシャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
文字通り光の速さで直撃したアカサンダー。
効果はばつぐんだ!って感じで……ビーン!って硬直して痙攣している。
「――ファイア!!」
動きの止まったそいつに向けて、左手パイルをシングル発射ァ!
どずん、と射出された反動で船が横に揺れる!
わわわ、足元気を付けないと!
「ッギ!?!?!?!?」
痙攣していた魔物の中心を棘が抉りながら抜けていき――反対側が見えるくらいの大穴ができた。
そいつはガラスがこすれるような悲鳴を上げて、緑色の体液を噴出!
若干焼け焦げたような体を……水面に横たえた。
「おお、鮮やかだなあ!あっという間じゃねえかよ!」
ヤジローベさんが興奮している。
うへへ、それほどでも……あるよ!ウチの子分はね!
「ウヘェ……ナンジャ、アリャ」
だけど、上がったテンションが魔物をはっきり見て急降下する。
キショい……あれは……あれだ、あれ。
『ヤツメウナギ、ですね』
そうそれ!
地球でもちょっとグロかったけど、アレに至ってはこの船よりも大きいもん。
しかも体液緑色だし。
キモさが最上級……
まあ!それはそれとして~!
「アカ!エライ!最強!」
「えへぇ、えらい?アカえらい~?」
「エライエライ!トッテモイイ子!素敵ナ子!」
「んへへぇ、えへぇ、へへぇ」
正確無比な雷撃魔法を放った頼れる子分は、空中でクネクネしながら照れている。
とってもかわいい!
撫でちゃろ!撫でちゃろ~!
「な、なんなのナ……!?」
ありゃ、上空のアルデアが近くまで降りてきた。
わかるわかる、むっちゃキモいもんね~?
『むっくん、新手です!どんどん増えます!』
「――とんでもない数の水泡と影なのナ!新手が湧くのナ!」
なんやてェ!?
あのキモヤツメウナギ、群れで動くの!?
「いけねえ!サアコ、やっぱり逃げるぞ!仕掛けは放棄だ!」
「あいよォ! ムークさん……しっかり掴まってなァ!!」
ヤジローベさんが血相を変え、サアコさんが魔力を練る。
出発した時の……10倍くらい!
慌てて船べりを掴む!
次の瞬間、船の後方にとんでもない水飛沫。
それと同時に、体に一気に加速の重圧がかかった。
『アカ!こっちにおいで!』『あいっ!』
「アルデア!逃ゲルヨ!」
「合点だナ!」
船は急加速で離脱を始める。
アカはボクの肩にしがみつき、アルデアは船と並走するような形で3メートルほど上を綺麗に飛ぶ。
すごいや!全然上下にブレてない!
いいな!空飛べるのっていいな!
しかし、この速さなら――
「新手ナッ!!」
ヒギャーッ!?
今まさに船がいた場所の水面から、超絶に痛そうな歯並びの口が飛び出した!?
うわわ、なにあの口!
中がチラッと見えたけど、ギザギザの歯が円形に並んでるゥ!?
「畜生群れに当たったか!頼むぜサアコ!」
「はっは!誰に向かって口きいてんのさァ!」
ヤジローベさんは焦ってるけど、サアコさんは逆にとっても楽しそう!
水晶玉に手を当てたまま、獰猛に微笑んだ。
『アカ!ボクの肩からでいいからビリビリ、撃って!』
「むんむんむん……」
アカから魔力が放出され、それは空中で帯電しながら額の触角へ移動。
そして――ボクは一足先に……パイル発射ァ!!
ずどん、と放たれた棘を追い越すように――
「――えぇーいっ!!」
一瞬触角を光らせたアカは、雷撃を放つ。
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?!?!?!?」
それが着弾して数瞬後に、ボクの棘が命中して胴体を抉る。
たぶん即死でしょ、頭貫通したし!
いやーしかし幸先がいいぞ!
最高のコンビだね、ボクたちは!
トモさん棘修復!最優先で!
衝撃波で節約したいけど……あんまり大きいの撃つと船が転覆しちゃう!
「ああ、そうか!」
ヤジローベさんが、落とさなかった網にしがみついて叫ぶ。
「前の【大繁殖】からもう10年か畜生! すっかり忘れてたぜ!」
「やーねえ! 年取ると忘れっぽくなっちまって!」
だいはんしょく?
