第52話 何世紀ぶりかの、お久しぶり。
「おやまあ、このテーブルは【ヴァルゴの木】かい。よくもこれだけの量を調達できたもんだ……【ヴァロラ】とのパイプでもあるのかねえ、この店は」
カマラさんが、綺麗なテーブルに顔を近づけて何やら感心している。
何一つボクにはわかんない。
たしかにスッゴク綺麗な木目のあるテーブルだけども。
『【ヴァロラ】とは西方12国の北西に位置する国家です。豊かな森林資源に恵まれ、木工品の生産で有名ですね』
トモさんペディア!
『そして【ヴァルゴの木】とはその国の中でも最も価値の高い樹木の一つです。育つのにも時間がかかり、さらに加工も高難易度なためにとってもとっても高価なのです』
はえ~……すっごい。
じゃあこのお店は、そんな希少なモノを買えるくらいに儲かってるってことだよねえ。
『それもそうですが、上級ポーションのように伝手も必要ですからね。それも含めて、この店がかなりの上流に位置しているということでしょう』
なるほろ……!
甲羅を背負った店員さんが、なにやら汗だくでガクガクしながら案内してくれたお部屋。
そこに、ボクらはいる。
広いお部屋には丸いテーブルが1つあって……椅子が等間隔に配置されている。
これってアレだよね?中華料理屋さんでよく見るやーつ!
中央にターンテーブルみたいなのあるし。
『懐かしいわ~!日本を思い出すわ~!』
ピーちゃんもそう思ったようで、ホバリングしながらチュンチュン大騒ぎしている。
当然だけど念話はボクだけに聞こえるようにね。
「フムン……まったく価値はわからんが調度品のセンスもいいのナ。これほどの待遇とは……今度からピーちゃんではなくピーさんとお呼びした方がいいかもなのナ」
『やーよ!全然かわいくないわ!かわいくないわ!』
だろうねえ。
「はぇえ……ワダス、こげな綺麗な料理屋ば入るのは初めてでやんす……!」
ロロンが振動している。
1階は大衆食堂って感じだったのにね、ここはもう完全にVIP用って感じ。
「ボクモボクモ」「アカも!アカも~!」
森出身です!前世は知らん!
でも例の夢が本当なら、結構おつらい日本生活だったんだとは思うけども!
「おやびん、おなかすいた、すいたぁ」
「スイタネエ」
アカは肩の上……ではなく、膝の上にちょこんと座っている。
この子ったら周囲に合わせて空気を読んでる!
なーんていい子なんでしょ!
『空気読みとかいうむっくんに存在しない技能だかんね~。アカちゃんはかしこいかしこいね~』
存在しないはひどすぎるでしょシャフさん!
ボクだってちょっとくらいはねえ!
『無』
無!?
なし、じゃなく無!?
……アカを見習おうか。
「ムムム……持チ込ミダケド勘弁シテモラオウカ」
怒られたら神聖虫土下座を披露して罰金を払おう……!
だってまだ注文取りに来てくれないんだもん!
アカは子供どころか赤ちゃんみたいなもんだし、妖精だから大丈夫でしょ!
というわけで、バッグから適当な食べ物を……ヌ?
なんか、廊下の方から声が聞こえてくる。
『なんだい、まーた人族のアホかチンピラでも暴れてんのかい? ジュローキに畳んでもらいな。武器出したら刻んで魚のエサにすりゃいいじゃないのさ』
『ちっちちち違いますよ!よ、よよよ妖精!妖精がご来店!ご来店ですう!』
『……小鳥を絵の具で塗って騙そうとしてんじゃないだろうね? あの詐欺師はもう生きちゃいないだろうが……』
『違いますってば~!だって念話!念話で自己紹介しましたもん!しましたもん!』
片方はさっきの店員さんで……無茶苦茶物騒なことを言ってる人がいる!
あの人がピーちゃんのお知り合いかしら?
「ゴメンネアカ、モウチョット待ッテテネ?」
「あいっ!」
アカはかしこいな~!とってもかしこいな~!
撫でちゃろ!撫でちゃろ!!
「んふふぅ、へへへぇ……」
はー!最近頭撫ですぎてそろそろ発火しちゃわないか心配な今日この頃!
『突っ込みませんよ?』
至って真剣ですけど?
脳内で会話していると、部屋のドアが開いた。
開けたのはやっぱりさっきの店員さんで……その後ろに、女の人がいた。
髪の毛も、背負っている甲羅も真っ白。
だけど、こちらを見る目は綺麗な桜色だった。
あ!店員さんは手袋してたからわかんなかったけど……鱗的なモノが生えてるんだ、手に。
カメさんというか〇メラさんみたいに見える!
でもでも、とっても綺麗な人だねえ……まさか、この人がピーちゃんの?
「お待たせして申し訳ないね。アタシはここの総料理長をやっているミライ・ルフトさ。それで、アタシに会いたい妖精っていうのは……」
『まーっ!ルーちゃん!ルーちゃん!!』
格好よくその女性……ルフトさんが名乗っている途中で、ピーちゃんはもう我慢できない!って感じで接近。
チュンチュク鳴きながら、周囲をとんでもない速度で旋回している。
ソニックブームとか出そう!
「ピー、ちゃん……かい?」
『そうよ!そうよ~!私はいつでもピーちゃんよ!ピーちゃんよ~!!』
ルフトさんは本当に驚いたようで、綺麗な目をまん丸に見開いている。
あ、よく見たら目はカメさんによく似てる感じ!
