第53話 至れり尽くせりで罰が当たりそう!
「長く、苦しい戦い、だった、のナ……明日も戦う、のナ……」
「うぐぐぐ……明日死んでも、悔いは多少、減りやんすぅう……」
ベッドの上で、お腹をぽんぽこにしたアルデアとロロンが唸っている。
2人ともとんでもない量食べてたもんね……
「胃薬、ここに置いておくよ。まったく……誰も取りゃしないってのにさ……」
ベッドサイドに小さな瓶を置きつつ、カマラさんが苦笑い。
この人も結構食べてたけど、全然お腹膨らんでないねえ。
「おかわり……おかわりぃ……んへへ、えへへぇ……」
アカはハンカチ大のお布団にくるまって夢の中。
尋常じゃないくらい布団が膨らんでる……
「しかしまあ、ムークちゃんのお陰で宿の問題まで片付いちまったねえ」
「イエイエ、ソンナ……」
ルアンキでの滞在中に過ごす部屋……それはなんと、【アスノ飯店】の裏にある大きなおうちだ。
そう、なんとルフトさんのお家である。
心尽くしのおいしすぎるご飯を頂いて、その後にここへ案内されたんだよね。
『宿は決まってんのかい? まだなら遠慮なく泊まっていきな!何年いたっていいんだよ?』
なんて言われてさ。
あ、ちなみにピーちゃんはルフトさんのお部屋で昔話に花を咲かせてると思う。
前のアルちゃんさんと同じように、思う存分旧交を温めていただきたいものですよ。
「さて、アタシは腹ごなしに仕事でもしようかね……ムークちゃんはどうする?」
「チョット、オ散歩ヲシテキマス」
ボクも結構食べたからね。
魔力変換が終わるまでに行きたい所があるんだ~。
もう一つちなみにだけど、棘は4回くらい太腿にグサー!しました。
チャーハンが美味しすぎたのが悪いのであって、ボクは悪くない!
「あいよ、いってらっしゃい……知らない人について行くんじゃないよ?」
「ボクハ幼児デスカ……」
前にもあったな、このくだり。
信用が基本的にない虫、むっくんでございま~す。
「わだ、ワダスがお供をば、し、しやん……うぷ」
「ハイハイ、イイ子イイ子。アカヲヨロシクネ」
慌てて起き上がろうとしたロロンの頭をナデナデ。
「じゃじゃじゃぁ……」
なんだか真っ赤になっちゃった。
かわいい。
「大丈夫、チョットダケダカラネ~」
そう言って、お部屋を後にした。
久方ぶりの単独行動だ~!
・・☆・・
「綺麗ダナア」
【アスノ飯店】から出て、相変わらず混んでいる店内を横目で見ながら歩くことしばし。
ボクは、来た道を引き返して……街の外壁の上にいる。
目の前には青々とした水をたたえた湖がある。
透明度が高いね~……よくこんな街を作ったもんだ。
夏はさぞ涼しいだろうねえ。
この街に来た時から、ここに来たいって思ってたんだ。
川とか湖とか、こうして危険のない状況でじっくり見れる機会なんてめったにないしね。
お外だと基本的に魔物がいるし。
あ、魚がいる!
……いや違うなアレは、アレは……なんだろ?
上半分は魚なんだけど、下半分はクラゲみたいなバケモンだ。
どう見ても美味しそうじゃない……
『おや、アレは【ユラギウオ】ですね。トルゴーンで好まれる高級食材ですよ』
釣り竿!釣り竿~!
『こらむっくん!カマラさんに言われたことを忘れたんですか!?』
そ う で し た 。
危うく魚のエサにされるところだった……撒き餌虫は嫌でござる。
あ、トモさん……お部屋大丈夫?
『更地になりましたが?』
誠にごめんなさいでした……
『今ではすっかり元通りです。ベッドがフカフカ過ぎて、眠くもないのに眠くなります』
そ、そうですか……それにしても、ママってばむっちゃ喜んでたね。
我ながら、あんなに喜んでもらえると張り合いがあるですよ。
トモさんのおフィギュアも早く作りたいなあ!
『もう少し、と言った所ですね。そうすればホログラムとしてお目にかかることができますね……ふふふ、私もとっても楽しみです。むっくんの木工技術もかなり向上しましたね』
隠形刃腕くんで何度も怪我をした甲斐があったねえ。
『あーしの像も!あーしの像も!近くに教会あったら教えっから!あーしのも~!』
アッハイ。
勿論そのつもりだけど……随分食いつくねえ、シャフさん。
『心のこもった立像なんて神ならいっくらでも欲しいに決まってんじゃんか!信仰心の結晶みたいなもんだし!』
さいですか……それなら頑張ろう、とっても頑張ろう。
あ、漁業ギルドに行こうかな?
『野宿でもないのに生ものを持って帰ってどうするのですか。カマラさんに張り倒されますよ』
やめておこう……張り倒されるかは知らないけど、むっちゃジト目で睨まれそうだし。
おとなしく水面を眺めてまったりしよっと……
「おや、これはムーク殿ではありませんか」
ムムム?