「奴らは10年に一度大量に繁殖するんだよ!何年かズレはあるんだが……それでも毎回こうさ! 前の時は幼馴染が右手を喰われっちまった!」
ひええ、それは大変だ!
「とにかく衛兵隊が気付くくらいまで街に近付かねえと――」
「――ムーク!前方に回り込まれたナ!」
空中のアルデアが叫び、勢いを付けて腕を羽ばたかせた。
な、なんやて!?
「進路そのままナ! 私がデキる女だという所を見せてやるのナ――!」
アルデアが両足に掴んでいる綺麗な槍。
その刃先に魔力が集中して――バチバチと帯電を始めた!
「ギシャアアアッ!!」
あああ!新手が舳先の10メートルくらい先に!
「――ウナーッ!!」
船とウナギの間にひらりと入り込んだアルデア。
彼女が空中で身を翻した次の瞬間には――ウナギの頭が斬り飛ばされていた!
「ウヒョーッ!凄イヤ!」
「はっはっは! そうナ!私はとってもデキる女なのナ~!!」
空中で血振りをしながら高笑いをする器用なアルデア。
「横をすり抜けるよッ!」
「ワピャーッ!?」
ああああ!アルデアが水をかぶっちゃった!?
墜落はしてないけども!
「おやびん、くる、くるぅ! いっぱい、いっぱーい!!」
「オワーッ!?ホントダ!?」
アカが頬をぺしぺしするので振り向くと……ギャワーッ!?
水面には無数の屹立するウナギの群れェ!?
いくらこの湖が深くて広いって言ってもさ!限度ってモンがあるでしょ!?
いっぱいいすぎ……いや、待てよ!?
「サアコサン!コノママ全速!マッスグ逃ゲレマスカ!?」
「あいよ、ちょっと本気出すかねェ!掴まってなァ!!」
どん、と加速。
さらに魔力が注ぎ込まれて、船は舳先をちょっと浮かせるくらいの水飛沫を上げて爆走。
ヤジローベさんが網でグルグル巻きになっちゃったけど、これでいい!
『アカ!合図したらビリビリーッてお願いね!』『あいっ!がんばゆ!がんばゆ~!』
頼もしい子分の念話にホッコリしながら、転がり落ちないように右手で船べりを掴む!
ゴメンねヴァーティガ!ちょっと今はバッグの中で我慢してて!
『棘の修復、完了しました』
よぉし!
マントのへりに入れておいた魔石を口に放り込む!
「チョット揺レルト思イマス!」
「はっは!気にしなさんな、慣れてるからねえ!」
「おうともよ!何するが知らんが頼むぜムークさん!」
船は速度を上げて爆走する。
この船の速度はウナギよりも速いようで、ちょっとずつ群れが離れていく。
ウナギの中にも泳ぐのが速いの遅いのが混じってるから……よし!一列になってきたぞォ!
もうちょい……もうちょい……!
もうちょい……今だ!
「アカ!」「みゅんみゅんみゅ……えぇえ~いッ!!」
肩のアカから、周囲を一瞬真っ白に染めるくらいの稲妻が発射された!
「「「!?!?!??!?!?!?!?」」」
それは先頭のウナギに命中し――水を伝わる電撃が後続もまとめて動きを止める!
よぉし――魔力、全開ッ!!
「――喰ラエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
腕の装甲が崩壊しながら、頼れる棘が3発……一気に発射!!
船を蛇行させるくらいの反動が発生しつつも、撃った棘は真っ直ぐ飛ぶ!!
――ばちゅちゅちゅちゅん、というなんとも言えないような音。
「ヨッシャ、ドンピシャア!!」
放たれた棘は、先頭のウナギの胴体を抉り抜けて――そのまま後続の胴体に着弾。
アカの雷撃で動きの止まった連中を真っ直ぐ貫通して、湖に着弾。
ちょっとした爆弾みたいな水飛沫を上げた!
「こいつはたまげたァ! すげえ技だな! 名のある【生成使い】だったのかよムークさん!」
ヤジローベさんがよくわからん褒め方をしている。
せいせいつかい……?
たぶん棘とか生やせる人たちのことだろうね!
「今ので出てきた連中は全滅ナ!ムーク、大金星ナ~!」
びしょ濡れになったアルデアが、上空を旋回している。
ふぅ……よかった。
「チカレタ」「ちかれた、ちかれた~」
肩に体を預けるアカを撫で、ボクは体の力を抜いたのだった。
ふぃい……