「たまげた、ねえ……」
ルフトさんの肩にピーちゃんが着地。
そして、頭をその頬に擦り付けた。
『ごめんね!いなくなっちゃってごめんね!大事な、大事なお友達だったのに……何も言わずにごめんね!』
「……いいんだよ、アンタがどんな気持ちかはよおくわかってたからね。サチ姉さんが亡くなったんだからさ……」
ルフトさんは、目を少しだけ潤ませて……大粒の涙を流しているピーちゃんをそっと撫でたのだった。
なんだか、見た目よりもとっても小さい子がそうするように見えた。
……よかったね、ピーちゃん。
『おおおう、ふぐっ、うぐぐ、ぐぎぅぃいいいいい~~~~……!』
『ムロシャフト様、タオルです、タオル』
『ぴぇん……ぱぉん……むぉん……』
台無しじゃよ!感動が脳内の珍妙な鳴き声、いや泣き声で台無しなんじゃよ!!
・・☆・・
「そうかいそうかい……そいつは大変だったね、ピーちゃん」
『そうなの!でもむっ……ムークさんのお陰でこうしてここに来れたわ!来れたわ!』
しばし後、ルフトさんはピーちゃんを肩に乗せたまま今までの旅のことを聞いていた。
今むっくんって言いかけたね!
「あむあむあむ……」
「オイシイ?」
「むぐむ……おいし!おいし!」
さっきまで腹ペコだったアカは、店員さんが出してくれたお菓子を頬張ってご満悦なう。
なんか、餃子の皮を揚げた感じのスナックみたい。
香ばしくってとっても美味しい。
食事が準備できるまでに……って、みんなにも出されたんだ。
「ムークさん、アタシの古い友達をよく助けてくれたね」
「イエイエ、ボクハ別ニソンナ活躍ハ……」
「ムーク様は棍棒を手に大立ち回り!リビングメイルば大いに殴り倒したのす~!」
ロロン!どうどう!ステイ!
あの時はキミも大活躍してたでしょ!ボクだけピックアップしないで!!
「はっはっは、謙遜がお上手だねえ!はっはっは!」
ルフトさん、見た目はとっても綺麗なお姉さんなのに……喋り方は少しお婆さんっぽい。
っていうか何百年も生きてるからお婆さんなのかな?
この世界、長生きさんの種族は結構いるのかな?
『長命種は多いですね。まあ、そういった方々は子孫を残す数が少ないので人口比率的には少数派ですけれど』
たしかに、エルフさんが毎年子供産んでたら大変なことになっちゃうね。
寿命が短い生き物ほど子供は多く作るって言うしね~。
『むっくんとかぁ?』
ヒギーッ!?そういえばボクってば現状虫くらいの寿命なんだった!
トモさんトモさん!ボクの寿命どんくらい~!?
『残り1年と11か月……中々2年の大台を超えませんね』
魔石を!魔石をもぐもぐせなあかん!!
「お待たせいたしましたぁ!」
ドアが開き、店員さんが両手に料理を満載して戻ってきた!
フワーッ!いい匂い!いいにおーい!!
後ろにも店員さんが何人もいるぅ!!
なんて量の料理だ!
「本気を出すのナ……!」
今ベルトを緩めたアルデアは見なかったことにしよう!そうしよう!
「アンタ方はピーちゃんの恩人……ってこたあ! アタシの恩人も同然! お代は結構だ! どんどん食ってくんな!」
マージで!?無料!?
それはすごいけど、いいのかな……ム?
ムムム!?
こ、これは……この!料理は!!
「マサカ、チャーハン!!」『チャーハンよ!チャーハンだわ~ッ!!』
ゴロゴロの焼き豚や卵の入った、炒めたお米!お米!お米!
お米ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?
「おや、ムークさんもご存じかい? 【ロストラッド】産のいいコメが入ったんでね……遠慮なくどうぞ!」
チャーハンの他にもスープ、餃子、棒棒鶏、肉団子、骨付き鳥のから揚げ!
他にもいっぱい!いっぱ~い!!
日本の中華料理屋で出てくるような料理が沢山だ!!
これは……こうするしかないね!
『あの、むっくん……何故左手の棘を展開させたのですか』
食べて気絶しそうになったら太腿に突き刺して覚醒するためにだよ!
こんな美味しそうな料理を食べて気絶しちゃったら勿体ないでしょう!?
『過去一のアホ発言だわ。むっくんマージでおもろ!』
存分に面白がればいいさ!いいさ!
それでは……!!
「イタダキマース!!」「いたらき、ましゅ!」「いただきやんす~!!」『いただきます~!!』
「その妙な挨拶は何なのナ……今日の糧に感謝を」
「宗教は自由さね……天上の恵、我に与えたもう神へ感謝を」
おおっと!おひいさまおフィギュアにお祈りもせんとね!
そして……今日はもうひとーつ!
「ム、それはメイヴェル様なのナ? 器用なものだナ……そして節操がないのナ」
ふふふ、連日夜なべして作成した……ヴェルママのおフィギュアも置いてっと!
我ながら自信作なのです!なのです!
ちなみに持ってる武器は大剣と斧とカターナ!
近接特化型ママです!
トモさんやシャフさんもゆくゆくは作りたい!
でも2人とも見たことないので勘弁してください!
さて、にゃむにゃむ……っと。
『ああああ!あああああ!なんっ!なんっといういじらしさか!?見なさい!見なさいムロシャフト!ああああ!虫が!虫がっ!虫が愛おしい!!』
『壁殴って破壊すんのやめろし!やめろし~!!』
『お隣が丸見えですね……あ、どうも申し訳ありません。見ての通りの状況ですのでお逃げになった方がよろしいかと』
なんかごめんなさい!ごめんなさーい!!