どなたでっしゃろ……あ!
門の所にいた衛兵のゲンゴロウさんだ!
腰布だけで武器はないってことは……休憩中かな?
「先程ハドウモ。オカゲ様デオ店ニ無事行ケマシタ」
「なに、【アスノ飯店】は人気店ですので……拙者が言わずともすぐに見つかったことでしょう」
あの行列は凄かったもんねえ……超絶人気店だ。
「先程は職務中故ご無礼をいたしました……拙者、ジローエと申します」
やっぱり日本語をちょっともじったみたいなお名前なんだねええ、むしんちゅさんたち。
これは翻訳のバグなのか、それともどこかで日本語が異世界転生でもしてたんだろうかね。
っていうかご無礼されてないんですけども。
「今ハ休憩中デスカ?」
「ええ、明日の夜まで非番です。そちらはお散歩ですか?」
ほほーん。
警備員みたいな勤務形態なのかね。
「エエソウデス。チョット腹ゴナシニ……」
「【アスノ飯店】は大層美味ですからな……外からの旅人はついつい食べ過ぎてしまうようですよ」
「ハハハ……ソウデスネ」
あんな中華料理を出されちゃったらねえ……そりゃあいっぱい食べるよ。
ピーちゃん経由でラーメンをリクエストしようかしら、今度は。
「ムーク殿は、こちらにどれほどご滞在になられるので?」
「エエット……依頼主ハ1月クライッテ言ッテマシタ」
ここは旅人のお客さんが多いんだって。
だから稼げる時には稼ぐ!らしい。
さっきお部屋でそう言ってた。
「ほう、それはようございました。この街は見どころも多いですし、冒険者ギルドもあります……退屈はせぬでしょう」
お、冒険者ギルド!なんか久しぶりだ!
そうだねえ、毎日遊んでばっかってわけにもいかんしねえ。
お金は十分すぎるほどあるけど、鈍らないように依頼はこなそうかな。
「我ら衛兵隊からも回している仕事があります。その際はご一緒できると喜ばしく思いますな」
「ハハハ……オ手柔ラカニ」
絶対にキツイ仕事だと思うの。
「エット……ソウイエバ、コノ街ッテスゴイデスネ。湖ノ上ニ街ガアルナンテ!」
この人は地元民っぽいし、聞いてみようかな。
「ああ、逆ですよ。湖の上に街を建てたのではなく、街の周囲に堀を巡らせて湖にしたのです」
「……エェ!?」
堀で、湖を作ったの!?
な、なんという……土木建築技術!
「今より300年ほど昔に、近隣でスタンピードが続く異変が起こったのです。それを避けるために、当時の民や兵が不眠不休で作り上げたと聞いています」
いくら不眠不休でも、よくゼロから作り上げたね……
並々ならぬ苦労があったんだろうねえ……
日本だったらプロジェクトなんちゃらで紹介されるレベルの偉業だよ、偉業。
「幸いにしてその種は深淵狼でしたので、堀の効果は絶大だったようですな。奴らは空を飛べませんので」
深淵狼!黒い森で何度も襲って来たアイツか!
……アレのスタンピードか~……考えるだけでも恐ろしいや。
1匹でもかなり強かったしね……あんなのが群れで来ちゃあお手上げ虫になるよ、今のボクでも。
「ところで、ムーク殿」
「ハイ?」
なんでしょ?
「噂では【大角】閣下のご落胤とのことですが……まことですか?」
ごらくいんって、なーに?
『隠し子のことですね』
「全然違イマス!ソンナ!恐レ多イ!!」
どこをどう巡ったらそんなようわからん噂が発生するのさ!?
「おや、そうなのですか。よく似ていらっしゃるので本物かと思いましたが」
角がデッカイっていうことくらいしか似てなくない?
ゲニーチロさんは羽生えてるしさ。
「ゲニーチロサ……【大角】将軍ノ奥様ニトッテモ失礼デスヨ……」
旦那さんが浮気してるってことだもんね。
普通の奥さんなら激おこ案件でしょうよ!
そんな不名誉な噂は払拭せねばならんのじゃ!
行く先々で否定しておかないと!
「毎年のように増えますので、【大角】閣下のご落胤は」
「……ハ?」
どゆこと?
「閣下は女人がお好きでしてなあ。今でも大層お盛んなのですよ」
「オ盛ン」
「おっと、無理強いをしているわけではございませぬぞ。便宜上ご落胤という言葉を使いましたが、認知されたお子様はすべて引き取り、首都にて養育されておりまする」
……ええっと……
「……チナミニデスケド、奥様ハ何人クライ……?」
「はて……前に聞いた時は40人ほどかと伺っておりますが‥…」
……もうね、凄いとしか言えないや。
ゲニーチロさんは、凄い!
『ハーレ虫のお手本がいましたね、むっくん』『むっさ参考にしたらいいし!』
お断りでござーる!ござーる!!